蝉の声が響き渡り、少し気怠い空気が漂う、夏の学校。
あのドクロクシーの決戦から何事も無かったように、みらいとリコは日常へと戻って来ていました。
リコは期末テストで学年トップ。クラスメイト達に称えられるも、みらいと共にどこか上の空です。
そして蝉の声がたちこめる木々の中に、神秘的な雰囲気を湛えた少女が一人、佇んでいます。
校長も薬膳茶のお蔭で若々しい姿を取り戻し、魔法界にも日常が戻りつつあります。しかし、あの時はーちゃんが、迷えるクシィの魂を安らぎの場所へ導くように空へ消えて以来、エメラルドの消息は杳として知れません。その校長と、ナシマホウ界の砂漠で発掘作業を行っている考古学者らしき人物が通話しています。考古学者は「あの子」の事を気にかけていますが・・・
『心配はいらぬ。今は良き友に出会いしっかりと成長しておる。君と同じくナシマホウ界でな』
期末の結果をみらいに称賛されたリコは、予習復習をきちんとしていれば当然だと謙遜しながら、ナシマホウ界の夏の暑さに閉口しています。リコによれば魔法界は場所によって季節が固定されており、魔法学校は常に春、
補習で訪れたひゃっこい島は常に冬でした。ひゃっこい島が話題に上った事で、二人は不意に、行方不明になったはーちゃんの事を思い出し、顔を曇らせます。
『もう帰ろうか!今日お店のお手伝いするって約束してたんだった』 みらいはどこか空元気のように、リコを促しました。
テキパキと商品陳列をこなすみらいは、不自然に大きな鼻歌を歌っていたりと、やはり空元気のように映ります。今日子さんは娘を気にしながら、手伝ってくれているリコにお礼と共にそれとなく声を掛けます。
『何かあったんだろうなぁって。分かるわよ、母親だもの。でも、母親だから相談できない事もあるよね。リコちゃんにはできてもさ』
そして、リコに一緒に居てくれてありがとう、とお礼を言ったところにみらいが戻って来ました。
『私でも相談に乗れることがあったら、いつでも乗るからね』
『え?』『リコちゃんもね』
『あ・・・はい』 お母さんには、娘の不自然な態度はお見通しです。
夕暮れ時。蝉の声はいつしかミンミンゼミからヒグラシになりました。
物悲しい鳴き声に包まれながら、不思議な少女が、宙を舞うトンボに手を伸ばします。
夜。机に向かっていたリコはある決意と共に部屋を出たところで、みらいと鉢合わせました。みらいもリコを訪ねようとしたところで、二人はほうきに乗って夜空へ飛び出して行きました。二人で見上げる星空と、見下ろす夜景はどこまでも美しく輝いています。
町を見下ろす高台に降り立ったところで、みらいははーちゃん探しを持ちかけます。あれからずっと探したと諭すリコに、何もしないでいるなんて我慢できないと食い下がります。
『もう探し尽くしたじゃない。本当に、全部・・・』 そしてリコは、胸に秘めていたことをみらいへ告げました。
『私ね、丁度二人に話に行こうと思っていたの。私、魔法界に戻った方がいいかなって思って』 二人が初めて出会った時と同じく、月が見下ろす中、リコは「別れ」を切り出します。そもそもリコはエメラルドを探しにナシマホウ界へ来ました。そのエメラルドがはーちゃんと共に消息不明となった今、こちらに居る理由がありません。
もちろん、リコは消極的な理由だけで帰りを口にした訳ではありません。魔法学校でもっと勉強し、もっと魔法を使えるようになれば、エメラルドもはーちゃんも見つけることが出来るかもしれない。みらいとは違う手段で、はーちゃんを探す事を模索しています。
『魔法学校でも一番になれるくらい、頑張るから』 言葉を継げないみらいを代弁するように、モフルンが問います。リコ、帰っちゃうモフ?、と。
リコはそれには答えず、明日の休みに遊びに行こうと誘い、みらいも頷きました。そしてモフルンを交え、十六夜の月を見上げます。
その頃魔法学校では、二つのお告げが発せられました。
「地に降りたちし災いは世界を破壊と混沌へと導く」
「災いが目覚め世界に降り立ちし時、輝きを伴い強き命舞い戻ると」
考古学者が発掘作業を行っていた沙漠に、壊れた魔法のランプが転がっています。
そして、ランプからは魔王のような怪人・ラブーが姿を現します。対比するように、木立の中に佇む不思議な少女の姿が・・・
ラブーはよほど長い間封じられていたのでしょう。周囲の景色がずいぶん変わったと感想を漏らしたところで、何かを聴きつけて魔法界の大樹の前へと瞬間移動します。
『こいつはまだ健在かい。だが、「ヤツ」はお留守のようだね』
そしてヤモーが切って残した尻尾にドス黒い力のうねりを聴き取り、その尻尾からヤモーを再生させます。我に返ったヤモーはドクロクシーと一体化した事、そしてプリキュアに倒された事を思い出し、恨みに満ちた目で亡き主君の名を叫びました。すると骨片と化したドクロクシーの残骸が反応し、5本の骨となってヤモーの前に現れます。その骨を手に、ヤモーはナシマホウ界へと出撃して行きました。
ラブーは一部始終を傍観しながら、聞きなれない「プリキュア」に首を捻っています。
みらいとリコはショッピングモールでお買い物に興じた後、公園でお土産用のクッキーを食べて笑いあっています。そこにヤモーがドクロクシーの骨と共に現れました。
『ドクロクシー様・・・私に力をお貸しくださいませ』
空はたちまち黒雲に覆われ、セミの抜け殻と滑り台、そしてドクロクシーの骨を合わせてヨクバールを生成、その光景をラブーが高みの見物と洒落込んでいます。先程ショッピングセンターで、二人で選んだブローチが転げ落ちるのを目の当たりにして、みらいは憤りと共に叫びました。
『やめて・・・もういい加減にして!!』 そしてリコを促し、ダイヤスタイルへと変身します。
ヤモーの憎しみとドクロクシーの力が込められたヨクバールは強く、ムーンストーンやタンザナイトを用いて応戦するも、通じません。地に伏した二人の前に、はーちゃんが抜けてしまったスマホンが転げ落ちます。
『もう、嫌なの。大切なみんなとお別れなんて・・・嫌なの!』 あの時、クシィの魂と共に昇天していくはーちゃんの姿を思い出した二人は、珍しく感情を露わに怒りと悲しみを吐露します。
『はーちゃんは、あなた達を止めるためにいなくなったのよ。私は絶対にはーちゃんを見つけて見せるって、決めたのに、今度はそれを邪魔するの?』 その時、モフルンがスマホンからスープを出し、一気に飲み干して口の周りに「ひげ」を付けた状態で割って入りました。
『二人を悲しませちゃダメモフ』
そしてミラクルとマジカルに対しても、スープの「ひげ」を付けたままで諭します。
『笑ってないとはーちゃんだってニコニコで帰って来られないモフ』
あの時、
雪山ではーちゃんがスープを飲んだ時の「ひげ」を見て、笑いあった日の事を思い返す二人。そして憎しみを宿してさえいた二人の目から、その険しさが消えました。
『そうよね。私たちが笑顔じゃないと!』 突っ込んでくるヨクバールを、手を繋いで迎え撃とうとしたその時、スマホンが強い光を発しました。同時にモフルンは甘いにおいを感じ取っています。
戦いの場に向けて、静かに歩みを進める不思議な少女。彼女がスマホンを手にすると黒雲が打ち払われ、舞い散る花弁と共に青空が広がりました。その少女が手にしているのは、あの日はーちゃんと共に空の彼方へ消えたエメラルドです。そしてエメラルドをスマホンにはめると・・・
『フェリーチェファンファン・フラワーレ!』 種から芽が出て葉を広げ、茎を伸ばして行く中で、新たなプリキュアが姿を現します。
『あまねく命に祝福を。キュアフェリーチェ』 突然の出来事に、呆気にとられるミラクルとマジカル。ヤモーに煽られたヨクバールが突っ込んできます。それをフェリーチェは片手で受け止めました。
その力に本人も少し驚いたようですが、手ごたえを感じて反撃に転じ、高く打ち上げます。そしてフェリーチェは自分の力を試すように、ヨクバールと単身渡り合います。強い瞳でヨクバールを見据え、
バンダイ様の新商品 6890円(税込)のフラワーエコーワンドにエメラルドを嵌めました。
『キュアーアップ』 の掛け声が、こだまとなってあたりに響き渡ると、伸び行く双葉から花が咲き、エメラルド・隣家ネーションの二つの輪が、ヨクバールを花と共に包み込んで浄化しました。
ヤモーはドクロクシーの残り4本の骨と共に撤退。様子見に徹していたラブーもまた、フェリーチェの力に関心を抱きつつ引き上げて行きました。
『プリキュアってどういうこと?あなたどうしてスマホンを?なんでエメラルドを持っているの?』 戦い終わり、リコは矢継ぎ早に質問を畳み掛けます。
『質問はひとつずつだってばさあリコォ』 振り返った少女に、二人ははーちゃんの面影を見ました。
『そう!私だよ!わ・た・し!はーちゃんだよ!!』 涙を浮かべて迎え入れる二人に、笑顔のはーちゃんが飛びつきました。これでまた、みんな一緒の日々が始まります。
最終回まで観終えた身からすると、この時点で終盤の伏線らしきものが既に見受けられます。
まずはラブーが魔法界の木を見て呟く『こいつはまだ健在かい。だが、「ヤツ」はお留守のようだね』という、何気ない一言。ヤツとは言うまでもなく、「ヤツ」の事です。(あえてここでは名前を出しませんが・・・念のため)その「ヤツ」が、今回既にラブーの目の前に出現していたとは終わりなき混沌と言えども見抜けなかったようです(笑)
まあ、先のネタバレ?はさておき、今回はみらいとリコが少し投げやりというか、自暴自棄とも取れる姿を披露していることが目を惹きます。
はーちゃんを失ってから今までの日々については、はっきりと描かれていませんが、出来ることは全てやりつくした程、血眼になって探し回ったのでしょう。もう打つ手がない程に。二人とも、それで諦めるような子達ではありませんが、精神的にダメージを負っていることは明らかに見て取れます。
みらいは傍から見ても不自然なほどの「つとめて明るく振る舞う姿」、リコはみらいとの別れさえも考慮に入れてしまうほど思い詰めた様子。もちろん二人とも、投げやりではありません。みらいは何か行動を起こそうと持ちかけますし、リコは遠回りだとしても魔法の研鑚を積んで探し出すという方法を考えています。
珍しい姿といえば、ヤモーが操るヨクバールに対する態度も普段あまり見られないものでした。感情に任せて怒りをぶつける二人には、ヤモーもまた大切な人を失ったという事実を省みる余裕がありません。それはヤモーも同じです。同じ苦しみを味わった者同士が、同じ憎しみを胸にいがみ合う姿は悲しいものです。あのままモフルンが割って入らず、怒りのままにヨクバールを退けていたとしても、二人の心は決して晴れなかった事でしょう。
ただ、ミラクルとマジカルにはモフルンがいます。モフルンが「ひげ」と共に二人に笑うよう促すまで、二人はこれまでに無いような険しい表情をしていました。伝説の魔法使いと称されるプリキュアといえども、素性は少女であり、人間です。感情のブレがあっても当然です。
そのように辛い時に嘘でもいいから明るく振る舞うことが大切だという内容には、またまた私の愚痴になりますが、辛い日々が続いた最近の私にも通じるものがありました。みらいの「空元気」とは異なる明るさを、嘘でもいいから持ってみようと、前向きになった気がします。
そしてフェリーチェについて。さすが初登場補正(笑)。立て続けに観た
フォーチュン、
スカーレットに続き、こちらも圧倒的な強さを披露してくれました。もともと強いと言われていたフォーチュン、闇から光への転換劇を果たしたスカーレットとは異なり、みらいとリコが知るはーちゃんはか弱い妖精です。それは視聴者にとっても同じことで、「守ってあげたい存在」だった子が圧倒的な戦力を見せる姿のギャップがなかなか強烈でした。当初はてっきり九条ひかり=シャイニールミナスのような存在かと思っていたのですが・・・ミルク→ミルキィローズの系譜のキャラクターに落ち着くとは思いませんでした。
もっとも二人と合流する前の不思議少女っぷりは、登場初期のひかりを思わせるものがありました。
フェリーチェのアクションシーンについても、自分の力に戸惑うような、それでいて手ごたえを得たと見るや一気に反撃に転じる描写が、追加戦士としては珍しいです。そして、あの天真爛漫であどけなく穢れを知らないはーちゃんとは思えない程の、凛とした表情のカッコいい事!似たような存在のキュアエースにはこのギャップがあまり見られなかったので、フェリーチェの特異性が際立って見えます。
変身時の決めポーズ、ミュシャを思わせる背景も美しく、フォーチュンの「星」、スカーレットの「炎」に続いて「花と植物」を上手に使ったバンクも丁寧で見応えがありました。
これから再び日常回へと戻ります。三人の共同生活を再び観返す楽しみが新たに生まれました。