タコカフェの背後に伸びる木にはまだつぼみの状態で花が咲いていません。
薄暗い車内で帳簿を手に取るアカネさん。その横にはかつて商社に勤めていた時の
仲間達と一緒に撮影したポートレートが飾られていますが、逆光の中、
帳簿に目を落としたアカネさんの表情は冴えません。
52,680円の赤字。タコカフェを続けるか商社の仕事を選ぶか、というよりも、
現実的な金銭面の問題も伺わせます。会社勤めの時はこんなに悩まなくて済んだ、
とこぼすアカネさんの脳裏に中尾の誘いの声が響き、迷いを伺わせます。
そんなアカネさんを入り口から見つめるひかりの視線に気付き、顔を上げるも
ひかりの背後から光が差し、アカネさんが影の中にいる構図は何かを暗示しているようです。
『あの・・・お店・・・お店辞めちゃうんですか?』
ひかりの言葉に迷いを指摘されたからか、少しムキになったかのような口調で返すアカネさん。
『辞めるわけ無いじゃない。お店改装したばっかりだし、そんな事心配しなくて良いから』
と言いつつも帳簿を握り締める手には力がこもり、
『それよりちゃんと仕事覚えてよね!』
そして中尾が姿を現します。このタイミングで。
下校中、公園の入り口で元気の無いひかりを見つけるなぎさとほのか。
ひかりからアカネさんが迷っている事を聞き、タコカフェを辞めてしまうのかと驚くなぎさ。
端から見ればお店はうまく行っているように見えていましたが、
ずっと切り盛りしていく事は大変で、不安も多いと思う。ほのかはそう気遣っていました。
そして、アカネさんは頼まれると嫌とは言えないところもある、と。
中尾の頼みを断れずに悩んでいる、ともほのかは案じていました。
洋館では執事ザケンナーが押して、勢い余って回転し続けるブランコを
楽しんでいた少年を助け出すウラガノス。笑顔で駆けて行く少年を見送った後、
シャイニールミナスのエネルギーについて懸念を漏らすサーキュラスの話を聞くウラガノス。
ですが、また例によって途中で『とにかく叩き潰してやる』
『だから人の話は最後まで聞けって・・・』
『こっちの話も聞いてー!』呆れるサーキュラスの背後で回り続けるブランコから
助けを求める執事ザケンナーの声が響いていました。
それなりに賑わっているタコカフェ。ひかりは休憩時間中だったようで、
アカネさんに遅くなった事を注意されました。
ただ遅れただけでなく、なかなか戻ってこない事を心配していたと言うアカネさん。
一緒に頑張れば早いからね、と即座にフォローを入れるところはさすがです。
『ひかり、怒られたポポ』
『時間を守らなかった私が悪いの。アカネさんは私の事心配してくれているのよ』
その夜、自室でポルンと遊んであげているひかり。
どうやら「ぽるん ひかり」と字を書く練習をしたらしい跡が残る中、
『リンゴポポ』『ポシェット』『トンボポポ』『ポリバケツ』『つくねポポ』
相変わらず
「ポ」で終わるしりとりに興じていました。
ポで始まる言葉が思いつかずに降参するひかり。
嬉しくてはしゃいだポルンは、はずみでティーカップを落として割ってしまいます。
『ゴメンポポ・・・』『大丈夫よ。心配しないで』怒らずに淡々とカップを片付けるひかりを見て、
『ごめんなさいポポ!!』もう一度謝ってみるポルンでしたが、それでも怒らないひかり。
『間違いは誰にでもあるもの・・・。今度から気をつけてね』
割れたカップを片付けに部屋を出たひかりは、ふとアカネさんの部屋を覗き込むと
電気を点けていない暗い部屋の中、鏡に向かって悩むアカネさんの姿がありました。
『みんな藤田先輩を待っています』その中尾の言葉が耳から離れずに。
なぎさとほのかは翌日の下校中、アカネさんの話だけでも聞いてあげようと考えていました。
悩んでる時は人に話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になるものと言うほのか。
その考えはもっともですが、アカネさんがなぎさ達に悩みを語るとは考えにくいです。
やってきたタコカフェではアカネさんは買出し中で、ひかり一人で店番をしていました。
早速実態化して『一緒に遊ぶポポ』とうれしそうになぎさに飛びつくポルン。
そこでほのかがひかりの手伝いをして、なぎさがポルンの相手をする事になりました。
だるまさんがころんだ、の筈ですが、既ににらめっこと化してるゲーム。
鬼のなぎさのすさまじい顔(ここまで顔が崩れるヒロインも珍しいです)に
メップル、ミップルが次々と撃退され、最後に残ったポルンも動いてしまい負け。
と思いきや、最近見られなかった凄まじい駄々をこねて騒ぎまわるポルン。
あまりのやかましさに『いい加減にしないと怒るわよ!』
となぎさが声を荒げると、ポルンは急に静かになりました。
『怒ってくれるポポ?』
まだ芽吹かない木の下で、ほのかはひかりに相談を持ちかけられました。
『アカネさん、すごく悩んでること分かるし、それを私には見せないようにしてるのも。
だけど私、何もしてあげられなくて』
ひかりはアパートの暗い部屋で鏡を見つめるだけでなく、
一人夕陽の公園で俯くアカネさんの後ろ姿を見かけたこともあるようです。
ほのかの提示したアドバイスは、そのままのひかりであればいい、という事でした。
思わず拍子抜けするひかりですがそこに花びらが舞い、
タコカフェの後ろにそびえる木が八重桜であると気付くほのか。
見上げるとそこには、五分咲になった八重桜がありました。
『ソメイヨシノより遅咲きだけど、とっても素晴らしい花をつけるの』
『中尾君?うん・・・そうだね。うん、わかった。じゃあ、また後でね』
ビル街を見つめ、逆光の中で電話を切るアカネさん。
振り返った時、前を通るOL。そして家族連れを見て
手に持ったビニール袋を握り締めたアカネさんは一言呟きました。
『重いな・・・』
その表情は暗くないものの、どこか寂しげな口調です。
ひかりは何故怒らないのか。わからないポルンはなぎさに尋ねます。
『仲が良いから怒るポポ?』と。そこにほのかも現れ、
『自分にとって大切な人が本当に心配だったりすると、つい本気で怒ってしまうこともあるよね。
大事なのは、お互いがお互いをどう思ってるかってことじゃないかな?』
以前さなえさんがほのかに向けた言葉のように答えてあげますが、
ひょっとしてひかりはポルンの事を本当に心配に思っていないのでは?
という風に捉えてしまったのでしょう。
その言葉に涙を浮かべたポルンは走り去ってしまいました。
買い物から戻ってきたアカネさんは珍しく下を向いて歩いています。
ふと目線を上げてタコカフェを見ると、老婦人の接客をしているひかりの姿がありました。
『私には小さい孫がいるんだけど、あなたみたいに素直で
一生懸命な子に育ってくれたらいいなって。
これからもがんばってね、いつも美味しいたこ焼をありがとう』
その老婦人の言葉に誇らしげに胸を張って、はい!と力強く答えるひかり。
その姿を見つめるアカネさん。見回すとタコカフェのテーブルには
仲の良さそうなカップルの姿、たこ焼を家族でつまむ姿。みんなとても幸せそうです。
『本当にどうも、ありがとうございました!』
老婦人を見送って声をかけるひかりの姿を、アカネさんは涙を浮かべて見守っていました。
そして、いつしか八重桜は八分咲きに。
『ただいま!』『おかえりなさい』
アカネさんが店に戻った時、ひかりはタコ焼きを焼く練習をしていました。
そして、アカネさんの力になりたいけれど、何もできなくて・・・と言葉に詰まるひかりに、
ひかりがここにいてくれるだけで嬉しい、と返すアカネさん。
『ほら、早くしないと焦げちゃうよ。パフェも早く出さないと』
二人でパフェを仕上げる姿を物陰から見つめているポルン。
『アカネさん、お店辞めないで』
そのパフェを出しに行くアカネさんの後ろ姿に呼びかけるひかりですが、
『ポルンも手伝うポポ』とホイップクリームを振り回すポルンに、
『大丈夫よ、忙しいからみんなと遊んでてね』と返したところ、
再び外に飛び出して行ってしまいました。先ほどのほのかの励ましが仇になり、
ひかりのつれなくも見える態度が堪えたのでしょうか・・・
テーブルを拭くアカネさんの元になぎさとほのかがやってきます。
何か悩み事があるなら、私達で良ければお話だけでも・・・と意気込んで来ましたが、
アカネさんの返事は『その事なら、もう決めたから』でした。
そしてそのタイミングで中尾も登場し、アカネさんと隣り合わせに立ちます。
『決めたよ。答えは出た』
そして中尾に握手を求めるかのように手を差し出し、
『頑張ろう』
そして、手を取る二人。ですが・・・
『あんたはあんたの道を。私は私の道を』
満開の八重桜の花吹雪が乱れ飛ぶ中、アカネさんの答えは決まりました。
『大丈夫、あんたならきっと上手くやれる。私自身も行ける所まで突っ走ってみたいんだ。
自分で決めた道だから』
桜吹雪に包まれ、見つめあう中尾とアカネさん。そしてなぎさ、ほのか、ひかりも見守る中、
『この店は私の夢の城。たとえ今はどんなに小さくても絶対に守り抜いて、
いつかもっともっと大きく成長させてみせる。
なにより私達のたこ焼を楽しみに待っててくれる人たちのために。ね!ひかり!』
その言葉に涙ぐむひかりも強く頷きました。
『ありがとうございました先輩。本当は最初からそう言われるだろうなって覚悟はしてたんです。
だけどなんか、吹っ切れました。僕も先輩に負けないくらい素晴らしい仕事して見せます』
中尾もアカネさんを仕事に誘う未練を断ち切り、自分の仕事を進めていく決心をしたようです。
・・・が、『そうだ、もう一つのお願いのほうは・・・』
と切り出した中尾の話を急に遮り、照れたように中尾を連れ出すアカネさん。
なぎさ、ほのか、ひかりが???となる中、赤面して『しっかり店番お願いね!』
と振り返って告げるアカネさん。3人には聞こえていないようですが、
『デートくらいいいじゃないっすか』『その話はまた今度!』
全国1億3千万のアカネさんファンを敵に回した中尾良かった、と思うのも束の間、飛び出していったポルンが見当たらない事に気付く3人。
なぎさとほのかが公園を探し回る中、2人の前からウラガノスが迫ってきました。
変身して立ち向かう2人。
『あの娘を出せィ!』と凄むウラガノスを、ここから先は行かせないと迎え撃ちます。
一方、ポルンが見つからず気落ちするひかりがタコカフェ店内に入ってみると、
そこには開いたままの冷蔵庫。丸々こぼれている牛乳。割れた卵などが散乱する光景が・・・
『何これ!?どうしたの?一体何があったの?』
今までに無い声で驚くひかりをよそに、奥の方からポルンの声が聞こえました。
『できたポポ!ひかり、ポルンできたポポ!』
『ポルン!いたずらしたらダメじゃない!それに急にいなくなったりして!』
初めて声を大にして怒るひかり。その様子を見て、
『怒ってくれて・・・嬉しいポポ』
当然のように戸惑うひかりですが、
『本気で怒ってくれるのは仲良しの印ポポ』
先ほどなぎさに怒られ、ほのかに指摘されたとおりの事をひかりにしてもらった。
そのポルンに今まで自分の気持ちに精一杯で、構って上げられ無かったことを詫びるひかり。
ポルンが作っていた物を見ると、不恰好なチョコパフェながら
そこにはしっかりと「ひかり」の文字が描かれていました。
『もっともっと、ひかりと仲良くなりたいポポ』『ポルン・・・ありがとう』
ひかりは涙を浮かべ、ポルンを抱きしめます。
そんな二人の美しい光景もウラガノスが現れて台無しに。
ブラックとホワイトはウラガノスのパワーに押されてタコカフェに叩きつけられ、
プリキュアを庇うかのようにウラガノスの前に立ちはだかり、ひかりも変身します。
『こっちへ来ないで。この店には指一本触れさせない!』
そんなものに価値は無い、と一笑するウラガノスからタコカフェを守るべく立ちはだかるルミナス。
『あなたにとって価値はなくても、私達にとっては宝物なの。アカネさんと私の夢のお城なのよ!』
そしてウラガノスの渾身の体当たりを、たった一人で受け止めて、当のウラガノスも驚く中、
『タコカフェは私とアカネさんの宝物なの!!!』
気合一閃、ウラガノスを押しのけます。
そしてその隙にブラックとホワイトがマーブルスクリューMAXでウラガノスを退けました。
柔らかな夕陽が照らす、満開の八重桜の下で
『これポルンが作ったの?』とポルンの「なかよしパフェ」をつまむなぎさ。
見た目はちょっとアレですが、とても美味しく出来ているようです。
そこにアカネさんが戻って来て、今日は疲れたから店じまいをしよう、と車内に入った途端、
車内の惨状を見て大声を上げるアカネさん。
『なぎさ!あんた何やってんのよ!』
パフェを手にしていた為に濡れ衣を着せられ、
『三十六計逃げるが先』『それを言うなら逃げるが勝ちよ』というほのかの突っ込みが入る中、
一目散に逃げていくなぎさ。そして追いかけていくアカネさん。
『でも良かった。みんな元気になって』
そこに八重桜の花びらが優しく降り注ぎ、夕陽と共にタコカフェを彩ります。
『もうすぐ新しい季節の始まりね』
なぎさを追いつつも満面の笑顔で走るアカネさん。
車内に飾られた会社時代のポートレート、そしてタコカフェの帳簿に舞い落ちた一片の花びら。
八重桜と夕陽に暖かく照らされて幕となります。
「ふたりはプリキュア」ながら、今回はなぎさとほのかの主役二人が完全に脇に回り、
ひかりとポルン、そしてアカネさんを引き立てる存在として展開しました。
それでもなぎさはポルンを怒る事、ほのかはポルンとひかりに助言をすることで、
それぞれの役割をきちんと演じています。
特にほのかがポルンにかける助言は、昨年の第8話でほのか自身が祖母のさなえさんから
かけてもらった言葉を彷彿とさせ、それを自らの言葉として語る点が1年間の成長を伺わせます。
ひかりとポルンの関係では、
前々回の「ポルンってこんなに元気に飛び回る子だったんだ」発言もあり、今まで互いに遠慮していた節があります。
特にひかりはこの世界で不慣れな事もあり、昨年までのポルンのパートナー?だった
なぎさと比べてポルンに優しく接しているものの、どこか上辺だけのようにも見えます。
当のひかりはそんな事を思っていないのですが、ポルンの目からはなぎさとの対比から
どうしてもそう映ってしまい、優しいながらもどこか心の底から繋がっていない。
そんな風に感じていたと思います。
今回作中で3回(カップ割り、ほのかの助言、ポルンも手伝うポポ)も
煮え切らない想いを抱いてしまい、だからこそいなくなったポルンを見つけたとき、
そして車内を散らかしたポルンを見つけた時の怒ったひかりが嬉しかったのだと思います。
ひかりも自分自身の心と立場の整理がついていないまま、
保護者であり、パートナーであるアカネさんの悩める姿をみて戸惑ったのは当然です。
そしてアカネさんが悩みや迷いを打ち明けてくれないことに、
ひょっとしたらポルンと同じ寂しさを感じていたのではないでしょうか。
もっとも、アカネさんは「大人」なので、「子供」のひかり、そしてなぎさとほのかに
悩みをぶつけるとは思えないのですが・・・
そして今回の主役とも言えるアカネさんの描写は、
シリーズで効果的に用いられる「光と影」、そして今回は徐々に花開く八重桜とも相俟って、
迷いから自分の道を見つけ出すまでが丁寧に描かれています。
冒頭のシーンでは暗い車内。自室でも電気を点けない暗い部屋。
ひかりが見た寂しそうな後姿も夕暮れの影の中。そして中尾の電話を受けるビルの谷間。
いずれも逆光や影の中に描かれています。
電話の直後の「重いな・・・」という台詞は、表情は明るいものの
一国一城の主としての重さ、これから店を続けていく事への困難。これらを
手に持ったビニール袋とかけて発せられた台詞だと思います。
そんなアカネさんが明らかに迷いを捨てたと伺わせるのは、
老婦人の接客をするひかりの姿を見た時だと思います。
『試してみたかったんだ、自分の力を。
書類やコンピュータ上の数字を動かすだけじゃなくて、自分の力で何かを作りたかった。
私の作ったもので目の前の誰かが喜んでくれたら嬉しいだろうなって。そう思ったんだ』
前回、アカネさんはそう語っていました。確かに現状は赤字。切り盛りするのも大変ですが、
目の前のお客さんの「ありがとう」の声や、満足そうな姿が見たかったからこそ
独立を選んだはずです。その失いかけた信念を、ひかりが見事に受け継いでいる。
これからもひかりと共に頑張っていこう、と決めた瞬間だったのではないでしょうか。
冒頭とラストに映る、会社時代のアカネさんのポートレートも
(これがシリーズ通して唯一見られるアカネさんのスカート姿です)
冒頭は断ち切れない過去への未練。
ラストは過去を踏まえつつ前に進んで行く、という風に解釈しました。
今回のレビューはかなり長くなってしまいましたが、
仕事をする上で見失いがちな志を思い起こさせてくれる、本当に素晴らしい一編だと思います。
ところで・・・アカネさんは商社勤めでプロジェクトの発案を任されるほどですから、
おそらく4大卒でしょう。そして後輩の中尾は新卒がこんな誘いにくるとは思えませんので
入社2~3年目と推定すると、アカネさんのご年齢は若く見ても20代中・・・
おっと、すみません、こんな時間に誰か来たようですので、この辺で。