「おじいちゃん お誕生日おめでとう!」
オルゴールの音色が優しく鳴る瀟洒な自室で、
アコは色鉛筆で心のこもったバースデーカードを描きあげました。
優しい笑顔を浮かべてカードを手に取り、部屋を出るアコを追って
ドドリーも窓から発ち、同時に静かに止まるオルゴール。
穏やかな時間が流れています。が、しかし・・・
その頃、時計塔の頂上に見慣れぬ姿の小鳥が加音町を見下ろし、
危なっかしく羽ばたいて飛び発ちました。
同時にオルガンを調整していた音吉さんは、何かの気配を察しました。
アコが向かった先はラッキースプーン。
奏にバースデーケーキの相談に来たものの、
誰にあげるものか聞かれた際の、素直じゃない素振りは相変わらずです。
さらに途中でバースデーカードを落としたようで、
それを届けに来た響とエレンに戸惑いツンツンしながらも
ちゃんとお礼を言うあたり、少しだけ素直になったアコが見られました。
『なんて素敵な家族愛・・・』
音吉さんの誕生祝いをすると知り、妙に大げさに涙もろいエレン、
そしてみんなでお祝いしようと持ちかける響、
音吉さんの誕生パーティーは俄然賑やかになりそうです。
そうと決まればみんなでお祝いの歌を歌おうと盛り上がる響たち。
しかし当のアコは、歌を歌うのであれば遠慮すると、そのまま出て行ってしまいました。
アコは前に歌が苦手だと言っていた事を思い出す響と奏ですが、
メイジャーランド時代のアコを知るハミィとエレンは、その話は初耳です。
歌いたくない理由は他にあるのではないかと考えました。
『気持ちは分かるけど、ああいう言い方は良くないドド』
『いいでしょ、別に』
諭すドドリーに生返事を返し、一人帰り道を行くアコは
角を曲がったところで奇妙な小鳥が転がっているのを見つけました。
見ると羽に怪我をしており、連れ帰って手当てをしてあげますが、
小鳥はまだ何か不満そうに見えます。
『まだ痛むの?しょうがないなあ』
アコはオルゴールのゼンマイを巻き、その旋律に合わせて歌い始めます。
『君も歌ってごらん。少しは気が紛れるよ』
苦手どころか優しい歌声で歌いながら、小鳥に一緒に歌おうと持ちかけるアコ。
小鳥の声はピーピー言うだけで、まるでメロディとあっていません。
『下手っぴ。それとももしかして、歌いたくなくてわざとそうしてる?』
そして小鳥にピーちゃんと名付けて抱きかかえました。
『案外君も、私と同じだったりしてね』
この出会いは、今後何を意味するのでしょうか・・・
音吉さんにバースデーパーティを計画している事を語る響達。
音吉さんも嬉しそうに快諾しますが、
同時に突然パイプオルガンの音が少しずつズレている事、
そしてノイズ復活が近い事を懸念していました。
同じことを感じていたクレッシェンドトーンもまた、
4人で力を合わせて立ち向かう事を言い含めます。
そしてマイナーランド。
バスドラとバリトンは玉座の上に落ちた1枚の羽根を手に取り、
ノイズ復活を悟るも行方をくらませた事に首をひねっています。
一歩遅れる形で復活を知ったファルセットに、「様」呼びを強要されながらも、
『置いてかれてやんの・・・(笑)』などと陰口を叩いていた2人を
ファルセットのお仕置きが待ち受けていました。
ノイズが姿を消した事には何か考えがあっての事と推察しながら、
玉座に腰を下ろして2人に音符探しを命ずるファルセット。しかし・・・
『自分で行った方が早いかもしれん・・・』
一緒にバカやっていた時間が長かったためか、良くわかっていらっしゃるようです(笑)
翌日、通学路で奏太に音吉さんの誕生日の事を話題にされても、
相変わらずアコの反応はそっけないまま。
『誕生日は家族で祝うもんだぞ。アコが居ないと始まらないじゃん』
『響たちがいるからいいでしょ。家族じゃないけど』
その会話に、途中で待っていた響たちが参加します。
『私達とアコはもう家族みたいなものでしょ。だって私たちはプリ・・・』
奏太の前で正体をバラしてしまいそうな響の口を慌てて塞ぐエレン。
プリンが大好きとごまかす奏も、思わずカップケーキが好きだと
しゃべてしまうハミィの口を塞いで苦労が絶えません。
ともかく、バースデーパーティにアコを誘い、一緒に歌おうと誘う響ですが、
アコはそのまま行ってしまいました。
それでも待っているからと言われると立ち止まり、
いったん振り返るあたり、後ろ髪を引かれているようにも見受けられます。
もうすぐパーティの時間なのに、
アコは自宅の庭でオルゴールを手に空を見上げていました。
『私達とアコはもう家族みたいなものでしょ』
さっきの響の言葉が気になっているアコを、続けてドドリーが後押しします。
『プリキュアのみんながどういう存在か、アコはもう気付いてる筈ドド。
後はアコが一歩を踏み出すだけドド』
『そんな事・・・』
そこに奏太がプリンを持ってアコを迎えに来ました。
『これ食ったら音吉さんのところへ行こうぜ。歌は、別に歌わなくていいからさ』
朝のやり取りを真に受けて、わざわざプリンを買ってきた奏太に吹き出しながら
その気遣いにお礼を言うアコ。少しだけ、素直になりました。
『ありがとう・・・』
歌が好きなのに、何で歌いたくないのかを遠慮がちに尋ねる奏太。
その理由は、離れて暮らしている家族にありました。
奏太も
アコが両親と離れて暮らしている事を知っています。
アコはオルゴールのゼンマイを巻きながら、歌いたくない理由を打ち明けました。
『このオルゴールね、パパとママから貰ったプレゼントなの。
これを聴けば、パパとママの事を思い出せる。いつも一緒に居るって気がする。
あの頃は、いつもみんなで歌ってた。パパもママもみんな歌が大好きだった』
みんなで歌うと、思い出だけじゃ足りなくて、会いたくなってしまう。
でもまだそれは出来ないから、歌わない。いつかまた一緒に暮らせる時まで・・・
アコがそのように自分を律していたと知り、奏太は少し寂しそうに目を落としました。
ところが・・・
『そんな日は来ないさ~♪』
不意に甲高い歌声が響き渡りました。
いつの間にやらファルセットが現れ、とっさにアコを庇い、逃げろと促す奏太ですが、
当然敵う筈もなく、あっさりと跳ね飛ばされてしまいました。
音符を見つけただけだと言うファルセット、
しかしその音符はアコのオルゴールに潜んでいます。
『それをどうするつもり?』
『知ってるくせに・・・』
そう、アコも何をされるか十分承知している事でしょう。
懇願するような目を向けるアコを冷たいな目で睨みつけ、
奪い取ったオルゴールをネガトーンと化すファルセット。
『私のオルゴールを・・・絶対許さない!』
アコは単身、ミューズへと変身します。
調べの館ではパーティの準備が整っていますが、アコは来ません。
それでもきっと来ると信じている響。
そこにフェアリートーン達がネガトーン襲来を告げに来ました。
既に街を悲しみに染めているネガトーン、そしてファルセットを止めるべく、
ミューズは単身ネガトーンに挑みます。
攻防を繰り広げ、ネガトーンのヒモ付鉄球に手を焼きながらも、
逆にその鉄球を逆手にとり、ヒモの支点を攻撃して鉄球をネガトーンにぶつけます。
見事な戦いぶりに拍手を贈るファルセット。余裕の態度には理由がありました。
『ここで問題。あれなーんだ?』
視線の先には、五線譜に縛り上げられて人質にされた奏太の姿が。
ネガトーンの攻撃に反撃しようとするミューズですが、
その度に奏太を縛り上げられ、手が出せません。
さらにバリトンとファルセットも合流。ファルセットは彼らを遅いとなじるものの、
彼らは彼らでちゃんと音符を集めて来ていました。
もっと人間を悲しませ、不幸のエネルギーをノイズへ送るという彼らの企みを阻止すべく
再び立ち上がるミューズにファルセットは問いかけます。
メフィストを取り戻した今、ミューズに戦う理由など無い筈だと。この世界の事など、関係ないだろう、と。
『関係あるのよ!私が守りたいのは、パパやママだけじゃない。
この世界にも、大事な人が居るから。大事な人が、出来たから!』
ミューズの脳裏に家族と呼んで迎えてくれた響の、奏の、エレンの姿が浮かびます。
『私を家族って言ってくれたみんながいるから。
だから私は、私の家族がいるこの世界を守りたい!
守る。守ってみせる!そう決めたの!!』
『どんなにいきがったところで、お前一人で何が出来る!』
再び奏太を縛り上げるファルセット。そしてミューズ目がけて鉄球が振るわれたその時・・・
『お待たせ』『遅くなってごめんなさい』
ミューズの目の前には、3人の頼もしい後ろ姿がありました。
『残念。一人じゃない!』
メロディが高らかに言い放つように、プリキュアは一人ではありません。
ネガトーンを迎え撃ち、ねじ伏せるメロディ。その間に奏太救出へと走る3人。
行く手を阻むバリトンはビートが、バスドラはリズムが迎え撃ち、
そしてリズムはミューズの手を取って高々と投げあげました。
『奏太をお願い!』
そしてビートがラブギターロッドをかき鳴らして飛ばすビートソニックに乗って、
奏太目指して突き進むミューズ。ビートソニックの音符が奏太の拘束を断ち切り、
ミューズは見事奏太を救出しました。
『それにしても、女の子に抱っこされちゃって。かっこ悪い子』
『そんな事無いよ。意外とかっこいい所だってあるんだよ』
先ほど身を挺して庇おうとした奏太の姿を思い出し、
ミューズというお姫様に、逆にお姫様抱っこされた奏太を評したリズムもまた、
弟の事をちゃんと知っています。
『知ってるわ。だって私の家族だもん。ありがとう、弟を助けてくれて』
『私一人じゃだめだった。みんなが居てくれたおかげだよ』
素直にみんなへの気持ちを表すミューズに、メロディが、ビートが、リズムが返答します。
『その通り。一人じゃどうにもならなくても、みんなで力を合わせれば』
『きっと出来ない事なんて無い』
『どんな時だって一人一人が助け合い、みんながみんなで支えあう』
『それが、家族でしょ!』
家族の絆、家族の暖かさを受け、思わず涙を浮かべるミューズ。
彼女たちは4人でプリキュアです。
4人力を合わせたスイートセッションアンサンブル・クレッシェンドを放ち、
ネガトーン撃退。オルゴールも無事に取り戻しました。
奏太を起こし、調べの館へ行こうと急かすアコ。
響やエレンの気遣いを他所に、今のアコはお祝いの歌を
みんなと一緒に歌いたくて仕方がありませんでした。
そう眼鏡を取り、笑顔で打ち明けます。
音吉さんがケーキの蝋燭を吹き消すと同時に、賑やかにパーティが始まりました。
アコは照れながらバースデーカードを渡し、
ケーキの奪い合いか、相変わらずのいちゃつきっぷりを披露する響と奏を、
エレンと奏太が楽しげに見守ります。
ピーちゃんもハミィと一緒にカップケーキを食べて輪に加わり、
そしてオルゴールの音色と共に、アコの歌が始まります。
いつしか歌の輪に響が、奏が、エレンが加わり、音吉さんへの四重唱となりました。
『何だよ。歌えんじゃん』
奏太の反応に悪戯っぽくちょっぴり舌を出して見せるアコを、
4人の暖かい輪が囲みました。
『うん、ズレとらん』
誕生日を迎えた祖父に、孫娘の屈託のない笑顔が向けられます。
まずサブタイトルの通りの「新たな出会い」が気になります。
ひいき目に見ても可愛いとは言い難い、どこか禍々しさを感じさせるピーちゃんは
ほぼ確実にノイズそのもの、またはノイズの化身と見て間違いないでしょう。
究極の悪とまで形容され、音を消す事を目的とするノイズが、
おそらくこの出会いやアコの歌によって影響を及ぼしていくと思われます。
「歌いたくなくてわざとそうしてる?」「私と同じだったりしてね」
これは歌いたいけど我慢しているアコと、
本性を現したくても隠しているピーちゃんを対比しているように感じられます。
そうするとやはり鍵になるのは「歌」あるいは「音楽」でしょう。
クラシック好きの方以外にはなじみのない話題になり恐縮ですが、
ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団というオーケストラがあります。
イスラエルと、対立する周辺アラブ諸国の若手奏者によって構成され、
イスラエルの指揮者バレンボイムが率いるオーケストラで、
彼らの演奏活動を観るにつれて、音楽には主義主張関係なく、
人の心を繋ぐ何かがある事が感じられます。
もちろん現状はそんな楽観的ではなく、イスラエル周辺の状況はさほど変わりません。
それでも「音楽の持つ力」というものを感じ取る事ができます。
果たして音楽どころか音そのものを消そうというノイズに通じるのかはわかりません。
しかし、それに近い事を現実に成し遂げている人たちがいる以上、
ノイズも何らかの影響を受けて行く事と思われます。
そんな中、何となく引っかかるのはクレッシェンドトーンの存在と発言です。
融和というよりは掃討を伺わせるようにも思わせ、
ノイズの存在を絶対に認めないような風にも取れました。
少しモン・サン・ミッシェルのミカエル像を観て感じた事があったので、
考えすぎかもしれませんが、これは別の機会で語りたいと思います。
アコはやっぱりアコだった、というようなツンツンぶりが健在なのも安心しました。
素直じゃない素振りを見せたり、諭すドドリーにも反抗的だったりと
年相応な部分も見せています。これまでのシリーズにおいても、
プリキュアシリーズの主人公達は時に聞き分けのない一面を見せる事がありました。
その際「子供ではないので本当はわかっているけど素直になれない」
と評する事が出来ましたが、アコに関しては本当に「子供」だという点が異なります。
そこがアコの特異なキャラクターを際立たせ、同時に守ってあげたい子供であり、
そんな子供が守る事への強い意志を見せるという点が、
彼女ならではの特徴として形作られているように感じました。
アコを支える存在としての響達の描写も秀逸です。
歌う事を決して無理強いはせず、その気になるまで寛容に待つ。
来るかどうかわからなくても、きっと来ると信じている。
これだけで頼りがいのある年上のお姉さんとしての存在感が感じられ、
そしてミューズの窮地に駆けつけるシーンの格好よさは格別でした。
必ず来ると分かっていても、これほど待ってましたと思えるものはありません。
ミューズが見上げるメロディの背のなんと頼もしい事でしょう!
腕を組んで仁王立ちのメロディ、片手を腰に当てるリズム、
ラブギターロッドを構えるビート、3人が3人とも、あまりの格好良さにシビれました。
続くアクションも流れるように動いて見応え十分。
そして奏太をミューズに託した際のリズムの凛々しさがたまりません。
それにしても奏太は姉公認の仲、ということですね(笑)
ファルセット、そしてマイナー達に目を向けて見ると、
奏太を人質にするなど、今回のファルセットの純粋な悪役っぷりが目を惹きます。
前回明らかにされたその実力だけでなく、外道な面をも併せ持つ意外性。
先日も触れましたが、とてもこれまでの気弱で優しそうな彼からは想像がつきません
バスドラとバリトンをアゴで使う等、急に権力を掌握した者にありがちで、
それ故にファルセットは今後生き残る事が出来るのか、本気で心配になってきました。
ただ3人で絡むと時折これまでのようなやりとりが出るのが救いでしょうか。
『あーあ、失敗でしたね』『うるさい!覚えてろよ!』
撤退前のやりとりは、まったくこれまでと変わりません。
そして「自分で行った方が早い」と彼らを侮るような言葉を漏らしますが、
これは裏を返せば彼らの事を良く知っているからこその台詞だと思います。
『お前一人で何が出来る!』
ミューズにそう言い放つファルセットの言葉は、
見方によっては彼自身に向けられている皮肉にも聞こえます。
これまでトリオで行動していた彼が、一人になって何が出来るのか。
そして彼らもまた、これまで一人じゃなかった事。そしてこれからも一人じゃない事。
「家族みたいなもの」という言葉は、プリキュアのみならず彼らにも当てはまります。
そしてアコが追加されたアイキャッチとED!
後半アイキャッチの冷めたアコも可愛いかったですし、
可愛く踊りまわるミューズを目の当たりにして
思わずキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!と膝を叩いてしまいました(苦笑)
しかし最初は踊るミューズよりも
「ピーちゃん 中尾隆聖」に目が向いてしまったのも事実です。
こんな大物声優さんが「ピー」しか台詞の無い役の筈が無さそうでしょうし、
確実にラスボス確定と思わせるキャスティングの衝撃は大きかったです。
ピーちゃんがいつ「絶対に許さんぞ虫けらども!!!」とブチ切れるか、
あらぬ心配をしてしまいました。クレジットを「?」にするとあからさまに怪しいと思うので、
いっそノンクレジットにした方が私達大人にあれこれ推察されないと思いますが・・・(笑)