手傷を負ったノイズが墜落する音が、メイジャーランドに響き渡りました。
前回の雪辱を忌々しく思い返していたところ、
懸命に主を探し回っていたファルセットがやって来ます。
ファルセットは残った国民やプリキュアが宮殿に集まっている今こそ、
一網打尽の好機だと訴え、さらに自らが出向く気満々でアピールします。
その自己アピール、そしてノイズを気遣う声のやかましさは、
ノイズを苛立たせ始めました。
『うるさい・・・』
背中をさすろうかと後ろに回っていたファルセット(笑)は、
そのつぶやきを聞き取ろうとノイズの眼前に回り、
相変わらずノイズを案じる言葉をまくし立てますが・・・
ファルセットのやかましさに辟易したノイズの堪忍袋の緒が切れました。
闇より深いノイズの心もここらが我慢の限界、
その胸が突如開き、ファルセットを吸い込み始めます。
『え・・・?ちょ・・・あの~・・・』
我が身に何が起こったのかが解らないのか、
呆気にとられたままノイズに吸収されるファルセット。
と同時に顔半分を覆っていた仮面が地に落ちて砕け散り、
そしてファルセットを吸収した事でノイズの傷が癒えました。
身体の回復を試すかのように手近な建物を破壊するノイズ。
その効果に満足し、音吉さんとクレッシェンドトーンを吸収しておかなかった事を
悔やみながらも、プリキュアを呑みこんだらどうなるかと興味を抱き、再び飛び発ちました。
メイジャーランドの国民は大半が石化し、国王メフィストも未だ目覚めない。
この危機的状況を前に、アフロディテお付きのオウムは
いつものようにやかましくまくし立てるしか出来ません。
アフロディテはとりあえずオウムを落ち着かせ、残った国民の避難状況を確認しました。
宮殿の大広間に避難してきた国民達は、皆不安を隠せません。
それは音吉さんとクレッシェンドトーンという支えを失ったプリキュアとハミィも同様で、
頭を垂れて俯き、重苦しい空気が支配しています。
しかし、メロディだけは違いました。
『音吉さんは、いつもニコニコしてたよね?
クレッシェンドトーンは元気の無い人がいると、色んな音を出して励ましてくれた。 だからさ、私たちは元気でいようよ。ね!?』
重苦しい空気を打ち破る歌声と共に顔を上げるメロディに触発され、
ハミィにも、皆にも明るい顔が戻って来ます。
確かに状況は深刻です。だからこそ笑顔を忘れず力を合わせて頑張ろうと、
アフロディテも共感し、未来を託した音吉さん達の想いに応えるべく、
再び立ち上がる気力を抱くプリキュア達。ところがその時・・・
地鳴りと共に揺れが襲って来ました。
見るとかなりのダメージを負った筈のノイズが、コンサートホールを破壊しています。
『世界から全ての音を消し去るには、お前達を倒す必要があるようだ』
コンサートホールに降り立つノイズの宣戦布告が、
宮殿にいるプリキュアに向けて発されました。
出撃の際に、必ずメイジャーランドを守ると約束した事を胸に秘め、
屋根を走り、ノイズが待つコンサートホールへ走るプリキュア達。
ハミィも風呂敷包みを背負い、フェアリートーンともども出発します。
『ようこそプリキュアの諸君・・・ここがお前たちのラストステージだ!』
迎え撃つノイズに真っ向から飛び掛かり、
4人それぞれ激しい攻防の応酬が始まりました。
メロディはノイズと正面から渡り合い、リズムは振るわれる尾をあしらい、
ビートは巨体の上を滑ってノイズの頭へ強烈なパンチを叩き込み、
そしてミューズは柱を蹴り、石柱がダルマ落としのようにノイズを襲います。
ノイズが放つ攻撃をかわし、4人同時の鋭い蹴りで、体勢を崩したところに、
すかさず技を畳み掛けますが・・・
ミラクルハートアルペジオ、ファンタスティックピアチェーレ、ビートソニック、
そしてスパークリングシャワーの4技直撃にもかかわらず、
ノイズは全くダメージを受けていません。
それでもみんなと音楽を守りたいというメロディ達の心は揺らぎませんが、
そんな彼女たちに、ノイズは問いかけました。
『音楽が幸せをもたらすと本気で思ってるのか?』
ノイズは争いの始まりは伝説の楽譜であり、音楽が原因だと切り出します。
音符に悪が宿れば不幸のメロディに、少し並び替えれば幸せのメロディとなり、
そのようなあいまいなものは無い方が良いとの主張に、
メロディは音楽の無い世界は寂しすぎるとすかさず反論します。
しかしノイズは、現に今音楽の無い状態となった者たち=石化した人々を引き合いに、
全ての音が消え去れば苦しみも消える平穏な世界だと、主張を曲げません。
ノイズの理想郷を激しく否定するビートとミューズの言葉を受け、
嫌なら私の世界から去れと4人を吹き飛ばしました。
そしてノイズはメロディに狙いを定め、ファルセットと同様に取り込み始めました。
リズムの目の前で、メロディは徐々に飲み込まれて行きます。
懸命に手を伸ばす手は誰にも届かない・・・
と、間一髪のその状況に、バスドラとバリトンが駆けつけました。
メロディの手を掴み、互いに顔を見合わせ、
息を合わせて拳をぶつけてメロディの拘束を打ち砕くバスドラとバリトン。
彼らはファルセットがノイズに呑まれたところを目撃しており、
ノイズにその事を追及して激しく怒りをぶつけます。
『あいつは腹の立つ奴だが真っ直ぐだった!お前の忠実な部下だった!
なのに・・・なぜ!?』『答えなさい!なぜなんだ!?』
その問いに対するノイズの答えは、単純かつ冷酷です。
『あいつはうるさかった』
たった、それだけのことで・・・。
バスドラも、バリトンも、唖然としたまま、その瞳から男泣きの涙が溢れました。
『あいつの想いをなんだと思ってる!』
『私達にも想いはあるんだぞ!』
怒りを露わにするバスドラとバリトンを、ものともせずに騒がしいと一蹴し、
ノイズはあくまでもプリキュアを取り込む事にこだわります。
4人に迫りくるノイズの魔手。そこに先ほど打ち払われたバスドラとバリトンが割って入り、
身体を張ってノイズの進撃を食い止めました。
しかし相手の力は圧倒的です。彼らの奮戦空しく、ノイズは対象を2人に変えて、
4人の目の前で、バスドラとバリトンは後をプリキュアに託し、飲み込まれて行きました。
最後まで、誇り高きメイジャーランド三銃士として・・・
直後、トリオ・ザ・マイナーの三人を取り込んだノイズの身体に変化が訪れます。
再び身体が石になった後、その石の身体を打ち破って
人の形に変化したノイズが姿を現しました。
『力がみなぎる。無能な者どもはこうするに限るな』
部下を仲間とも思わぬ発言、想いを踏みにじる行為に怒りを露わにして、
再び4人の技が畳み掛けられます。
クロスロッドからのミュージックロンド・スーパーカルテット、
ソウルロッド形態からのハートフルビートロック、そしてシャイニングサークル。
その技の数々をノイズは拳一つでブチ抜き、軽やかに打ち払い、まるでものともしません。
それでも4人は負けず、何度でも、ノイズを倒すまで、技を再び繰り出します。
3拍子、そしてフィナーレ。さすがのノイズにも焦りが伺え、
フィナーレの爆風とともに決着した、と思いきや・・・
『それで、終わりか?』
爆風の向こうに立つノイズはピンピンしています。
『最後に言う事はあるか?では、フィナーレだ』
あろうことかフィナーレをノイズが持ち出すや否や、
吹き飛ばされ、打ち落とされる4人。
ハミィは変身を解かれて倒れた4人の元へ急いで駆け寄りますが、
どうやら大きな傷は負っていないようです。
しかしこの状況では・・・果たしてノイズの最後通告が、メイジャーランドに響き渡りました。
『聞け!メイジャーランドの者たち!
そしてアフロディテ。伝説の戦士プリキュアは倒れたぞ』
国民達の間に動揺が走ります。しかしアフロディテは毅然とそれを制し、そして・・・
宮殿に向かったノイズは、中から聴こえてくる音楽に顔をしかめました。
その音楽は、響達の下へも聴こえてきます。
宮殿に踏み込んだノイズが観たものは、先程までおののいていた国民達が、
アフロディテの指揮の下、一丸となって演奏している光景でした。
ノイズの登場にヴァイオリンの弓が鈍るものの、
中心に立つアフロディテは目もくれず、それに触発されてか
一度は止まったヴァイオリンも再び演奏を始めました。
『皆とこうして演奏するのは、久しぶりですね。とても楽しいです。私は幸せです』
ノイズは業を煮やし、奏者の一部を石化しました。
一瞬たじろぐものの、それでも皆は演奏を止めません。
『嬉しい時も、悲しい時も、苦しい時も、どんな時も、私たちは音楽を奏でてきました。
ノイズ。あなたはどんなに強くても、私達から音楽を愛する心は奪えません』
ノイズは耳を塞いで、うるさいとまるで駄々っ子のように喚き、
そのまま全てを石化。鳴り響いていた音が、止まりました。
アフロディテも、演奏者たちも、床に伏せったメフィストも。
静寂が、訪れます。
エレンは音が消えた事を実感して肩を落とし、アコは両親を案じ、
響と奏はメイジャーランドも守れなかった事を悔やみ、悲痛な空気が流れます。
しかし、音楽は無くなったわけではありません。
フェアリートーン達がそれぞれの音を使って奏でるキラキラ星の旋律は、
この絶望的状況下において、響達の心を落ち着かせました。
『僕たちだけだと小さな音ドド』
『響達が一緒に演奏してくれたらもっと大きな音になるレレ』
『響達が一緒ならもっとたくさん音を出せるミミ』
『みんなが一緒ならいろんな音楽を演奏できるファファ』
続けてハミィが包みを開くと、中からは伝説の楽譜が出てきました。
今は真っ白になってしまった伝説の楽譜。
しかし、これからどんな曲でも作る事が出来ます。
『ハミィは響達が作った音楽が聴きたいニャ』
響達の鼓動は、まだ生きています。すなわち音楽は無くなっていません。
消されたって作ればいい。作ってみんなで演奏して、思い切り歌いたい。
再び4人は立ち上がり、石化した宮殿を見上げて決意を新たにしました。
『聞かせてやろうよ。ノイズに私たちのハーモニーを・・・』
『私たちは絶対に諦めない!』
最終決戦中という事ももちろんですが、今回のエピソードに於いても
私があるべき姿、という点について多くを考えさせられた一日でした。
もともと私は見栄っ張りで、それでいて打たれ弱く、空気を読むことが下手で、
話に耳を傾けられないという短所があると自己分析しています。
冒頭のファルセットの過剰な自己アピールと空気の読めなさ、
そして演奏会場に現れたノイズの、耳を傾けない姿勢。
解っていても中々改められない欠点を、今回のファルセットとノイズに見て取り、
人のふり見て我がふり直せと感じ入りました。
己を卑下しても何にもなりません。今回は特に2点、感銘を受けた事があります。
まずは敵側ノイズの主張であるにもかかわらず本質をついている、
「音楽は少し入れ替えれば不幸にも幸せにもなる」という、
これまでも幾度となく語られてきた事です。
これを心に置き換える事で、すなわち私が今抱いている気持ちも、欠点も、
少し見方を変えれば変わり得るという事。そして、ものの見方は一つではないという事。
ごくごく当たり前の事ですが、最近の私にはこうした視点が欠けていたように思えます。
もう一つは「嬉しい時も悲しい時も苦しい時も音楽を奏でてきた」という趣旨の、
ノイズを前にしたアフロディテの言葉です。
私はこのサイトを立ち上げる以前より、プリキュアシリーズの魅力に憑りつかれて
ここまで見続けてきました。そしてここを開設してからの3年間は、
毎週の放映と過去作の再視聴を続け、その間仕事やプライベートでも
苦しい事、悲しい事がありましたが、都度元気を貰い、そして共に考えながら
歩んできたつもりです。それでも、私自身の問題や様々な要因、
そして文章を飾る事によって、本質が伝わりにくくなってしまった感は否めません。
改めて原点に立ち返りたいのですが、染みついてしまった文体や考え方、
そしてコメント返しの文章内容など、一朝一夕に直るものではありません。
ただ、私は心底この作品群を愛しており、その心はアフロディテの音楽への想い同様、
決して曲がらないものだという点だけは間違いありません。
ここの管理も更新もコメント返しもほったらかして、全て投げ出してしまえば
もう何も悩まずに済みますし、苦しむ事もないでしょう。
それは
かつてゴーヤーンが主張した世界にも類似する、
まさしくノイズが主張する安息の世界です。
それでも、悩みや苦しみを越えて行く事に価値があるというメッセージを、
今作だけでなく過去作からも何度となく見続けて来ました。
今回でも、切羽詰まった状況で歌い始めるメロディは、
見方によっては楽観的すぎるかもしれません。
それでも響の性格を考えると、彼女も不安や心配を抱いていても当然です。
それを乗り越えてあのように振舞える事こそが響の強さと言えます。
響一人の強さではなく、仮に不安そうにしていてもこの場には奏もエレンもアコもいます。
仲間がいるからこそ、響も強く振舞えたり、音楽を奏でられるという事ではないでしょうか。
音楽は止まりません。どんな無音に思われる世界でも、音は何かしらあります。
思えば響の名前の由来も生活音であり、そこに人々の息吹が感じられました。
止まる事=停滞、続く事=発展。諦めたらそこで停滞してしまいますが、
ラストのシーンにおいても誰も諦めていません。さらに上を見上げる構図からは
伸び行く確固たる意志が感じられます。
今回のアフロディテコンサートからは、沈みゆくタイタニック号で演奏を続けた奏者達や、
ナチスに脅かされつつある1938年のウィーンでの、
ワルター指揮マーラーの交響曲第9番の演奏会などを連想しました。
たとえ恫喝されても脅されても、音楽そのものの持つ力を止める事は誰にも出来ません。
さて今回は構成・演出の上手さと、戦闘の動きの良さも光りました。
ノイズの宣戦布告を受けて4人が出撃する際、
多少の時間軸の交錯がありますが、このために決意を胸に走っている緊迫感、
プリキュアを信頼して全てを任せるアフロディテの心境などが伝わって来ます。
そして、母と娘のしばしの別れの場面においても、
決して多くない言葉の内に秘められたものの数々、
子はいつしか親が知らないうちに成長しているという事であったり、
子を信じて送り出す親の心境であったりが伺え、後者からはフレッシュにおいて
ラブ達を最終決戦に送り出した四ツ葉町の皆の姿が想起されました。
そしておそらく今回が鳥形態ノイズとの最後の戦いとなると思いますが、
それだけにノイズの巨体相手に4人がそれぞれ異なる戦いぶりを見せ、
特にビート→ミューズの流れが見応えがありました。
パンチが効かないと解ったにも関わらず、ビートが見せる微笑。
直後、ミューズのダルマ落とし攻撃という流れからは、
互いに仲間を信頼しているという関係が見て取れます。
これが仲間などうるさいだけだと言うノイズと好対照でした。
特に技の種類が豊富な今作だけに、今となっては懐かしい技の数々を
次々と繰り出す様もファンサービスのようで楽しめました。
そしてトリオ・ザ・マイナーの描かれ方も満足出来るものでした。
まず、ファルセットは開始早々退場を余儀なくされますが、
自分に何が起こったのを理解していないような、
呆気にとられたままだった事が彼らしく、観ていて悲愴感が無くて良いと思います。
仮に抵抗しながら悲鳴と共に引き込まれる、などだとすれば、
豹変したとはいえファルセットの愛すべきキャラクターを知るだけに
辛いものが残ったと思います。
続いて、あれ程ファルセットに酷い扱いを受けて居ながら、
バスドラとバリトンの熱い仲間意識にも胸が熱くなりました。
ノイズに対して相当の怒りをぶつける様、
あまりに理不尽な理由で盟友を失ったと知った時の涙、
そしてプリキュアに後を託す場面の熱い想い。
「私達にも想いがある」との言葉通り、
その想いはしっかりとプリキュアへ伝わった事でしょう。
前回と前々回で彼らはどこに居たのかという突っ込みどころがあったり、
また欲を言えば4人が傍観者に徹している事が少し残念ではありますが・・・
もっとも、それならば彼らの劇的な復活劇(があれば)の際の彼女達の反応、
特にビートのものが期待できると考えたいです。
ハミィが広げた楽譜は真っ白。ここには何でも書けます。
水は器によって形を変えるように、白い楽譜はどんなものにも変わります。
すなわち響たちが紡いで来た物語と、これから描き出す物語を示唆しています。
一度描いたものが壊されれば、また作ればいい。
高さが届かなければ、積み上げればいい。
道が無ければ、切り開けばいい。
これらを肯定するメッセージ、しかと見届けさせて頂きました。