キャンディを拉致され、デコルも奪われ、秘密基地には沈痛な空気が立ち込めています。
その状況でも、みゆきは最後の希望、笹飾りに着けた星デコルの事を思い出しました。
続けてキャンディがしたためた短冊によって、キャンディの笑顔が浮かんできます。
5人それぞれに宛てた短冊を手に取り、落ち込んでいる場合では無いと気を取り直すみんな。
キャンディの居場所は、おそらくバッドエンド王国です。
そこへ向かうためにはまずメルヘンランドを経由する必要があると聞いて、
ポップに促されるがまま、みんな迷わず本に飛び込み、
いざメルヘンランドへ向けて羽ばたきました。
バッドエンド王国。火刑台を思わせる柱に、キャンディは縛り付けられています。
ジョーカーはあくまで物腰柔らかに、ミラクルジュエルについて問い詰めますが、
キャンディは何も知らず、隠しているようにも見受けられません。
そのやり取りの最中、ジョーカーはデコルが一つ足りない事に気付き、
舌打ちと共に最後のバッドエナジーをプリキュアから抽出しようと企てました。
メルヘンランドの地を踏むみゆき達。
絵に描いたような美しい国土にもかかわらず、しんと静まり返り、人の気配はありません。
住人達は皆、女王が眠ってからというものの、ただ落ち込んで閉じこもるばかり。
ポップはその現状を憂い、一刻も早い女王復活を願って手にしたデコルに目を落としますが、
その矢先にジョーカーが現れました。一見丁重にデコルを所望するものの、
『断ると言ったら・・・?』『いいからさっさと・・・よこせ!』
慇懃の仮面をかなぐり捨てて、本性を露わにするジョーカーを前に、変身。
しかしジョーカーはプリキュア達をまるで問題にせず、
手すら殆ど使わずに軽々と五人を手玉に取りました。
起死回生すべく放ったハッピーシャワーは「ジョーカーのカード」に吸収され、
反転して逆にハッピーを襲います。
状況が把握できていないのか、唖然としているハッピーの前に、
ポップが文字通り身を盾にして立ちはだかり、その反転攻撃を防ぎました。
こうなったらみんなで力を合わせようと、五人の技が一丸となってジョーカーに命中!
やった・・・?ところが、笑みを浮かべていたハッピーの顔は、直後暗転しました。
『この程度ですか?がっかりです』
これまで決して屈する事の無かったハッピーが、初めて見せる絶望の表情。
そしてもはや防ごうと言う気すら失ったのでしょうか。
先程と同様、反転した攻撃が五人を襲い・・・
デコルを拾い上げ、駄目押しとばかりに白紙の未来を黒く塗りつぶすジョーカー。
『おや?どうしましたみなさん。さあ、もう絶望してもいいんですよ?』
『絶望なんか・・・しないもん・・・!』ハッピーはまだ辛うじて、抗う気力を残しています。が・・・
『なぜ?だってもう、どうにもならないじゃないですか』
眼前でジョーカーに迫られ、さすがのハッピーも怯えの色を隠しきれません。
カードを弄びながら、ジョーカーは皆の間を練り歩きつつ、さらに続けます。
『なにせ私にすら勝てないあなたたちが、ピエーロ様に敵う訳がないでしょう。
その上女王の復活も出来ない。輝く未来もスマイルも、もうありえない。
ならば、あなたたちに残されているのはただ一つ。』
そしてピースの眼前に一輪の花をかざして一言。
『無限の絶望だけです』
目の前で無残に枯れ散る花を前にしたピースは、さながら怯える子羊です。
そして自分の身体からバッドエナジーが立ち上るのを見たマーチが悲痛な声を漏らし、
ハッピーも自分から立ち上るバッドエナジーに目を疑いました。
『出ましたね?バッドエナジー・・・』
うなだれた五人からバッドエナジーを抽出し、良い絶望をと言い残して姿を消すジョーカー。
膝をつく五人に、ジョーカーが残して行ったトランプが降り注ぎました。
降りしきる雨。東屋の下でこれからの事を考えようとしても、完敗の後だけに先が見えず、
楽観論は既に無く、精神論でどうこうできるものでは到底ありません。
『ジョーカーに全く歯が立たなかった私達が、何が出来るのでしょうか』れいかの発言は正論です。さらにピエーロ復活の懸念も高まった今、
やよいの口からはこれまでにないほどの不安が漏れました。
『もしピエーロが復活して、デコルも取り返せなかったら、どうなるの?
そうなったら、今度こそ私達、どうなっちゃうの?
もしかしてもう、元の世界に帰れなくなるんじゃ・・・』それが意味するところを理解し、息を呑むみんな。不安を煽るように、遠雷が轟きます。
『どうして、こんな事になっちゃったの?』『それはきっと、私達がプリキュアだから・・・』『メルヘンランドを救う使命があるから・・・』やよいの問いかけに対するれいかとなおの発言は、答えではありません。
『せやけど、せやけどこんなん・・・聞いてへん』押し潰されそうな現実に、困惑するあかね。ポップは無言でうつむいたままです。
『お母さんや、学校のみんなにはもう二度と会えなくなるかもしれない。そんなの、私・・・怖いよ』怖いのはやよいだけではありません。れいかも、なおも、あかねも同様です。
『じゃあ、キャンディはどうなるの?』その時、これまで口を閉ざしていたみゆきが口を開きました。
『何もしないでこのまま帰るなら、見捨てるって事になる・・・』『そんなん誰も言うてへんやん!』冷酷な事実に即座に反論するあかねも、本当はそういう意味だと解っている事でしょう。
『そういう事に!・・・なっちゃうんだ・・・』もちろん、それを切り出したなおも痛いほど解っています。無念そうに、言葉を絞り出しました。
ポップは無言で立ち上がり、一人雨の中へ歩み出します。
メルヘンランドの問題に皆を巻き込んだ事を詫び、今なら元の世界に帰れると言い残して
キャンディ救出に赴こうとするポップを、やよいが、れいかが懸命に遺留しました。
しかしポップにとっては、キャンディは大切な妹です。何と言われても、
『無茶でもッ!・・・行くしかないのでござる・・・!』
糸が切れたように慟哭しながら訴えるポップの泣き声が、雨と共に皆の心に突き刺さります。
『私、どうしたらいいのかわからない。でも、これは凄く、ちゃんと考えなきゃいけない気がする。
うまく言えないけど。自分にとって、何が一番大切なのか』全てを捨ててキャンディを助ける事でも、自分たちの家族や友人を取る事でもない、
もっと違う何か。それが何なのかは、うまく説明する事が出来ません。が・・・
降り続いていた雨が、上がりました。
ポップは涙を拭い、バッドエンド王国への道筋について語ります。
満月の夜にしか姿を見せない、バッドエンド王国。今宵は丁度満月です。
ポップは夜まで丘の上で待つと告げ、あとの判断は個々に委ねました。
『やよいさんの言う通り、もう自分たちの世界へは戻れないかもしれません』『だから、みんなちゃんと自分で考えよう。自分にとって、何が一番大切なのか』五人はそれぞれ、散りました。
『私にとって、一番大切なものって何だろう。お母さん?お父さん?みんな?
学校のみんな、プリキュア。キャンディ・・・?キャンディは私にとって』雲が立ち込めた夜空を見上げ、自問するみゆき。
『そら、めっちゃ大事な友達や。でも・・・』一人石の洞に腰かけながら、あかねも答えが定まりません。
『キャンディを助けるために・・・でも、もし・・・』ジョーカーの恐ろしさが、れいかの心に波紋を投げかけます。
『絶望・・・?絶望って何だろう・・・?』やよいも石のアーチの下で、膝を抱えたまま。
『家族も友達も、私も・・・みんな消えてしまう事・・・?』風になびく髪が、なおの揺れる心境を伝えるようです。
『それは嫌だな。私は家族も友達もキャンディも、みんな一緒がいい。
みんなとずっと、一緒にいたい』ふと、キャンディの声が聞こえたような気がして、皆それぞれ短冊を取り出しました。
「みゆきとたくさんあそびたいくる」
浮かび上がるキャンディの笑顔。立ち込めていた厚い雲が、少しずつ薄らぎ始めます。
歩き出すみゆきの脳裏に、これまでの事が浮かんできました。
キャンディと出会い、みんなとの出会いを経て、
秘密基地を作り、
大阪でたこ焼きを食べたり、
体育祭での事、そして
七夕の事。キャンディとの出会いから始まった、ウルトラハッピーの日々。
「あかねとおこのみやきたべたいくる」
考えても結局、分かりません。でも心の中に感じるモヤモヤしたものが答えだと悟り、
何を取るかではなく、何をしたいかを考えて、あかねもまた歩き始めます。
「やよいとおえかきしたいくる」
やよいが素直になれたのは、キャンディやみんながいたからでした。
大切な友達を失う事の方がもっともっと怖い。
逃げずに向き合う事を決め、立ち上がり、歩き始めます。
「なおとさっかーしたいくる」
家族も、友達も、なおはどちらも譲れません。分けて考える事など無理な話。
決意を新たに固めるように、風にたなびく髪を結い直し、
なおは最初から決まっていた、選ぶべき道を行き始めます。
「れいかとおしゅうじしたいくる」
プリキュアとして守るべきものは世界の人々とその笑顔。
しかし今、青木れいかとして何を守りたいのか。
彼女の進むべき「道」も、また決まりました。
満月の下、丘の上を目指して歩むあかねの瞳には、少しも迷いはありません。
丘の頂を目指して歩む者は、あかねの左右にも3人います。
そして頂きに着いた時、先客の姿を認めました。
『みんな、ごめん』振り返り、開口一番に苦笑いしながら謝るみゆき。みんな少し意外そうです。
『私ね、結局何が一番大切なのか、良くわからなかった。
でも一つだけはっきりした。私、キャンディが大好き。それと同じだけ友達も家族も大好き。
だからみんな一緒がいい。みんな一緒の未来が、きっと私のウルトラハッピーなんだって』その言葉を聞いて、あかねはそっと手を差し出しながら付け加えました。
『私達の、やろ?』私達のウルトラハッピーのために、手を重ね合わせる五人。
五つの光が導く未来、スマイルプリキュアが、今満月の下、手を取り合いました。
『行こう。キャンディを助けに!』ポップが涙を流して見守る下、満月を見上げて決意を新たにします。
しかし、悪い方向へと進む事態は止まりません。
先程プリキュアが提供してしまったバッドエナジーによって時計の針は「22」を指します。
訪れたピエーロ復活の刻。ジョーカーの笑い声が、バッドランド王国に響き渡りました。
ここに至るまでの展開では、降りかかる火の粉を払う程度、
確かに「負け」は許されないものの、本当に「負け」たらどうなるのか、
その先まで覚悟しなければならないという事実に直面した事はありません。
実際にここまでの初代から続く一連の作品群でも、
そこまで思い知らされる例は
初代42話など極稀で、
プリキュアが本当に敗北したのはムーンライトの一例のみ。あの状況は命を落としかねない危険なものでした。
今回、やよいの言葉の中で「もう元の世界に戻れない」「もう二度と会えなくなる」とあります。
子供向け故にオブラートが掛けられているものの、
本来ならばこの言葉の前に「生きて」が付くものでしょう。
これはプリキュア史上、実に恐ろしい発言です。
特にやよいは憧れのスーパーヒーローになれたという想いがあった筈です。
決して負ける事の無いスーパーヒーロー。
でも今はそれは自分であり、もしも負けたら一体どうなるのか・・・
その不安がやよいの口をついて出たものだと思います。
今までは三幹部のアホさもあり(褒め言葉?かもしれませんが)
「喰っちまう」という物騒な台詞もあるものの、そこまで危機感を抱かせるものは希薄でした。
「何となく」戦ってきた今までと異なる覚悟を強いる、今回のジョーカーの脅威。
圧倒的な実力差を見せつけられるまでは、簡単にとは言わないまでも、
おそらく五人で力を合わせれば勝てるという甘い認識が、全員にあった事でしょう。
例えば戦に臨む兵士達は、無事で帰ってくる事よりも、
帰って来られない事を考えて水杯を交わします。
中学生の少女達にそこまでの決意と覚悟を強いるのは酷かもしれません。
今回、まず秘密基地を出発する際には全員が微塵の迷いもなく本に飛び込みましたが、
どこかに楽観的なものがあったのではないでしょうか。
もちろん私は「なんとかなるなる!」という考え方を否定するものではありません。
しかし策も無く、誰かがなんとかしてくれる、みんながいれば大丈夫という観測だけでは、
目を背けていた現実を越える事は出来ません。
事実ジョーカーとの戦いにおいて、ポップとの覚悟の違いが浮き彫りにされたように思えます。
ハッピーシャワーを反転させられた際、ハッピーはもとより、
傍らのピース、ビューティも直ちに対応できず、いずれも茫然としていました。
技を跳ね返させられるという事態は予想外だったとしても、
常に最悪の事態を想定して冷静に対処できたポップからは、
既に戦士としての覚悟が伝わって来るように思います。
しかしポップは冷徹なだけの戦士ではありません。
状況を冷静に把握し、決して勝ち目がないと解っていても、
さりとて助けて欲しいとは言えない程、恐ろしい相手と知って、
一人で助けに行く事を決意しなければならない状況。
冒頭、本に飛び込む事を促した時には、ポップに迷いは感じられません。
しかし、ジョーカーに敗れた後では強く勧める事などできませんでした。
ここで思わず声を大にして、慟哭を漏らす様からは
解っていてもどうにもならない辛さと、一人でメルヘンランドを守ってきた孤独、
さまざまなものが一挙に込み上げて来たのでしょう。
阪口さんの熱演とも相俟って、忘れられない場面になりました。
前回の予告で物議を醸した、絶望顔。
ピースのあの表情は強烈でしたが、既に予告で出ていた為に
むしろハッピーが絶望した表情の方が衝撃的でした。
これまでみゆきは落ち込む事はあっても、決して打ちひしがれてはいません。
まあ大凶、というアレはありましたが・・・(笑)
そして五人の中でただ一人、バッドエナジーを抽出された事が無いだけに、
これまでのみゆき=ハッピーが見せた事の無い姿は、
要となる者が揺れる様を見せつけられたようでした。
バッドエナジー抽出と言えば、怯えた様子を見せたマーチが印象的です。
一度バッドエナジーを取られた経験があるだけに、
まさか再び自分から絶望の象徴が噴き出ている事が信じられなかったのでしょう。
映されてはいないものの、
おそらくサニー、ピース、ビューティも同様だったと思います。
今回、打ちひしがれた五人がどう立ち上がるかが最大の見どころでした。
きっかけとなるキーアイテムは、各人へ宛てたキャンディの短冊。
その文面が立ち上がる時まで解らないと言うところが、構成の巧さを感じます。
書かれている内容自体は単純なもので、それぞれと過ごしたい日常です。
遊びたい、お好み焼きを食べたい、絵を描きたい、サッカーしたい、習字したい、
決して大きな望みではなく、本当に他愛も無いものです。
しかし、地球のため、みんなのため、それもいいけど忘れちゃいけない事、
ごく普通の決して失くしたくない日常を守って戦った結果、
世界のみんなを救ってきたのが、これまでのプリキュアでした。
五人の誰もが、論理的な回答を出していません。ただキャンディのため。
しかし、そこには自己犠牲的なものは一切感じられません。
それはキャンディを取り戻す事で、これまでの日々を取り戻す、
自分の、自分達の幸せに繋がると導き出したからでしょう。
また、降りしきる雨が上がり、立ち込めていた雲の晴れ間から光が射し、
満月が煌々と燈るという背景の演出も、
それぞれの心の迷いが徐々に晴れて行く様を表すようで印象的でした。
丘の上に集まった時、みゆきは真っ先に「ごめん」と口にしました。
みんなも意外そうに受け止めたこの言葉、みゆきは何を謝ったのでしょうか。
「考えなきゃいけない気がする大切な事」を切り出しておきながら、
自分も答えを出せなかった事なのか、
それとも「みんな一緒がいい」と、みんなを巻き込んでしまっている事なのか。
私は後者だと考えています。
一人ではなく、みんなで辛い事を少しずつ分け合って乗り越えた先に、
みゆきがみんなと一緒に目指すウルトラハッピーがあるのではないか。
だからこそ、みんなと一緒にいる事を望み、みんなで難局に向かう事を期待し、
その期待通りにみんなが現れた事で、謝ってしまったのだと思います。
ところで、私は何のためにプリキュアを観て、何のためにここを続けているのか。
今回の問題提起は、私自身も改めて考えさせられました。
私もここを運営するのは、結構しんどいです。
この感想を書くのにも、貴重な休日のかなりの時間を割きますし、
楽しいだけではない事もこれまでいろいろとありました。
それでも、プリキュアを観て、その魅力を書く事によって、
自分の考えを自分自身で見つめ直し、結果として自分のためになっていると確信しています。
自分の考えだけでなく、多くのご意見から色々な見方を知り、
それで得たものも沢山ありました。
それにしてもここまでの各話と比較して、相対的にとても重かったですね、今回は。
本来笑うところではないのですが、キャンディがれいかに宛てた短冊の内容に、
2人して「道」と書いている姿を想像して、少し笑ってしまいました。
パワーアップに向けてのお膳立ても整い、次回、果たしてどう立ち向かうのか。
そして三幹部とガチバトルを繰り広げるようで、彼らの行く末もまた、気にかかります。