『・・・なれるもん・・・・・・』 一人の女の子が、男の子二人に馬鹿にされて泣いています。しゃくりあげながら、その手に抱えた絵本の表紙に目を落しました。表題は「花のプリンセス」。その絵本の主人公のようなプリンセスになることが彼女の夢でしたが・・・。こぼれた涙が、花びらに滴ります。
『私、本当になれないのかな。きらきらかわいいプリンセスに』 ふと、そよ風が吹き付け、あたりの花びらが舞い上がります。
『なれるよ』
女の子が顔を上げると、いつからそこにいたのか、気品漂う少年が立っていました。
『プリンセスになるのが、君の夢なのかい?』
問われた女の子は、自信なさそうに頷きます。
『なれるさ。夢って、凄い力を持っているんだ。君がその夢を大切に育てる事が出来たら、きっと・・・』
その言葉を聞いて、笑顔で頷く女の子に、少年は「夢のお守り」として鍵のようなものを手渡します。
『ありがとう。私、はるか。あなたは?』『僕はカナタ』
不意に突風が吹き付け、花びらを舞わせます。再び目を開けた時、カナタの姿はどこにも見当たりません。ただ声のみが、はるかを応援するように優しく響きました。
『はるか・・・夢を、夢を忘れないで』
その言葉を心に刻んだ少女は、プリンセスへの階段を上り始めます。
『私、プリンセスになる!』 そして、数年の時が流れました。はるかも今日から中学生。全寮制の名門校ノーブル学園に通うため、家族とも別れて暮らす日々が始まります。車のハンドルを握る
ウエスターさんいぶきお父さんは子離れできずに泣きっぱなしで、
西島和音もえお母さんに窘められています。
『今日からはるかと離れ離れなんて、父さんさびしぃ~(涙)ちゃんと毎日電話するんだぞぉ~』
そんなお父さんの泣き言も、ノーブル学園を前にしてテンションMAXのはるかには届いていません。残念ながら(笑)
『私、満開!』『それじゃ体に気をつけてね。自分で選んで入った学園なんだから、しっかりやるのよ』
『元気でなぁ~(泣)』
車から降り、まずは女子寮を目指します。普通の学校の何倍もある敷地に、宮殿のような校舎。気持ちの良い木立の間をゆく道を抜けた先にある、瀟洒な女子寮・・・。これから始まる学園生活に胸が弾みます。
『ステキ・・・ステキステキ・・・素敵すぎる~♥ こんな素敵な部屋に住めるなんて、幸せ満開だよ~♪』 高揚感を抱きながら部屋を見回すと、ふと姿見が目に留まりました。髪を整え、スカートの裾を持ち上げてお澄まししてみると・・・
『・・・あの?』
『ひゃあっ!?』 いつの間にか部屋の中に三つ編みおさげで眼鏡の少女がいます。彼女はルームメイトの七瀬ゆい。お互いに自己紹介を交わした後、一緒に寮の中を見て回ることにしました。
掃除・洗濯も生徒が行う自主独立の気風。生徒達がかわす挨拶は「ごきげんよう」。必修科目のダンスのための、大きな鏡張りの部屋に、広い食堂。普通の学校とは異なる環境と設備に、はるかの期待は膨らむばかり。そして宮殿の広間のようなパーティーホールで、まだ見ぬ王子様と踊る姿を妄想しはじめました。
おーいかえってこいよー(笑)。気づいたらゆいちゃんと踊る格好になっていて周囲の生徒たちに笑われてしまい、現実に戻って来たはるかは恥ずかしそうです。
はるかとゆいちゃんが廊下を歩いていると、向こうから歩いてくる生徒会長、海藤みなみの姿に周囲がざわめき始めます。学業優秀スポーツ万能、さらに大企業のご令嬢で、歩く姿は百合の花と評されるような清楚な美しさをたたえる、絵にかいたようなお嬢様です。果たして彼女は人呼んで「学園のプリンセス」。またまたはるかのテンションが上がります。
そしてみなみは学園に着いたばかりの女の子と、ただ挨拶を交わして行き交いました。
『ごきげんよう』『はいはーい、ごきげんよう』 これから後に長い付き合いになるとは思いもよらぬ、そっけないすれ違いです。
ノーブル学園の卒業生には、夢を叶えて有名人になった人が数多くいます。寮を見晴らす芝生の上で、ゆいちゃんは
武蔵野アニメーションのアニメーター絵本作家になる夢を語りました。
『沢山絵本を書いて、沢山の人に読んでもらえたらいいなって』
『ステキ、素敵だよその夢!』『ありがとう。はるかちゃんは?』
はるかは・・・先程ホールで笑われた事を「嘲笑」と受け止めてしまったのか、幼いころの記憶がフラッシュバックしてしまい、この場は適当に誤魔化します。
『あ!タヌキだ!』(君がね) ちょっと見てくると言って木立の中へと駆けて行き、頭を抱えてうずくまります。
『やっぱ恥ずかしくて言えないよ!おとぎ話のプリンセスになりたいだなんて~』 それでもこれでは駄目だと、ポケットの中にお守りのように持っていたキーを見つめました。
不意に草むらから、犬ともなんともつかない不思議生物が飛び出して来ます。はるかと目が合い、そして・・・
『ありがとうパフ!』
『え゛・・・うわぁああああああ!タヌキがシャァベッタァァァァァァァ!!』『パフはタヌキじゃないパフ』
『ワンコがシャァベッタァァァァァァァ!!』『ワンコじゃないパフ』
そんなやりとりの最中、今度は空から鳥が急降下してきます。
『パフから離れるロマ!』
プリキュア恒例の顔面衝突と思いきや、はるかの見事な白刃取り。そして
『インコもシャァベッタァァァァァァァ!!って、インコはしゃべるか』『インコじゃないロマ!』
この騒がしい鳥は犬のお兄ちゃんで(どういう生物だよ)、犬みたいなのがパフ、鳥みたいなのはアロマ。ホープキングダムのロイヤルフェアリ―だと自称します。
そしてその気配を、世紀末風パンクロッカーのような、いかにもアブない男が感じ取りました。
自分の髪を踏んではコロコロ転がってしまうパフのために、はるかは髪を結んであげて、改めて自己紹介します。その間にもアロマは世界の危機を懸念しておりますが、果たしてその心配は現実になりました。周囲の木々が涸れ始め、木立の間からあのパンクロッカー男―クローズが近づいてきます。
『伝説のプリンセスプリキュアの復活なんてさせねぇぜ』
そこに、運悪くはるかを探しに来たゆいちゃんが現れ、クローズに目を付けられます。
『てめぇの夢を見せるんだぜ!』
先程語られた通り、ゆいちゃんの夢は絵本作家。完成した処女作を手に喜ぶ「夢」は、絶望の檻へと閉じ込められ、代わりに絵筆とパレットを持った本の怪物、ゼツボーグが出現します。
迫りくるゼツボーグを前に、ただの女の子と犬と鳥ではあまりに無力です。それでもはるかは、檻に閉ざされたゆいちゃんを見捨てることが出来ずに踏みとどまります。
『あの子を助けられるのはプリンセスプリキュアだけロマ』
『そのプリンセスって一体・・・?』 戦う術を持たぬ少女には、ただ逃げることしかできません。林を抜けたところで転倒したはずみに、アロマが持っていた箱からなにやら
バンダイ様からの贈り物が転げ出しました。
『ゆいちゃん。なんでゆいちゃんがあんな目に・・・』 クローズは夢を持つからだと嘲笑い、夢を馬鹿馬鹿しいと、全部なくしてやると言い捨てました。ゆいちゃんの夢は素敵だと主張するはるかもまた、逆にクローズに夢は何なのか問われます。その夢を笑ってやると。
あの時の、カナタとの出会いを思い出し、キーを握りしめ、絞り出すように答えました。
『夢・・・私の夢・・・私の・・・夢は・・・プリンセスに、なりたい・・・』『あ~~~ 聞こえんな!!(意訳)』
『私は!プリンセスになりたいの!』 顔を上げて、はっきりと言い放つはるかの瞳には、もう迷いはありません。その時、キーが文字通り鍵の形となりました。これを先程転げ出たパフュームに差せば、戦うことが出来るとアロマは言います。そう言われても、目の前にいるクローズとゼツボーグ、こんな相手と戦うなど、少女にとっては恐ろしいもの。
『そんなの、できるわけ・・・』 思わず後ずさりするも、檻に閉ざされたゆいちゃんの姿を前に踏みとどまります。
『それでゆいちゃんを、ゆいちゃんの夢を、守れるのなら!』 鍵をパフュームに差すと満ち溢れる香水を、全身に纏うにつれて、プリンセスを夢見る少女は戦うプリンセスへと姿を変えて行きます。プリキュア・プリンセスエンゲージ。仕上げにティアラを載せ、つつましくスカートの裾をつまんで一礼。そして名乗りを上げます。
『咲き誇る花のプリンセス、キュアフローラ!』 同時に暗雲立ち込めていた空に陽光がきらめき、枯れた木々は満開の花を咲かせました。まるで舞い散る花びらが、花のプリンセスの誕生を彩り祝福しているようです。
『え?なにこれ?変身しちゃったぁ!』 我に返り、変身後の姿に戸惑うフローラに、ゼツボーグの絵筆攻撃が迫ります。それをジャンプして避けると、
初変身恒例の、
上空まで跳び上がる大ジャンプ!高さに驚き、着地に失敗して尻もちをついてしまう等、フローラは力を使いこなせずに戸惑いを隠せません。それでも、こちらへ向かってくるゼツボーグが花を踏みそうになるのを見ると、考えるより先に体が動きました。
『だめええええええっ!』 思わず飛び込むと、そのままゼツボーグを吹っ飛ばす凄い勢い。ようやく自分の力加減が判って来たようです。
『さあ、反撃ロマ!びしっと言ってやれロマ!』
フローラは少しだけ考えて、再びゼツボーグと対峙します。
『えっと・・・コホン。
冷たい檻に閉ざされた夢。返して頂きますわ!お覚悟はよろしくて!?』 絵の具を飛ばしてくる攻撃をかわして間合いに飛び込み、鋭い飛び蹴りでパレットを叩き割るッ!続く絵筆の攻撃をかわし、ゼツボーグを叩きつけるッ!武器を失い、口を開けて襲いかかってくるゼツボーグに、鉄拳を叩き込むッ!
戦うプリンセスは強く、美しくゼツボーグを圧倒します。仕上げは再びキーを使って力を開放する、モードエレガント。
『舞え、花よ!プリキュア・フローラル・トルビヨン!』 ロングドレスを身にまとったフローラが両手から放つ花びらに包まれ、ゼツボーグは浄化されました。
『ごきげんよう・・・!』 クローズも捨て台詞を残し撤退して行きました。
キーを使ってゆいちゃんの夢も開放し、一件落着です。が、いきなり巻き込まれた事態は解らぬ事ばかり。フローラはパフとアロマに事情を尋ねます。
『僕らはプリンセスプリキュアを探すために夢と希望の狭間にある国、ホープキングダムからカナタ様の代わりにやって来たんだロマ』
怪訝そうなフローラに、アロマはカナタの立体映像を見せました。それはまぎれもなく、あの時出会った少年カナタが、凛々しく成長した青年の姿です。立体映像には触れることができず、カナタと呼びかけるフローラに「様をつけろよデコ助野郎(意訳)」と釘を差すアロマ。そして、カナタはホープキングダムの王子、プリンス・ホープ・グランド・カナタであると告げました。あのカナタが王子様!フローラの驚きの声が響き渡ります。
目覚めたばかりのプリンセスが、遥か彼方の王子様に巡り合う日は、まだ先の話です。
今回の冒頭文で、やたらと気合の入った(空回りした?)覚悟を持って臨んだと記しましたが、蓋を開けてみれば物語の導入部を素直に楽しめる第1話でした。特殊な学校生活をはるかだけでなく視聴者にも理解させやすい構成と、まだ顔出し程度ですが、憧れの存在であるみなみの登場。パフとアロマの妖精組によるイントロダクション(笑)も過剰ではなく、とにかく「わかりやすい」導入です。
作品全体を貫くテーマとして「夢」が挙げられますが、第1話の時点ではまだ、はるかの漠然としたプリンセスへの憧れのような夢と、ゆいちゃんの絵本作家ということしか描かれていません。ただそれでも、夢を叶えるための努力と意味、そして叶えた後のことについても感じ取ることができます。
まず、はるかとの別れ際にもえお母さんは「自分で選んで入った学園なんだから、しっかりやるのよ」と釘を差しています。娘のプリンセスという夢については、おそらく両親とも幾度となく聞かされてきたことでしょう。それを叶える手段として、はるかが自ら受験要綱を探し、受験することの許可を求めたことが後のエピソードで明らかになります。憧れだけでない夢を叶える手段としてかなりの勉強をし、合格したことを知っているからこそ、ある意味で「夢を叶えた」とも言えるノーブル学園入学後に、壁にぶつかる可能性も想定していたと思います。
春野家の家業が和菓子屋だということも後に明らかになりますが、この店が代々続く老舗だとすれば、その味を守り家業を続けて行くために後を継ぐことが「夢」であり、また他の店で修業した後に独立開業したのであれば店を持つことが「夢」で、いずれも夢を叶えた経験が春野夫妻にはあります。夢というのは叶える事よりも、叶えた後に叶え続けて行くことの方が難しいものです。それを知っているからこそ、新たな生活を踏み出す娘に向けてのエールのように感じられました。
また、私の人生においても改めてこのやり取りを聴くと、身につまされるものがあります。手前味噌になりますが、私は学生時代の友人からすれば、「夢を叶えた」と言っても過言では無い仕事についています。昨年、プリンセスプリキュアを見ているうちに奮起し、社内の異動を志願した結果、現在の部署へ異動となり、さらに管理職にもなりましたが、毎日の仕事では正直辛くて逃げたくなることばかりです。それでも、「自分で選んで異動した部署」なんだからしっかりやろうと、改めて励まされた気分です。
と、どうも私はやたらと堅い内容になってしまうのがサガなのか(笑)、また少し砕きます。
まず今回は非常に充実したアクションパートが目を惹きました。第一話だけに気合の入り方が違うように思えます。、最初「プリンセスプリキュア」というタイトルを耳にして、予告で新しいプリキュアの姿を観た時、ひょっとしたら肉弾戦から後退して優雅に軽やかに戦うのかと思いましたがさにあらず。フローラとゼツボーグの戦いは重量感あふれる正拳突きなど、まさにこれがプリキュアの醍醐味と言うべき徒手空拳の戦いを体現しています。かつ、決めポーズや口上、モードエレガントの優雅さと、倒した後の「ごきげんよう」など、本来ミスマッチなものが合わさると化学反応のように新鮮で、第一話の放映直後に感想を書きたくなってしまった事を思い出しました。
そして、コロコロと表情の変わるはるかの可愛らしさといったら、もう(笑)
私は以前より
スプラッシュスターを高く評価しておりますので、初見の印象では「咲・2号」のように思っておりました。確かにタヌキっぽい見た目は良く似ておりますし(笑)、近くにいるだけでこちらが元気になるようなバイタリティは、見ていて実に気持ちが良いです。はるかのスペックについては、難関と思われるノーブル学園の受験を突破し、今後のエピソードでテニスやドレス作り、ヴァイオリンなども全くの初心者からかなりのレベルに達していたという「努力の天才」ぶりが光りますが、その片鱗はこの第1話でも伺えました。
「知識」と「知性」は異なります。歴代ピンクチーム、いわゆる「ブラック家族」は、はるか以外だとつぼみ、マナ、みらいを除いて「知識」には欠けるという残念な共通点がありますが、いずれも「知性」は高い水準を持っていると思います。(
知性の青き泉の先輩は、どちらかというと「知識寄り」な気がしますが・・・)。その中でも、戦闘力の理解度や応用力の高さから、第1話のこの時点だけで突出して高い知性が伺えました。
とはいっても、この時点のはるかはまだ発展途上で、「夢」についてもやや自信なさげだったことを、今回の再見で再認識しました。はるかのプリンセスの夢に対する想いは今後のストーリー展開で見て来ただけに、1話からブレていなかったと思っておりましたが、ほんの1年半前に見たはずなのに、時折自信無さげなところを見せていたことを失念しておりました。パーティーホールで笑われた際、周囲の生徒達ははるかのことを「かわいい」と微笑ましく見守っていますが、これをはるかは「嘲笑」と捉えていました。それだけ、幼少時にからかわれた記憶が尾を引いており、反面カナタとの出会いによって夢を確固たるものとして持ち続けられた事が伺えます。だからこそ、あの第38話がトラウマ級の破壊力を放つのですが・・・
この時点ではまだ顔出し程度のみなみん、きららについては、後のエピソードで触れて行くことにします。尤も、当時も事前情報せずに臨んだので、EDの姿でトゥインクルに悩殺されてしまい、彼女が本格的に動き出す日を待ち遠しく思っておりました。あと、OPでのトワイライト様。こちらも事前情報を得ておらず、イース様系統のキャラクターが今作にも!とワクワクもんでした。本当に毎週を楽しみにして臨んでいたことを思い出します。語りたい話は沢山ありますが、私も夢を叶えた結果、忙しい日常を送っておりますので、マイペースに夢を追いつつ、夢をテーマにしたプリンセスの物語を追って行きたいと思います。気長にお付き合い頂ければ幸いです。