夕暮れの調べの館に、ショパンを思わせる旋律が流れてます。
演奏しているのは響。今度の日曜、コンクールに出場を決めた響は
エレンの指導の下、ここまで上達しました。
ところが響はコンクールに出る事を団パパには話していません。
黙って出場して後でびっくりさせようという魂胆のようですが、
帰宅した響は団パパが急遽審査員を務める事になったと聞いて絶句しました。
団パパは何も知らないように響にコンクールの参加を勧めますが、
響は想定外の事態にすっかり戸惑って、全力でその誘いを拒みました。
次の日曜は奏にとってもスイーツコンクールに挑戦する日です。
奏は家庭科室でたくさんの試作品を作りますが、
いつもなら目の色変えて飛びついてくる響は上の空。
奏は響にやや強引にカップケーキを試食させた後、
次の日曜は夢への第一歩だと喝を入れます。
『私はパティシエ、響はピアニスト。それぞれの夢に向かって頑張るんだからね!』
それでも響は気が乗らないまま、コンクールに出たくないとまで言い始めます。
団パパが審査員を務める前では緊張して良い演奏が出来ないと考えるだけでなく、
昔のように「本当の音楽を奏でていない」と酷評されるのではないかと恐れていました。
奏はあれこれ考えて弱気になっている響に喝を入れます。
『ぜんぜんらしくない。誰が審査員だろうと夢のために頑張る。それがいつもの響でしょ?』
しかし頭では分かっていても、響のモチベーションは上がりません。
ため息をつきながら家路につく響の前に、突如仮面怪人が現れます。
言うまでも無くそれは奏太で、図工の授業で作ったと言う仮面を被り、
正義のヒーロー、太陽マンだとノリノリですが、
どう見ても日輪仮面です。本当にありがとうございました。
しかし響は「変身」にヒントを得て妙案を閃きます。
奏が店番を務めるラッキースプーンに、突如派手な衣装の不審な女性客が来店します。
女性客は奏に不審な目で見られて焦り、
店を出ようとしたところスカートの裾を踏んで転倒。
言うまでも無くそれは響で、変装してコンクールに出ようと考えた上での行動でした。
気づかれなければ公平に審査してもらえると弁解する響に、
奏はそういう問題ではないと諭します。
響の夢を一番応援している筈の北条先生ときちんと向き合わなければ
夢から逃げる事になってしまうと語り、一緒に頑張ろうと持ちかけました。
そして奏もカップケーキを教えてくれたのは奏介パパだと、
将来パティシエになって一緒に店を手伝うと言う夢を語ります。
しかし響は、団パパのためにピアニストになりたいわけでは無いと
未だ心が決まりません。
翌日にコンクールを控えているにもかかわらず、響の演奏は今ひとつ。
『あなたは大事な事から逃げてると思う』
演奏にダメ出しをしたエレンは、響と奏が明確な夢を持っている事、
さらにお父さんが応援してくれている事を羨ましいと感じていました。
そしてエレンもまた、本気でピアニストを目指すならば
きちんと向き合うべきだと諭します。
その夜、響はまりあママに相談してみると、
もうその答えに気づいている筈だと、なぜピアニストになりたいのかを
もう一度良く考えてみるよう言い含めました。
そして奏も、奏介パパに店を始めたきっかけを尋ねています。
『パパの作ったカップケーキを食べておいしいって言ってくれる人がいたからかな』
それは美空ママのためだけではありません。
そして奏介パパは、奏はもうその答えに気づいているとした上で、
なぜパティシエになりたいのかを問い返します。
同じ頃、エレンは月を見上げて溜息をついていました。
『溜息を一つ付くと、幸せが一つ逃げていく』
そう声をかける音吉さんに、エレンは響と奏には夢があるのに、
自分には夢が無いと打ち明け、自分の夢とは何なのか自問します。
『未来が見えなかったら、今を見つめればいい。
お前さんが夢中になれる事は、どんな時に幸せを感じ、
どんな人と喜びを分かち合いたいのか、その先にお前さんの夢がある』
音吉さんもまたエレンが答えを知っているとした上で、そう諭しました。
一方、こちらは罵声が轟いています。
メフィストはトリオ・ザ・マイナー達に愛想が尽きたと言い放ち、
今度プリキュアを倒せなければ用済みだと最後通告をしました。
バリトンとファルセットはさほど深刻に受け止めては居ませんが、
バスドラはメフィストが本気で怒っていると察し、危機感を募らせます。
コンクール当日。
楽屋で変装に使ったカツラを前にため息をつく響に、
奏はコンクールの前に渡したいと、響専用巨大カップケーキをプレゼントします。
思わず目を輝かせる響の反応を見て、それが私の夢だと言う奏。
父のためではなく、カップケーキで誰かを笑顔にしたいと夢見た事が
奏のパティシエの夢への原点であり、昨日響に言われて気づいた事でした。
それを聞いて響は自分の頬を叩き、大事な事を思い出しました。
響も奏と同様、ピアノで誰かを笑顔にしたいという想いは同じです。
それが自分の夢だと改めて自覚した響には、もう迷いはありません。
『もし失敗してパパに才能が無いって言われたらって、そればっかり考えてた。
でも、逃げるのはもう終わり。ここで決めなきゃ女がすたる!』
審査員席の団パパだけでなく、客席全体に向けて響の演奏がいざ始まります。
しかし、丁度その頃マイナー達が会場付近に現れ、
2人の夢をブチ壊すべくトランペットのモニュメントをネガトーン化。
2人の夢を守るため、エレンは単身変身して立ち向かいます。
早々にネガトーンの右腕に押し潰されても、
今演奏している響の事を想うと負けるわけには行きません。
『負けない。メロディとリズムが居なくたって、負けない!』
腕を持ち上げて投げ飛ばし、襲い来る弾を蹴り返して猛攻を畳み掛ける等、
ビートは初戦闘時を髣髴とさせる、堂々たる戦いぶりを見せます。
しかし隙を突かれて激しく階段に叩きつけられてしまい、
それでも響と奏の夢を壊させないために、力を振り絞って立ち上がります。
沢山の人を笑顔にするという、響と奏の夢。
そのかけがえのない夢を守る事が、ビートの、エレンの夢。
そう宣言して再び立ち向かおうとした矢先、
ビートは階段の破片に足を取られて転倒してしまい、
すかさずネガトーンの留めの一撃が迫ります。
間一髪のその時、メロディとリズムがその攻撃を打ち払いました。
2人ともコンクールはバッチリ終え、
今度は私たちがビートを守る番だと反撃に転じます。
3人の動きはぴったりで、互いに攻撃し、守り合いながらネガトーンを圧倒。
そのままクレッシェンドトーンと共に
スイートセッションアンサンブルでネガトーンを撃退しました。
みんなの夢を守りたいという心が大いなる力を生んだ結果です。
コンクールも終わり、奏は盾を、響はトロフィーを手にしました。
団パパからトロフィーを渡されて、響はちょっと照れたような笑顔を浮かべます。
そして家へ帰る前、改めて団パパにコンクールに出る事を
黙っていた事を謝りますが、団パパはちゃんと知っていました。
『よく頑張ったね。響の演奏、とても心に響いたよ』
響の頭に優しく手を添えて、そう褒めてくれる団パパの反応は
あの時以来響が心待ちにしていたものだったのでしょう。
響の目に思わず涙が浮かびます。
そして子供の頃みたいにピアノを教えて欲しいと、
沢山の人に感動を届けたいと、響は子供のような純粋な笑顔でお願いしました。
『Gern!』
相変わらずのドイツ語ながら、笑顔で快諾する団パパ。
奏とエレンも加わり、これからコンクールの打ち上げパーティです。
その響と団パパのやり取りを、ミューズは複雑そうな目で見守っていました。
ドドリーもどこかミューズの反応に戸惑っているようです。
ミューズは気が付いた響たちに背を向けて、
『私にも守りたいものがあるドド』
取ってつけたようなドドリーの言葉と共に立ち去りました。
守りたいものとは、一体・・・?
そしてついにメフィストもしびれを切らし、自ら人間界へ赴く決意を固めました。
不穏な前途を象徴するように、しきりに落ちる稲妻がメフィストの姿を照らし出します。
私は丁度プリキュア5GoGoを並行視聴していた事もあり、
夢に対する姿勢の描き方についてどう料理するのか楽しみにしていました。
個人的には今回は大いに期待に応えてくれたどころか、
期待を上回る内容で満足しています。
夢を語らせるエピソードに於いて、父親の存在が大きく描かれるのは
他ではブッキーのお父さんくらいでした。
それが一転今回では、エレンに対する音吉さんを父のような立ち位置に据える事で、
3人それぞれが父親との関わりと共に夢とは何かを見つめなおします。
そしてこのタイミングで「父と娘」をクローズアップしている事は
ミューズとメフィストにも何らかの影響がありそうですが・・・?
それは次回以降の展開で見届ける事にします。
さて、
第3話で描かれた響のトラウマというか、
団パパへのわだかまりが未だ解消されていない事を巧みに利用した構成が見事です。
「パパの前では緊張して良い演奏が出来ない」
「また音楽を奏でていないと言われるかもしれない」
この考えのまま出場したとすれば、
団パパからは確実に
第3話で言われたような酷評を受けた事でしょう。
冒頭、内緒でコンクールに出るとエレンに弁解していますが、
父の前で演奏する事からは意図的に目を逸らしていた筈で、
このまま父の知らぬ間にコンクールに出てしまおうと考えていたと思います。
自信を持てずに他人の顔色を伺っていては、
おそらく結果は出なかったと思いますし、響のためにもなりません。
あえて厳しめに喝を入れる奏も、演奏にダメ出しをするエレンも、
言っている事は団パパと同じです。
にもかかわらず響が団パパの反応を恐れ、気にし続けているのは
父に正面切って向かい合えていない自信の無さの表れでしょう。
響は各種スポーツで張り切る姿や、
ここ最近では戦いの主導権を握るようなリーダーシップを見せています。
その反面、最近はあまり触れられていませんが、
なぎさに通じるような繊細な一面がありました。
なぎさは藤P絡み、響は父絡みと対象は異なるものの、
いずれも相手に対して素直になれないと言う点では共通しています。
今回ようやく父に素直になれた響を見ていると、
こちらも団パパに対する見方が変わったように感じられました。
団パパもずっと娘が声をかけてくれる事を待ち望んでいたようで、
響に向ける優しい笑顔に、大きな安心感を覚えました。
肝心なところでドイツ語が出るのも、照れ隠しだったのかもしれません。
「パパのためにピアニストになる訳じゃない」という響の発言は
普通ならネガティブなものとして受け止められます。
しかし、逆にこれを肯定的に捉えて自分の夢の原点を見つめなおす奏の姿に、
物の観方は一方だけではない事を改めて認識させられました。
そもそも奏の夢に対する答えは、今回ラッキースプーンの店番をしている時、
子供相手に接客している時の姿勢で既に出ています。
ケーキを手にした子供の嬉しそうな表情と、そこに目線を合わせて接する奏。
そして適切なアドバイスを送りながらも、真に考えるべきところは考えさせる奏介パパ。
今回は響がメインではありますが、奏を取り巻く状況もしっかりと描かれていました。
今回エレンが抱いた夢がある2人を羨むという姿勢は、
かつてなぎさやのぞみが通った道です。
しかし若いうちから明確な目標があるのは良い事ですが、
若いからこそ可能性が多岐に渡るものですので、
今を見つめた先に未来があるという音吉さんの発言も的確な道標と言えるでしょう。
なぎさは本編中で将来の明確な夢は描かれませんでしたが、
それでも
夢が無い事を思い悩むという事態を克服し、
のぞみはみんなと比べて答えが出るのが遅かったものの、
教師という当初は考えられなかった夢を見つけ出しました。
エレンは再びメイジャーランドの歌姫として返り咲くのか、
それとも全く新しい道を見つけ出すのかはわかりません。
今は2人を応援する事が夢かもしれませんが、
そのうちに彼女自身がどうしたいかを見出せるものと確信させられます。
いずれにしても3人とも大人がちょっとだけヒントを出して、
響、奏、エレン本人で回答を出させるという姿勢が、
子供たちの成長を願う大人の振る舞いのようで印象的でした。
また今回はアクションパートにも力が入っており、
久々のビート単独の戦いぶりの格好良さが際立っていました。
ビートが存分に動いた後、メロディとリズムが救援に現れる様は
満を持してという貫録すら伺え、
3人同時のアクションパートは短いながらも密度が濃く迫力もありました。
そして響と奏のいわゆる「ひびかな」展開(笑)
家庭科室での試食させるシーンでは初期のバカップルぶりを髣髴とさせ、
本番前の響にプレゼントした巨大カップケーキに刺さっていた2本のポッキーは
まさかポッキーゲームでもするつもりだったのかと勘ぐってしまいました(苦笑)
前回のマイナー達の女装に続く、響のとんでもない変装ネタなど、
安定して楽しめる一編だったと思います。
マイナー達といえば、最後通告を受けてもやや危機感が無いのが気がかりですが、
メフィスト登場による物語の急展開と、
ミューズの行動やアコの描写が気になる予告といい、
脂が乗ってきたスイートのシリーズの今後の展開が本当に楽しみになって来ました。