数学のテストが返って来ました。26点という悲惨な結果に頭を抱えるみらい。しかも正解した問題はあみだくじで偶然当たっただけというおまけつきです。みらいは決して勉強が出来ないのではなく、国語・歴史・英語・理科と文理ともに出来るのですが、数学だけは苦手でした。ちなみにリコはクラスで唯一満点を取り、再テスト決定のみらいとは対照的です。
はーちゃんはリコの答案の〇、特に花マルに興味を示しました。凄く頑張った人がもらえるものだと聞いて、花マルを書く練習を始めます。うまく書けずにいびつな形ですが、花マルを書く姿は無邪気で楽しそうです。
一方、みらいのテストには×が沢山あります。
『あんまりがんばってないですねってこと・・・』 ×ははーちゃんにも簡単に書けます。×を書いてはしゃぐはーちゃんの無邪気さは、みらいの心にグサリと突き刺さり、大きな×を背景に、文字通りorzの姿で項垂れました。
リコもみらいは勉強嫌いでは無いということは知っています。
理科の授業では実験に目を輝かせ、
『実験ワクワクもんだぁ!』 英語の授業では先生と英語であいさつを交わし、
『違う国の人と話せるなんてワクワクもんだぁ!』 体育のサッカーでも見事にゴール決めます。
『ゴールを決めた瞬間、ワクワクもんだぁ!』 自分の好きな事には一生懸命でも、興味が無い事はサッパリ、だそうです。
夜、リコに付き合ってもらい勉強するみらいですが、教科書を読み初めて五分も経たずに睡魔に襲われました。呆れるリコに、数式を覚えてもワクワクしないと悪びれずに答えたかと思えば、観たいドラマがあるとテレビに向かう始末。業を煮やしたリコは、テレビに向けて魔法を放ちます。
『キュアップラパパ!テレビよ消えなさい!』 おそらく電源を切るつもりだったのでしょう。ところがテレビそのものを消してしまいました(笑)。
『こ・・・これは狙い通りだし。勉強が終わったら元に戻してあげる。多分、なんとかできると・・・』 いつもの口調で強がるものの、内心相当焦っているように見受けられます。
学校でも、休み時間中リコはみらいに付き合ってあげています。不意にモフルンが甘いにおいを嗅ぎつけ、今は勉強優先と言いたげなリコを、トパーズの時みたいにどこかへ行く前に探さないとと説き伏せました。
理科室の骨格標本の口の中や(何故、よりによってそんなところを探すw)音楽室のピアノの中などを探しても見つからず、その後家庭科室の前を通ると甘いにおいが流れて来ます。何のことは無い、料理部がクッキーを焼いていただけでした。
帰宅後、ベッドで寝そべるみらいに、モフルンは確かにクッキーと違う匂いだったと主張します。
『みらい。見つけられないのは多分、今は再テストの勉強に集中しなさいってリンクルストーンが言ってるからかもよ』 言われてベッドから飛び起きたものの、魔法に頼ろうと他力本願なみらいを一喝。
『ダメです!そんな事言ってる暇があるなら復習するの!』 みらいは渋々返事しました。そしてはーちゃんは、窓の外の月に花マルを重ね合わせています。
一方こちらは下水道。ヤモーはガメッツさんに、バッティとスパルダからの情報を基にしたためた報告書を差し出します。しかしガメッツさんはそれを読みもせず破り捨てました。
『必要ない!プリキュアの戦い方はもう見切った。予習?復習?何を学ぶことがあると言うのだ』
聞く耳持たぬガメッツさんですが、「地に眠り目覚めを待つ光あり」というヤモーの占いだけは、リンクルストーンに繋がる情報として受け取ります。
今日もリコは数学の授業中に、すらすらと問題を解いていきます。先生に褒められ、生徒達が喝采する中、まゆみだけはリコが安堵した表情を浮かべたのを見逃しませんでした。なお、みらいの再テストは明日。先生はまた赤点だったらたっぷり宿題を出すとハッパをかけます。
『私もリコみたいに勉強も運動も、何でも簡単にできるといいんだけどな』 ため息つきながら黒板を消すみらいに、あゆみは先程のリコについて語りました。
『何でも簡単に出来ているわけじゃないんじゃないかな?』
その夜、みらいはリビングで転寝しているリコに気付きました。どうやら国語辞典を手に漢字の書き取りをしていた様子。そして、「みらい」の名をびっしりと書いた跡がありました。目を覚ましたリコは、恥ずかしそうにそれを隠しながら弁解します。
『ナシマホウ界の字は難しくて、なかなか上手に書けなくて恥ずかしいわ』『全然恥ずかしくなんてないよ!すごいよ。こんなに一生懸命努力してて・・・』『いろいろな経験が魔法を成長させると思うの。漢字や化学式。魔法界にはない科目もいっぱいあるけど、全部頑張りたい。無駄な努力なんてない。どんなことでも一生懸命頑張れば、きっと自分の力になる』 リコが人知れず努力していたこと、そして勉強に対する彼女の考えを聞いて、みらいはようやくエンジンがかかりました。その後、みらいは脇目もふらず、真剣な表情で問題と向き合います。リコも負けじと漢字の書き取りを続け、夜は更けて行きました。
いよいよ再テストが始まります。みらいが窓の外を見ると、ほうきに跨ったリコが飛んでいるのが見えました。そして飛行機雲のように煙を出しながら、空に文字を書きはじめます。
みらい がんばって
親友の暖かい声援に、みらいのやる気も高まったその時、怪奇現象を目撃した勝木さんが飛び込んできました。
『ちょ・・・ちょっと朝日奈さん!空にあなたの名前が書かれてるわよ!どういうこと?』
今なお空に文字が残っているため、みらいも歯切れ悪く誤魔化すしかありません。この状況は、再テストが始まったことで何とかうやむやにできました。
テストが終わり、みらいはリコのもとへ駆けつけます。まだ点数はわかりませんが、いつもより頑張れたと手ごたえを感じていたその時、ガメッツさんが来襲。「地に眠り目覚めを待つ」という占いを受けて、リンクルストーンを叩き起こそうと地面を殴っています。駆け付けたみらいとリコに向き合い、
『止めたいのなら、その力で、技で、我に語るのだな』
続けてブルース・リーを意識したような手招きポーズで、かかって来いと挑発。サッカーボールと黒板消しを合わせたヨクバールを生み出します。今回はダイヤスタイルへと変身し、立ち向かいます。
ヨクバールが投げつける黒板消しをかわす二人。しかし黒板消しはブーメランのように戻って来て、マジカルの背後を襲います。マジカルを庇ってミラクルがそれを受け止めますが、ガメッツさんはその行動を読んでいました。隙をついて今度は無数のサッカーボールが連射されて来ます。蹴り返し続ける二人ですが、ボールの量が多くきりがありません。
『防ぐのがやっとではないか。貴様たちの戦いはもう見切った!』
高笑いするガメッツさん。しかし彼は破り捨てた報告書に記されていたであろう、プリキュアが最近入手したリンクルストーンの能力を知りません。
『そうかしら?』『なら、これはどう?』 リンクルステッキにはめたタンザナイトのまばゆい光が、ヨクバールの目をくらませます。
『うおっ まぶしっ(嘘)』
ガメッツさんも思わず目を塞ぎ、マヌーサにかかったようなヨクバールの攻撃は通じません。お次はペリドットの力を借りて葉っぱを吹き付け、ヨクバールの動きを封じます。
『知らぬ!このような戦い方は初めて見たぞ!』
戸惑うガメッツさんを他所に、仕上げはダイヤモンドエターナルでヨクバールを仕留めました。
『予習復習を怠ってはいかんということか・・・』
テレビの前の子供たちにしっかりと教訓を残し、ガメッツさんは引き上げて行きました。
再テストの結果は85点で無事合格。100点ではなかったので花マルはもらえませんでしたが、それ以上にリコがどんなことでも頑張る姿を見せてくれたお蔭で手にしたこの結果は嬉しいものでした。そんなみらいに、はーちゃんが見事な花マルをプレゼントしてくれます。そこに月から光が零れ落ち、新たなリンクルストーン・ムーンストーンが出現。花マルがもたらしたリンクルストーンが、みらいの手の中で輝いています。
数学は世界どころか、宇宙の共通言語とも言われるものです。人文科学や芸術は、仮に異星人・異世界人がいたとしても共通して理解し得る概念ではなさそうですし、同じ自然科学でも物理・化学はその環境に左右されるので、数学だけが唯一絶対の真理として存在しています。どんな世界に行っても変わらない真理だからこそ、魔法界ナシマホウ界関係なく、リコが好成績を出せるのかもしれません。
『ナシマホウ界の字は難しくて、なかなか上手に書けなくて恥ずかしいわ』 とはいえ、その状態で各教科優秀な成績を叩き出しているのは相当の努力だと思われます。科学の概念が無い魔法界出身者にとって理科は馴染みにくいでしょうし、国語や歴史に至っては全く違う文化を勉強するのですから、本来は苦戦して当然です。もちろん数学が馴染みやすいと言っても、アラビア数字や演算記号は共通ではありませんので、漢字を覚えるのと同様、これらを覚えるところからスタートというのも大変だった事でしょう。
苦手な物はさっぱり、というみらいが主に前半では反面教師となっていましたが、それはかつてのリコの姿と重なります。魔法の実技が苦手で目を逸らし、リンクルストーンを手にすれば皆が一目置くという安易な考えだった頃が、彼女にはありました。だからこそみらいにも、同じ轍を踏まないでほしいという激励の意味合いが、少し厳しめに接する今回には込められていたと思います。
色々な経験が魔法を成長させると思う、というリコの言葉は、数学が役に立たないと言う人に対して聞かせたい言葉だと思いました。確かに無味乾燥な数式を覚えたりするだけでは面白くなく、四則演算が出来れば日常生活に不自由しませんが、本来は論理的な思考を養う目的の学問です。魔法と直接関係ないと思われる数学にこれほど前向きに取り組むリコの姿は、嫌な事から目を背けていたみらいにとって耳が痛いものだった事でしょう。この場面以降、みらいは一転して集中するようになっています。本来みらいは怠け者ではなく、何かきっかけがあればそれに対してワクワクもんで全力でぶつかれる子だと、これまでのエピソードから感じ取れます。
もっとも、英語がとにかく大嫌いな私にとっても、耳が痛い話ではありましたが(笑)、きっときっかけがあれば変わるものなのだと思います。数式を覚えてもワクワクしないというみらいが、「フェルマーの最終定理」を読めば考えが変わると思いますし、四色問題やゴールドバッハの予想など、一見シンプルに見える難問などをワクワクもんで追及する可能性も考えられます。
はーちゃんの行動にも「コツコツ続ける」という教訓が見受けられました。最初に書いた花マルはいびつな形ですが、みらいとリコが勉強している傍らも常に花マルを練習し続ける姿が、ずっと描かれています。その結果、ラストで書く花マルはみらいの合格を祝福するにふさわしい見事な出来映えとなっていました。
そしてガメッツさん。武人タイプの割には毎度反面教師的な役割だったことが再視聴で伺え、意外な印象を与えます。自分の経験を活かして戦うところは好感が持てますが、それを過信し、先人から学ばないとこうなっていまうという教訓が伝わって来ます。
みらいが合格点を取った答案のうち、〇ではなく△をつけられた解答がありました。良く見るとみらいはこの問題の答えを出せていないのですが、解答に至るまでの道筋は正しく記述されています。それを評価して×にせず、△にしてくれたところに、先生もみらいが頑張った事を認めているように見受けられました。
みらいを応援するリコの行動に熱いものを感じた矢先、コメディリリーフの勝木さんを交える等、教訓一辺倒にならず、程よいバランスで描かれた佳作だったと思います。リコのテレビ消しもありましたし(笑)
その、本編中にリコが消してしまったテレビについて。スッカラカンの財布を手に涙するリコというオチがエンドカードについていて楽しめました。中学生の財力でテレビを購入できるのかというのは置いておいて、こういう遊び心は面白いです。かつてエンドカードではっちゃけていた頃のプリキュアシリーズを思い出しました。