奪われたコレット。圧倒的な強さで立ちはだかるカワリーノ。
絶望に囚われたミルク。そして、若返るデスパライア。
絶望的な状況がこれでもかと畳み掛けられ、
誰もが希望を失いかける中、諦めていない者が一人だけいます。
「希望」を和語にすると「のぞみ」。その名の通り再び皆の先頭に立つ姿は、
最終盤の困難な状況に於いて実に頼もしく、彼女がリーダーたる所以がここにあります。
前回奪い取ったコレットをデスパライアに献上し、その前に跪くカワリーノ。
『これが私の望んでいたもの・・・』
コレットから強大な力を感じ、喜びに打ち震えるデスパライアの労いの言葉を受け、
カワリーノは自信に満ちた表情で返答しました。
『最初から私一人で充分だったのです』
デスパライアの望みとは不老不死となる事で唯一望みを叶えた存在となり、
すべての者を永遠に絶望で支配する事。
しかし、デスパライアはまだ絶望していない者の気配を感じ取っていました。
みんなに介抱されて気が付いたココは、
目を伏せ、首を横に振るみんなの反応で、あれは悪夢（ナイトメア）の出来事ではなく、
コレットが奪われてしまったと言う現実を理解しました。
むざむざコレットを渡してしまった事を悔やむナッツ。
しかしナッツは、その手からコレットを掠め取って差し出した張本人のミルクを
一言も責める様子はなく、人知れずミルクは肩身の狭い想いを募らせています。
『私達だって・・・』
『何も、出来ませんでしたから』
『最後のピンキーが見つかって、油断していたわ』
『だからこそ、もっと注意するべきだったのに』
皆口々に自分を責めます。ただ一人を除いて・・・
『誰のせいでもないよ』
一人窓の外を見ていたのぞみ。みんなを振り返るその目は少しも諦めていません。
大切なのは、これからどうするか。
いままで絶対に諦めずにピンチを乗り越えた事を持ち出し、
ドリームコレットを奪還に行こうと切り出します。
既にコレットを使われているかもしれないと及び腰のココとナッツの言葉で
再び重苦しい空気が場を包みますが、
のぞみだけはコレットがまだ使われていないと確信していました。
その理由は、空がまだこんなに綺麗だから。
のぞみが見上げる窓の外の空は、その心のように一転の曇りもありません。
みんなの心に、再び希望が灯りました。
大通り、公園、住宅街。当てもなく町を探し回る5人。
何の手掛かりもなくても、みんなの希望は失われていません。
ただ一人、自分を責め続けているミルクを除いて・・・
そんなミルクをお決まりの「なんとかなるなる！」で励まし、
のぞみは大声で空の彼方に呼びかけました。
『おーい！！ナイトメア～！！ドリームコレットを、返せ～！！』
思わず苦笑いするみんなですが、のぞみは次いでりんちゃんに無茶振りします。
顔を赤らめて戸惑い、噛みながらもりんちゃんの声も天に吸い込まれていきました。
『かっ・・・かか、返しなさーい！！』
りんちゃんかわいいよりんちゃん
うらら、こまち、かれんも続き、実際やってみると根拠はなくとも
何かやる気が湧いてきました。
『返せませんよ』
いつの間にか、カワリーノが静かにみんなを見下ろしていました。
そして巨大な扉を出現させ、返して欲しければ、と前置きしてその中へ招き入れます。
辿り着いた先は、かつてギリンマ君の成れの果てと戦ったコロッセオ。
しかしあの時とは異なり、スタンドは仮面をつけた群集が埋め尽くし、
そして正面にはデスパライアが鎮座しています。
『ドリームコレットを返して！』
その手のコレットがまだ使われていないのを目の当たりにして叫ぶのぞみに続き、
変身する5人。
そして遂にカワリーノも真の姿を現しました。
変身の際、北斗の拳の人体破裂シーンのようにシルエットになるのは、
あまりにおぞましい光景だからなのでしょうか。
見開いた目、額から角が伸び、二股に分かれる尾が伸び、ギョロッと回転する瞳。
カメレオン怪人と化して5人の前に立ちはだかるカワリーノ。
コロッセオに、雷光が轟きます。
カワリーノの圧倒的な強さを前に、5人が文字通り束になってかかっても太刀打ちできません。
『少しは楽しませてくださいよ』
失望したような声を漏らすカワリーノに受けて立つように、
ルージュバーニングが、続けてレモネードシャイニングが、アクアトルネードが放たれますが、
尾によって受け流され、跳ね返され、逆に返り討ちに遭いました。
続けてココ達に目をつけるカワリーノ。
ココ達を守るべくミントシールドが張られますが・・・
『そんなもの、無意味ですよ』
『そんな事無い！』
カワリーノの背からクリスタルシュートを放つドリーム。
しかしこれも同様に尾にあしらわれ、ドリームもまた返り討ちに遭いました。
この場に立っているのは、シールドを張るミントだけです。
ここでカワリーノは5人に意外な話を、部下にならないかという誘いを持ちかけました。
もちろん即座に断るプリキュア達に、
2度も騙される愚かな連中に付くより良い話だと勧誘を続け、
そしてシールドの中のナッツにわざとらしいお礼を言い放ちました。
『あの時は門を開けてくれて、ありがとう・・・』
門を開けた事でパルミエ王国は侵攻され、悔やむに悔やみきれない過去を持つナッツは
その時傷ついたピンキーに化けていたのがカワリーノだと知り、激しく罵ります。
それを涼しい顔で聞き流し、ミントシールドを尾で吸収するカワリーノ。
たまらず飛びかかるナッツを、ナッツを案じて飛び出すココとミントを
あっさりと返り討ちにして、倒れた5人に勝ち誇ったように宣言しました。
『ここまでやられたら諦めるしかないでしょう。
教えてあげましょう。それが、絶望というやつですよ』
それでも5人の目からはまだ希望は失われていません。
『私達は、絶対絶望なんかしない』
『そうよ、私達は』
『絶望なんて、受け入れない』
ところが立ち上がる5人に、カワリーノは既に絶望を受け入れている仲間がいると指摘します。
それは、激しい罪悪感に苛まれているミルクの事でした。
『あなたには絶望が良くお似合いだ』
ミルクを捕らえ、その顔に絶望の仮面を被せようとするカワリーノ。
『ミルクはココ様とナッツ様の為に・・・』
必死に拒絶するミルクの最後の心の拠り所は、
DX2のノーザ「さん」ばりの顔芸でドス黒いお礼を言うカワリーノによって壊されました。
『ありがとうございます。ドリームコレットを渡してくれて・・・！』
割れたガラスのように砕けるミルクの心。そして、ミルクの目から溢れる涙。
ついにミルクの顔は絶望の仮面に覆われ、その腕が力なく垂れ下がりました。
デスパライアはその光景をご満悦で眺め、心地良い絶望を感じた後、
コレットを天高く掲げ、ついにその力を発動させます。
轟く雷光の下で、高らかと永遠の命を願うデスパライア。
これまで集めたピンキー達が光と共に解き放たれ、
そして力を出し尽くしたコレットは石と化して地に落ちてきました。
これまで希望を失わなかった、希望の象徴のようだったドリームも、
呆然と膝をつき、その目線の先ではデスパライアの仮面が砕け散り、
仮面の下からは若返り冷たい美貌の持ち主となったデスパライアが、
凍りつくような視線で5人を見下ろしていました。
まさにナイトメア（悪夢）というべき出来事が、立て続けに起こり続けます。
今回は何と言ってもただ一人希望を失っていなかったのぞみの姿勢が印象的です。
皆を導く存在であるはずのココ、ナッツですら及び腰となり、
他の4人までもが力なくうなだれ、ひたすら自分を責め続けるミルク。
そんな絶望的な状況下で、のぞみがコレットを探しに行こうと切り出す前後の描写は、
一人だけ目元が映っておらず、一人だけ4人の集団から離れて、
一人だけ「下」ではなく「上」を見ています。
終わった事を悔やんでも仕方ない、と割り切りたくても割り切れない事は現実にも多々あります。
のぞみ以外の全員は、悪く言えば傷の舐めあいのようにも見え、
互いに「あなたは悪くない」と言っている状況に浸っているように思えました。
のぞみの姿は理想的すぎるかもしれませんが、それでもこのポジティブな姿は、
今のこの閉塞感に囚われた状況下にあって実に頼もしく映ります。
のぞみ＝ドリームに触発されるように、徐々に前向きになっていく4人の後半の奮戦振りも
最終版の戦いに相応しいものでした。
カワリーノには今の段階では手も足も出ません。
それでも部下への申し入れを即座に一蹴し、
その後の5人の目力は改めて惚れ直す程の凛々しさでした。
もっとも、それ故にコレットを使われた後の5人の落胆ぶりが引き立ってしまうのですが・・・
そして今回は際立ってミルクの口数が少なく、
前回の大失態を非常に気に病んでいる事は明白です。
その結果絶望の仮面を付けられてしまいますが、
この時の無力感の反動がミルキィローズとして
肉体的、精神的な強さに繋がっていると思うと感慨深いものがありました。
無力な自分を責め、自分が許せない。そのために力を欲し、
強い心を持ち得るのだと思います。
さて、デスパライアとカワリーノにとってはこれが「絶望」なのでしょうか。
彼らはこの状況を起こす事が目的であり、
その口ぶりと表情などからは明らかに「希望」が感じられます。
冒頭では絶望で世界を支配するという目的達成が間近に迫った事が、
ラスト直前では目的を達成した事が、
そしてカワリーはデスパライアに評価され、労われ、
主が目的を達成した事を心から喜んでいるようです。
これは「希望」というもので、彼らの望む「絶望」と対極に位置することを
果たして彼らは気付いているのでしょうか。
この事が、最終回でのデスパライアの心境にも影響を与えているように感じられました。