ナッツハウスでのお茶会。他愛もない空気が流れる穏やかな時を破って、
不意にローズパクトが輝き、そしてフローラの姿が浮かび上がりました。
『闇に強い怒りと憎しみが現れています。
彼らは赤いバラを散らして、希望を奪いにやってくるでしょう。気をつけて下さい。
赤いバラの力と青いバラの力。二つの力を合わせるのです・・・』
今後訪れるであろう危機への警告と、新たな謎かけを残したまま、
こちらの質問に答えないうちにフローラの姿は再び消えました。
青いバラとは一体・・・?
その頃、「闇」と名指しされたナイトメアでは、
目にクマを作り、徹夜で報告書を書き上げたスコルプさんが、アナコンディさんを探す内に
会議室の前でなにやら立ち聞きをしているブンビーさんを見つけました。
『お茶が入りましたよ。ボンビーくん』
これまでの仕返しとばかりに、わざと間違えて呼びかけるスコルプさんですが、
ブンビーさんから会議室の中で「地下室」の話題が出ていたと聞き、顔色が変わります。
会議室の中から顔を出し、2人のやり取りを咎めるアナコンディさんに報告書を提出し、
スコルプさんはブンビーさんを連れて逃げるようにその場を立去った後、
「地下室」とは何かを説明します。
それは業績の上がらない者たちが任じられる勤務で、
その勤務内容は永遠に地下深く、暗闇の中をたださ迷い歩くのみ。
通称「廃棄処分場」と恐れられるその人事が、
スコルプさんは近々自分達2人に発令されるのだと察しました。
『それって私達はもういらないって事ですかぁ~?
またそんな仕打ち~!やだぁああああ~!転職したばっかりなのにやだぁあああ!
まだ給料も貰ってないのにぃ・・・。もうどうしたらいいの。ローンもあるのにぃいい!』
真に迫った切実な嘆きをあたりに響かせるブンビーさんに、
スコルプさんはローズパクトだけではなく、さらに「あるもの」を手に入れるべく
手を組もうと申し入れました。
晴れた空の下、サンクルミエール学院の庭園掃除の最中でも、
みんなフローラの予言が気になって不安が口を突いて出ます。
赤いバラを散らすとは、あの時のように再び離れ離れになる事かもしれません。
しかし、そんな中でものぞみだけは違いました。
根拠は何も無くても、のぞみが『平気平気!』と笑うだけで、
いつの間にかみんなの不安は消えて行きます。
のぞみのペースに巻き込まれていくうちに、
大変な事が沢山あったけれども、みんなで何とかしてきた事に想いを馳せ、
いつの間にか5人は手を取り合い、輪が出来ていました。
初めて手を繋いだ日の事が思い出されます。
それぞれが絶望の闇に落とされた、悪夢のような出来事から
のぞみを中心に手を繋ぎ、再び戻ってきた日の事を・・・
しかし、その光景を見ていたシロップが
エターナルは目的のためなら何でもすると警告して口を挟みました。
『シロップ。私達は大丈夫。心配してくれてありがとう』シロップもまたのぞみにペースを乱され、続けて小々田先生にも諭されます。
『のぞみ達の事を信じたから、パルミエ王国は復活したんだ。大丈夫。信じよう』
ところが、先ほどまで晴れていた空は徐々に雲に覆われて行き、
庭園に吹き付ける風がバラを散らして、赤い花びらがあたりに舞い飛びました。
なにやら不吉な雰囲気が流れます。
時を同じくしてナッツハウスでも、散ったバラの花びらを拾い上げたナッツ。
外の暗い空を見て、嫌な予感が広がっていきました。
その放課後、5人は小々田先生とシロップと一緒に帰る約束をしたのですが、
ずいぶん待っても2人は来ません。
誰も来ない校舎を覗き込むと、深淵を覗き込んでいるかのような錯覚を覚える奇妙な感覚。
不意に、入口の影からスコルプさんが姿を現しました。
『女性を待たせるとは感心しませんね。良ければ私がお送りしようか?』
変身した5人の背後に、いつの間にか回りこんでいるスコルプさん。
次いで建物の上、そして門へと、まるで5人を誘っているような素振りです。
一斉にスコルプさんの後を追うプリキュア達ですが、
ドリームはふと、ココとシロップが妙に気に掛かり立ち止まりました。
しかし、急かされて一緒にスコルプさんを追って行きます。
そして誰もいなくなった待ち合わせ場所に、雨が降り始めました。
遅れた事を謝りながらシロップが、次いで小々田先生がやって来ますが、
一足遅く待ち合わせ場所は誰もいません。
皆が遅い事を心配したナッツもやってきますが、
その言葉でナッツハウスにも来ていないと知り、3人の間にも不安が募ります。
果たして、パルミエ王国の3人の前にブンビーさんが現れ、不敵な笑みを浮かべました。
『今日用があるのは・・・君達さ』
ただ逃げているだけのようなスコルプさんを、
追う5人もようやくおかしいと思い始めた頃、広場でスコルプさんの足が止まります。
スコルプさんはブンビーさんがココ達を捕まえる時間を稼ぎ、
5人と引き離す役割を担っていました。
ココ、ナッツ、シロップはブンビーさんの手に落ち、
スコルプさんはパルミエ王国の住人達も収拾の対象となっている事を明かします。
スコルプさんの笑い声が響き渡る中、目の前で囚われの身になっているココと、
小々田先生の姿がドリームの中で交互にフラッシュバックして・・・
『ココ達を返して!』形振り構わず突っ込んでいくドリーム。しかし冷静さを欠いた一撃はあっさりと避けられます。
ルージュ、レモネードがスコルプさんに挑みかかるもあしらわれ、
ブンビーさんに挑むミントは、その手の中のココ達が気になって手を出せず、
アクアもろとも弾き飛ばされてしまいました。
ブンビーさんの手の中のココに、懸命に手を伸ばすドリーム。
しかし届きそうで届きません。そしてその腕はスコルプさんに止められました。
『わからないな。こんな者達のために、どうしてそんなに必死になれるのか。
自分の身も守れないような、ただの役立たずじゃないか。君達だってそう思ってる筈だ』
そう嘯くスコルプさんに、ココ達は支え合って来た大切な仲間だと、真っ向から反論する5人。
5人の反論に耳を貸さず、ブンビーさんは一足先にココ達を連れて先に帰還しようとします。
懸命にその後を追う5人ですが、ブンビーさんの発射するミサイルの雨に阻まれて、
手が出せずに倒れ伏してしまいました。
一段と強くなる雨足の下で、さらわれて行くココ達に伸ばした手は届きません。
その時、雨が上がりました。
不意に、辺りに青いバラの花びらが舞い飛びます。
そして、それが飛んで来た方、後者の屋根には、紫の髪の少女が立っていました。
『その手を離しなさい!』次いで放たれる強烈な蹴り。その一撃でブンビーさんは大きなダメージを負い、
その腕からココ達を取り落としてしまいました。
こぼれ落ちたココ達を抱きとめた謎の少女は、先ほどまでの強い眼差しとは異なり、
慈しみに満ちた目でココ達を見つめます。
『そんな事ではダメよ・・・』そう言いながらココ達をドリームに託した謎の少女に、上空からブンビーさんが襲い掛かります。
その拳を片手で受け止め、愕然とするブンビーさんの懐に入り込み、
重い一撃を浴びせて投げ飛ばし、スコルプさんもろとも投げ飛ばす。
圧倒的な戦力を見せ付け、謎の少女は再びドリーム達に忠告するように投げかけました。
『大切なものほど失いやすいのよ。
本当に大切に思うなら、自分でしっかり守らなくてはダメよ』功を焦って立ち上がるスコルプさんに反撃開始。
5人のそれぞれの技がスコルプさんとブンビーさんを牽制する乱戦の中、
謎の少女に背後から挑みかかったブンビーさんは、
腕を取られて豪快に投げ飛ばされました。
そしてスコルプさんにはドリームのシューティングスターが畳み掛けられ、
ひとまず撤退を促すブンビーさん。攻撃目標が突然撤退した事で、
勢い余りドリームは思いっきり地面に突っ込んで行きました。
心配する4人に苦笑いを返すドリーム。
雨は上がり、雲は晴れ、夕陽が辺りを照らします。
あの謎の少女も、いつの間にかその姿を消していました。
後には青いバラの花びらを残して・・・
今回はミルキィローズ(作中ではまだその名は明らかにされていません)の初登場を
見事に盛り上げる構成・演出が光り、追加戦士登場のお膳立てを巧みに整えています。
冒頭、フローラの不吉な予言から始まり、
前半部を支配する不穏な空気が醸し出す空恐ろしい雰囲気は、
随所で回想されるあの
前作23話を思い起こさせます。
庭掃除の場面で、のぞみのお陰で一度は不安を払拭する空気が流れますが、
その後吹き荒ぶ風に散るバラと共に、再び不穏な空気が支配し、
見ている側にも得体の知れない空気を感じさせる画面作りは見事でした。
ココとシロップを待つ場面での、入口から暗い校内を覗く描写も
何か異界の扉を覗き込んだような錯覚に囚われるような凄みを感じます。
ミルキィローズ登場まで巧みに天候を利用した今回の演出も見事です。
庭のお手入れの際の快晴、不安を象徴するような雲と風、そして雨。
戦闘中はずっと雨が降り続け、絶望的な状況下で強くなる雨足。
そしてミルキィローズ登場と同時に雨が上がり、
彼女は青いバラだけでなく、雲の切れ目から差し込む光と共に現れます。
サンクルミエール学園の教会のような建築物とも相俟って、
この描写は宗教画のような美しさがあり、謎めいた神秘性を感じさせました。
そしてラスト、夕陽と共に再び消えるミルキィローズ。
まさに「謎のヒロイン」を感じさせる余韻も鮮やかです。
もっとも、後に明らかになる通り、これはミルキィローズ本人が
意図的にやっている演出も混じっていますが(笑)
ミルキィローズは「強そうなキャラクターアンケート」で今なお上位に食い込むだけあって、
初回から豪快な戦いぶりのインパクトは抜群です。
そのため5人が少々引き立て役になってしまうのは否めませんが、
(
前回のような本気を出せばブンビーさんも秒殺なのに・・・)
次第に馴染んでいくまではご祝儀の意味合いもありますので、
強烈な印象を残すという意味では大いに成功した初登場だと思いました。
一方、スコルプさんとブンビーさんの扱われ方も秀逸です。
冒頭、あまりに理不尽な「地下室」の描写と、真に迫ったブンビーさんの嘆き、
(一体なんのローンをどれくらい持っているのか気になります)
その前後の子安さんと高木さんのアドリブ合戦のようなコミカルなやり取りで
彼等側をひいきしたくなる気持ちになるのですが、
本編に入るとココ達を盾にとって完全に悪役に回り、
ミルキィローズ初登場を引き立てる悪役としての面目約如です。
のぞみを中心に、得体の知れぬ不安を払拭できた5人と比較して、
「地下室」への不安を払拭できなかった2人は少々気の毒ですが、
他者を踏みにじる行為を正当化する事はできません。
他にも庭掃除の際、草を抜こうとして勢いあまって転倒し
スカートを叩きながら立つりんちゃんなど、俺得場面にも恵まれており、
様々な要素で前半を盛り上げる一編だと思います。