さて本編へと移る前に、OPはこの時期恒例、劇場版仕様です。
アフロディテの黒さに圧倒的な威圧感が感じられたり、
アコと言い合う少女が何となくほのかに似ていたり、
「エレン様」姿で戦っているエレンなど、気になる点は多々あるのですが、
映画館へと足を踏み入れるのは私にとって高いハードルのため、
来年3月のDVD発売まで待つことにします。嗚呼、待ち遠しい・・・
玉座にもたれかかり、荒く息をつくメフィストの脳裏に、
おぼろげに記憶の断片が甦ってきます。
霧がたちこめる枯れ果てた森。そして、近づいて来る足音。
メフィストは一体、何を見たのか。何に襲われたのか・・・
調べの館で、一人佇むアコを遠巻きに見守る響たち。
ハミィは見守っていても仕方が無いと促し、皆でアコを元気付けるべく駆け寄ります。
孤高の存在のようだったドドリーも他のフェアリートーン達と仲良く飛び交い、
そしてアコは自分の身の上を明かしました。
父メフィストはもともとメイジャーランドの王であり、
その娘アコはお姫様、そしてアフロディテは母。
アフロディテ本人も水鏡から事情を語り、
今まで響たちが知らなかったのはハミィが言い忘れていたというとんでもない理由で
これらの事情は秘密でも何でもありませんでした。
エレンもアコがお姫様だという事は知っていたものの、
この世界でのアコは眼鏡をかけていたために気がつかず、
これまでの非礼を詫びて頭を下げます。
アコ本人も気付かれないようにしていたと気にしておりませんが、
それはアコがメイジャーランドから逃げてきたと負い目を感じているためでもありました。
全てはメフィストが王としての務めから、
ヒーリングチェストを奪還せんと魔境の森へ赴いた事から始まります。
出征の際には優しく気品のある姿だったのが一転、
戻って来た時には耳にヘッドホンを付け、
トリオ・ザ・マイナーを従え、まるで別人のようになっていました。
そして世界を悲しみのどん底に突き落とすと言い残して
メイジャーランドを去ったメフィストは、マイナーランドを作り上げてその王となり、
メイジャーランド国王一家は引き裂かれてしまいました。
アフロディテはメイジャーランドを守る為に残り、
幼いアコは祖父の下へと身を寄せ、その祖父こそが音吉さんです。
次々と明るみに出る事情に、響と奏は戸惑いを隠せません。
そして
あの音楽会の日。
メフィストの所業を水鏡を通じて知ったアコは、両親が争う事を心底心配していました。
『私が、私が何とかしなきゃ・・・』
その心のト音記号がモジューレとなって形を取り、
父の心を取り戻すためにプリキュアになったものの、
父を敵にする事は辛く、敵に正体を知られる事を避けるために仮面を被り、
ドドリーに胸の内を代弁させて無言を貫いてきたというのが、これまでの経緯です。
最初は戦う気はなかったミューズですが、
メロディとリズムの窮地を捨て置けなかった事、そして自分が戦う事で
メフィストも目を覚ますのではないかと一縷の望みを抱いて戦ってきました。
それでもメフィストが目を覚ます事はありませんでした。
『俺はマイナーランドの国王だ!この手で世界を悲しみのどん底に・・・』
容赦なく耳を打つノイズに苦しむメフィストは、
枯れた森ではなく、緑豊かな森の光景をふと思い出しました。
魔境の森ではなく、誰かを探して森に踏み入った日の事。
そのうちアコは次第に強くなるプリキュアの力を目の当たりにして、
この力がメフィストを傷つけてしまうのではないかと危機感を抱き、
その結果が、
メフィストを庇うという行動でした。
しかし、
前回のメロディの言葉に動かされて考えを改めました。
『プリキュアが何のために戦っているのか。私はすべての人の幸せを守るためだと思う。
メフィストを操る悪の心と戦う事が、メフィストの幸せを守るという事なのよ』
このメロディの言葉で、父の幸せを守るためには、
自分も戦わなければならないと決意した事を打ち明けます。
『俺は探してた。誰かを・・・』
頭を抱えて苦しむメフィスト。その誰かが思い出せません。
思い出そうとする度、容赦なくノイズがメフィストを痛めつけます。
『アコちゃん。今までよく頑張ったね』
響はそっとアコの手に触れ、これまで一人で頑張って来た事を労いました。
『姫様の想いはメフィスト様に届いた筈です』
『きっともとの優しいパパに戻ってくれるわ』
『どんなに悪い力も、家族の愛には絶対敵わないんだから!』
一人で悩み、苦しんできたアコはもう一人ではありません。
ここには仲間達がおり、祖父と母が見守ってくれています。
一方、一人苦しみ続けるメフィストは、階段から足を踏み外した際に
大きな木を、その幹の影に隠れている誰かを思い出しました。
『俺は・・・俺は・・・』
直後猛烈なノイズが襲い、メフィストの心を蝕んで行きます
『ミューズは俺の手で、必ず倒して見せる』
巨大な悪の心と共に禍々しく巨大化したメフィストが、再び立ち上がりました。
空に暗雲が立ち込め、稲妻と共にメフィストが加音町へ襲来します。
あまりに禍々しい父の姿にアコは思わずたじろぎ、
その迷う気持ちを察したのか、戦うのは私達に任せてと申し出て変身する響たち。
『メフィスト!優しいパパに戻って!愛する娘のために!』
しかしメフィストはメロディの訴えを退け、娘など居ないと言い捨てます。
『家族の絆を思い出して!』
メロディの拳を軽々と受け止め、殴り飛ばすメフィスト。
『絆?家族?娘?そんなものは全て幻だ。俺は世界を悲しみに染めるのだ!』
メフィストの背後に、邪悪な影が憑りついて見えます。
その悪の力は見境無しに光線を撒き散らし、
ビートバリアで受け止めてもこのままでは押し切られてしまいそうです。
思わず弱腰になるリズムとビート。それでもメロディは負けません。
『みんなの気持ちを合わせるよ!』
2人を鼓舞してパッショナートハーモニーを放ちます。が、しかし・・・
『巨大な悪の力の前ではハーモニーパワーなど何の意味も無い』
簡単に受け止められ、逆に悪の力によって縛り上げられる3人。
メフィストは怖気づいたかと挑発するようにミューズを呼びます。
父の姿を見上げるアコの目には涙が浮かんでいました。
そして震える手でモジューレを手に取ろうとした矢先、
ついにアフロディテが降臨して3人を庇うように立ち、メフィストを叱り飛ばします。
『いい加減に目を覚ましなさい!』
『目を覚ます?俺はいたって正気だ』
夫婦喧嘩(笑)を目の当たりにして、アコの苦悩は深まるばかり。
それでもアフロディテもろともケリをつけようとするメフィストの前に、
意を決して飛び出しました。
『私、戦う。パパを守る為に、そして私のために戦ってくれた仲間のために。
だって私はプリキュアだから!』
ドドリーをモジューレに招き入れ、変身。
『爪弾くは女神の調べ、キュアミューズ!』
ミューズと相対したメフィストは冷酷なマイナーランドの王のまま、
世界を悲しみのどん底に落とすためにお前を倒すとまで言い放ちます。
『パパを悪の手から取り戻してあげる!』
拳を、光線をかわし、正面からメフィストに挑みかかるミューズ。
向かった先の父の顔を目の当たりにすると、拳を振るう事が出来ません。
寸止めされる拳を前にしたメフィストも何かを思い出したようですが、
その度に激しい頭痛が襲ってきます。
『やっぱりダメ。私パパとは戦えない。パパを傷つけるなんて・・・』
相手を傷つけるためではなく、守るために戦っている。
そうメロディに言われても、ミューズは頭では分かっています。
それでも父の目を見たら攻撃する事など出来ませんでした。
『みんなには分からないんだよ。私の気持ちなんて!』
『そうだよ。わからないよ。私はミューズじゃないから。
ミューズの気持ちを全部わかってあげられない』
ミューズの苦しい胸の内を、「わかる」ではなく「わからない」と受け止めるメロディ。
それは突き放すものではなく、もっとミューズを知りたいと受け入れるためのものでした。
『でも、ミューズの心をもっと知りたい。だから今、私はミューズの心に叫んでるの』
当初いつもメロディとケンカしてきたリズムも応じ、
自分たちの事を引き合いに出してミューズに呼びかけます。
『そうよ、私達はいつもそうしてきた。私達いっぱいケンカしてきたけど、
相手を傷つけたいからじゃないの。それは、相手の心を知りたいから。だから・・・』
『だから相手の心がわからない時は、大きな声で心に叫ぶの』
『姫様。お父様の心にあなたの気持ちを届けてください』
再びメフィストに向き直るミューズには、もう迷いはありません。
『パパ、目を覚まして!家族の愛を思い出して!悪の力に負けちゃダメよ!』
攻撃の数々を掻い潜って、懐へ飛び込み、そして
『私、パパが大好きだよ!私のパパに、戻って!』
胸元にパンチを叩き込みました。拳の命中と共に溢れる光。
そしてミューズを見るメフィストは、あの日の事を完全に思い出しました。
『アコみっけ!』
あの日、大きな木の幹の影にアコを見つけた時の事。
傍らには微笑ましく見守る母と祖父がいる、穏やかな日々がそこにはありました。
悪の心は次第に薄れて行き、耳からヘッドホンが外れると共に
メフィストはメイジャーランドの王としての姿を取り戻し、
娘に向かって、少しはにかんだ笑みを返しました。
父に駆け寄り、涙するミューズ。
『アコ。パパはもうどこへも行かない。もう二度と悪い事はしない』
手を取り合う父と娘の姿を、皆が見守っているその時・・・
マイナーランドでもトリオ・ザ・マイナー達がその光景を眺めています。
『ついに俺の出番か』
そう苦々しく吐き捨てたのは、バスドラでもバリトンでもなく、なんとファルセット。
これまでの人の好さそうな姿から一転、髪を伸ばして禍々しい仮面のようなものを纏い、
メフィストへ、そしてプリキュア達に呼びかけます。
『メフィスト、お前はもう用済みだ。
プリキュア、我々は不幸のメロディを完成させてノイズ様を復活させる。覚悟しておけ』
ノイズとは、人の心を一瞬で悪に染める恐ろしい存在。
その恐ろしさを良く知っているだけにメフィストはこれからの事を案じますが、
どんなに強い敵が相手でもプリキュアは絶対に負けません。
改めて宣言する3人に、ミューズもまた頷き返しました。
まず真っ先にミューズの変身についてですが・・・
可愛すぎる表情と仕草の数々に朝っぱらから理性がフッ飛びそうで、
さすが黄色の伝統というべきか、あざとさすら感じられる(笑)素晴らしさでした。
これ、本当にあの冷静な黒ミューズと同一人物なんですよね?
これ、本当にあのツンツンして生意気なアコちゃんなんですよね?
変身を遂げた後の、無邪気そうな立ち姿、五線譜を抱きしめるように鳴らす姿、
ちょっとおすまししてみた後、ブリッ子(笑)ポーズで名乗りを上げる等、
歴代最年少となるだけに、とにかく可愛く見せようという執念(笑)が感じられます。
基本中学二年のプリキュア達よりも、年少組と言われたルミナスやレモネードよりも
さらに可愛いものを作るのは大変だったと思われますが、
それ以上に黄色キャラに対するこだわりというようなものが感じ取れ、
ここまでのものを見せられてしまってはもう何も言えません(苦笑)
既に何回見返した事か、私もすっかり女神の調べに魅せられてしまいました。
もっとも欲を言えば「女神の調べ」という決め台詞にはもう一捻り欲しかった気がします。
さてアコ=ミューズの可愛さはこのくらいにして本編へと目を向けると、
前半部は
第1話のようにやや説明的かと感じてしまいましたが、
これはストーリー展開上やむを得ないと考えます。
むしろ一人でいるアコを遠巻きに見守っていた響たちが、
アコを元気づけるべく駆け寄り語りかけていくのに対して、
一人苦しみもがくメフィストをトリオ・ザ・マイナーの面々が
気遣うでもなく、ただ遠巻きに見ているだけという構図が対照的でした。
アコの悩みも、第三者である響達には完全に理解する事はできません。
それでもそばにいて、支え、耳を傾ける事はできます。
メフィストにはそういう者が周囲にはおらず、
一人で受け止めて一人で苦しまなければなりませんでした。
この苦しみに対する答えが、他者との関わりである友情や愛情、信じる心、
今回では絆、家族、娘といったものを
「そんなものはまやかしだ」と切り捨てる事だったのかもしれません。
確かにこういったものと関わらなければ苦しむ事もありません。
しかし、それはあまりに寂しい答えだと言えそうです。
仲間が出来たとはいえ、アコが抱える苦悩は深く、
頭でわかっていても戦う事に対する躊躇、
娘などいないと放言された時の息を呑む表情など、
その苦悩を描き出す表情の数々が秀逸でした。
そして悩み、苦しい胸の内を訴えるミューズに対して、
メロディが「わかるよ」ではなく「わからないよ」と返した点が、
この作品ならではの説得力が感じられました。
シリーズ前半での響と奏のケンカは、全てはこの時に繋がっていると納得させられます。
相手の心を知りたい。それだけでなく、自分の心を知ってほしい。
そう感じられるフシが響と奏に、ひいてはセイレーン=エレンにも見受けられました。
いくら他人の心を知りたい、自分の心を他人に伝えたいと思っても、
完全に伝える事は不可能です。それでも伝えようとする気持ち、
知ろうとする気持ちが無いと伝える事自体が出来ません。
心を閉ざしている者に心を伝えるための手段としてのミューズのパンチは
ハートキャッチ最終回の「こぶしパンチ」を思い出しました。
いずれも相手を殴り倒すものではなく、
相手の心を受け止めて自分の心を伝えるための象徴としての一撃だと思います。
無事に家族の絆を取り戻し、めでたしめでたしといった矢先、
突然のファルセットの変わり身は全く予想していなかっただけに本当に驚かされました。
これまで
セイレーンに髪をむしられて泣いていたり、
ハミィと普通に世間話をしていたり、特にお人好しそうなイメージが強く、
そんな彼がバスドラやバリトンを向こうに回して仕切り始める等、
ある意味
ゴーヤーンの正体暴露以上に衝撃的でした。
ネガトーンをここまでに一度も召喚していないため、
そのうちくるかと考えていましたが、まさかこんな展開になろうとは・・・
アコを取り巻く人々の関係の謎が片付いたと思いきや、
バスドラやバリトンはファルセットの素性を知っていたのか、
彼らも操られている者なのか、それとも・・・?
といったトリオ・ザ・マイナーの存在自体が新たな謎として浮上し、
真の敵との決着に向けて物語がどう動くのか、また予測が難しくなってきました。
メフィストにまつわる関係が謎だったのはハミィの言い忘れというだけであったり、
第1話においてメフィストに対するアフロディテの態度が冷たすぎたり等、
シリーズ全体や今回に対しての突っ込みどころや粗はあります。
しかし、響と奏のシリーズ前半のケンカをもとにした上で
ここまでの壮大な伏線を一気に回収した事は見事でした。
そしてアコ=ミューズだけでなく姫様と知ってモジモジして謝るエレンの可愛さも光り、
終盤に向けての期待度を高める、満足度の高い一編でした。
次回の可愛すぎるハロウィンにも期待しています。