荒野の果てに沈む夕陽を眺める番君に、
ななみはこれからどうなってしまうのかと不安を口にします。
目の前に広がる荒涼とした世界と、そこを跳梁跋扈するデザートデビル。
ななみでなくても不安になる、この世の終わりのような光景を前にしても、
番君はプリキュアを信じていれば大丈夫だと励ましました。
その頃、敵地に乗り込んだプリキュア達の戦いの行方は・・・
苦しみ、喘ぎ、くずおれてゆくダーク様を、
ムーンライトは既に敵対心ではなくどこか哀れむような目で見つめます。
遂に倒れるダーク様。その手からはムーンライトの心の種の欠片がこぼれ落ちました。
ムーンライトは改めて父に向き直り、歩み寄り、そして駆け寄り、父に抱きつきます。
しかし父である月影博士は、ゆりを抱きしめる資格は無いと苦渋の表情を浮かべます。
心の大樹の秘密を解き明かせばみんなを幸せに出来ると妄信し、
いつしか周りの忠告にも耳に入らなくなった月影博士は、
研究に行き詰ったところをデューンにつけこまれ、
サバークとして世界を滅ぼす手先と成り果ててしまいした。
月影博士は幸せとはみんなが少しずつ頑張って掴むものだと悟り、
ただ己の心の弱さを省み、悔いを露にします。
その折、ダーク様が最後の力を振り絞って立ち上がりました。
ただただ悲しい目でその姿を見るブロッサムの前で、
辛うじて立ち上がるダーク様の生命を象徴するような胸元のブローチが砕け散ります。
『キュアムーンライト・・・!サバーク博士から離れろッ・・・!』
しかしダーク様のその目はいつもの憎しみに満ちた目ではなく、
懇願するような目でよろめきながら月影親子に迫ります。
父を渡さない、とでも言うようにしがみつくムーンライトを留めて、
月影博士はムーンライトを苦しめるためだけに、
そのためだけに存在する心の無い人形を作ってしまった事を詫びながら、
その「心の無い人形」、いやもう一人の「娘」、ダーク様の許へ向かいました。
『もういいんだ、ダークプリキュア。もう、いいんだ・・・』
ダーク様を慈しむように抱く月影博士を、ダーク様もまた「父」として抱き返します。
そしてムーンライトに、ダークプリキュアとは心の大樹を研究して手に入れた技術と
ゆりの体の一部を使って創った事を、そして「妹」であると説明し、
月影博士は娘同士を戦わせてしまったことを悔いて、最後にダーク様に呼びかけます。
『お前は私の娘だ』
『お父さん・・・』
父の腕の中で、ダーク様は初めて見せる安らかな笑顔を浮かべ、
最後に「姉」ムーンライトに微笑みかけ、光の粒となって消えて逝きました。
その手に握られていた心の種の欠片がこぼれ落ち、
最後に残った光の粒も、名残惜しそうに月影博士の周りを飛び回った後、
星空の彼方へと消えて行きました。
『とんだお涙頂戴だね。とても面白かったよ』
やりきれない想いを抱く月影博士を嘲笑うように、
いつの間にか高みの見物をしていたデューンの拍手が響き渡ります。
不気味なほどの笑顔を浮かべ、3人の前に降り立つデューンを
怒りに満ちた顔で睨みつけ、歩み寄る月影博士。
デューンははぐらかすように、月影博士の自業自得だと説きました。
かつて夕陽に照らされたモン・サン・ミッシェルの前で、
研究に行き詰まり、力が欲しいとデューンに願い出た月影博士は、
悩んだ末に自ら仮面を被り、自らサバーク博士へとなったのでした。
その研究成果は心の大樹の守りを破り、その結果地球を砂漠化する事になり、
苦々しげな月影博士に慇懃無礼に礼を言うデューン。
そして最後の希望であるプリキュアに、絶望を味あわせるべく襲い掛かるデューンを、
罪滅ぼしとばかりに生身の月影博士が迎え撃ちました。
生身なのに異様に強いものの、しかしデューンに叶う筈も無く劣勢に追い込まれ、
我に返ったムーンライトが、そしてダーク様の形見とも言える
割れた心の種を拾い上げたブロッサムが意を決して立ち向かいます。
『君も僕が憎いのかな?』
嘲笑うように軽々と攻撃をかわし続けるデューン。
ムーンライトが、ブロッサムが、月影博士が3人がかりで立ち向かうも、
攻撃を当てる事すら敵いません。
デューンの腕の一振りで巻き起こる衝撃波に動きを止められ、
続く一撃はブロッサムとムーンライトを強制変身解除、月影博士もまた倒れ伏しました。
『強い者が弱いものを喰らう。何か問題あるかな?』
デューンはまたも不気味に優しい笑顔を浮かべ、一転に凝縮した凄まじい力を集めます。
変身を解かれた今、これを喰らってはひとたまりもありません。
そんな中、月影博士は単身その力に向かっていきました。
『ゆり!お母さんを、頼む・・・ッ!』
最後に悲しい笑顔で娘を振り返り、身を挺してその力を押さえ込む月影博士。
ゆりの懸命の呼びかけも空しく、目の前で炸裂する衝撃波が巻き起こす砂煙が消えると、
コロンのときと同様、無残に黒い灰が散って逝きました。
あまりに救いの無い光景を目の当たりにしたゆりは膝をつき、涙し、
そして再び顔を上げた時、その目は憎しみに満ち溢れています。
『君も、僕に憎しみをぶつけてくれるのかい?』
これまでのダーク様のように憎しみに満ちた目で、憎しみの涙を流しながら
デューンに歩み寄るゆりの手を、つぼみが引き止めました。
ゆりに離すよう言われても、つぼみは手を離しません。
『自分の憎しみや怒りを晴らすために、戦うなんてやめて下さい』
『でも私は、あいつが憎いのよ・・・』
ゆりはかけがえの無いもの、コロンや父を奪ったデューンを前に拳を固く握り締め、
憎しみを胸に戦う決意を変えません。
『憎しみが力になるのなら、私はそれでも構わないわッ!』
『情け無い事、言わないで下さい!私が好きなゆりさんは、そんな事言いません!』
思いも寄らないつぼみの叱咤に、驚き振り返るゆり。
つぼみは溢れる涙と共に訴え続けます。
『悲しみや憎しみは、誰かが歯を食いしばって断ち切らなくちゃ駄目なんです!』
何のために今までプリキュアを続けてきたのか、
コロンや月影博士はゆりに何を託したのか。
それでもゆりは歯を食いしばり、肩を震わせ、言葉に詰まりますが・・・
『月影ゆりッ!!』呼び捨てで叱咤するつぼみに、ゆりは息を飲みました。
そしてつぼみはダーク様の形見とも言える、あの心の種の欠片を差し出して、
憧れの存在であるムーンライトを再び立ち上がらせます。
『あなたが何をしたいのか、何をするべきなのか。そして、何のために戦うのか・・・
自分で考えてください!!』
目を閉じてつぼみの手を取り、心の種の欠片を受け取ると、
迷いを捨てたゆりの心のように、欠片は完全な心の種となりました。
そして憎しみではなく、愛で戦おうと告げて
2人は共に完全な心の種で変身します。
ブロッサムとムーンライト、2人手を取り合いデューンとぶつかり合い、
手を繋いだ二人が描くハートから放たれる光に、流石のデューンも劣勢に追い込まれます。
間髪を入れずマントを纏い、激しい空中戦を繰り広げてデューンを叩きつけ、
デューンの反撃からブロッサムが身をかわす隙にムーンライトが畳み掛ける見事な連携。
苦し紛れにデューンが放つ光弾は直撃したと思いきや、
ようやく合流したサンシャインがサンフラワーイージスで弾き返しました。
同じく合流したマリンと共に、次々と息もつかせぬ猛攻撃、
まさに4人一丸となってデューンを攻め続けます。
マリンとサンシャインが、そしてムーンライトとブロッサムが、
都合2波のフォルテッシモがデューンを貫き、そして・・・
『今、万感の想いを込めて!』
スーパーシルエット。続く
牛久大仏ハートキャッチオーケストラの巨大な拳が
デューンを叩き潰し、これ以上無い程の追い打ちの連続に、さらにタクトを向けるブロッサム。
これで長い戦いは結着するのでしょうか・・・?
冒頭触れたとおり、今回は不覚にも朝から本気で涙しました。
ダーク様の悲しくも美しい最期しかり、目の前で父を喪うゆりの悲しみもしかりですが、
内気で引っ込み思案だったつぼみ=ブロッサムが
ゆり=ムーンライトを叱咤する一連の場面に心から感銘を受けました。
シリーズ序盤の、あの頼りなかったブロッサムが、
常にゆりから冷たくあしらわれ、叱咤され続けたつぼみが、
「最弱」のレッテルを貼られた彼女が「最強」と称されるムーンライトを叱り付ける。
それも年上かつ先輩を名前で呼び捨て、かつてムーンライトが自身の影に向けて言った
「悲しみの連鎖は誰かが歯を食いしばって断ち切らなければいけない」を髣髴とさせる言葉は、あの時のムーンライトと同じものをブロッサムも感じとっており、
そしてこのシリーズで何を訴えたいのかが伝わってきた気がしました。
今この現在でも、世界各地で紛争は絶えません。
憎しみの連鎖、悲しみの連鎖。
これを歯を食いしばって断ち切るのは本当に苦しく、難しいものです。
理想論でしかないと解っていても、
それでもこうした憎しみを、悲しみを断ち切る心があれば、いつか紛争は終結するのではないか。
憎しみだけで戦っても何も得られないのではないか。
そう願うような作り手のメッセージを感じ取りました。
サバークと化す前、月影博士は世界を幸せにするという大志を抱いたものの、
その手段として人の心を信じるのではなく、神頼みのように心の大樹の力を追い求め、
その挙句にデューンにつけこまれてその手先と化しました。
この一連の事情も、幸せを掴むには、何かに頼るのではなく
人それぞれの小さな頑張りを信じることが大切であり、
それはコツコツと心の種を集め、少しずつ人を前向きにしてきた
この一年のプリキュア達の活躍を肯定するものだと思います。
さて、前回案じたダーク様の最期は、
悲しい展開だったものの個人的には満足の行く展開でした。
ダーク様の性格からしてプリキュア達と共闘するとは考えにくく、
このまま寝返ってしまえば
昨年のウエスターさんとサウラーの二番煎じになってしまいます。
最愛の父の腕に抱かれ、これまで憎しみ抜いてきた「姉」ムーンライトに微笑みかける
安らかな表情は、形は違えど彼女は「憎しみの連鎖」を断ち切って逝ったのでしょう。
そんなダーク様を月影博士は「心の無い人形」と言いながらも、
そのように生み出してしまった自分の罪のように受け入れ、
最後に「お前は私の娘だ」と呼び掛けました。
この月影博士の言葉に「お父さん」と返すダーク様は儚く切ない生涯でしたが、
最後の最後に娘だと認められ、救われたと思いたいです。
ダーク様の製造過程が少しだけ描かれていましたが、
羊水に浸かる胎児のように、培養液に浸かる幼いダーク様を見上げるサバークにとって、
実の娘のような感情があっても不思議ではありません。
くずおれるダーク様を、再び立ち上がるダーク様を、消えて行くダーク様を見るムーンライトも、
これまでのように憎むべき相手ではなく、妹を憐れむような眼差しで見続けます。
形は違っても同じ父を想い続けた相手に対し、
ムーンライトが「憎しみの連鎖」を断ち切ったように思えました。
デューンの攻撃を文字通り身を挺して防ぐ月影博士、憎しみに囚われたゆりを叱咤するつぼみ。
古い引用で恐縮ですが、この場面で「ダイの大冒険」での「黒の核晶」を押さえ込むバラン、
暗黒闘気で反撃しようとしたヒュンケルを諌めたマァムを連想した
私と同世代の方は他にもいらっしゃるのではないでしょうか。
過去に見た事のあるような展開も、舞台を変えた作品に置き換え、
違ったキャラクターに演じさせても、同じような感動があります。
それはデューンが嘲笑うように「お涙頂戴」であっても、
製作側が入魂して作りこんだものは感動を呼ぶものです。
話の展開もさることながら、アクションの激しさと
演出(特に表情の変化)の素晴らしさも目を惹きました。
生身の筈なのにやたらと強い月影博士(笑)はさておき、
デューンに2人で反撃を開始し、マリンとサンシャインが加わってからの大立ち回りは、
これまでのシリーズのクライマックスを上回る凄まじいものでした。
そして畳み掛ける大技の連続。
フォルテッシモを2発叩き込んだその上にハートキャッチオーケストラ攻撃と、
これを上回る攻撃方法が考えられませんが、
果たして次回の最終決戦ではどのようにしてデューンを倒すのでしょうか・・・?
前述の「表情の変化」は、まずは父に駆け寄る際のムーンライトの仕草が印象的です。
ダーク様を倒して振り返り、涙を浮かべて歩み始め、
歩くのがもどかしくなって駆け足になる。この一連の動作と相俟って、
父との対面を果たしたゆりの心境が見事に表されていました。
次に立ち直ったゆりに最後の変身を促されたつぼみの表情も印象的です。
最初呆然とゆりの声を聞いて、感極まって涙が浮かび、
歯を食いしばって涙をこらえようとしても涙が溢れ、
そして涙を撒き散らして万感の思いと共に「はい」と頷く一連の流れ。
次のカットではゆりとつぼみ、2人とも涙が無く、
最後の変身に向けての意志の強さを感じさせます。
また、フォルテッシモを持ちかける際のムーンライトと、
持ちかけられたブロッサムの無言の目のやりとりからも、
変身前のやりとりで2人が心底分かりあったような印象を感じさせました。
ただ、私のように劇場版を見ていない者にとって
映画との関連性が張られているのが少々難点でもありました。
3月のBD到着まで劇場版の内容を知らないので、
劇場版を見た折には、サバークがモン・サン・ミッシェルの前で何を思ったのか、
改めて見返してみたいものです。
基本的にプリキュアシリーズは、最終決戦で何かに頼ることはありません。
手を貸す者は居ても、一年間(二年間)を通して築き上げた物、
学び取った物を貫き、自分達の力で立ち向かってきました。
今作もコッペ様やキュアフラワーの助力はありましたが、
最終的には自分達の力で乗り越えてきました。
次回、どのように完結するのか楽しみでもあり、
そして昨年この時期にも抱いた気持ちですが、このシリーズの終了が寂しくもあります。
「みんなの心をひとつに!私は最強のプリキュア!!」
最弱で始まったブロッサムが、自ら最強と胸を張れるようになるまでの
一年間の物語の完結を、刮目して見届けたいと思います。