『行かなくちゃならないんです!私、自分の夢のために、一人で行くって決めたんです。
みんな、今までありがとう・・・。次の列車で私、町を出ます。』今日、うららは映画のオーディションの最終選考に挑戦します。
5000人の中の10人という狭き門を通過し、夢を叶えるためのビッグチャンスに
うららだけでなく、丁寧に演技指導をするこまちや見守るみんなも張り切っていました。
今日もミルクからの大量の手紙を携えて来たシロップは、初めて見るうららの姿に驚き、
そして女優という「仕事」を既に始めている事を知りました。
ナイトメアでは、自分と知っているプリキュアと少々異なると報告するブンビーさんに
例の如くそれを報告書に細かく纏めるよう指示するアナコンディさん。
大量の書類を渡されて少々うんざり気味のブンビーさんは、廊下でスコルプさんと鉢合わせます。
「酢昆布さん」「スタンプさん」「スリッパさん」「スカンクさん」などなど、
これ見よがしに名前を間違え続けるブンビーさんに、
スコルプさんは名前を強く訂正して出撃していきました。
『スコルプだ・・・二度と間違えるな!わたしの名はスコルプというんだ!
酢昆布でもスタンプでもない!』
『すまんねスランプさん』
ニヤリ!さらにわざと名前を間違えて視聴者の突っ込みをさそっているぜ
このブンビーさん・・・根っからのお調子者だぜ
(注)台詞は一部実際と異なります。
こまちの丁寧なアドバイスも的確で、うららの台本は書き込みでびっしり。
みんなで最終チェックに余念がありません。
そんな折、不意にパルミンの気配が感じられ、みんなで外へと探しに行きました。
付いて来ようとするうららを気遣い、留めるのぞみ達。
うららは一人荷物をまとめて、台本を手に取り、眺め、そして抱きしめました。
ところが外へ探しに行ったみんなをはぐらかすように、
パルミンはうららの居る室内を跳びまわっています。
台本を置き、パルミンをショットしようとキュアモを構えるうららですが、
迎えに来た鷲尾さんを誤魔化しているうちに、ショットのチャンスを失ってしまいました。
そのまま取り繕うように鷲尾さんを急かしてオーディションへと向かううらら。
テーブルの上に、台本を置き忘れたまま・・・
そうとは知らずにオーディションへと向かううららを、皆が一斉に励まします。
『頑張ってね!』やってきた控え室は、さすが最終選考だけに雰囲気が違います。
うららも負けじと気を引き締めて、台本を取り出そうとしましたが・・・
ここで初めて荷物の中に台本が無い事に気が付きます。
鷲尾さんには動揺を悟られないよう振舞いますが、内心とても不安そうです。
時を同じくして、うららの置き忘れた台本に気付いたのぞみの悲鳴が
ナッツハウスに響き渡りました。
すかさずシロップに配達を頼みますが、仕事以外での届け物はやらないと
そっけなく断られてしまいました。
それでも、まだ間に合う可能性に賭け、自分達で届けるべく走っていく4人。
見送るシロップも、口ではあんな事を言っても落ち着きません。
『シロップは、行かなくていいのか?』
『俺は仕事以外で運び屋は・・・』
『のぞみのローズパクト、心配じゃないのか?』
渋るシロップを巧みに言い含める小々田先生とナッツ。
本当はシロップもきっかけが欲しかったのでしょう。後を追って走って行きました。
いよいよオーディションが始まります。
うららの順番は7番目。まだ少し時間はありますが・・・
その頃4人とシロップは、会場への近道という長い長い坂道を駆け上っています。
『何でこんな思いまでして行くんだよ?』
シロップの問いに対するのぞみの答えは明快です。うららが、きっと困っているから。
女優になって沢山の人を笑顔にするのがうららの夢。
それを理解して大切にしているからこそ、みんなも走り続けられます。
遅れ気味だったのぞみも、絶対に間に合わせるとスピードを上げました。
オーディションは着々と進み、5番の参加者が呼ばれました。うららの出番は次の次。
その頃、ようやく登りきった坂の上で息を切らせるみんなを待ち受けるのは・・・
マフラーをなびかせながら、スコルプさんが姿を現しました。
道を開けるよう頼むのぞみですが、スコルプさんも立場上ローズパクトを
持ち帰らなければならず、石畳をホシイナー化して行く手を塞ぎます。
『お願い。うららの想いと私達の気持ち、届けて』のぞみはシロップに台本を託し、4人で迎え撃つ決意を固めました。
『俺は運び屋だ。引き受けた以上、絶対に届けてみせる!』
のぞみの真剣な目に打たれ、台本を受け取るシロップ。
意表を突いてスコルプさんの正面に突っ込んで行き、
直前で小鳥姿になってスコルプさんをやり過ごして股下を潜り抜け、
再び少年姿となってオーディション会場へと懸命に走り始めました。
そして4人はホシイナーの巨体を前に変身し、構えをとります。
『仕事以外で届け物しないのに、何で俺・・・』
そんな事を考えながらも、懸命に走るシロップ。
そしてオーディションは6番目の人が呼ばれ、次はうららの番です。
ホシイナーの両手の間に挟まれるも、力を合わせて跳ね除け、
まるでキュアホワイトのような投げを披露する4人。
しかしホシイナーは石畳と同化していつの間にか4人の背後に回り、
重い一撃が4人を襲います。倒れた4人に迫るスコルプさん。
しかし4人は今自分達の危機的状況よりも、うららの台本が間に合ったかどうか、
そしてうららの夢が叶ったかと言う事を案じています。
そんな事はどうでもいいと切り捨てるスコルプさん。
しかし、うららと4人の大切な事は、スコルプさんの価値観で量れるものではありません。
ホシイナーとスコルプさんを前にして、4人は再び立ち上がります。
勢い良く開く控え室の扉に顔を上げたうららは、
息を切らせて駆け込んで来たシロップを目にしました。
シロップから台本を受け取ったうららは台本を開く事も無く、静かに台本を抱きしめます。
うららは何度と無く練習を繰り返し、台詞も書き込みも全て頭に入っていました。
苦労して届けたのに拍子抜け気味のシロップに、
みんなのアドバイスが書き込んであるこの台本があれば、
みんなが近くに居る気がして勇気が出てくると、改めて台本を抱きしめながら想いを語るうらら。
ところがシロップが「そんなもののために、ああまでして」と口を滑らせたため、
うららは4人の身に何かあったと察し、さらにシロップがお茶を濁した事で、
のぞみ達がホシイナーを足止めしている事を知りました。
迷う間もなく、7番のうららの出番がやって来ます。
『いいか。今のお前に一番大事なのはオーディションだろ。いいから行け』
うららに念を押すシロップ。しかし、うららの心は迷い始め・・・
審査員達の前に一礼し、入室するうららの脳裏を、
丁寧なアドバイスをくれたこまちの姿が、快く送り出してくれたのぞみ達の姿がよぎります。
そして、台詞を読み始めるうらら。ところが・・・
『行かなくちゃならないんです・・・私の、大切な友達が困ってるんです』台本とは違う台詞に、審査員たちの間にどよめきが起こります。
『みんなが、私・・・』夢を掴みかけたうららにとって、どれ程の葛藤があった事でしょう。
迷って、迷って、迷って、そして・・・
『すみません!!』うららは審査員達に頭を下げ、背を向けて一心に走り出しました。
のぞみやみんなの事を想いながら、懸命に廊下を走り続けます。
そして建物の外に出たうらら。その揺れる心を表すように、
世界がうららを中心に目まぐるしく回る中、うららをシロップが呼び止めます。
再び膝をつく4人に、今まさにホシイナーの巨大な拳が迫ろうとしていました。
間一髪のところで、うららを背に乗せたシロップが到着。
応援してくれたみんなの期待に応えられなかった事を詫びて、
うららはスコルプさんに向き直り、これ以上みんなを傷つけさせないと変身します。
一人増えても一緒だと言うスコルプさんに、一斉に跳びかかる5人。
5人になったプリキュア達の動きは、先ほどとは異なり、完全にスコルプさんを圧倒します。
『何故だ?何故お前達は何度も立ち上がってくるのだ?』
うららや私達の大切な思いや気持ちを守りたい。
4人が立ち上がる動機は、ただそれだけです。
そしてみんなを傷つける事は許さないと憤慨したレモネードの新たな力が炸裂。
プリキュア・プリズムチェーン。
どうみてもネビュラチェーンです。本当にありがとうございました黄金色に輝く鎖が振るわれ、身をかわしたスコルプさんの後ろにいたホシイナーを
縛り上げ、そのまま撃退しました。
再び報告書地獄が待ち受けている事を愚痴りながら引き上げるスコルプさん。
レモネードは振り返り、はにかんだ笑顔を浮かべます。
そこには、後悔は伺えません。
オーディションの途中で抜け出したのでは、結果は目に見えています。
うららは皆の期待に応えられなかった事を詫び、
これまで尽力してくれた鷲尾さんにも頭を下げました。
それでも鷲尾さんは、友達が困っていたという事に理解を示して、
また仕事を取ってくるので一緒に頑張ろうと励まします。
その矢先に電話が鳴り、早速仕事のオファーが入りました。
『何なんだよ。たかが台本一冊で勇気がでるとか大切な想いとか』
未だ腑に落ちないシロップに、小々田先生はのぞみ達の互いを思いやる心に
影響を受けた者としてミルクの手紙を見せました。
そこには生き生きと復興に勤しむミルクの姿が映っています。
パルミエ王国が甦ったのも、みんなに笑顔が戻ったのも、
皆のぞみ達のおかげと言う小々田先生の言葉に、シロップはまだ半信半疑。
その折、改めてパルミンが飛来し、今度は無事ショットに成功しました。
今度は布団やリンゴなどではなく、
正真正銘
ウエスターさんドーナツ王国の国王をショットしました。
まず、久々の再見を終えての感想は「見事」の一言に尽きました。
うららの心境を余す事無く描き出す表情の数々、
独特のカメラワークが印象的な演出、選曲の素晴らしさ、
うららとシロップを繋ぎ、スコルプさんを反面教師にする「仕事」という共通項、
そして冒頭のうららが練習している台詞と、オーディションで口にする台詞を
対義で結びつける構成の妙。
これらが相乗効果をもたらし、5GoGo序盤随一の傑作として昇華しています。
冒頭、うららが練習している作中作の台本の台詞が
「友達を置いて、夢を選ぶ」内容であるのに対し、オーディション時にうららが口にする言葉は
「夢を置いて、友達を選ぶ」という対比になっている点が実に鮮やかです。
オーディションに全力を尽くす事が、
信じて送り出してくれたのぞみ達のためだと言う事も、うららには解っていた筈です。
そして、せっかく掴んだ大きな夢の足がかりを、フイにしてしまう事の苦悩。
『みんなが、私・・・』から『すみません!』の間の数秒間、
うららの表情はこの上ない葛藤に満ちています。
頭では解っていても、行かなければならない。けど、夢を捨てる事も辛い。
それでも仲間達を選び、廊下を走って建物の外に出る際の、
走るうららの姿は非常に印象的で、選曲とも相俟って胸を打ちます。
この時流れているBGMは、
満と薫が友情を捨てて使命を選んだ時、
そして
筋が通らなくとも、咲と舞と一緒に居たいと宣言した時に流れたもので、
どちらも満と薫の揺れる心を描いたシチュエーションで使われたものでした。
それを意図したかは定かではありませんが、
うららの迷いと葛藤を表す上で非常に効果的だったと感じます。
建物の外に出た後も、うららの周りを回るようなカメラワークのインパクトが強く、
これは一刻も早く4人の元に行くべく、戦いの場を探していると取るのかもしれませんが、
自分の進む道を見失い、迷っているうららの心を描き出しているようにも思えます。
演出の妙は戦闘シーンでも現れており、
今回のアクションパートはさながらオールスターズDXを思わせる、
たいへんダイナミックなものでした。
(追記:演出担当はDXの監督を務める事になる大塚さんでした。それも納得が行きます)
また、運び屋という「仕事」に誇りとこだわりを持つシロップが、
女優と言う「仕事」に向けて歩んでいるうららに興味を示す点も見受けられます。
変にこだわるものの、シロップは「仕事」にかける真摯さとプライドは確かで、
台本を届けるというのぞみの意志を汲んでからの姿勢は、
憎まれ口を叩きながらもプロとしての気概が伺えました。
それはうららも同様で、女優を目指す動機を聞いたシロップにも影響を及ぼしています。
自分の誇りのために仕事をするシロップと、人々を幸せにするために仕事をしたいうらら。
大してスコルプさんは、「ローズパクトを持ち帰らないと立場が無い」という
体面を繕うとような消極的な姿勢が語られ、ある意味反面教師としてみる事が出来ます。
報告書を書かされてしまうから結果を出す、ともすれば社会人の私にも
身につまされるものがあるのですが、夢を目指していた時はどうだったか、
ひたむきに向かって行く事の大切さを見せ付けられ、初心に帰るような思いを抱きました。
固い点だけでなく、うららの魅力もしっかりと描かれています。
パルミンをショットしようとする際のキュアモを覗く表情や、
その際鷲尾さんが来て大慌てする表情が何とも愛らしく、
ストーリー面でも愛らしさでも、うららを語る上で欠かせない一編だと思います。
またうらら以外でも、あからさまに名前を間違え続けるブンビーさん、
(これはどこまでがアドリブで、どこまでが台本どおりなのでしょうか・・・?)
ありえない程長く険しい坂道、などネタが楽しめる場面もありました。
しかし、少し残念に思える点もあります。
結果的にうららの夢を潰す事になってしまった4人が、
うららが加勢に来て以降、それを申し訳ないと思うような描写が見受けられません。
逆にうららが4人の期待に応えられなかった事を詫びる姿が描かれますが、
これは逆ではないかという気もしました。
翌年のフレッシュプリキュアで、
美希のモデルの夢を潰してしまった
ラブとブッキーが号泣してしまい、逆に美希が2人を慰めるという展開がありましたが、
今回の事を踏まえての内容にも思えます。
とはいえ、うららはまだ若く、これから何度でも挑戦の場は訪れる事でしょう。
いつかきっと、うららは大役を射止めると思わせる、素晴らしい一編でした。