下校時間を迎えた加音小学校に、雨が降っています。
母親が傘を持って迎えに来る光景を、一人寂しそうに見つめるアコ。
彼女には迎えに来てくれる母はおらず、その母は遠い世界にいます。
そんなアコに奏太は笑顔で傘を差し出しますが、
ためらいがちに傘を見やった後、アコは雨の中へと駆け出していきました。
母親と子供達の間を、雨に濡れながら歯を食いしばって駆け、
校門の角を曲がったところで、傘を持って迎えに来た音吉さんにぶつかります。
迎えが遅い事にむくれるアコを宥めるうちに、いつしか雨は上がり
雲の切れ目からは柔らかな日が差し込みます。
『無駄になってしまったな』
手を繋ぎ、家路へと向かう祖父と孫娘。
『ありがとう、おじいちゃん』
祖父のお迎えは、無駄な事ではありません―
これはアコが、転校してきたばかりの出来事でした。
その時の事を夢で見て目を覚ましたアコのそばには、
いつもおじいちゃんが見守ってくれています。
ところが、その平和なひとときを見つめる目がもう一つありました。
まるで監視するように、窓の外から室内を覗き込むピーちゃんの姿が・・・
いつの間にか大量の音符が集まっている事に首を傾げるバスドラとバリトン。
ファルセットだけは、ノイズが密かにパワーアップしており、
既にプリキュアの傍で動いているという事を察しています。
加音中学校は響にとって一番楽しい時間であるお弁当タイムです。
とはいえ、
音符が無くなった事件はまだ解決しておらず、原因すらわかりません。
ノイズの仕業ではないかと見当をつけ、
既に近くまで来ているかもしれないと推察した折、
突然ピーちゃんのけたたましい鳴き声が、場の空気を切り裂きました。
慌てふためくフェアリートーン達。
声の主がピーちゃんと知って安堵する響達ですが、
怪しい雲行きを暗示するかのように、雨が降り始めます。
とにかくノイズを探す事が先決、とのハミィの号令の下、やってきたのは音楽室。
ピアノを弾く王子先輩に見とれる奏、という久々の光景が見られるものの、
ここにはノイズの気配はありません。ハミィが音楽室を選んだのは、
音楽に関係する場所にいると思ったという、実に単純な理由ですが、
それでも無駄足ではなく、音符をひとつ見つける事に成功しました。
加音小学校の下校時間になっても雨は未だやまず、
アコは冒頭の夢と同じ光景を目の当たりにして、寂しそうです。
その時、夢の光景と同じく、奏太が傘を差し出しました。
その好意を受けながらも、アコはおじいちゃんが迎えに来てくれると信じて待ち続けます。
奏太も仕方が無いと言いながらしっかり付き合いました。
『待つといったら待つ!』『勝手にすれば・・・』『勝手にするよ!』
この頑固さは姉譲りでしょうか。
そんな奏太も、アコにはっきりと言われると思いっきり戸惑いました。
『奏太って、優しいんだね・・・』
『くぁwせdrftgyあこlp!』
甘酸っぱくも微笑ましい光景が、雨の昇降口で繰り広げられます。
当の音吉さんはオルガン修理に集中していたため、雨に気付くのが遅れていました。
アコを迎えに行こうと立ち上がった音吉さんの背後に、
突如ピーちゃんが現れ、パイプオルガンを見上げて鳴き声を上げました。
不穏な空気が徐々に立ち込めてきます。
なかなか来ない音吉さんを待ち続ける2人。それでもアコは音吉さんを信じています。
両親がこの世界に居ないアコにとっては、
授業参観、運動会など、両親不在の寂しい想いを抱く事もありましたが、
そんな時に音吉さんは必ず来てくれていました。
そして両親の写真を手に涙に暮れた夜にも、常に優しく寄り添ってくれた音吉さん。
アコが不安な時は必ずそばにいてくれて、
寂しい想いをしている時には必ず来てくれていた音吉さんは、
約束を破った事はありません。が、しかし・・・今日はちょっと遅すぎます。
『こんなに待っても来ないって事は、何かあったのかな?』
奏太の何気ない一言が、アコの心に不安を抱かせました。
まさか、ノイズ・・・?
そう考えた時、アコは奏太が引き止めるのも聞かず、
雨の中へと駆け出していきました。
レインコートを着込み、傘を手にして迎えに行こうとする音吉さん。
傘に穴が空いているなどと、呑気に構えているその背後、ピーちゃんの瞳が
妖しく輝くと同時にパイプオルガンのフレームのネジが外れて行きます。
音吉さん目掛けて倒れてくるフレーム。
丁度タイミング良く訪ねてきた響達によって、音吉さんは間一髪危機を免れました。
しかし、なぜ急にフレームが倒れてきたのか?
音吉さんは響の手の上で鳴き声を上げるピーちゃんを見るや、
かつて封印したノイズが鳥の姿をしていた事を思い出しました。
ピーちゃんがノイズではないか・・・?
音吉さんの言葉とはいえ、さすがに響達もにわかには信じられません。
しかし音吉さんによれば、友情・愛情・信じる心を利用するのがノイズです。
光と影、対になる存在であるクレッシェンドトーンに引き合わせて、
ピーちゃんを調べてみる事になりました。
さて緊迫した事態にもかかわらず、相変わらずおっとりのんびりのクレッシェンドトーンに
ピーちゃんを引き合わせたところ、心が全く読みとる事ができないという
流石のクレッシェンドトーンも驚く事態になりました。
疑わしいものの決め手に欠く状況下で、
響はピーちゃんがネジを落とすのを目にしました。
ネジという物証、そしてその場から逃げるように飛び立つピーちゃんの姿に、
響の疑惑は確信に変わりました。
オルガンへ向かい、
音吉さんが弾いたメロディを奏でると、
突如ピーちゃんは失速し、苦しみのたうち回り始めました。
ピーちゃんの瞳に悪の心を感じたという響の直感は的中し、
ピーちゃんがノイズである事は決定的です。
しかし、丁度そこにやって来たアコには、
みんながピーちゃんを苦しめているように映ったのかもしれません。
アコにすがるように飛びついてくるピーちゃん。
音吉さんはアコに言い含めるように、ピーちゃんの正体がノイズである事を明かしました。
祖父の言葉に衝撃を受けたアコは、ピーちゃんに目を落とします。
怪我したフリはアコに近づくためだと説明する音吉さん、
先日
音吉さんが演奏しようとした時の不審な振る舞いを指摘する奏の言葉、
そして身の潔白を訴えるようにさえずるピーちゃんに、アコの心は揺れ動きます。
『ピーちゃん。私に嘘をついてないよね?私、ピーちゃんの事信じていたい』
アコの言葉にピーちゃんは嬉しそうなさえずりを上げますが・・・
『けど、おじいちゃんは今まで私に絶対嘘をついた事がないの。
だから私、おじいちゃんを信じる!』
アコがそう宣言した矢先、ピーちゃん、いやノイズは
これまでと打って変わって禍々しい雄叫びを上げました。
同時に屋根を破ってトリオ・ザ・マイナーが乱入してノイズを手の内に収め、
ノイズの目が輝くと同時に、ファリーから勝手に音符が飛び出しました。
ピアノに張り付いた音符を元に、ネガトーンを生み出すファルセット。
早速ネガトーンはノイズ復活のために悲しみの音波を撒き散らし、
大切なピアノをネガトーンにされた事と、その所業に憤り変身する4人。
背中を開いて鍵盤を飛ばすネガトーンの攻撃は、
ノイズが存在している事で威力を増しています。
それでもミューズはどんな邪悪な心でも女神の調べで包んで見せると
単身切り込み、シリーとともにシャイニングサークルで動きを止めました。
その隙を突いてスイートセッションアンサンブル・クレッシェンドで一気にネガトーンを倒し、
音符もピアノも無事に戻りました。
音符を収めたファリーをがっちり守るフェアリートーン達。
そしてこのままノイズと結着を!と意気込むものの、
いつの間にかノイズはマイナー達と共に姿を消していました。
そして、雨が上がります。
ピアノに頬ずりして元に戻った事を喜ぶ響。
音吉さんも一層の危機感を募らせ、
これまで以上にパイプオルガンの完成を急ぐ事を決意しました。
そこに駆け込んでくる奏太によって、
音吉さんはアコがなぜここを尋ねてきたのを知ります。
すべては音吉さんを心配しての事で、
恥ずかしそうに目を逸らすアコの心を、音吉さんは誰よりも理解しています。
夕陽の中、家路に向かう祖父と孫娘。
久しぶりに手を繋いで帰るかという音吉さんに
アコはもう3年生だからと恥ずかしそうに断ります。
それでも音吉さんは、アコが人間界に来た頃の思い出話、
いつも手を繋いで帰っていた事を語りながら、
手がスースーするとおどけてみせました。
アコは相変わらず恥ずかしそうに目を伏せたまま、そっとその手をとります。
『今日は、特別だからね・・・』
祖父と孫娘は、手を繋いで帰り道を行きました。
互いの無事を喜び合いながら。
まず、先週の予告が大変シリアスなものだったために
本放送が始まる前は音吉さんの安否が本気で心配になりました。
途中ピーちゃんが背後に迫る場面や、傘に穴が空いている事を気にしている場面など
いわゆる「死亡フラグ」にありがちなもののために終始緊張を余儀なくされ、
サスペンス色はシリーズ随一だったと思います。
さらに今回は戦闘が非常にあっさりしていた事もあり、
マイナー&ノイズが姿を消していた時、
ひょっとして音吉さんを襲っているのではないかとも思いましたがそんな事はなく、
若干の肩透かしを喰った気分でした。
しかし、プリキュアにおいてはこれで良いと思います。
そもそもがお子様向けの健全な作品であり、無用の血が流れたり
悲しみを募らせる展開というのは求められていないと思います。
とりわけ肉親や近しい人を喪うという展開では見ている側も辛く、
音吉さんの優しさをこれほどプッシュした直後にそれをやってしまっては厳しいでしょう。
これまでに肉親を喪う直接的な描写は、
昨年のゆりがありますが、
これは今後も例外となり得るのではないでしょうか。
特にゆりは他の皆と異なり年長者で(それでも十分若いですが)、
シリーズ最年少のアコにこれ以上苦しい運命を強いるのは酷だと思います。
それでなくとも
これまで悩みぬいて来ただけに、
結果としてプリキュア陣営の誰も傷つかなかった今回はこれで良いと感じました。
そんな音吉さんに光を当てる展開だけに、
これまでいかに彼がアコを支えてきたのかはっきりと解る展開には安心しました。
前述の通り、アコは9歳の少女が背負うにはあまりに重いものを一人で抱え、
ドドリーと奏太くらいしか心を許せる相手はいないようでしたが、
そんなことは無く、常に音吉さんが存在していた事が見受けられます。
そして照れたり、寂しかったりするアコの表情の数々が秀逸でした。
夢の中で見られる幼いアコの可愛さもさることながら、
雨の中を走って行く場面では顔にしたたる雨滴が涙のように見え、
寂しい心境を的確に表しています。
奏太の優しさに心動かされながらも意地を張ってしまったりと、
毎度のことながらあざとさも感じられるものの、
本来の視聴者層からは最も近い年齢ということもあって親近感が湧きやすいと思います。
ところで運動会で転倒する場面で、
アコも普段からハイスペックではない事が明らかになりました。
奏太の水鉄砲を巧みにかわす姿が未だに忘れられないのですが(笑)
アコと音吉さんがメインのために響たちの出番はさほど多くありませんが、
ノイズの正体を見抜くくだりでの存在感は流石です。
ネジがきっかけで疑惑を抱く場面は、はじめは頭脳明晰のはずの奏、
あるいは一度闇に染まったエレンが担当した方が良い気もしました。
それでも最近の響のリーダー的存在感、そして
ピアノの腕前を上げた事を考えると
やはり響で良かったように思えます。
それにしてもこの場面は、
舞が満と薫の素性に疑問を抱いた時の事を思わせ、
あの時のような緊張感があり、中々見応えがありました。
そして
登場から3回目で早々に正体を見抜かれたピーちゃん。
もっと素性を引っ張ったり、交流を深めたりしても良かった気もしますが、
お子様向けへのわかりやすさを考えると、これでいいのかもしれません。
ところで疑いを掛けられても逃げもせずにさえずったりする等、
ピーちゃんの行動にはこの時点でも疑問が伴います。
事によるとノイズとしての自覚を持って動いている時と、
何も知らずにピーちゃんとして動いている時との二面性があるのかもしれません。
ケガをしてアコの前に現れたのも、本当に謀略だったのか、それとも・・・?
この期に及んでもピーちゃんを信じてみたいと言う気持ちは、
アコだけでなく私の中にも生まれました。
とはいったものの、半目でのたうち回るピーちゃんの、
可愛くないどころか恐ろしい表情はちょっと(苦笑)
果たしてどんな結末を迎えることでしょうか・・・
ここで気になったのが、ラストの家路につく音吉さんとアコの場面です。
この時久々に加音町のモノレールがクローズアップされ、
何気ない走行音が挿入されていました。
一聴すればただの音。それも騒音ととられる音ですが、
響の母まりあママは
町の人々の生活音の豊かさに、人々が暮らしている息吹を感じていました。
この事から、雑音・騒音ととられかねない音であっても存在価値はあり、
良いようにも悪いようにもなるという事を暗示しているように思えました。
果たしてノイズとの結末に活きてくるかはわかりませんが、ふとそんな気がします。
次回は音符を収めたファリーを守るためにカモフラージュ、というのはわかりますが、
それ以外の「映画」というものが予測しづらく、単純に楽しめそうな展開に期待しています。