寮で皆の帰りを待っていたゆいちゃんのもとへ、はるか達が帰還しました。眠ったままの見慣れない少女が、元トワイライト様だと聞いて驚きを隠せませんが、詳しい話は後にして、まずは休むことにします。
そしてディスダークでは、トワイライト様に未練たらたらのシャットさんはともかく(笑)、ディスピアの姿が見えません。
その夜はるかは、最後に見たカナタの笑顔が忘れられず、寝付けません。カナタから託されたヴァイオリンを形見のように見つめています。
そしてトワも、兄と一緒にたどたどしい演奏をしていた頃の夢を見ていました。
『失敗しても一歩ずつ取り返して行けばいい。それがグランプリンセスへの道だよ』
上手く弾けずに焦るトワをカナタは優しく励まします。
『分かっていますわ。でも、早く上達してお兄様とこの曲を弾きたいのです』
そして再び、幼いトワが弦に弓を乗せますが・・・トワイライト様として演奏していた姿がフラッシュバックし、兄との思い出は掻き消されました。トワは悪夢にうなさたように飛び起きます。
柔らかな陽射しと、そよ風に揺れるカーテン。周囲は穏やかな光景そのものです。しかしトワは、トワイライト様として行った所業に苛まれ、震えが止まりません。ベッドの脇には、黒いキーとパフュームもそのまま置かれています。
キーを手にして兄を想いながら、木立の間を行くトワに、兄が弾いていたあの曲が聴こえて来ます。演奏しているのははるかでした。トワに気付き、演奏を止めて振り返って、カナタのヴァイオリンを差し出して、一緒に弾こうと誘いますが・・・
『やめて下さい!そんなもの、もう見たくありません』
目を背けるトワに、はるかもかける言葉がありません。
『分かるぞ。それは、お前にとって叶わぬ夢の象徴だからな』
突如、そこにディスピアが現れました。そしてトワに、戻るなら今のうちだと誘い掛けます。
『戻りません!それに私はもう、トワイライトじゃない!』
『ディスダークのプリンセスが、そんな姿で何を今更・・・』
トワはまるで彼女が犯した過ちの象徴のようなトワイライト様の衣装を纏ったままです。そして今度は、甘く囁きかけて来ます。
『もうお母様とは呼んでくれないのかい?』
怯え、身動きが取れないトワに、ディスピアは冷酷な現実を突き付けます。
『全ては私がした事。だが事実は変えられない。ホープキングダムは滅亡寸前。そしてお前の兄も・・・』
『カナタは大丈夫だよ!』 はるかはディスピアに負けじと精一杯の気勢を上げますが、それはこれ以上ない説得力を持つ言葉によって打ち砕かれました。
『私が、ここにいるのにか?』
『い・・・嫌・・・』
怯えて身動きが取れないトワに、ディスピアが周囲の花を枯らしながらゆっくりと歩み寄ります。
『辛いか?現実が。しかしすべてはもう手遅れだ。こんなことになるのなら、私の娘のままでいれば良かったのに・・・』
ディスピアの目に、怯えるトワが映ります。
『お前の夢など最初から終わっていたのだ。お前が自分で私の森に足を踏み入れた時にな』
そしてトワの瞳に映るディスピアが間近に迫り・・・
『さあ、良い子だ。そのまま、絶望しろ!』
『嫌ぁあああああああああッ!!!』
傍から見れば、娘を抱くようにトワを抱きしめるディスピア。無論そこに母子の情などありません。周囲を茨が包み込み、それは見る間に禍々しい木へと成長を遂げました。はるかは辛うじて逃れたものの、カナタのヴァイオリンを奪い取られます。
そしてその異様な光景を目の当たりにしたノーブル学園の生徒達は、瞬時に動きを止められました。
みなみ、きららが駆けつけると、茨の中からディスピアの高笑いが響いて来ます。
『素晴らしい絶望だ。さすがはトワイライト。最後に良い働きをしてくれた』
絶望を吸い尽くした後は、枯れ果てるだけ。このままでは、トワは・・・
変身し、茨の攻撃を受け止める三人。強く優しく美しく、ディスピアへと挑みかかります。
『絶望の魔女ディスピア!お覚悟はよろしくて?』 ディスピアは影を分身のように伸ばして迎え撃ちます。そして茨の奥深くでは・・・
トワが絶望しきった表情で、力なく座り込んでいました。
ディスピアだけでも十分な脅威なのに、トワの絶望がさらに力を与えていて、三人がかりでも全く歯が立ちません。それでもフローラは、カナタから託されたトワを助けるべく、立ち上がります。でも、どうすれば・・・。その時、フローラはヴァイオリンに目を留めます。
ブラックプリンセスの呪縛をカナタの演奏が打ち破ったように、あの曲ならトワを救えるかもしれない。マーメイドとトゥインクルがディスピアの影を足止めしている間に、ヴァイオリンを手にしたフローラが茨の中へと飛び込んで行きました。そして、檻に閉ざされたトワと対面します。
『今更どうなるとも思わんが、少々悪戯が過ぎるな。小娘ども!』
フローラがトワを助け出すまで、二人でディスピアの猛攻に耐えなければなりません。マーメイドとトゥインクルにとっては、ここからが正念場です。
トワに「あの曲」を聴かせようと、フローラはヴァイオリンを構えますが・・・
『やめて・・・聴きたくないわ。それを聴くと思い出す。お兄様、ホープキングダム、私の・・・罪』
まずここから出ようというフローラの言葉も、トワには届きません。
『出てどうなると言うの?一度絶望に染まり、罪を犯した私にはもう何もない。帰る場所も、夢も』
もうグランプリンセスにもなれないと言いかけたトワの言葉を、フローラは遮って励まします。
『なれるよ!心から望めばきっと夢は叶う。カナタは、私にそう教えてくれたよ』 目に湛えた涙と共に、フローラは
幼い頃カナタからかけれらた言葉で呼びかけます。そして、
『カナタはもう一度、あなたとヴァイオリンを弾くのが夢だって言ってた。私もその夢を応援したい。だから前を向こうよ、もう一度!』 暗い茨の檻に次第に光が差し込む中、トワの瞳にも光が戻りました。顔を上げると、兄のヴァイオリンがすぐ傍にあることに気付きます。まるで、兄の意志を伝えるかのように。
ヴァイオリンに手を伸ばすも、トワにはまだ躊躇いがあります。
『大丈夫。大丈夫だよ』 そしてフローラはあの曲を奏でながら、トワへ優しく語りかけます。
『どんなに失敗したって、一歩ずつ取り返して行けばいいんだよ』 そのフローラの言葉、フローラの演奏に、トワは兄の姿を重ね合わせました。
『失敗しても、一歩ずつ取り返して行けばいい』
『分かっています、さあ、もう一度ですわ』
共にヴァイオリンを弾いた幼き日を想いながら、トワも弓を弦に乗せました。そして、
トワイライト様が弾いていた美しくも妖しい旋律を奏で始めます。その音色は茨の外にも鳴り響きました。
トワがワンフレーズ弾き終えたところで、笑顔でうなずくフローラ。そして・・・
対照的な二つの曲が、二重奏となって美しいハーモニーを奏で始めます。
『二つの音色が重なった?』『ひとつの曲だったのね!?』 その音色は、ディスピアの影を、絶望を消して行きます。
『いいかい?トワ。どんなに辛い事があっても諦めちゃいけない。常に人々の夢を照らし続ける希望の光。それがグランプリンセスなんだよ』
『ええ、分かっています』
あの日兄に答えた言葉を、フローラと共に二重奏を奏でながら、再び口にします。
『分かっていますわ、お兄様・・・』
雲の切れ目から陽が差し、茨の檻が解き放たれ、二重奏はコーダへ。ホープキングダムを前にカナタとトワが演奏する姿が、解き放った茨の檻と光の中で演奏するフローラとトワの姿に変わり、静かに曲が結ばれます。楽器を下ろしたトワの目には、もう絶望はありません。
『トワイライト。貴様どうやって・・・』
木の上からディスピアを見下ろし、力強く宣言します。
『私は・・・もう二度と絶望しない!』
『小賢しい!』
ディスピアはトワを木から叩き落します。
『一度犯した罪は、二度と消えない。でも、心から望めば・・・』
落下するトワの内から、トワイライト様の罪とも言うべき青い焔が立ち上ります。
『なら私は、この罪と共に、この罪を抱いたまま、もう一度グランプリンセスを目指す!』
焔の中で輝きを発したキーを掴むと、青い焔は紅い炎となってトワを包み込みました。罪を焼き清めるかのような、紅い炎を背にして、トワはパフュームにキーを差します。炎を纏いながら、炎と共に、紅いプリンセスが、今まさに誕生しました。
『真紅の炎のプリンセス、キュアスカーレット!』『それは何の真似だ?トワイライト』
ディスピアが差し向ける影たちを、スカーレットは炎と共に華麗に舞いながら焼き払います。
『闇を払い夢を照らす希望の炎。いつの日かお兄様とホープキングダムを取り戻すその時まで。ディスピア!私はあなたと戦う!』 そして母と呼んだ魔女に、決意と共に強い眼差しを向けました。
『さあ、お覚悟決めなさい!』 カナタのヴァイオリンが引き寄せられ、新たな
バンダイ様の新商品に武器スカーレットヴァイオリンへと姿を変えます。フェニックスキーを差し、炎で弓を生成して音色を奏でると、スカーレットのモードエレガント技がディスピア目がけて羽ばたきました。
『羽ばたけ!炎の翼!プリキュア・フェニックスブレイズ!』 火の鳥の突進を流石のディスピアも受け止めきれず、弾きさがりました。
茨は消え去り、柔らかな夕陽(トワイライト)が周囲を照らしています。
スカーレットはこのヴァイオリンを通じてカナタの生存を感じ取っていました。
『また、会えるよね?』 夕陽を背にしたスカーレットが、振り返って力強く答えます。
『ええ!きっと・・・』 真に感銘を受けた作品を語るのに、私ごときがあれこれこねくり回しても仕方がないと思わせる、素晴らしい一編です。そうは言っても、何も書かないわけにも行きませんので、私なりに感じた事、気になった描写を中心に綴って行きます。まとまりが無いかもしれませんが、そこはご容赦ください。
まず、今回最も驚かされた「二重奏」について。優しく暖かなカナタの旋律と、美しくも妖しいトワイライト様の旋律。まさかあの二曲が重なるとは予想だにしなかったので、何という素晴らしい仕掛けを思いついたのだろうと感心させられました。
私は若い頃学生オーケストラでヴァイオリンを弾いておりまして、特にブラームスやっていた時の事を思い出します。ブラームスの2ndヴァイオリンパートは、それだけでは何をやっているのかよくわからないのですが、合奏するとそれがぴたりとハマる面白さがあり、当時の私はブラームスをやる時に2ndを希望したものです。それでもカナタとトワの旋律がこうも見事にマッチするとは・・・全く見抜く事が出来ませんでした。
さて、トワの罪とは、例えるなら「幼い時からテロ組織に育てられ、破壊工作を行った場合、それは誰の罪か」ということでしょう。現にISIL等は少年少女に自爆テロを行わせる等の所業を犯しています。また文革の際の紅衛兵や、クメール・ルージュの少年兵など、トワと同じような罪に問われかねない少年少女は現実に存在し、また存在していました。
それらを引き合いにして、そうした人たちとも分かり合えるというのはあまりに現実を知らない理想論かもしれません。現に私もそう思います。しかしその理想論に立ち向かっている事例として、過去の感想でも取り上げたことがある「ウェスト・イースタン・ディヴァン管弦楽団」を挙げてみます。これはイスラエルと対立するパレスチナや周辺アラブ諸国の若手奏者によって構成されたオーケストラで、ユダヤ人指揮者バレンボイムが率いて各地で演奏会を行っています。どんな主義主張があろうとも、音楽が繋ぐ「何か」は確かにそこにあります。
犯した過ちを悔いて殻に閉じこもる心を開かせることも、捕らわれた心を開放することも、今作では音楽を通じて描いて来ました。そしてトワを救済するための演奏を行うのははるか=フローラであり、
はるかにヴァイオリンを始めさせたのはトワイライト様がきっかけで、トワもまた兄と共に楽器を奏でていました。音楽を通じて繋がる流れというものは断ち切れないものだと、そして音楽への感動には嘘をつけないものだと、この救済劇からは感じ取りました。
もっともヴァイオリンをかじった身としては、はるかの上達が早すぎることや、キュアフローラの状態でグローブを付けたまま弾いている等、突っ込みどころがあったりはします。しかし、そんな細かい事を指摘することが野暮と言いたくなる程、この二重奏へ至る流れは美しく見事です。そして今回は演奏の作画面でも「ボウイング」がしっかり合っていたことを評価したいです。おそらく実際の演奏している姿を参考にして描いたのではないかと思われます。
それにしても今回のディスピア様の恐ろしい事といったら(笑)。あの状況であんな言葉攻めされたら一生モノのトラウマになりそうです。
『もうお母様とは呼んでくれないのかい?』
という、一見甘い台詞にも、ディスピアを絶対の存在として崇めていたトワイライト様を皮肉ったものです。そして直後の現実の辛さと、「トワイライト様」というかりそめの人格で「夢」を見ていたほうが良かったというのも、こんな厳しい現実を突きつけられては屈してもおかしくありません。
確かに現実は辛いです。現に私もここ数回の記事中で仕事上の愚痴を漏らしてしまっています。何度か現実逃避してセミリタイア後の生活を夢想してしまったりするほど、ここ数日はしんどい日々でした。しかし、プリキュアシリーズは過去に於いても現実逃避を良しとしていません。辛い現実を見据えた上で何かを成し遂げる事こそ価値があると謳いあげています。
トワにとっては、目を逸らしたくなるような現実から逃げ、ずっと檻に籠ることが一番楽な道です。しかしフローラとカナタ、ある意味険しい道のりの夢を追う二人に現実へと引き戻され、茨の道とも言うべき償いの道を選びました。そして彼女は一人ではありません。カナタが、フローラが、そしてこれからはマーメイドとトゥインクルがしっかりと彼女を支えて行きます。私も今回の一件では職場組織というものに大いに助けられました。戦いのフィールドは違えど、トワ同様、心折れそうだった私も再び現実を見据えて頑張ろうという気になりました。
人は迷った時に手に取る本から人生の指針となることが得られるといいます。本ではありませんが、まさに今回のエピソードがそれでした。既に内容を知っていたとしても、改めて前向きにさせられ、そして自分の在り方について、道を指し示してくれたような一編でした。
また、今回は「救済される」トワよりも先に、「救済する」フローラの方が先に涙を流していたことが印象的でした。同じく「救済する」側が泣いていたといえば、
ピーチとイース様の雨中の激闘が思い出されます。しかし今回はあの時とは異なる方向の涙と場面展開です。
最近何度もこの一節を引用してくどいかもしれませんが、また引き合いに出します。
「自分を励ます最良の方法は誰かを励ます事」
きっとフローラも、この時不安だったのではないかと思います。本当にトワの絶望を打ち払えるのか、ディスピアと戦っているマーメイドとトゥインクルは無事なのか、ディスピアを退けられるのか、そしてカナタの安否について。フローラの胸の内を想うと、不安で圧し潰されそうな問題が山積みです。
そんな不安を払拭するために、フローラはカナタの言葉を借りて、涙と共にトワを励ましました。それは決して悲しい涙ではありません。再びその言葉を思い出させてくれたカナタへの感謝と、カナタに巡り合えたから今の自分があるという事の嬉し涙だと思います。
先に挙げたイース様に続き、敵側からの救済といえばエレンです。
彼女が罪と向き合った時の涙は、誰とでも繋がる事が出来る「一番小さな海」と評されていました。二重奏を通じてトワの瞳にも涙が溢れ、演奏だけでなく一番小さな海を通じてフローラとも通じ合えたように見受けられました。
そしてキュアスカーレットが満を持しての初変身&初戦闘!
炎属性のプリキュアといえばキュアルージュやキュアサニーといった「熱血」イメージがありますが、それとまた異なる方向性の炎の使い方はシビれます。あくまで優雅で軽やか、それでいて熱い炎のアクション!葉加瀬太郎のようなBGMが彩りを与え、初登場補正(笑)とも相俟ってアクション面やバンクシーンの数々も満足いく出来でした。
不死鳥は死期を迎えると薪から立ち上る炎で自らを焼き、その炎の中で再生を果たすと言います。
トワイライト様がブラックプリンセスになった際、黒い炎に身を焼かれてトワイライト様としての人格は葬られました。そして罪に捕らわれ、殻にこもって放心状態だったトワもまた、青い焔と共に燃えて後ろ向きな自分と決別し、キュアスカーレットとして再生を果たしました。青から紅への炎の転換と、スカーレトヴァイオリンから舞い飛ぶフェニックスは、さながら死と再生の象徴を描いているようです。
ラストシーンで、スカーレットは兄の存命を告げることでフローラにも希望を与えています。今回フローラから希望を与えられた彼女が、ささやかながらそのお返しをする。それもかつての自分を思わせる夕陽(トワイライト)につつまれた中で、という描写は心憎いです。
これから先、四人となったプリンセスの物語を見返して行くことが改めて楽しみになりました。
・・・もっとも、次回のポンコツトワちゃんが可愛いんですけれど(笑)