『みんなを返して!』みゆきの訴えを、ジョーカーは当然の如く一蹴します。
それだけでなく、悩みも辛い事も、頑張る必要も無いという怠け玉の中を、
あかね達も気に入ると思うなどと、恩着せがましく言い張る始末。
みんなはそんな人間ではないと信じ、
みゆきは自ら迎えに行くべく怠け玉の中へ入る事を申し出ました。
この中へ入れば全てを忘れて怠けてしまうと、一応釘を差すジョーカーの忠告を振り切って、
絶対にそうならないと強い意志を秘め、みゆきは怠け玉の闇の中へと飛び込んで行きました。
ジョーカーの嘲笑が、響き渡ります。
終業のチャイムの音。そして、みんなの呼ぶ声。
目を覚ました時、みゆきは学校にいました。帰り支度をしたみんなが待っています。
しかし、部活を放ったらかして帰ろうとするあかねの姿は妙な違和感があります。
『バレー?なんやそれ』『そんなの疲れるだけだから、やらなくていいよ』あかねだけでなく、なおまでもがこんな事を言い出し、
遊園地へと誘うやよい、止める役目の筈のれいかも賛同する等、
皆の様子が明らかにおかしい事に、みゆきは戸惑うばかりです。
おかしいのはみんなだけでなく、佐々木先生も同様でした。
放課後に遊び呆けようと言うみんなを諌めるどころか、
難しい事は考えずに遊んでいらっしゃいと、逆にみゆきの背を押すような言動。
みゆきは変だと感じながらも、みんなに置いて行かれないよう後を追います。
行く手には、いつの間にか遊園地が広がっていました。
突然の事に驚き振り返ると、今さっきまでそこにあった校舎は影も形も無く、
辺りは全て(遊具がアカンベェという微妙な)遊園地です。
そして、サンクルミエール学園のテラス席のような場所で、皆がみゆきを手招きしています。
キャンディはみゆきの危機を察し、助けに行く決意を固めました。
既にキャンディは一度怠け玉を自力で脱出したとはいえ、再び出られる保証はありません。
危険だと訴えるポップの懸念を他所に、キャンディの目は真剣です。
必ずみんなを助けて戻って来ると誓い、再び怠け玉へと飛び込んで行きました。
ジョーカーは飛んで火に居る夏の虫と言わんばかりに、その行動を嘲笑います。
何でも食べ放題、乗り放題、遊びたいだけ遊び、好きなだけ寝ても良く
学校も宿題も、嫌な事は何一つないというこの世界を、周りの人々も楽しんでいます。
どこか空虚感が付きまとうまま・・・
これまで違和感を抱いていたみゆきも、みんなが差し出すお菓子の山を前に口元が綻びました。
一口ドーナツをかじると、とろけるような美味しさが口いっぱいに広がります。
『おいしい~とってもしあわせぇ~』その言葉通りみゆきの目はとろけてしまい、囲むみんなの目にも一切の生気が感じられません。
それでいて笑顔のまま、という異常な光景。
『なんだかもう、かんがえるのがどうでもよくなっちゃった・・・』そこにキャンディがみゆきを目がけて降って来ました。毎度おなじみの顔面直撃。
しかしみゆきは我に返るどころか、呆けたままでキャンディを初対面のように扱いました。
名前すら忘れている事に愕然とするも、キャンディの心は折れません。
自身が立ち直るきっかけとなった、クッキーを六等分してみゆきに突き付けます。
『思い出すクル。みんなで分けて食べた方が美味しいクル。
一人より、みんなでハッピーって感じる方がウルトラハッピーになれるクル!』
それでもみゆきは死んだ魚のような目のままで、思考を放棄しています。
『めんどくさいよかんがえるの・・・』『大切な事はちゃんと自分で考えなきゃダメクル!ちゃんと自分で考えて自分で決めるクル!』
そのキャンディの言葉と目の前の六等分されたクッキー、
そして、6等分でキャンディを諭した時の自分自身の言葉
『一人よりみんなでハッピーって感じる方がウルトラハッピーになれるもんね』危うく怠惰に飲まれるところで、みゆきは我に返りました。
人が沢山いたはずの遊園地はいつしか人気が無く、空は薄暗く染まっています。
今度はみゆきがみんなの目を覚ます番です。
しかし思考放棄した彼女達にはその訴えも届かず、
プリキュアとして戦った事さえも覚えていません。
口元だけに笑みを浮かべ、みゆきに向ける生気のない目が、ぞっとするほど寒々しいです。
『みんな、思い出してよ。いままでみんなで頑張って来たじゃない!』『がんばってもしょうがないよ』『がんばるのって、つらいしめんどうだし』『しんどいだけなら、さいしょからがんばらんほうがえ~やん』『なにより、らくですし』暖簾に腕押し状態に愕然とするみゆきを、さらに追い詰めるように皆眠気を口にします。
揺り起こされ、面倒臭そうに目を開いたあかねは、遂にみゆきの事すら忘れていました。
再び眠りに落ちて行く4人。
この状況を打開するために変身し、この世界を浄化すべく
気合を込め、空を目がけてハッピーシャワーを放ちました。
『絶対みんなで、元の世界に戻るんだから!』渾身のハッピーシャワーが、空目がけて突き進みます。
しかし、ジョーカーに抜かりはありません。
ハッピーシャワーは虚空へと消し去られ、黄色っ鼻でジェットコースターをアカンベェ化。
その際黒っ鼻のリスクを案ずる等、最初からウルフルンを捨て石とする腹が伺えます。
遊園地は影も形も無く、おどろおどろしい世界の中で、未だみんなは目を開けません。
キャンディにみんなを託し、単身アカンベェを引き付けて戦うハッピー。
ようやく目を覚ましたみんなに、キャンディはハッピーが皆のために戦っていると訴えますが、
あかね達の無関心はまだ解けません。何度も挑み、その都度押し戻され、
それでも負けずに戦い続けるハッピーを見ても、誰も眉一つ動かしません。
『私は負けない!みんなを元に戻すまでは・・・!』元に戻す必要など無いと、この世界の楽さをアピールするジョーカーの言葉に
思わず呆けた笑みを浮かべるれいか、あかね。
その間もハッピーは、懸命に抗い続けています。
『なぜあなたはこの世界を拒むのですか?』
『私はいつものみんながいいから、元に戻って欲しいの!』『何故です?みなさんこの楽な世界を楽しんでいるのに』
『心の底からは楽しんでないよ。私の知ってるみんなの笑顔は、あんなんじゃないもん!』アカンベェにねじ伏せられ、それでもジョーカーに屈しないハッピーの姿に、
4人はようやくわずかに反応しました。
ジョーカーはターゲットを4人に変え、ネチネチと痛いところを突き始めます。
あかねには
バレーの練習試合で負けた時の事を引き合いに、『一生懸命頑張っても、結果が出ないでがっかりして、とってもつらかったでしょう?』
やよいには
ポスターを貶された時の事を思い出させ、『どんなに努力しても結局うまくいかない。人に笑われて、嫌な思いをするだけです』
なおには
リレーで転倒した時の事を持ち出し、
『みんなを巻き込んだのに失敗して、仲間の頑張りを全て無駄にしてしまった。
何か意味がありましたか?』
れいかには
生徒会も弓道部も勉強もやめると言った事を採り上げ、『思い悩んで考えても、結局は友達に迷惑をかけて、情けない自分にうんざりするだけ』
再び、みんなから自信が失われて行きます。
『それなら最初から頑張らなければ、そんな思いもしなくて済む。失敗する事も無いんです』
それでもハッピーは抗う事を止めません。
誰も省みていないのに、必ず戻って来ると信じて戦い続けているのでしょう。
『誰だってうまくいかないときもあるクル。でもキャンディは一生懸命のみんなが大好きクル。
だって、頑張ってるみゆき達はいつもキラキラしてるクル!』
肩で息をして、何度倒されても立ち上がり、フラフラになりながら立ち上がったハッピーを、
尾の一撃が無残に叩き潰しました。キャンディの悲痛な叫びが、響き渡ります。
『私、メルヘンランドであなたにボロボロにされた時に分かったの・・・』渾身の力を込めてその尾を持ち上げながら、ハッピーは
あの東屋での一件を思いました。
『泣いたり、悩んだり、一生懸命考えたお蔭で、
それまで知らなかった自分に気付けたし、自分にとって何が一番大切かもわかった!』雨が上がった夜空の下で、キャンディが、友達が、家族が大好きだと告げた時の事。
みんな一緒の未来こそが、自分にとってのウルトラハッピーだと感じた時の事。
『答えを出すのは大変だし、面倒だし、苦しいし、でも!
辛いかもしれないけど、私たちはそうやって、少しずつでも前に進んで行きたい!』みんなそれぞれ、心が折れそうな時がありました。
しかしその都度励まし合い、助け合い、歩み続けて来たのもまた事実。
『友達は、下らなくなんかない!』バレーで負けた後、河川敷で本当の友達を得た時の事。『辛い時も楽しい時も、いつも傍にいてくれる』遠い父の記憶に想いを馳せ、梅雨の空の下を皆で語った時の事。『みんなで笑ったり、泣いたり励まし合ったり』確かに結果は最下位。それでも皆と抱き合って悔し涙では無い涙を流した時の事。『一緒に居れば、どんな困難も乗り越えて行く。そんな力が沸いてくるんです』試行錯誤しながら、皆で読み聞かせ会に臨んだ時の事。『不器用かもしれないけど、私たちは、みんなと一緒に未来に向かって、歩いて行きたい!
みんなで進む未来はきっと!キラキラ輝いてるから!』皆の瞳に浮かぶ涙。これまで皆で歩んだ日々の記憶と共に、その瞳に光が戻りました。
力尽き倒れたハッピーに、容赦無くアカンベェの光線が畳み掛けられます。
勝利宣言と共にとどめの一撃を命ずるジョーカー。
もはや動く事も叶わぬハッピーを庇おうと、キャンディがその前に仁王立ちします。
その身体は震え、ハッピーを庇うにはあまりに小さすぎる姿。
それでも、怖くてもキャンディは逃げません。
『キャンディ逃げて!!!!!』ハッピーの必死の叫びも空しく、巨大な光弾が打ち放たれました。
その光弾は、炎が止めました。
『届いたで。2人の気持ち』キャンディとハッピーの前に立つその背は何と頼もしいものでしょう。
唖然としたジョーカーが再びアカンベェをけしかけると、
次いで電撃が妨げます。
『私にも、ちゃんと届いたよ』続く尾の一撃を止めるのは風と氷。
『すみません、遅くなりました』『私達の力、見せてやろう』5人が再び、揃いました。
『あんたの言う通り、疲れた時は休憩も必要や。でもなあ・・・!』『ずっとそのままじゃ、いつまでたっても前に進めない』『どんなに辛くても、私たちは一歩一歩、自分の足で進んで行きたい』『一人で越える事が難しい困難も、友達と一緒ならきっと乗り越えて行けます』『頑張ったその先にあるのが、本当の笑顔だと思うから』『みんなと一緒に頑張るクル。そしたら絶対ハッピーになれるクル』
途方もない困難を乗り越え、手を重ね合わせる6人。
ロイヤルクロックを中心に不死鳥の姿が浮かびました。怠け玉が、四散します。
ポップの目の前にみんなが戻って来ました。
しかし戻って来たのはアカンベェとジョーカーも一緒。このまま引き下がる奴ではありません。
アカンベェの鼻を絵の具で黒く塗りつぶし、ハイパーアカンベェ化。
こちらもプリンセスフォームで対抗します。
更にロイヤルクロックの力が解き放たれ、不死鳥の力を得て打ち出す新たな技、
プリキュア・ロイヤルレインボーバーストによって、ハイパーアカンベェは撃退されました。
不死鳥・フェニックスとはプリキュアとキャンディの心が一つになって
初めて現れる最強の力であり、次にデコルがたまった時こそロイヤルクィーン復活の時。
新たな力と共に、新たな目標が定まりました。
『これから、もっと大変な事があるかもしれない。
でも、みんなと一緒だったらきっと前を向いて乗り越えて行ける。そんな気がする』西に沈む夕陽と共に、大変な一日が間もなく終わろうとしています。
夕陽に向かうみんなの笑顔は、あの空虚な笑みとは異なり、自然に輝いていました。
以前プリキュア5の第24話を、ベートーヴェンの交響曲第9番・第3楽章に例えました。
永遠の至福の時が続く穏やかな世界、ずっと浸っていたくなる甘美な世界に、
金管の咆哮が警告するように轟くこの音楽を、再び連想させられました。
現実に生きるのは、楽しいだけではないのはもちろん、辛く苦しい事も多々あります。
それでも夢から覚めて、生き続けなければならない。
ごく当たり前の事を、再び思い知らされました。
第22、23話を乗り越えている彼女達がこのような状況に陥ってしまうのは仕方が無いでしょう。
人間である以上、一切の弱みを捨てきる事などできません。
今回のあかねの発言どおり、疲れた時には休憩も必要です。
ところで皆が陥る思考放棄こそがバッドエンドたりうるものだと思います。
自分で動かず、周りに委ねて流れて行く事はとても楽です。
会社で新規案件の手出しなどを躊躇い、歯車として流される毎日に
私自身も満足している事があります。むしろきっかけが無い限り
そのな会社生活をしている我が身を見せつけられたようで、正直ドキッとしました。
人は脆く弱い存在です。しかし、パスカルの言葉を借りれば「考える葦」です。
葦はすぐ折れる程弱いけれども、考えるからこそ人間足り得る。
歩み続けるからこそ生きる意味があるというものでしょう。
「楽園」の代名詞というべきエデンの園は、
何もせず手を伸ばすだけで食べ物が手に入り、一切の悪が無いと言われています。
それは前回キャンディが体験した手を伸ばせば果物も手に入るという世界を思わせ、
今回5人が体験する遊園地の世界も同じものが伺えます。
楽園への夢とは、決してそれが叶わないからこそ甘美な幻想だと思います。
エデンの園は胎内回帰願望だと言われます。胎児の状態であれば何も考えず、
全てが与えられ、当然悪と言う概念はありません。
しかし、それはまだ人として生まれる以前の状態です。
人として生まれた以上、二度と胎児に戻る事は出来ず、再び楽園に戻る事は出来ません。
楽園追放とは出生の事で、その嘆きが新生児の産声だとも言います。
今回、ハッピーの奮闘を目の当たりにした4人が我に返る際、皆涙を流しています。
それはもちろんハッピー=みゆきの熱い想いへの感激の涙だと思いますが、
甘美な楽園を後にして、厳しい現実へ向き合わねばならない事の涙とも思いました。
だからこそ、きっぱりその未練を断ち切って駆け付けた際の4人の姿が
この上なく頼もしく感じられました。
こうなると気になるのはメルヘンランドの存在です。
かねてより言及しておりますが、私はあの国の住人達には違和感を持っており、
怠惰とどこが違うのか、未だ判別しかねています。
自らクィーン復活に動こうともせず、思考放棄しているようなあの妖精達と比べて、
ジョーカーや三幹部達は善悪の区別はともかく、
ピエーロ復活そしてバッドエンドに包み込むという明確な目的に向けて行動しています。
本当に彼らが怠惰を理想とするならば、ピエーロ復活など放っておいて
やりたい事をやっていればいいのではないかと思いました。
もっとも、それでは悪役の立場が無くなってしまうという都合もありますが(苦笑)
ハッピーの熱い戦いぶりに関しては、もはや言葉はありません。
この泥臭さすら感じられる台詞回しと、何度倒されても倒されても立ち上がる姿、
プリキュアに求めている熱さを、久々に見た気がします。
アクションの動き、福圓さんの大熱演と相俟って、忘れられない場面の一つになりました。
しかし、4人はあんなのを見せられたら目を覚ますしかないですね・・・(笑)
その後の展開もお約束とはいえ、皆の登場シーンがいちいち格好良くて痺れます。
キャンディとハッピーを襲う光弾を炎が蹴散らし、
一筋の炎と共に立つサニーの頼もしさといったらもう、惚れ直します。
続く電撃、風、氷と、待ってましたとばかりに続く様は、
散々呆けた姿を見せつけられ、彼女達はこんなものじゃないんだというジレンマが
募り募った後だけにただけに一層のカタルシスがありました。
回想が連なった果てに立ち上がるという構成も、
これまで彼女達が歩んできた道は決して無駄な事ではなく、
その先に今があり、さらに先の未来が連なっていると思わせる見事なものでした。
挫折を知らない者などおりませんし、その事実からは目を背けたくなるものです。
しかし皆が見せつけられる挫折の描写は、それがあったから今の彼女達があります。
バレーの試合で敗れ、一人練習に励んでいたからこそ、あかねとみゆきは親しくなり、
あのポスターの一件があったからこそ、やよいは少しずつ外向きになって来ました。
リレーの転倒は悔しい思い出でも、その後のゴールでの体験を、なおは生涯忘れないでしょう。
学ぶこと=考える事の意義を問うたから、れいかは道なき道を切り開く生き方を歩んでいます。
ウルトラハッピーとは、決して楽なものではなく
むしろ困難なものだと暗示させられますが、こうした描写の積み重ねの果てに辿り着く
ウルトラハッピーは想像以上の高みに達するのではないかと、
この物語の到達点に期待が高まりました。
もっとも、終わりを意識する時期に近づいている寂しさもありますが・・・
ただ個人的に肩透かしを喰らってしまったのが、ロイヤルクロックとフェニックスの力です。
これは私の早とちりが原因なので仕方が無いのですが
前回ロイヤルクロックの力を「黒っ鼻を弱体化させる優しい能力」などと評してしまい、
思いっきり外してしまって、穴があったら入りたくなりました(苦笑)
既に今回が放映された後に、遅れて視聴・執筆した記事でしたので、
今回の内容をご存じであの記事を読まれた方は、突っ込みたかったのではないでしょうか(笑)
ダークプリキュアがムーンライトの妖精だったのではないかというトンデモ説を唱えたり、
セイレーン=キュアミューズ説を本気で推していた事もある私ですので、
それに比べればまあ、良しとしましょう。
熱い展開の後は楽しくなりそうで、こうしたメリハリがあるから日常回が引き立ちます。
次回、今度は太秦映画村が聖地となるのでしょうか・・・?