ハートキャッチオーケストラの拳はデューンを叩き潰し、
そのまま浄化されるかと思われましたが、相手は最後の敵。
そうは問屋がおろさず、相当の打撃を被ったものの、耐え抜きます。
『僕の憎しみは消えないよ。憎しみは増殖し、すべてを破壊し尽くすまで消える事は無い。
君達の愛など、僕の憎しみの前にはゴミだと教えてやろう』
デューンの高笑いと共に崩壊していく惑星城。
崩壊の余波で心の大樹の倒木の脇に芽生えた双葉が揺れ、
薫子さんを連れ出したコッペ様と合流し、崩れてゆく城を見下ろす4人の前に、
惑星状の下の星、木星のような星から巨大な姿を現すデューン。
かつてのジャアクキングのような巨大な姿は地上からもはっきりと見えます。
雄叫びを上げ、地球を殴りつけるデューン。その度に猛烈な揺れが大地を襲います。
『笑っちゃうよね。たった14歳の美少女がデューンと戦うなんて』
この絶望的な状況を目の当たりにしても、マリンは軽口を叩きながら一足踏み出し、
美少女は微妙だというコフレの突っ込みを受けながら皆を促しました。
『ちょっくら地球を守ってこよう!』
続くサンシャインにゆりさんは17歳だと指摘されて焦るマリン。
最後の戦いに赴く悲壮な緊張感は一気に和らぎました。
続けて飛び立とうとするムーンライトに、ブロッサムは
先ほど叱咤した事を詫びますが、
ブロッサムの優しい気持ちはムーンライトに大切なものを与えてくれました。
ブロッサムに微笑みかけ、飛び立つムーンライト。
続けてブロッサムも薫子さんに行って来ますと告げ、
4つの光は巨大なデューン目指して飛んで行きました。
今のデューンから見れば塵のように小さな4人に、デューンの拳が、
そして額から放つ光線が迫ります。
しかし光線がもたらす煙が晴れた向こうに4人の姿を認めたデューンは息を呑みました。
『悲しみが終わらないのは、私達の力が足りないから。
憎しみが尽きないのは、私達の愛が、まだ足りないから・・・』
目の前のデューンがどんなに非道な男であっても、愛を持って語りかけるブロッサム。
そして足りない分はムーンライトが、マリンが、サンシャインが、
さらにシプレが、コフレが、ポプリが力を合わせます。
無限の可能性が今、宇宙に咲く大輪の花となって花開こうとしています。
手を取り合う4人のプリキュアと3人の妖精がが一つになって現れた卵から、
無限の力と無限の愛を持つ、デューンと対等の大きさの
星の瞳を持つプリキュアが誕生しました。
『ハートキャッチプリキュア・無限シルエット』
微笑みかける無限シルエットを殴りつけるデューンの拳は届かず、弾かれます。
『憎しみは、自分を傷つけるだけ・・・』
届かぬ拳を幾度と無く拳を振い続けるデューンに、無限シルエットの反撃が繰り出されます。
『くらえ、この愛・・・
プリキュア、こぶしパーンチ!!』(はからずもここで大爆笑してしまいました)
しかしそのパンチは殴り倒すようなものではなく、
デューンの胸元に優しく、ちょっと懲らしめるような優しさで突き出されます。
桜(チェリーブロッサム)の花びらが舞い飛ぶ中、互いに見つめあうデューンと無限シルエット。
そしてこぶしパンチから炸裂した光が、巨大な2人を包み込みました。
草木が茂り、川は水を湛え、何事も無かったような世界。
そして
クリスマスイブに始まった最終決戦から数ヶ月の時が流れました。
朝顔が、向日葵が咲き、蝉の声が響くある夏の日の事。
朝、一緒に登校すべくつぼみを誘いに来たえりかは、
無事に産まれたつぼみの妹、ふたばちゃんのホッペをぷにぷに突っついて
突っつきたいのを我慢しているというつぼみに注意されました。
妹の良さを味わい、つぼみがお姉ちゃんになった事をからかいながら、
次に2人は明堂院家にいつきを訪ねます。
さつきお兄様と朝稽古に励むいつきは、少し髪を伸ばして女の子っぽくなりました。
それよりもその後ろに見慣れた赤毛の長髪男の姿が・・・?
その男にクモジャキーの面影を見て度肝を抜かれるつぼみとえりかに、
いつきは昨日入門してきた熊本さんだと紹介します。
ここ数年の記憶が無く、
ずっと病院で寝たきりだったという熊本さんの隣のベッドでも、
青いロン毛の優男が時を同じくして意識を取り戻していました。
という事は・・・
どこかでサソリーナのような人も、コブラージャさんのような人もいると想像する3人。
その通りに
サソリーナだった女性は幼稚園の先生として園児達に囲まれ、
コブラージャさんだった男性は服飾デザイナーとして美しい服を仕立て、
それぞれの人生を歩んでいるようです。
きっとスナッキー達も、みんな新たな生き方をしている筈。そう信じて3人の想像は膨らみます。
3人は町を見下ろす丘の上にやってきました。
『私達は凄い事をしてしまった・・・世界が輝いているのも私達のおかげ・・・!』
自信満々に語りだすえりかに、つぼみといつきは呆れ顔。
それもその筈、もう毎日えりかはこの調子のようです。
『たった14歳の美少女が、地球を守ってしまったぁー!!』
みんなで無限プリキュアになった衝撃から調子が戻らない事を
お子ちゃま扱いで揶揄されたえりかは、つぼみもいつきもやっていた事を指摘しました。
『我々は、凄い事をしてしまった!』
実際につぼみもいつきもついこの間までそう誇らしげにやっていた時期がありました。
『無限の力だよ!無限の愛だよ!地球を救っちゃったんだよ!』
どんどん画面に近付き、テレビの前の私達に訴えるえりかは、
その後頭を抱えてこれ以上人生で何があるのか、少し悩んでしまいました。
『えりか、まだそんな事言ってるの?
いつまでも終わった事にこだわっていても、しょうがないわよ』
『えりかは過去の栄光にこだわりすぎデス。人生は風の中、振り向くな、振り向くなデス!』
ゆりに、コフレに指摘されてしまうえりか。
今まで妖精達は心の大樹を見守っていたため、みんなと会うのも久しぶりのようです。
心の大樹は心の種のおかげですくすくと育っているという報告を聞いて、
ゆりは心の大樹がどこかにあるであろう大空を見上げて、これからの事を語りました。
『今までは心の大樹が私達を見守ってくれていたわ。
でもこれからは私達が、私達の心が、心の大樹を育てて見守ってゆくのよ。
だからいつまでも無限の力とか、無限の愛とかに頼っちゃ駄目。自分の人生なんだから』
それぞれの人生について、えりかはファッションデザイナーを目指し、
ゆりはまだ見つけていないものの、自分の人生を考える時間を、
いつきは武術を続けながら、色々な可能性を探って行きたいと言及します。
そしてつぼみは、もう一度自分の力で宇宙へ行きたいと、
宇宙飛行士という壮大な夢を描きました。
(
そのためには牛乳を飲もうとどこぞの兄貴が言いそうですが・・・)
そしてつぼみは親友を超えた大親友達に囲まれ、
宇宙飛行士という「手段」を超えた「目的」に思いを巡らせます。
出来るなら・・・
出来る事なら、草も花もない宇宙に、少しでも花を咲かせたい。
あの時、デューンとの最後の時の事を思い出すつぼみ。
こぶしパンチから受け取ったハートを手に、無限シルエットとすれ違って振り返るデューンは
少年の姿をとって振り返りました。その目はもう、憎しみを湛えていません。
ハートから溢れる光と共に、最後に口元に微笑を浮かべて徐々に消えて逝くデューン。
愛で対抗したとはいえ、互いに理解し得なかった事を、
消さなければならなかった事を悲しむように
デューンが消えた後、涙が無限シルエットの頬を伝いました。
『せめて、そうすれば・・・』
『私達、4人のプリキュアが砂漠の使途を倒し、地球を守った事を、
人々は時が経つにつれて忘れていくでしょう。でも私は、えりか、いつき、ゆりさんと
プリキュアになって走り続けたこの1年を、決して忘れません。
なぜなら私を成長させ、未来の道まで見つけさせてくれた、
かけがえの無い、大切な宝物だからです』
一人街を見下ろすつぼみのモノローグと共に、
つぼみの机の上の、最後の戦いに赴く際に撮った写真が飾られている光景が、
プリキュアパレスの4人の石像、そして奥に収められたミラージュが、
役目を終えたように安置される光景が広がりました。
そして少し色褪せたその写真を見つめる、ココロパフュームを手にした女の子。
つぼみ達4人の意思は、確かに誰かに受け継がれて行く事を感じさせつつ、
ハートキャッチプリキュアの物語は幕を下ろしました。
まず、はじめにお断りします。
初代からここに至るまでのプリキュアシリーズの最終回で、初めて私は大笑いしました。
「無限シルエット」「こぶしパンチ」の、流石と言うか相変わらずのネーミングセンスに
笑って、笑って、本当に笑って、いつのまにかその笑いが深い感動へと変わりました。
これほど素晴らしい最終回を見せられては、文句の付け所がありません。
この一年間、この作品を観続けた事は、私にとって大きな糧となりそうです。
アクション面の物足りなさ、サバークやダークプリキュアの
救済が無いという声もあるかもしれません。
しかし、アクションについては
前回非常に高いレベルのものを見せておりますし、
暴力的なものに暴力的で対抗しなかったという描写は高く評価したいです。
巨大化するデューンに巨大な無限シルエットが濃密なアクションで対抗してしまっては、
前回の「悲しみや憎しみは、誰かが歯を食いしばって断ち切らなくちゃ駄目なんです!」という台詞が空回りしてしまいます。
無限に肥大化する憎しみに対し、それが正義というものであっても
力で対抗してしまってはデューンとなんら変わるものはありません。
相手が強大な力を持てば、こちらもそれに対抗する力を持つ。
それに対抗して相手もさらに上を行く力で対抗する。ならばさらにこちらも・・・
この問題は40年以上前に「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」という比喩で、
ウルトラセブンが問題提起しています。
果たして暴力や憎悪に愛で対抗できるのか、それはわかりませんし理想論かもしれません。
それでもその可能性を信じたい。信じてみたいと思わせる傑出したラストバトルでした。
光線を放ち、煙が晴れた向こうに立つプリキュア達を見て息を飲むデューン。
この場面、一見してプリキュア達が無傷で立っている事に衝撃を受けているように見えますが、
ブロッサムが持つミラージュの鏡に映る、憎しみに囚われた己の顔に戦慄しています。
デューンはなぜあそこまで憎悪を滾らせたのか、その理由は語られませんでしたが、
おそらく彼は孤独かつ自己嫌悪が強かったのではないでしょうか。
内に向けられた怒り、どうにもならない事に絶望し、
心が無ければ悲しむことも、苦しむことも無いと心を枯らそうとしたのかもしれません。
人はどんなに正論でも、「間違っている」と言われれば誰でも反発を覚えます。
しかし己の過ちに自ら気がつく事で、新たな解決策がもたらされる事もあります。
鏡に映る自分の恐ろしい姿を認識する事で、過ちに気がつく。
自分自身をしっかり見つめるという、かつて4人が乗り越えた試練と同様の事を
デューンに対しても行うことで、デューンの救済に一役買っている場面だと感じました。
今回、戦い終わった後の後日談の尺が長く取られているのが良かったと思います。
何気ない日常の風景の中で、眼鏡をかけているつぼみ、妹って良いよねぇを連発するえりか、
そして少し髪を伸ばし、女子の制服を着ているいつきが印象的です。
これらはいずれも3人が当初抱いていたコンプレックスで、
つぼみは内気で引っ込み思案、地味目で冴えない事を気にしていましたし、
えりかは優れた姉を持つ妹として、もも姉に対する対抗心と妬みを、
いつきは女の子らしくしたくても家庭の事情で出来ないと思い込んでいました。
これらをありのまま受け入れて、変わるべき内面が
良い意味で変った事を意味している、3人の成長が感じられる良い描写だと思いました。
(そしてもちろん、初めて見るいつきの女子制服姿の可愛さもですが・・・)
クモジャキー改め熊本さんや、サソリーナ、コブラージャさん、
果てはスナッキーやデューンすら救われたというのに、
サバークとダークプリキュアの救済が無いため、ゆりには救いが無いようにも見えますが、
後日談でのゆりが全く悲しみを漂わせていないところを見ると、
彼女は父の死を受け入れ、悲しみに囚われず前向きに生きていこうとしたのだと思います。
終わったことにこだわっても仕方が無いというえりかに向けられた発言は、
自分自身にも言い聞かせているように聞こえました。
そしてこれまでプリキュアの使命や、父が不在の母子家庭を支える等、
気苦労が耐えなかったゆりが、新たな人生のスタートを切ることが出来たと考えられ、
ゆりにとってもハッピーエンドを迎えたと考えています。
そして非常に小さなワンシーンでしたが、
妖精達が心の大樹の幼木を見守っていると語るシーンで、
小さな3つの光がその周りを飛び回っていました。
これはサバーク、ダークプリキュア、そしてコロンが心の大樹の元で、
大樹と共にあると解釈できると思います。
ラストに登場する少女は誰なのか。
つぼみの妹、ふたばかもしれませんし、写真の色褪せ方からしてつぼみの娘かもしれません。
しかしこれはTVの前でプリキュアの活躍を見続けた少女達そのものの象徴だと思います。
誰でもつぼみ達のように強くなれる、というメッセージは
作中で受け継がれているという描写を通して、
つぼみ達が愛で戦う事のメッセージを子供達に贈られているようです。
最後にYMO「以心電信」の歌詞を引用して、締めくくりたいと思います
"See how the world goes round You've got to help yourself
See how the world goes round Then you'll help someone else
上手な化粧を落とし 生まれたままに 生きてる自分を 愛してみよう"自分を助けられるのは自分だけであり、
自分を助けられない者が他人を助ける事は出来ないという「自助」を謳った歌詞です。
つぼみもえりかも、いつきもゆりも、プリキュアとして多くの人の心を救ってきました。
しかし救ったのは他人の心だけでなく、自分がどう生きていくのかを見極め、
自分の心の弱い部分を認めた上で受け止め、
自分自身の成長を遂げる事で自分自身を救ってきました。
その活躍によって、一視聴者である私もいろいろな物の考え方や
仕事に行き詰った折に力を貰ったり、この一年で随分と変わった所もあると思います。
そして、自分に正直になった彼女達とともに、私も少し自分に自信が持てた気がする、
そんな一年を送ることが出来ました。
当初キャラクターの差異に困惑し、プリキュア卒業まで考えたなどという
1年前の私はもう考えられません(苦笑)
名残は惜しいですが、終わったことにこだわらず人生は前向きに。
プリキュアの精神を受け継ぐ次回作に、大いに期待したいと思います。