虫取り網を振るい、見事カブトムシを捕まえる響。
いくら夏休みとはいえ、中学生の女子の遊びにしては渋すぎますが、
目的は当然虫捕りではなく音符集めです。
せっかくのカブトムシをハミィにリリースされて肩を落とす響を余所に、
エレンは見事音符を捕まえました。しかし音符を収めるために呼んだフェアリートーン達は、
シリー以下みんな夏バテしているかのように弱っています。
未だその理由をハミィや響たちに打ち明けていないため、
なぜ弱っているのかはみんな知る由もありません。
そんな折、先ほど逃がしたカブトムシを捕まえた少年が、
学校でみんなに自慢しようと得意げに見せびらかすのを聞いて、
響と奏も夏休みの終わりが近い事を実感します。
エレンはここで初めて夏休みに終わりがあると知り、素っ頓狂な声を上げました。
『夏休みって、終わっちゃうの!?』
響はソフトボール部の大会があったり、奏も学園祭に向けて新作ケーキを考えたりと、
夏休みが終わる事の寂しさよりも、クラスメイトや部活の仲間と会える事を楽しみにしています。
みんなでアイスを食べながら、学校生活について色々と聞いているうち、
エレンにも学校に行ってみたいと思うようになりました。
その一部始終を、人知れず音吉さんが見守っています。
今日は夏休み最後の日。
エレンのもとへと向かう道すがら、響と奏はエレンが学校へ行けるよう、
団パパに相談しようと考えていると、そのエレンが嬉しそうに向こうから走って来ます。
エレンは音吉さんの計らいで、明日から学校へ通える事になりました。
しかし嬉しい反面、わからない事だらけで少し不安を抱いているエレンのために、
響と奏は学校生活初日のためのリハーサルを申し出ました。
さて、トリオ・ザ・マイナーのリーダーはどうやら当番制になったようです。
本来ならば今回はファルセットが担当する筈なのですが、
バスドラがその座を強引に奪い取り、手製の達者な紙芝居を用いて
「飛んで火に入る夏の虫作戦」を発案します。
響達が音符を取り戻しに来ると踏んで、音符を囮にして響達を誘い込み、
その上からケージをかぶせて閉じ込めてしまうという、
前回のトロイの木馬作戦とは違い、名と実が一致した案外まともな作戦を披露しました。
調べの館へ場所を移し、響と奏は学校での1日のスケジュールや
運動会、学園祭、遠足など行事の数々がある事を説明します。
エレンは都度、几帳面にメモをとり、続けて自己紹介の練習に移った後も、
お手本を見せるハミィの一言一句を丹念にメモし続けます。
お弁当は晴れた日に庭で食べるとおいしい、という些細な事から、
ハミィの肉球の触り心地の良さは奏が大好きだと言う、奏にとって恥ずかしい性癖、
ウケ狙いで歌を歌うと良い等と言う事まで、全て真に受けてびっしりと書き込んで行きました。
その頃、フェアリートーン達はお家で休んでいるとハミィ達に伝えたまま、
密かに音符探しに励んでいました。
リオ・ザ・マイナー達がダンボールで作った(笑)偽の音符に惑わされ、
木の下に誘い込まれた所をケージに捕えられてしまうフェアリートーン達。
響たちを捕えるよりも、フェアリートーンを捕えた方が音符を一気に入手できるため、
バスドラ以下大いに喜びますが、ケージの隙間が大きすぎたため、
フェアリートーン達には難なく脱出されてしまう等、詰めの甘さが目立ちます。
それでも逃がさずと3体のフェアリートーンを捕まえるものの、
残りの4体の体当たりを喰らってあっさり取り逃がしてしまうマイナー達。
逃がした魚の大きさに、がっくりと肩を落としました。(あんたら弱ッ!)
黒板に大きく名前を書く事、大きな声でみんなに話す事、と
エレンに自己紹介のポイントを説明する響と奏。
その時、不意に響の耳にあの謎の声が聞こえてきました。
調べの館には他に音吉さんがいるだけで、声の主は
どこから聞こえて来たのか、誰のものなのか疑問は深まりますが、
再びエレンの自己紹介に話を戻します。
上手くやろうとするよりも、自分の事を伝えたいという気持ちが大事だと奏。
いつものエレンでいれば、みんなもエレンの事が好きになると響。
その夜、2人はエレンのために何やら刺繍をしています。
そしてエレンは鏡に向かって自己紹介の練習を繰り返し、
傍らのメモから響と奏の応援メッセージが見守る中、夏休み最後の夜は更けて行きました。
明けて新学期の最初の一日がやって来ます。
響と奏は通学路で前を行くエレンに合流すると、
振り返ったその目の下にはクマが出来ていました。
緊張で眠れなかったというエレンに、響と奏は昨晩刺繍したプレゼントを差し出します。
響からはハンカチが、奏からはペンケースが贈られ、いずれもエレンの名が刺繍されています。
2人からのお守り代わりのプレゼントを手にして、エレンの不安も吹き飛びました。
『私の心のビートは、もう止められないわ!』
そして3人、張り切って学校へと向かいます。
ところが心のビートは止められないどころか、いささか大きすぎたようでして(笑)
確かに大きな字で黒板に名前を書いたものの、あまりに大きすぎて
「黒川エレン」
最後のンが小さくなってしまったり、大声で始めた自己紹介も声が大きすぎて
みんなが耳を塞ぐ始末。字も声も控えめだった昨年の花咲さんとは見事に対照的です。
続けて巻物のように長いメモを広げてハミィの自己紹介そのままの内容を読み上げ、
『音楽の溢れるこの町が大好きで、この中学校に入る事がで来て嬉しいです』
ここは見事なアピールになったものの、昨日のアドバイスそのままに
ご挨拶代わりに本当に歌いだそうとするエレン。
必死に腕で×を作って止めようとしている響と奏の仕草を
応援していると受け止めて歌おうとした矢先、先生がやんわりと止めました。
珍妙な自己紹介だけでなく、その美貌がクラスメイト達の心をつかんだのでしょうか、
エレンの周りには響と奏が近寄れない程の人垣が出来ています。
和音を筆頭に質問攻めに遭う中、
「猫、特に黒猫が好きで、その理由は昔黒猫だったから」
「前に住んでいたのはマイナーランド、その前はメイジャーランドにいた」
など、珍妙な受け答えをしてしまうエレンに、響と奏は気が気ではありません。
都度、UFOが出た、私の家はカップケーキ屋さんなどと大声でアピールして
気を逸らそうとするものの、誰も聞いておらず徒労に終わる中、
エレンは響と奏からのプレゼントを握りしめ、不安を押し殺して切り出しました。
『私、みんなと仲良くなりたい!だから・・・その・・・よろしく、おねがい・・・』
ところが、そのままエレンの意識は遠のいてゆき・・・
気がついた時、エレンは保健室のベッドの上でした。
ただの寝不足で心配するには及びませんが、
エレンは自己紹介してみんなと仲良くなりたいと思っていたため、悔やみます。
しかし、その気持ちはしっかりクラスのみんなに届いていました。
響と奏が窓を開けると、そこには不安そうな顔をしたクラスメイト達が待っており、
皆エレンが緊張しているのを気づかずに質問攻めにした事を謝ります。
エレンもまた心配かけた事を謝り、これからも宜しくお願いしますと頬を染めて切り出しました。
あの長いメモを読み上げるよりも本心が伝わる言葉を受けて、
困った時はいつでも助けると相変わらずの義理堅さを持ち出す和音を筆頭に、
エレンを受け入れる雰囲気がクラスメイト達の間に広がって行きます。
その時、ハミィは保健室の救急箱に潜む音符を見つけました。
『あ!音符ニャ!』『あ!ホントニャ!』
いつの間にかハミィの背後にはマイナー達がいました。
バスドラによって救急箱をネガトーンと化し、逃げ惑うクラスメイト達。
大切な友達を怖がらせた事に憤ってエレンもベッドから起き上がり、
響と奏と共に変身体制に入ります。が・・・
モジューレに入ったフェアリートーン達が弱っているのを、3人は気づいていません。
カプセルや錠剤を打ち出す攻撃を掻い潜り、ネガトーンへ一撃を加える3人。
追い打ちをかけようとした矢先、ネガトーンの繰り出す包帯がリズムとメロディを捕え、
続けてビートも善戦空しく包帯に縛られてしまいました。
それでもビートは自力で包帯を断ち切り、
鋭いかかと落としを叩き込んでメロディとリズムを解放。
一気に決めるべく、それぞれベルティエとラブギターロッドを持ち出しますが、
ここに来てミリー、ファリー、ソリーがぐったりしている事に気づきました。
このままではミュージックロンドも、ハートフルビートロックも打ち出せません。
3人だけの力でなんとかすべく挑みかかるも、直後絆創膏に拘束されてしまい、
身動きが取れず窮地に陥ります。
その時、久々にミューズが支援に現れました。
あの鍵盤からの音色が絆創膏を、そしてネガトーンを包み込むと、
それぞれハーティエルアンクションのように弱体化。
その隙に絆創膏を断ち切り、約半年ぶりとなるパッショナートハーモニーでネガトーン撃退。
マイナー達も退散し、無事音符を回収して一件落着。
と思いきや、ハミィはドリーの中に音符が無い事に気が付きました。
マイナー達に音符を奪われてしまった事を打ち明けて謝るフェアリートーン達。
しかしハミィは気づいてあげられなかったことを逆に謝り、
メロディもまた、人知れず頑張っていたフェアリートーンを労います。
その時、メロディの耳に再びあの声が響きました。
ミューズと共にいるドドリーは、その声の主はクレッシェンドトーンだと推察します。
謎の声、クレッシェンドトーンは、ハミィと共に3人にメイジャーランドへ来るよう呼びかけ、
エレンにとっての未知の世界だった学校生活初日は一転、
響と奏にとって未知の世界となる、メイジャーランドの旅へと変わりました。
冒頭で挙げたとおり、途中から転校してくる普通の人間ではない者として、
満と薫やくるみ、せつなの転校初日のような展開になるかと思いきや、
良い意味で予想を外してくるところはさすがのスイートシリーズです。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、というハイスペックぶりを
初日から披露するのではなく、むしろつぼみが抱いていたような不安な心境を描き出し、
つぼみと正反対の「大きな字」「大きな声」でアピールする等、
エレンの個性とも合わせて安心して楽しめる一編となっていた事を評価したいです。
ところでエレンにとって、「黒川エレン」としては今回が初めての学校生活となりますが、
既に第8話で「北条サクラ」という仮の姿で学校に生徒として入り込んでおり、
厳密には今回が初めてではありません。
その第8話の時点と見比べてみると、この時もやたらと几帳面にメモを取り
的はずれな事まで書きとめていたりと、
根幹の部分では大きく変わっていない事が見受けられます。
今回のエレンはいくらなんでもセイレーン時代と比べて世間知らずに見えなくも無いですが、
良くも悪くも生真面目で几帳面という、素の性格が変わっていない事が興味深いです。
また、冒頭でカブトムシをおっかなびっくり触ろうとしたり、
響が謎の声を聴いた際、苦手な幽霊ではないかと怖がって見たり、
夏休みの間に見られたエレンの可愛らしさはそのままに描かれている中、
いざキュアビートとなった際には不慣れな学校でのオドオドとした態度からは一転、
メロディとリズムを助け出す際の凛々しさが際立ちました。
ビートとしての格好良さとは裏腹に、まだ見ぬ学校生活への不安を募らせたり、
知らない生徒達に囲まれて戸惑ったり、
それでも仲良くしたいけれどもどうした良いかわからなかったり、
転校生が抱いて当然ともいうべき繊細な心理を描いた事も良かったと思います。
エレンに助け船を出そうとする響と奏の珍妙なアクションや発言も楽しいのですが、
戸惑うエレンが都度、プレゼントにもらったハンカチとペンケースを握り、
まるで響と奏を拠り所にしているように見受けられるところが印象に残りました。
そして不安に苛まれるエレンを受け入れる、和音を筆頭とするクラスメイト達の姿勢も清々しく、
今後エレンは楽しい学校生活を送れるだろうという安心感が感じられます。
その意味で満と薫、くるみ、せつなの時にはさほど重きが置かれなかった、
他のクラスメイト達の関わりが描かれる事を期待したいです。
ブラック家族の伝統に反して宿題を終えている響や、
学校の年間行事を説明する際に妙に良いポジションを保っている奏など、
いわゆる「ブラック家族」「ホワイト家族」の立ち位置と異なる2人も目を惹きました。
奏が説明したこれらの学校行事にまつわるエピソードが描かれる事を期待したいです。
その中でも初代以来取り上げられた事の無い体育祭、
一度も取り上げられた事が無い遠足を見てみたいものです。
そして何より、本当に久々となるパッショナートハーモニーのラブラブっぷりがたまりません(笑)
パワーアップしたネガトーンに初期の技が通用するというのは、
ミューズの力によって弱らせている事と、2人のハーモニーパワーが高まっていると
考えれば自然ですので、またこの愛らしい技が見られる事も期待したいものです。
前々回からのフェアリートーンの姿勢に関してはやや不満ではありますが、
(響たちに心配をかけないためとはいえ、問題を隠ぺいするのはやはり良くありません)
その事を責めず、逆に気遣えるハミィと響の姿勢も好意的に捉えました。
ハミィはああ見えて案外度量の大きいところがあり、
「自称」ではなく本当にリーダーの素質があるように思えます。
対するマイナー達は、リーダーの交代制といえば聞こえが良いですが、
悪く言えば責任逃れでもあります。
こうした対比をそれとなく感じさせるところに、構成の妙を感じました。
エレンの学校生活スタートと思いきや、次回はどうやら販促回のようで、
こればかりはビジネスマーケットとしてのプリキュアを考えると仕方ありませんが・・・
せつなが転校して来た次の話でスイーツ王国へ向かったフレッシュと同じ流れに見えるのが
やや気がかりですが、上手にシリーズを進めていく流れになる事を信じたいと思います。