『おっはよう響。今日も健康的で良いですなぁ』
しょっぱなから響の肉球、もといほっぺたをプニプニする奏。
しかし今日は小テストがあり、響はせっかく昨日勉強しようとしたのに
ぐっすり寝てしまったため、元気がありません。
奏はもともと勉強が得意、エレンもバッチリだと聞いて、
一人知力レベルが置いてけぼりになるのを危惧した響は、
困った時のなんとやら、ヒーリングチェストに頼りました。ところが・・・
『そういう事は、自分の力で頑張るのです』
当然の如くあっさりとクレッシェンドトーンに断られ、肩を落とす響。
その一部始終を、うちわを手にしたファルセットが伺っていました。
ヒーリングチェストの報告を受けたメフィストは、
魔境の森から戻って来た事が信じられない様子です。
そんな恐ろしい場所なのかと茶化すバスドラに対し、
かつて恐ろしい目に遭った体験を語ろうとするメフィストですが、
肝心の「何が」起こったかが思い出せません。
決してマイナー達を焦らしているわけでは無く、
彼らが出撃して行った後、一人その時の事を思いだそうとしても、
恐ろしい目に遭ったという事は覚えていても、何が起きたのかは定かではありません。
メフィストの耳についている「洗脳装置」が鍵を握っていそうですが、果たして・・・?
今更教科書を読んでも焼け石に水。
それどころか上下逆さに読んでいる事すら気づかない程重症の響は、
ふと頼みの綱を思い出しました。
口笛を吹くと、直ちに駆けつける和音(おいおい)。
『和音、いつも言ってるよね?私が困ったら助けてあげるって』
『え、何?遂に私の力が必要な時が来たの来たの?』
妙に嬉しそうな和音かわいいよ和音事情を理解した和音は、昨晩あった不思議な話を切り出します。
昨晩ジョギングしていた折、まるで音楽のように犬の遠吠えが
重なり合って聞こえてきた事を、
咲並みの腕前の絵を交えて語る和音。
テストにどう関係があるのかと問われて、
あっけらかんと「無いよ」と言い切るその真意は、響を元気づけるためのものでした。
ちなみに和音の学力もダメな意味で響に負けず劣らずであり、
改めて響は己の判断ミスに気づきました。
『もう響ったらおっちょこちょい!』『ごめんちゃい♪』
おでこを突っついてじゃれ合った後、
和音は爽やかな一陣の風が通り過ぎたように去って行きました。
そしてチャイムが鳴り、結局テスト対策が何も出来なかった事を嘆く響。後の祭りです。
階段の踊り場でどよーんとしている響。テストの結果は聞くまでもなさそうです。
奏とエレンの結果は当然、響には眩しくて正視できない点数で、
さらなる衝撃が響を襲いました(笑)
テストは今回だけではないと慰める奏に続き、
エレンも中間、期末、実力テスト、そして来年は受験と、続く試験を例に挙げますが、
それは響にとって傷口に塩を揉みこむようなものです。
とりあえず次の体育で気分を変えようと、
肩を落としたまま力なく立ち上がる響が階段に足を踏み出すと、
まるでピアノの音色のような音がします。
一段毎に異なる音程が鳴り、楽しそうに階段でステップを踏む響。
フェアリートーンの力だと納得して一足先に体育館へと向かいますが、
フェアリートーンは実際何もしていませんでした。
そして奏が階段に足をかけても先ほどの音は鳴りません。
張り切って体育に臨む響。ところが・・・
『体育は響の唯一得意な授業だしね』
奏の何気ない一言で再びがっくりと来ました。
『そう。わたしゃ体育以外は全てだめ・・・』
自嘲気味に乾いた笑いを漏らす響の目には、光るものがありました。
慌てて謝る奏。丁度体育の授業が始まろうとしています。
ゲキドラーゴみたいな体型の先生が呼子を吹くと、
笛の音ではなく、鳴り響くのはチャルメラの音。
笑いに包まれる体育館の中で、落ち込んでいた響も一緒に笑い出しました。
お昼休み、奏も響を元気づけようと卵焼きを差し出します。
相変わらずのラブラブっぷりに見ているこちらが満腹になりそうな中、
フェアリートーンも空腹を訴え、まるで
フラッピとチョッピの
お世話を思い出させる展開になって来ました。
ヒーリングチェストでお世話をするというものの、詳しいやり方はわかりません。それでも
『ヒーリングチェストだけに、フィーリングで』出来そうな気がすると、
エレンは再び『フィーリングで!』大事な事なので2回言いました。
フェアリートーンを収めて鍵盤を鳴らし、無事にお世話終了、
新商品の使い方アピールも、無事にうまく行きました。
階段での出来事や笛の事を話題にしての下校中、
響はテストの不出来を奏太にもからかわれます。
さらに自業自得だと追い打ちをかけるアコを前に、涙目になる響。
このままでは響の心の花が枯れてしまいそうです。
ところがアコが足を踏み出した折、突如石畳からシンバルを叩く音がしました。
奏太と響に笑われて、真っ赤になりながらもぐぬぬと耐え、
シンバルの音を鳴らしながら帰って行くアコの姿に、
いつの間にか響は自然に笑みがこぼれています。
そして音の事といえば、音吉さんなら何かわかるかもしれないと考えました。
調べの館には優美なオルガンの音色が満ちています。
音吉さんが弾いているのかと思いきや、よく見ると鍵盤が勝手に動いており
お化けが苦手なエレンはすっかりガクブル状態。
そして口の中のセイレーン(笑)と共に悲鳴を上げて駆け回り、
オルガンの調べに耳を傾けていた音吉さんにすがりつきました。
音吉さんはこの現象を前にしても平然としており、
音の源の精霊が近くにいると察して声をかけます。
『あなたの力ですね?クレッシェンドトーン』『元気そうですね。音吉』
2人が顔見知りと知って驚く響たち。
クレッシェンドトーンと音吉さんは、何かに「間に合わせる」と
後々大きな意味を持ちそうな会話を続けますが、それはまた別の話となりました。
奏は今日の不思議な音の現象の数々はクレッシェンドトーンの力だと理解します。
和音の言っていた犬の遠吠えも、響を元気づけたいと気遣ったクレッシェンドトーンが、
楽しい音で応援したいがための事でした。
頑張る人や落ち込んでいる人を応援したい。
クレッシェンドトーンの望む事は、ただそれだけです。
ぐずる赤ん坊のために、木々のざわめきを鈴が転がるような音色に変えたり、
キャッチボールで些細ないざこざを始める子供たちのために、
ボールを受ける音をピンポーン!というチャイム音にしたり、
都度赤ん坊は泣きやみ、子供たちは面白がって、
音の力で辺りは笑顔に包まれて行きます。
響は何度も励ましてもらったのにいつまでも落ち込んでいた事を詫び、
太陽に答案をかざして次のテストで絶対に頑張ると誓いました。
と、その答案に音符が潜んでおり、例の如くハミィの先手をとってマイナー登場。
『音符ニャ!ハモったニャ!』(あんたら・・・)
ヒーリングチェストを奪い取ろうと、響の答案をネガトーン化しようとします。
恥ずかしい点数を見られないよう抗う響ですが、
力及ばず、答案を奪われてネガトーンにされました。
『みんなを笑顔にしてくれたヒーリングチェスト。絶対渡さない!』
珍しく「絶対に許さない」以外の口上で、変身する3人。
いざ戦闘開始!と思いきや、3人はクイズ番組の回答席のようなところに立っています。
『ネガトーンテスト!次の問題に答えなさい!』
ネガトーンが普通に喋るとは、かつてセイレーンとしてネガトーンを操っていた
ビートも知らなかったようですが、早速プリキュア達に問題が出題されます。
『キュアリズムに問題!白は英語で?』『キュアビートに問題!青は英語で?』
マイナー達にも予想外の展開の中、そんなに難しくない問題を難なく答える2人。
続けてメロディに問題が出されました。
『キュアメロディに問題!ピンクは日本語で?』『ピンク!』
引っ掛け問題にかかってしまい、不正解となったメロディを、
×の字が飛んできて吹き飛ばします。
『そういうルールなんだ・・・』『面倒くさい奴』『あんたが出したネガトーンでしょ』
リズムやビートに問題を出そうとするネガトーンに対し、
呆れ気味だったバスドラはメロディを集中狙いするよう指示を出します。
『100は英語で?』
答えられずに攻撃を喰らうメロディに、1,000は?1万は?1億は?
次々と問題が畳み掛けられ、その度にメロディを×の字が襲います。
しかし、メロディはわからない事を認めながらも、次までには勉強すると立ち上がります。
『私を励ましてくれたみんなを裏切りたくない。みんなを笑顔に出来るように、
次こそ頑張って絶対答えてみせる。それが今の私の答えだよ!』
その答えを聞いたクレッシェンドトーンは、花丸だと評価して力を貸しました。
『分からない事は誰にでもあります。
だからこそ分かろうと努力するその心が大切なのです』
メロディが言われるがままにヒーリングチェストの鍵盤をなぞると、
虹色に輝く鍵盤が伸びて行きました。
その上を飛ぶメロディに、羽根を広げたクレッシェンドトーンが重なり、
天空×字拳再び、プリキュア・シューティングスターのように突っ込んでゆくメロディ。
しかし今の段階ではその能力を使いこなせず、あえなくはじき出されてしまいました。
『なんだか分からんが、今がアタックのチャーンス!』(嗚呼、児玉清さん・・・)
その隙にネガトーンをけしかけようとするマイナー達を、
今度はこちらが問題を出す番だと制するリズム。
何だかんだ言ってマイナー達も眼鏡をかけて受けて立つ等、やる気満々です。
『テレビの前のみんなも一緒に考えてみてね』
未だかつてプリキュアがテレビの前のお友達に呼びかけた事があったでしょうか。
いや、無い(と思います)
『今から出てくる』『この技の名前は』『なーんだ!』
技の構えを取る3人を前に、マイナー達は自信満々に回答します。
『ミラクルベルティエ!』『ファンタスティックベルティエ!』『ラブギターロッド!』
答え合わせと称して、そのままハートフルビートロックとミュージックロンドを繰り出す3人。
マイナー達はずるいとわめきながら逃げ出し、
ネガトーンは逃げ切れずにそのまま攻撃を喰らいました。そして、フィナーレ。
元に戻った答案をすかさず回収し、恥ずかしそうに音符を差し出すメロディ。
マイナー達が答えたのは、技ではなくアイテムの名前で不正解です。
いつもの捨て台詞を残してマイナー達もまた撤退して行きました。
せっかくクレッシェンドトーンが力を貸してくれたのに、
応えられなかった事を残念に思う響。しかし、くよくよしてはいません。
次に頑張ればいい。次こそ絶対。
3人とも、クレッシェンドトーンの力に応えてみせると夕陽に誓いました。
まず、こんなに面白い一編を見る事が出来て、今日は朝から幸せな気分になりました。
日曜の朝、おそらくご家族と一緒に楽しむ作品としては最適な一編でしょう。
シリアスな展開も、ストーリーの謎に迫る展開も、もちろん私は大好きです。
しかし、見事にギャグ尽くしの描写でありながら、
響、奏、エレン、ハミィは言うに及ばず、トリオ・ザ・マイナーの面々やメフィスト、
脇を固める和音、アコ、奏太、音吉さんはおろか、
ほんのチョイ役の無戸君に至るまで個性を殺さずに上手に活かし、
ギャグも決して空回りしていないという作りの見事さには舌を巻きました。
プリキュアシリーズに傑作は数あれど、この方向性で傑作と評せる作品は珍しいです。
予想の斜め上を行く戦闘シーン(と呼ぶべきか微妙ですが)は
ウエスターさんと河川敷で野球対決した展開を思い出します。
あの時と同様、ここまで脱線しながらもネガトーンVSプリキュアという図式があるため、
ちゃんとプリキュアのアクションパートとして見る事が出来るのが流石です。
それでいて決してギャグ一色ではなく、
クレッシェンドトーンが音の力でもたらす小さな幸せであったり、
響を励まそうとする和音や奏の心遣いであったり、
そして響がしっかりと次に向けて前を向いている姿を描いている点が見事でした。
今回はいっそのこと、終始ハチャメチャで行っても許されたかもしれません。
しかしハメを外さずに引き締めるところは引き締め、
教訓となるべきところを絡めながら、メフィストや音吉さん関係では少しだけ話を進める、
一つのエピソードの設計が実に優れています。
しかもヒーリングチェストの販促活動についても抜かり無く、
ベタ褒めかもしれませんが、完璧と言っても良いかもしれません。
クレッシェンドトーンが響に対して行ったのはささやかな事ですが、
テスト前夜の不安であったり、燦々たる結果に終わっていたり、
体育だけが取り柄と言われていたりと、その前では必ず響が落ち込んでいました。
そして和音が持ち出した話も、奏が提示した卵焼きも目的は同じ、
響を元気づけたいという一心です。
エレンだけは響を励ます具体的な行動がありませんが、
こうした思いが根底に流れている以上、はっきりと描かれておらずとも、
エレンも同じ気持ちだという事は明白です。
みんなの気持ちとクレッシェンドトーンの気持ちを悟ってから、
響は次に頑張ればいいという答えを導きだします。
これは見方によっては次へ次へとズルズル引き伸ばしてしまう危険性を孕んでいますが、
今回の響からはそのような危うさは微塵も感じられません。
人の期待を裏切るような事はしない。
これは響だけでなく、奏にもエレンにも言える事でしょう。
それがわかっているからこそ、次に頑張るという台詞が前向きなものに聞こえてきます。
それにしても響といちゃつく和音といい、むくれて真っ赤になるアコといい、
卵焼きを「あーん」してあげる奏との「ひびかな」っぷりといい、
勝手に動く鍵盤を見て怯えて涙目になるエレンといい、可愛すぎてたまりません。
中でもネガトーン撃退後、答案をさっさと回収して
恥ずかしそうに音符を差し出すメロディは反則級の可愛さでした。
和音ファンの私にとっては、予想外のキャラクターになった事に少し驚きましたが、
これによって和音というキャラクターが血の通ったものに感じられて満足しています。
それ以外にも響の想像上の「インテリジェント棒グラフ」や、
体育の際の落ち込みぶりのギャグマンガ風描写、
コブラージャさんくらいしか前例が思い当らない「テレビの前」への呼びかけ、
ここですべてを上げきれない小ネタの数々など、
おもちゃ箱のような賑やかさがありながら隙の無い一編として、
今回はスイートのシリーズを語る上で欠かせない一編となる事でしょう。