遠雷。雨はひとまず上がったものの、黒雲が立ち込める空の下で、
ハミィは脳天気にセイレーンがプリキュアになった事を喜んでいます。
しかし響と奏は、昨日まで敵だったセイレーンが味方になった事が未だに信じられず、
モジューレも持たずに変身した事にも不審を抱き、
また作戦ではないかとの疑念を捨てられません。
前回ハミィを助けた姿を見ても、すぐには信じられない響と奏に対し、
ハミィはハーモニーパワーがあれば人も妖精も友達であり、話せばわかると訴えますが、
肝心のセイレーンがどこへ行ってしまったのか解りません。
単身セイレーンを探しに向かうハミィを見送る響と奏。
二人の不安な心を表すように、再び雨が降り始めました。
メフィストも、アフロディテも本当にセイレーンがプリキュアなのか、
そしてハートのト音記号が無いのに変身した事に当惑しています。
両陣営のトップが首を捻る中、当事者であるエレンはさらに当惑しながら
一人雨に打たれて街をさ迷い歩いていました。
『どうして・・・どうして私がプリキュアに?』
エレンは一人ぼっちの捨て猫のように、公園の滑り台の下で雨露をしのぎ、
ノイズに操られていた事を自覚しながらも、
それは自分の心が弱かったからだと己を責め続けていました。
そんなエレンの姿を、通りかかった奏太とアコが心配そうに覗き込みます。
しかしエレンは奏太を見るや、
かつて苦しめてしまった事を思い出し、
居たたまれなくなって再び雨の中へと飛び出していきました。
傘をささずに走るエレンの姿は、傘をさした町の人々の中では目立ち、目を惹きます。
人々の視線が突き刺さるように感じたエレンは、
散々人々を苦しめてきた事実から逃げるように路地裏に駆け込み
猫の姿へ変わろうとしますが、姿を変える事が出来ません。
前回ペンダントが砕けたため、猫の姿だけでなく、他の人の姿になる事もできなくなっており、
途方に暮れて膝を付くエレンに、雨が冷たく降り続けます。
セイレーンに呼びかけるメフィスト。しかし応答は無く、代わりにマイナー達が応えます。
小さい傘を3人で使っているため、妙なポーズになっているのはご愛嬌というべきか、
性懲りも無くリーダー争いを続けているマイナー達。
特にバスドラはもはやセイレーンはどうでも良い存在と考えていますが、
メフィストにとっては、不幸のメロディの歌い手として不可欠な存在です。
代わりに不幸のメロディの歌い手を申し出るバリトン、ファルセットを100年早いと一喝し、
セイレーンを連れ戻すよう命令しました。
バスドラはメフィストに対し、自分がリーダーだという事を確認した上で、
何やら腹黒い企みを申し出ます。
ラッキースプーンで奏から出されたカップケーキに目を輝かせる響。
しかしハミィの事が気になり、2人ともケーキに手が伸びません。
響はハミィとセイレーンを探しに行くと立ち上がり、
奏にセイレーンに何と声をかけるのかと言われて言葉に詰まるものの、
その時考えると飛び出していきました。奏も捨て置けず、響の後を追います。
『帰るところも無い。行くところも無い。私はどうすれば・・・』
雨に打たれて途方に暮れ、力無く歩くエレンに、
オルガンの音色が聞こえてきます。
これまで不快だったはずの音は耳に心地良く、
その音の流れてくる調べの館へ、誘い込まれるよう向かいました。
オルガンを弾いていた音吉さんは、遠慮がちにそっと覗いているエレンに気付いて
もっと近くで聴くよう勧めました。
エレンは音楽を使って酷い事をしてきたために、音楽を聴いて楽しむ資格が無いと
辞退しますが、音吉さんは胸に手を当ててみるよう促します。
エレンが言う通りにすると、心臓の鼓動が聞こえてきました。
『誰の心にも音楽がある。メロディを響かせ、リズムを奏で、ビートを刻む。
迷い悩んだ時は、お前さんの心のビートに従うといい』
またいつでも聴きに来るといいという音吉さんの言葉を背に、調べの館を辞するエレン。
いつしか雨は、上がっていました。
突如、エレンの顔目掛けてハミィが飛びかかって来ます。
『あんた!私の息止める気!?』
ハミィをひっぺがす際の仕草と口調で、いつもの調子が戻ったように見受けられますが、
我に返ると目を合わせる事が出来ません。
響と奏と話し合うよう言われても、エレンも何を話して良いのかわからず、
今まで人々を悲しませて来た思い出話でもするのかと自虐的です。
エレンは今まで何度ハミィを痛い目に遭わせ、騙して来た事を悔いていますが、
ハミィは全然気にしておらず、むしろ忘れたとさえ言い放ちます。
しかしエレンは自分の犯した行為を忘れる事ができず、
プリキュアになる資格など無いと、再び逃げるように駆け出して行きました。
黙々と歩き続けるエレンの後を、ハミィはどこまでもついて来ます。
そのうちソリーとラリーが一緒に歌おうとエレンに自己紹介しますが、
エレンは相変わらず俯いたまま。
その髪を風が撫で、ハミィとフェアリートーン達は良い風が吹いてきたと歌い始めました。
風にそよぐ木の葉の音を、"ざわわー♪ざわわわー♪"と歌うハミィ達に、
いつしかエレンも足を止め、そして歌を自然と口ずさみ始めます。
その際、ハミィはエレンの胸元に光を見たような気がしましたが、
光はすぐに消えてしまいました。
『どうして怒らないの?私、沢山酷い事したのに』
エレンは近くの木に音符を見つけて喜ぶハミィに、なぜ怒らないのか疑問をぶつけます。
『セイレーンは怒られたいニャ?』
『怒られて当然の事をしたわ・・・』
その言葉にハミィは顔を膨らませて一言一喝。
『こらニャ!!』
これで禍根を断ち切り、一緒に歌おうと申し出ました。
再び風がエレンの髪を、木々を揺らし始めます。ハミィに言われるがまま、耳を澄ますエレン。
不意に、おなかの虫が鳴る音が聞こえてきます。
それは、おやつを食べずに出てきてしまった響が立てた音でした。
そっと様子を伺っていた響と奏は、セイレーンと呼ばれたくないというエレンの意志を汲んで
改めて「エレン」と呼び、カップケーキを食べに来ないかと誘います。
『何をするにもお腹空いてたら力出ないでしょ?』
『歌うんならなおさら、ね?』
エレンと響・奏の間の距離も縮まったと思いきや・・・
突如、トリオ・ザ・マイナー達が木の枝の上に現れました。
バスドラは今日からリーダーになったとのたまい、
枝が重さでたわんでしまうのを案じるハミィに見せ付けるように、
鼻で笑って枝をへし折って投げ捨て、木をネガトーンと化しました。
生きている木を傷つけ、自然の音楽を台無しにした事に憤り、変身する響と奏。
目の前で暴れるネガトーンと、対抗するプリキュアを複雑な目で見つめ、目を背けるエレン。
一方メロディとリズムは反撃に転じようとした矢先、
突如地中から伸びる根に絡め取られてしまい、そしてハミィはバスドラに捕らわれます。
バスドラの狙いはハミィを捕らえて人質ならぬ猫質に取り、
エレンに不幸のメロディを歌わせるよう脅迫する事でした。
『私が不幸のメロディを歌ったら、ハミィは・・・』
駄目だと叫ぶハミィの口を塞ぐバスドラ。この状況でエレンが出す答えは・・・
バスドラの要求を拒む事でした。
『こいつがどうなってもいいのか。友達を見捨てるのか?』
ハミィを盾に取るバスドラに反論するエレン。
『友達を悲しませたくないからよ。私が不幸のメロディを歌ったら、ハミィまで不幸になってしまう』
そしてセイレーンの姿を棄てて以来、初めて笑みを浮かべます。
『ハミィには、いつも楽しく歌っていて欲しい』
単身バスドラに挑みかかり、あえなく返り討ちに遭ってしまうエレン。
そして怒ったバスドラの拳がハミィに迫りますが、エレンは懸命にその拳を受け止めます。
『私はどうなっても構わない。でもハミィを傷つけたら、絶対に、絶対に許さない!』
その言葉と決意に、エレンの胸元が光り輝きます。
ハミィが先ほど見た光は、このハートのト音記号でした。
形を取って現れるモジューレ、そしてラリーとともに、キュアビートへと変身します。
『爪弾くは魂の調べ、キュアビート!』
改めてビートの登場に驚くマイナー達。
それでも猫質のハミィを盾に余裕を崩さぬバスドラの手から
ビートは華麗な身のこなしでハミィを奪い取ります。
そしてネガトーンに相対する様は、元が猫だけに見事な素早さで、
攻撃を巧みにかわして飛び込み、猛打を叩き込み、豪快な蹴りを叩き込みます。
『散々不幸を撒き散らしてきたくせに、今更プリキュアだと?ふざけるな!』
ビートはバスドラの罵声を否定しません。
『あなたの言う通り、私のやって来たことは消せない。それは私が一番わかっている。
でも、もう誰も不幸にしたくない。大切な友達を守れるように、強くなりたい。
私の心のビートが、そう願ってる』
心のビートに応じるように、ギターの形を取る愛の魂、ラブギターロッドが現れます。
ソリーを招きいれ、早速披露される技の名前は、ハートフルビートロック。
ロッドのトリガーを引くと共に飛び出す輪がネガトーンを拘束し、三拍子と共にフィナーレ。
ネガトーンを撃退し、ハミィも無事に音符を回収しました。
互いに責任のなすりあいをするバスドラとバリトン。ファルセットはそんな2人をなだめて
いつものアレこと『覚えてろ~♪』の捨て台詞と共に撤退して行きました。
しかしネガトーンを倒し、マイナーを退けても、折れてしまった枝はもう元には戻りません。
響と奏、ハミィのお礼の言葉も耳に入らず、
エレンはただ悲しみの目で散った枝葉を見つめて呟きました。
『私が居たせいで、木が傷ついた。ごめんなさい・・・』
柔らかな夕陽が照らす中、再び走り去ってしまうエレン。
その心に刻まれた罪の意識は、未だ拭い去れません。
まず、真っ先にこんな書き出しで恐縮ですが・・・
響と奏もそうですが、今作は体のラインがはっきりと出る変身バンクだけに、
エレンの腋が!エレンの二の腕が!エレンの腰周りが!エレンの脚が!(落ち着け私)
ビートの変身バンク、たまりません。
パッションの時も、
サンシャインの時も、何度と無く変身バンクを見返しましたが
その前例に違わず、すっかりビートの変身シーン、
そして戦いっぷりとハートフルビートロックのバンクに魅せられてしまいました(苦笑)
追加戦士の例に漏れず(登場当初のご祝儀という意味合いもありますが)
胸がすくばかりの圧倒的な強さを披露し、ギターを弾くように決めるポーズの数々や
意外性充分だった「トリガー」を引いての技の射出など、
ビートの魅力を十二分に堪能する事が出来ました。
変身後、新たに流れるBGMや、ハートフルビートロックの際のBGMなど、
劇判音楽も相変わらず私好みで、音楽面でも大いに盛り上げて貰いました。
それにしてもギターを武器にする事は早い段階から決まっていたのでしょうか?
第5話でアコギを引っさげて弾き語りしていた姿はこのための伏線だったりして(笑)
さて、バンクや戦闘シーンの華やかさとは裏腹にエレンを取り巻く環境は重く、
さらにプリキュアとの共闘やハミィとの和解を果たした今でも、
未だ拭い去れない罪悪感に苛まれている事が、エレンの立場の特異性を物語っています。
せつなの時も共通した命題ですが、エレンがより責任を重く感じているように見えるのは、
「音楽」を使って人々を苦しめていたという事実ゆえでしょうか。
音吉さんの言うように、音楽を楽しむには資格など必要ありません。
しかし、楽しむべきものを凶器として用いていたエレンにとっては、
かえって罪悪感が高まってしまった事でしょう。
そんなエレンにとって、心臓の鼓動や木々のざわめき、
風の音も音楽であるという事を気付かせてくれた音吉さんが、
今後どのような存在になるのかも気になります。
ひょっとして音吉さんと一緒に暮らすようになる、とか・・・?
かつて
「幸せになってはいけない気がする」と吐露したせつなは、
一つずつやり直していけば良いという言葉に救われました。
今回、ハミィとフェアリートーンにつられて知らずに口ずさんだ事で、
ハートのト音記号が形を取ったように、
エレンにとっては、素直に音楽を楽しむ事が救いに繋がるのだと思います。
一緒に歌ったり、自然が織り成す音の美しさに気がついても、
まだ素直にに楽しむ事が出来ていないため、罪悪感が先行しているのでしょう。
それでもハミィたちと一緒に”ざわわー♪ざわわわー♪”と歌う場面では、
あの
「みんなでおうちでゆうごはーん♪」を想起させ、
ハミィが顔に飛びついて来た時の態度など、
エレンにとってハミィが居るだけで時折素の自分に戻れているような描写も
少しずつエレンが救いに向かっていると考えたいです。
ネガトーンを前にメロディとリズムが変身を遂げた際、エレンは目を背けています。
これは自分が行ってきた悪事そのものというべきネガトーンから
目を背けるという意味合いだけでなく、
前回ミューズに言い含められた、
プリキュアとしての使命に対しても未だ向き合う事が出来ずに
目を背けているように感じられました。
その直後、ミューズは誰も気付かないところに現れ、
口出しをせずに一部始終を見守っていますが、
エレンが自ら答えを出すのかを見極めようとしていたように思いました。
自分の意思で何かを守ったり、戦ったりする事を選ばなければ、
例えプリキュアに変身する資質があっても、プリキュアの資格は得られません。エレンは自らの意思でハミィを守る事を、そして戦う事を選んだために、
モジューレが形を取って現れた事から、そう解釈しました。
前回アフロディテに自分達の関係に置き換えて説明されたのに、
響と奏が未だセイレーンを疑っている冒頭の描写に、最初は違和感を覚えました。
しかし、プリキュアのこれまでに登場した人物と比較しては違和感を覚えても、
普通の人の感覚ではごく自然な事であり、
それがかえって響と奏の個性に繋がっていると考えました。
あれこれ考えてしまうのではなく、ある意味体当たりのぶっつけ本番で何とかしようとする響、
警戒していたものの、いざ面と向かってみれば自然にエレンを気づかっていた奏。
この2人の姿を見ていると、近いうちにエレンと打ち解けて行きそうな予感がします。
今回の「こらニャ!!」はインパクトがありましたが、
同時に禍根をそこで断ち切っており、昨年ハートキャッチで語られた
「悲しみの連鎖は誰かが歯を食いしばって断ち切らなければならない」という重い命題を、いともあっさりとクリアするハミィの懐の深さは大した物です。
丁度5GoGoの中盤の山場、
シロップの「帰るべき場所」についての
一連のエピソードを見たばかりという事もあり、
エレンにとっての帰る場所についても考えさせられました。
マイナーランドはもとより、メイジャーランドにもすんなりと戻る事は難しく、
加音町はこれまで人々を傷つけてきたという後ろめたさから、さらに居づらいものでしょう。
しかし、ここに至るまでのストーリーを見続けた今、
ハミィがいる場所こそがエレンにとっての帰るべき場所だと言えそうです。
ところでエレンにとって、猫に戻れないというのはショッキングな出来事と思われます。
せつなもイース様の姿と決別しましたが、あくまでイース様もパラレルワールドの「人間」です。
しかしセイレーンは「妖精」であり、エレンは仮の姿の「人間」ですので、
せつなの時とは事情が異なる気がします。
種族が異なってもハミィとの友情を続けていけるという事を念頭に置き、
響と奏とは人間として新たな関係を築いて行くとすると、
いつか訪れるであろう別れの日の事が気になります。
十中八九、エレンはハミィと共にメイジャーランドに戻ると考えられますので、
せつなの時と同様、響と奏との別れが描かれるのか、
気が早いかもしれませんが、この点が少し寂しくなりそうに思えました。
どうでもいいリーダー争いや、撤退の際の描写、
バスドラの八つ当たりを一身に受けることになってしまったバリトンとファルセット、
そしてバスドラが悪役に徹する事でストーリーを引き締めている等、
トリオ・ザ・マイナーの立ち位置がはっきりしている点も評価したいです。
リーダー争いに関してはまさにどんぐりの背比べ、反面教師というべきもので、
「あした、めんどなさいばんしますからおいでなさい。黒ねこ 拝」
などという下手な字の手紙でも届きそうな雰囲気でした。
この中で一番ばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのがリーダーだと言ったら、
果たして彼らはどんな顔をする事でしょうか(笑)
次回、果たしてエレンは罪と向き合い、自分と向き合う事ができるのか、中盤の山場の総決算という展開が予想され、大いに期待したいと思います。