前回のミューズの行動と、音符が奪われた事が気がかりで
響の部屋に集まる皆の表情は暗く、強風が窓を揺らします。
エレンはミューズの行動には事情があるのではないかと、
かつての自分を例に挙げますが、ミューズは操られているようには見えません。
何か別の理由があるのではないかと推察しました。
『ミューズがメフィストを守りたい気持ちは分かるドド。
でもこのままじゃ他のプリキュアはミューズを敵だと思うドド。
それでもいいドド?もう正直に全てを話したほうがいいドド』
暗い空の下、ドドリーの忠告を聞くミューズ。
仮面の下の瞳は、苦悩の色を隠しきれません。
場面は変わってメイジャーランド。
自ら人間界へ赴こうとするアフロディテを引き留めるのは、なんと音吉さんです。
なぜあなたがここに?と思う我々を他所に、
アフロディテは当然のように音吉さんと言葉を交わします。
ミューズはプリキュアとしての使命を忘れていると指摘し、
これ以上悩ませるわけには行かないと言うアフロディテを、
音吉さんはプリキュアを信じて任せるべきだと止めました。
そしてマイナーランドでは、
前回入手した音符を伝説の楽譜へ転写し、
遂に不幸のメロディ完成、と思いきや、まだ音符が足りません。
メフィストはトリオ・ザ・マイナー達を怒鳴りつけ、音符探しへと向かわせました。
再び、響の部屋。
目を覚ましたクレッシェンドトーンに、響達は問います。
ミューズの真意、そして彼女が再びメフィストを庇うなら、
私達はミューズとも戦わなければならないのか・・・?
クレッシェンドトーンはその問いには答えず、逆に響たちにどう思うか問い返します。
『私は、プリキュア同士で戦うなんて絶対に嫌です!』
即答する響に、クレッシェンドトーンはプリキュアは何のために戦っているのか考え、
そして答えは自分達だけで出すよう諭しました。
調べの館のオルガンを前にした音吉さんは、何かの気配を察しました。
物陰から出てきたドドリーに、言い含めるように語りかけます。
『誰にだって守りたい人はおるじゃろう?その人を守るためならどんな犠牲も払う。
例えそのせいで、一緒に戦うべき仲間を失ったとしても』
その上で、本当に守るとはどういう事なのか、それとなく念を押します。
『どうすればその人を本当に守る事が出来るのか。
その答えは自分自身で探すしかないんじゃ』
そうドドリーに、否、物陰に潜むミューズに向けて言い含めました。
さて、音符を求めて出動したマイナー達はと言えば、
音符の匂いを嗅ぎ取るどころか、たこ焼きの匂いにつられる始末。
駄目だこいつら・・・早く何とかしないと・・・
『こんなところをメフィスト様に見られたら』
一応バスドラだけは多少自重してバリトン、ファルセットを諌めようとしますが、
『もう見ておるわ!』
既にメフィスト本人が立ちふさがり、3人を睨みつけています。
音符が全く集まっていない事に怒りを露にして、
彼らには楽譜の見張りを命じて追い返すメフィスト。
町中に目を凝らし、からくり時計に潜む音符を見つけ出してネガトーンと化しました。
街の人々を悲しみの音波が襲い、町中に潜む音符がネガトーンに引き寄せられ、
その度にネガトーンの身体が大きくなり、さらなる凶悪な音波が街を襲う。
恐ろしい悪循環をもたらしたメフィストの高笑いが響く中、
ミューズは苦しむ人々の姿を目の当たりにしました。
先日メフィストを助けたがために、人々が苦しむ羽目になっている、
これがミューズの望んでいた事なのかとドドリーに問い詰められ、
ミューズは瞳を苦悩に滲ませ、拳を固く握りしめます。
メフィストを本当に守るにはどうするかを決めるのはミューズだと説くドドリー。
しかし、ミューズは動けません。子供の泣き叫ぶ声が、突き刺さります。
ようやく現場に駆けつけた響達は、ネガトーンと共にメフィストがいるのを見て、
もしもミューズがメフィストを庇うような事があればどうするか、一瞬躊躇します。
『それでもネガトーンは倒さなきゃ』
しかし、響の言葉に顔を見合わせ、自分達の力でみんなを守るべく変身。
プリキュアを追い込んでいくと思いきや、反撃に遭うネガトーンを、
メフィストは手ぬるいと一蹴。更なる悪の心を送り込んで強化します。
その様を見て、
ビートはかつてセイレーンだった頃、
ハミィを想う心を取り戻しかけた際に、ヘッドホンから鳴り響く悪のノイズによって
心を悪に染められた事を思い出しました。
そのヘッドフォンがメフィストの耳にも付いているという事は・・・?
メロディはメフィストも何者かに操られているのではないかと気づきました。
メフィストを操る更なる悪こそが本当の敵であり、
ミューズはその事を知っていたとすれば・・・
「私は誰の味方でも無い」「私はまだ仲間にはなれない」これまでの発言の意味を知り、悪に操られているメフィストと戦うべきか、
ずっと苦しんでいたのかもしれないと、ミューズの心境を想う3人。
ミューズは未だ、ネガトーンに追い込まれて行くメロディ達を
見下ろす事しかできません。
しかし、路地裏に逃げ込んだ3人の、特にメロディの発言を聞いて息を飲みました。
『私はメフィストと戦うわけじゃない。私達はメフィストを操る悪の心と戦うの。
プリキュアが何のために戦っているのか。私は、全ての人の幸せを守るためだと思う』
メフィストが相手であっても、彼を操る悪の心と戦う事が
メフィストの幸せを守る事になると言うメロディに、リズムもビートも同意します。
身を潜めていた路地から飛び出し、ネガトーンの前へと躍り出て、
スイートセッションアンサンブルを放ちネガトーンを撃退しました。
無事に音符も回収し、喜ぶハミィ。しかし無警戒が仇となり、
その背後に忍び寄るメフィストにあっさりと音符を奪い取られます。
さらにメフィストは奪った音符をもとに、自らをネガトーンへと化しました。
操られているメフィスト本人と戦う事に若干躊躇するも、
悪の心を打ち消せば元に戻る筈だと戦う意思を固める3人。
しかし流石はマイナーランドの王を名乗るだけあります。
ネガトーン化によってパワーアップした拳はビートバリアを簡単に打ち破り、
無数の光弾がプリキュア達を襲います。
3人を追い込み、高笑いするメフィスト。そして、見下ろすミューズ。
それでも決して3人は逃げません。
『正々堂々と戦って、悪の心を打ち消してみせる!!』
メロディの言葉に、ミューズは息を飲むと同時に思わず声が漏れました。
3人にメフィストの拳の一撃が、今振るわれようとしています。
その時、プリキュア達の前にミューズが立ちはだかりました。
前回とは逆の構図に、拳を寸止めするメフィスト。
そしてミューズが遂に自分の言葉を放つ時が来ました。
『もうやめて、パパ!』
切実な訴えを聞いて、はっとするメフィスト、
メフィストとミューズが父娘だという事実に愕然とするメロディ達。
厚い雲の合間から差し込む陽の光の下、
ミューズは仮面と黒い衣装を脱ぎ捨てました。
その下から現れるのは今までのクールな姿と裏腹に、黄色を基調とした小柄で愛らしい姿。
その見覚えのある顔に皆が息を飲む中、メフィストの口から意外な名前が出ました。
『お前は・・・アコ・・・?』
『パパ、もう目を覚まして。これ以上パパに悪いことをして欲しくないの!
お願い!優しかったあの頃のパパに戻って』
切々に訴える声に、次第にメフィストの表情に戸惑いが生まれます。
『私は例え悪に操られているパパでも守りたかった。
でも、みんなが大切な事を教えてくれたの。
私がパパを守りたいと思うなら、パパを操る悪の心とも戦わなければならない。
例えそれが、どんな辛い戦いになっても、乗り越えなければならない・・・』
瞳に涙を浮かべながら、ミューズは父に向かって構えを取ります。
悲しくも美しい、凛とした表情で―
『それが、パパを本当に守ると言うことだから』
『アコ・・・』
そこにいるのはマイナーランドの王メフィストではなく、紛れもない父親の姿でした。
ところが娘に手を差し伸べようとした矢先、メフィストを容赦なく悪のノイズが襲います。
『来るな!来てはならん!』
苦しむ父に駆け寄ろうとする娘を制し、空の彼方へと連れ去られるメフィスト。
父を引き止められなかったミューズ、ミューズの苦しみを理解したメロディたち。
厚い雲から覗く光は輝きを増すものの、彼女たちの心は晴れません。
罪を憎んで人を憎まず。
プリキュアシリーズに於いて、この言葉は
ラブがイース様と決着をつける際、
迷いを吹っ切るものとして効果的に用いられていました。
今回、まさにこの言葉がふさわしく思われます。
憎むべきはメフィストという人物そのものでなく、メフィストを操る者という点も、
音楽の善悪は長調や短調などではなく、奏でる者によって変わってくるという
この作品らしい切り口だと感じました。
アクション面がやや物足りない気がしたものの、
伏線を巧みに解消する事でストーリーを彩り、
かつ戦う意味を考えさせる良作だったと思います。
音楽だけでなく、このシリーズでは響と団パパによる「父と娘」が鍵になっており、
それが今回にも十分に活用されています。
ミューズが正体を隠していたのはストーリー上の都合というのも大きいですが、
父と正面から向かい合えていない事を暗に示しているように思えます。
メフィストの所業に胸を痛めつつも、これまでは仮面を通じて目を背けており、
仮面を脱ぎ捨てる事で初めて父と正面から向かい合えたような気がしました。
何より今回、きっかけになるのが響=メロディの言葉の数々というのが大きいです。
つい2週前まで父と向き合う事ができなかった響が、
迷うことなく「正々堂々と」ぶつかる事を宣言する。
何にでも真っ直ぐ正直に向き合う事が出来るように成長した証とも取れました。
ただ、メフィストが操られている事を推察するのはリズムの役目でも良さそうですが・・・
明晰な頭脳という設定が、あまり活きていないのが少々残念な気もします。
音吉さん、クレッシェンドトーンの発言では、
大人が子供の事に口を出しすぎず、それでいて突き放す事も無く、
最低限の助言を与えて考えさせるという姿勢が好印象でした。
その一方、アフロディテ自らが赴こうとする際の描写は
過剰に干渉している大人を皮肉っているようで、
さらにミューズの事をプリキュアの使命を忘れたなどと評する等、
実は彼女は何も解っていないのではないかと妙な事を感じさせます。
果たしてこの人は本当に善玉なのか、イマイチ疑わしいのですが・・・
元のメフィストが良い人となると、メフィスト=ザラストロ、アフロディテ=夜の女王と、
ますますモーツァルトの「魔笛」がダブって見えます。
さて、そのメフィストは普段がひょうきんなおじさんであるがために、
敵の頭目であっても今一つ貫録に欠けていました。
ところが今回のミューズを前にした表情や、
悪のノイズに苦しみながらも娘を近づけようとしなかった姿からは、
素の性格は高潔な人物であり、良き父である事が伺えます。
これまでの情けない姿が目に付くだけに、
かえって今回のミューズを前にして以降の表情や仕草が際立っていました。
もっとも、予告の「きれいなメフィスト」には吹いてしまいましたが(苦笑)
また、これまでは近しい人であっても、
初代の支倉であったり、
5シリーズの増子さんであったり、
フレッシュの大輔達や
ハートキャッチのもも姉やさつきお兄様達など、
変身後の姿を見て正体を見抜く事はほとんどありませんでした。
例外は正気に返った折、
ムーンライトを「ゆり」と呼んだ月影博士くらいでしょうか。
その点、ミューズを即座に「アコ」と呼んだメフィストと通じます。
父が敵だったと言う点でも昨年の月影博士=サバークに通じるものの
その事情を知っているミューズと、
知らないムーンライトという点が異なります。
事情を知らずに不倶戴天の敵として相対する事も悲劇ではありますが、
事情を知りながらこれまで沈黙せざるを得ず、
全てを一人で背負いこんでいたミューズの心痛は計り知れません。
さらに歴代最年少となる小学生ということもあり、多少生意気であっても
いたいけな子供がこんなに重いものを背負って生きてきたのかと思うと、
これから先の展開で子供らしく、生き生きとしたアコの姿を見たいものです。
とはいえ、仮面と衣装を脱ぎ捨てると同時に明らかに背が縮んでいたり、
あの脱ぎ方でズボンまで脱げるのかといった点であったり、
あのスタイルの良さはいったいどこへ?と思ってしまったり、
突っ込みどころもありますが、そこは流して、見なかった事にします(笑)
次回予告のあまりに可愛らしい姿もインパクト抜群で、
レモネード→パイン→サンシャインと続いてきた黄色の特権?とも言える
変身バンクと技バンクに、大いに期待したいものです。
また指を弾いてラブギターロッドを出すビートがカッコ良かったのですが、
あっさりバリアを破られてしまい、プリキュアにおけるバリアとはルミナスを除き、
破られるためにあるという伝統(笑)もしっかり感じました。
また今作におけるプリキュアの技について、
相手が操られている者だと知っており、それを取り戻すために放つと悪の心だけを倒す。
ただし取り戻すためではなく、倒すために放つと
相手を完全に倒してしまう技なのではないかと思いました。
フィナーレ!の後の爆発など殺傷力が高そうなのに
元の素体に影響を及ぼしていないのは、こういった事情があるように感じます。
その点、前回あのままメフィストに突っ込んでいたら
本当に倒してしまっていたのではないでしょうか。
そうすると前回殺る気マンマンに見えたクレッシェンドトーン(笑)や、
テストの答案を破壊しなかった事が疑問になってはしまいますが、
ふと、そんな気がしました。
ところで、セイレーンもメフィストもヘッドホンで性格まで変わっているのに、
マイナー達は性格が変わっていない事が少し気になりました。
音符集めの仕事も出来ず、登場したと思えば食べる事ばかり、
そんな姿に成り下がったトリオ・ザ・マイナーですが、
前回のメフィスト呼び捨てに続いて、
果たしてメフィストの配下なのかという疑問が再び沸いてきました。
未だ明らかになっていない謎解きと共に、今後の展開が楽しみです。