まずはとにかく、その「運命の旋律」を聴いてみます。
第1楽章冒頭、クラリネットによって重々しく、暗く歌われる旋律は、
哀愁美に満ちた第2楽章、優雅な舞曲の第3楽章においても
警告するように姿を現します。
そして第4楽章へ入ると一転、長調に転じて堂々と奏でられます。
続く激しい曲調、優美な旋律、運命との闘争と葛藤を経て、
第4楽章コーダでは、高らかに勝利を謳い上げるように再び運命の旋律が鳴り響きます。
(運命の旋律は6:38以降)
この曲の魅力はもちろんこれだけでなく、メロメロに溺れてしまいそうな美旋律の数々や、
各種カッコいい展開が全曲に満ち溢れていて、
解りやすい構成と共にクラシック入門にも最適の一曲だと思います。
クラシックに馴染みの無い方からは、同じ曲でもたくさんCDがありすぎて
何を聴けばいいのかわからないと質問される事が良くあります。
そこで、参考になるかは別として私の好きな演奏をいくつか紹介して行きます。
まず、何を選んでも外れが無いのはカラヤンでしょう。
と言ってもカラヤンはこの曲を何度も録音しているので、
どの演奏を選ぶのかが悩ましいところです。
一番有名かつ定番なのは、84年のウィーン・フィルを振った録音です。
この演奏は帝王と呼ばれたカラヤンもベルリン・フィルとの関係悪化、
それに伴った寂しさと晩年の孤独な境地が伺え、ウィーン・フィルの個性と相俟って
独自の美を築きあげています。これはこれで私も好きな演奏なのですが、
個人的にはこれぞ帝王カラヤン、これぞベルリン・フィルと言った感じの
71年録音のベルリン・フィル盤の方が好きです。
次いで日本人好みの演奏といえば、小林研一郎が挙げられます。
この曲は彼の十八番だけあって、完全に自分の物にして歌いこなす演奏は、
まるで演歌!時に息づかいや唸り声までが入ってしまう程の気合の入れようで、
泣きのメロディをとことん泣かせてくる語り口は見事です。
アーネム・フィル盤、チェコ・フィル盤、日本フィル盤などがありますが、
私は日本フィルによる日本のオケとの演奏が、琴線に響いてくる感じで好きです。
もっとも、どれを選んでも外れはありません。
本場ロシアの演奏といえば、古くはムラヴィンスキー。
現在はゲルギエフといったところでしょうか。
ムラヴィンスキー盤はクラシックファンの間では語りつくされた感がありますが、
旧ソ連の鉄壁のアンサンブルを西側に見せつけた圧倒的名盤として有名です。
一分の隙も無く磨き上げられ、引き締められ、猛スピードで疾走する様は
余りに厳しすぎて聴いているこちらも相当の緊張を強いられるので、
初めてこの曲を聴く方にはあまりお勧めできないと思います。
それでもこの曲を知ってから聴くと、その凄まじさが解る事でしょう。
ミスした楽団員はシベリア送りになったという噂が立つのも分かる気がします。
ゲルギエフはウィーン・フィルを振ったライヴがすさまじく、
同じロシアの指揮者でもムラヴィンスキーが冷厳とすればこちらは白熱。
あのプライドの高いウィーン・フィルがここまでの熱演を繰り広げる様は
聴いているだけで手に汗握る程です。
絶対に初心者にはお勧めできないのですが、
ストコフスキー指揮 ニュー・フィルハーモニア管盤が、何故か好きです。
テンポをいじくるわ、カットするわ、一見無茶苦茶な演奏。
ラストの展開にはもう笑うしかありません。
それなのに一流のエンターティナーのステージを観ているかのように、
絢爛豪華な音の鳴りっぷりが癖になります。
ストコフスキーは「オーケストラの少女」という映画の冒頭で
この曲を振る場面があり、その指揮姿のカッコいい事!
彼のような指揮者は、今後現れるのでしょうか・・・
最後に私が最も良く聴く演奏は、オーマンディ指揮フィラデルフィア管の74年録音盤です。
美旋律にあふれたこの曲を、全米一の華麗でゴージャスなオーケストラで聴く。
ややテンポが遅いものの、それが風格を漂わせているようで
耳のごちそう、という意味では最高の演奏だと思います。
引用させて頂いたムーティも、CDは持っていないのですが、
この動画の演奏で好きになりました。さすが彼は聴かせ方が上手いです。
勢いに任せて綴ってしまいましたが、この曲の事が少しでも伝われば幸いです。
この曲を通してスイートプリキュアを観ると、また新たな発見があるかもしれません。