東京都民として、近々行われる知事選挙を意識させられている昨今。
私はあまり政治的な話題は出さないようにはしていますが、
耳触りの良い公約で有権者に媚びた結果、国政がどんな事態になったかは見ての通りです。
しかし有権者はそれほど馬鹿ではありません。
真面目ゆえに自らの道を見失いかけたれいかを支えたものは、「馴れ合い」だったのか?
ここに至るまでの道を見て来た以上、そうではないと信じたい一編。
そして「ニンゲンニナール」がギャグかと思いきや、
れいかの弱点を極めて的確に指摘した事にも意表を突かれました。
生徒会副会長、青木れいかの日課は毎朝の掃除から始まります。
続いて花壇に水をやり、校門前で登校してくる生徒達への挨拶。
挨拶をすれば一日が明るく始まるというれいかの言う通り、
事実生徒達はみゆき達だけでなく、皆晴れ晴れと登校して来ます。
そんなれいかを、みゆき達が時期生徒会長候補へ擁立しようとするのは当然の流れです。
いざ、候補者れいかに一言抱負を求めますが・・・意外な答えが返って来ました。
『あの・・・私、立候補はしません』
みんなが推薦したい気持ちとは裏腹に、
れいか自身は生徒達に「道」を示す事が出来ないと考えており、
会長職は務まらないと固辞します。
当人の気持ちを汲み、勝手に盛り上がった事を詫びるやよい達。
しかし、蟻が一列に作る「道」を見下ろすれいかの気持ちは・・・
バッドエンド王国のお茶の間で、三幹部達は今日も楽しくテレビを観ていました。
その学園モノストーリーを観たウルフルン達は、
生徒会長とは学園の独裁者として絶大な権力を振りかざす存在だと誤認します。
ウルフルンは自分の肖像が飾られた豪華な部屋で、
カツオ生徒達を部下にして肩もみや使い走りをさせられる妄想を、
アカオーニとマジョリーナも、それぞれ鬼が島や魔法の学校にしようとする教育理念を持ち、
生徒会長職への野心を抱きました。
その野望のために今回マジョリーナが提示するひみつ道具は「ニンゲンニナール」。
いつも通り、読んで字の如くの効果があるワッペンです。
七色が丘中学校に、突如昭和チックな三人の転校生が我が物顔で乗り込んで来ます。
悪ぶった風貌のワイルドな学生、夕焼け番長みたいな下駄履き巨漢、
そして今時ロングスカートのスケバンスタイル。誰が誰だか言うまでもありません(笑)
三人は転校するなり生徒会長への立候補を表明します。
それを受理する学校側の懐の深さにも驚かされますが(笑)
れいかは当初、学校の事を考えられる人であれば構わないと静観するつもりでした。
ところが、彼らの街頭演説は・・・
まずはワイルドなウルフ・ルンタロー君。
渡り廊下の屋根の上から宿題撤廃を公約として掲げ、喝采する生徒達。
続いて美人だけど中学生には見えないマジョウ・リナさん。
街灯の上から授業中でもお菓子食べ放題という公約を挙げ、特に女子の支持を集めます。
そして番長スタイルのアカイ・オニキチ君。
校舎の屋根の上からマンガやゲームの持ち込み許可を公約として打出しました。
無茶苦茶だと感じているのはあかねとなおだけ、
みゆきとやよいですら少し流されており、生徒達が喝采を送る中、
現職副会長のれいかが彼らの前に立ちはだかりました。
『お待ちなさい!生徒会長だからといって、そのような勝手は許されません!』
屋根から飛び降りたルンタロー君達にメンチ切られても、れいかは一歩も譲りません。
『先ほどの演説を聞きましたが、この学校の事を本気で考えているとは思えません。
あなた方は生徒会長に相応しくありません』
しかしルンタロー君達も引き下がらず、生徒会長でもない癖にと言い返し、
その流れでれいかも生徒会長選の立候補を表明しました。
『私達の学校が間違った道に進むのを見過ごすわけには行きません。私が正しい道に導きます』
そうと決まれば、みんな一丸となって選挙活動の応援が始まります。
早速やよいがポスターを描き、翌朝から昇降口前で5人揃ってお願い挨拶を始めました。
クラスメイト達にもれいかを応援する空気が流れつつあります。
しかし、現れたルンタロー君に会長として何をするのか問われた事で流れが変わりました。
『私は、これまでの我が校の良き伝統を受け継ぎ、健全な中学校を目指します』
優等生を絵に描いたようなれいかの答えに、すかさず拍手するみゆき達。しかし・・・
『それじゃわからねえよ。何をするのかもっと具体的に言え!』
確かに彼らは宿題廃止、漫画ゲームの持ち込み許可、お菓子食べ放題と、
既に分かりやすく具体的な公約を掲げています。
彼らの甘言に、校内世論は次第に傾きつつありました。
れいかがいくら皆のためにならないと訴えても、支持を集める事が出来ません。
『結局てめえは自分の意見がねェんだよ。他人の文句を言ってるだけだ』
『そんな事は・・・!』
その場はなおが収めますが、散って行く生徒達の姿は
さながら皆の心が離れて行くように映った事でしょう。
このままでは負けてしまうと危機感を募らせるあかね達に反し、
れいかはルンタロー君の指摘を真摯に受け止めていました。
道を見失ったれいかに対し、あかねややよいは人気取りを勧めるものの、
それでは根本的な解決にはなりません。
一人弓道場で弓を絞るれいかの矢は、心の迷いを表すように一本も的に当たりません。
それでも夜遅くまで本を読み、進むべき道を導き出そうと、れいかは懸命です。
いよいよ候補者による立会演説会が始まりました。
ルンタロー君、オニキチ君、リナさんそれぞれの直球すぎる公約に喝采する生徒一同。
この後で壇上に登るれいかを、みゆき達は心配そうに見守るしかできません。
『(私に示せる道があるとすれば、私が正しいと思う事。きっと支持してもらえる筈です)』
毎朝の日課。掃除・水やり・校門での挨拶を頭に浮かべながら、れいかの演説が始まりました。
『わたくし、青木れいかはこの学校を清く明るく美しい学校にしたいと思います。
清くとは校内の清掃です。明るくは朝の挨拶運動、美しいは花壇のお手入れの事です』
ここで突如ルンタロー君がマイクを奪い取り、壇上から生徒達を煽り始めました。
『掃除なんてやってられるかァ!俺の目指す学校には掃除も勉強もいらねぇぜ!』
ルンタロー君のプロパガンダに、生徒達は大喝采。
そんなものはもはや学校ではない筈なのに、まるで魅入られてしまったかのように盲従します。
『勉強も掃除もしたくない奴らは拍手ゥ!』
巻き起こる拍手の渦。
『私と一緒に学校の清掃をして頂ける方は拍手をお願いします』
対してこちらを支持するのは、みゆき達だけ。
まばらな拍手という現実を目の当たりにしたれいかは愕然としました。
ところが、オニキチ君が思わず『プリキュアカッコ悪いオニ』と口走った事で馬脚を現しました。
コードにつまづいて転んだ2人からニンゲンニナールが外れ、元の姿に。
壇上の赤鬼と魔女の姿に、どよめきの声が上がります。
計画が失敗したと悟った2人は早々に引き揚げ、ルンタロー君の正体も暴かれました。
ルンタロー君、もといウルフルンは居直ってバッドエンド空間を展開。
生徒達からバッドエナジーを集めると共に、
講堂の外へと飛び出したウルフルンを追って変身するれいか達。
投票箱ハイパーアカンベェは、瞬く間にビューティ以外を殴り飛ばしてボディプレスをかまし、
次いでビューティに照準を定めました。
『選挙も戦いもお前らの負けだ!』
ビューティは拳を受け止めながら耐え続けます。
『正しい道を示せば、皆さんもきっと・・・』
そう信じて耐え続けていた彼女を、ウルフルンの言葉が文字通り打ち倒しました。
『笑わせるな!誰にも賛成してもらえねえで何が正しい道だ!』
『てめえの言う事は全部自己満足で押しつけがましいんだよ。
おまけに糞真面目で面白くもねェ。てめえについてくる奴なんている訳ねェだろう』
あまりに容赦の無い言葉を掛けられ、先程の生徒達の反応という現実を目の当たりにして、
反論する事も出来ないビューティの心は今にも折れてしまいそうですが・・・
『そんな事無い!!!!』
立ち上がるきっかけをもたらしたのはハッピーでした。
『確かに私、お掃除も勉強も好きじゃない。
でもれいかちゃんはそんな私にも掃除や勉強の大切さを教えてくれる』
ハッピーだけではありません。皆が次々と続きます。
「ビューティ」ではなく、「れいか」を応援しながら・・・
『そう。ちょっと面倒だなって目を背けちゃうことにも、れいかちゃんは向き合う勇気をくれる』
『そらウチかて宿題無い方が嬉しいわ。でも、なんでウチらがれいかを応援するんかわかるか?』
『友達だからだろ!?下らねェ馴れ合いじゃねェか!』
そう扱き下ろすウルフルンにも、皆の気持ちは変わりません。
『ちゃう!れいかは学校のみんなの事を一番に考えてるからや!』
『だから、私達はれいかが生徒会長に相応しいと思うんだ』
その姿に胸を打たれたものの、ウルフルンの言葉が再び心をえぐります。
『だから何だ?他の生徒達は誰もそう思ってねえじゃねェか』
再び心が折れそうになるビューティ。しかし、ハッピーの想いは止まりません。
『確かに、今はまだ他のみんなには解ってもらえてない。
どうやったられいかちゃんの気持ちが分かってもらえるのかもわからない。
でも・・・きっとみんなにもわかってもらえる!
だって、私達にはちゃんと、れいかちゃんの気持ちは届いてるもん!』
弾ける涙と共に、思いのたけを高らかに叫ぶハッピーの言葉に、ビューティの迷いは消えました。
今度はビューティがその想いに応える番です。
『皆さんのおかげで気持ちを伝える事の意味がわかりました。
自分の想いが生徒皆さんの心に届くまで、伝え続けます。それが私の道です!』
皆を庇うようにスーパーアカンベェとの間に割って入るその瞳には、
もはや微塵の迷いもありません。
パンチを避けて間合いを詰め、強烈な一撃をお見舞いするその姿は、
これまで彼女が見せた事の無い荒々しい、そして力強いものでした。
ハイパーアカンベェを蹴り倒し、その隙にロイヤルレインボーバースト。
しかしハイパーアカンベェを倒しても、今回の戦いはまだ終わりません。
ウルフルンは引き上げずに再びルンタロー君の姿になり、選挙での戦いを挑みました。
何事も無かったかのような講堂で、れいかの仕切り直し演説が始まりました。
『私が目指すのは、清く明るく美しい学校です。
皆さんは掃除や挨拶などが好きではないかもしれません。
中には苦手な方もいるかもしれません。でも、勇気を出して挨拶を始めてみませんか?
一言声をかけるだけで明るい気持ちになれますし、たくさんの人と仲良くなれます。
そして校内の清掃をしましょう。綺麗な学校は気持ちがいいです。
お掃除をすると、心が晴れやかになるんです。
それから、花壇のお花を育てたいと思います。
元気が無い時や、何か上手くいかない時、お花は心を癒してくれるんです。
そうすればきっと・・・素敵な友達にも巡り合えると思うんです』
当初ルンタロー君もたかをくくっていました。
しかしれいかの真摯な言葉の数々は、次第に生徒達の捉えて行きます。そして・・・
『私は、この学校で皆さんと過ごす時間を豊かなものにしたいんです。
時に厳しい事や、大変な事もあるかもしれません。
ですが、みんなで声を掛け合い、明るく元気に頑張っていれば、
とっても楽しい学校生活になると思うんです。私はそんな学校にしたいと思っています。
私の考え方は少し真面目で退屈かもしれません。
でも、それが私の大切だと思う事です。どうか皆さん、力を貸して下さい。宜しくお願いします』
れいかの演説は終わりました。
講堂は水を打ったように静まり返っており、ルンタロー君も無駄だと嘲笑いますが・・・
一人の女子生徒の拍手が鳴り響きました。
それを皮切りに拍手は次第に増えて行き、やがて講堂を包み込みます。
先程とは逆に狼狽するルンタロー君。
そのまま投票が行われ、開票の結果、れいかが次期会長へと選出されました。
みんなの祝福にこたえるれいかの笑顔は、ダイヤモンドのように輝いています。
前回の予告を観た時点では、ニンゲンニナールのお蔭でカオス回になるかと思いきや
それ以上にサブタイトルの「れいかの悩み」がクローズアップされ、
ウルフルンことルンタロー君の指摘が的を得ている事もあって、考えさせられる展開でした。
今回、れいかの演説は作中で2回披露されています。
その1回目、生徒達の心を動かす事が出来なかった方では、
「私が導く」という意識が強いためか、本人は考えておらずともやや上から目線であり、
演説の直前「きっと支持してもらえる筈」と信じている等、
悪気は無いものの、自分の考えは常に正しいと思ってる感が僅かに感じられました。
「白河の清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」
江戸時代、田沼意次の治政を懐かしむ落首にある通り
真面目できれいすぎると逆に堅苦しく、生活しにくいのもまた事実です。
性善説に基づくれいかの考えは決して間違っていません。
だからこそ、これをどう修正するのかが最大の難問だと思いましたが、
ラストの演説のように自分の欠点を受け入れた上で、あえて道を貫くようにしたのが見事でした。
そのきっかけをくれたハッピー=みゆきの言葉から始まる一連の流れも説得力があります。
並みの展開では「そんな事ない!」のプッシュだけで通す事も考えられ、
それではウルフルンが指摘する「馴れ合い」から脱却する事はできません。
楽をしたい、面倒はいやだ、そんな気持ちから目を背けず、
誤っているのはれいかではなく少し甘えたくなる自分達だと認めながら、
それでもれいかを支持したいとはっきり表明できる連帯感は、
決して馴れ合いでは無いと思います。
悪い意味で筋が通っているのはむしろウルフルンの言い分で、
「きっとわかってもらえる」と信じるハッピーの考えは論理的ではないかもしれません。
それでも、時には論理以上に真摯な気持ちが心を動かすものです。
それを目の当たりにしたからこそ、「少し真面目で退屈」という自己の欠点の指摘であったり、
「私が道を示す」「私について来て」といったニュアンスだったものから
「私に力を貸して下さい」と結ぶ演説を導き出せたのでしょう。
プリキュアシリーズにおける生徒会長といえば、かれんといつきが浮かびます。
彼女達が選任された経緯は作中で描写されなかったので想像に任せるしかありませんが、
かれんは当初、今回の軌道修正する前のれいかのようにお堅い面がありました。
良くも悪くも自分にも他人にも厳しく、それが次第に修正されて行ったのに対し、
いつきは「生徒会長としては」最初から柔軟性を併せ持っていました。
この2つを合わせた生徒会長像を、今回れいかが目指したものに思えます。
いくらなんでも生徒達が流され過ぎていたり、先生が全く口を出さない等
気になる点も無くはありません。
前者は既に三幹部による影響が少なからずあったのではないかと思います。
事実冒頭で生徒達はごく自然に挨拶を交わし、皆生き生きとしていました。
これが次第に「怠惰」に流されていく様は、無理にバッドエナジーに染めずとも、
彼らの目的は達せられてしまうという危機感が感じられます。
後者はあえて口を挟まずに生徒達だけで解決させようと
「良い意味で」生徒の自主性を重んじていると考えたいです。
尤も、入江生徒会長が存在していないかのように全く登場しないのがやや気がかりですが・・・
実際の政治を皮肉っているようなのも、プリキュアという作品では珍しいです。
政治家みんながそうではありませんが、
単なる人気取りに終始する候補者、単なるパフォーマンスに興じる候補者、
そして中身の無い名前連呼をするだけの候補者のなんと多い事か。
人気取りや耳触りの良い公約、選挙に勝つ事が目的になってしまって、
その先の当選後の事が見えてこないという問題を、作中でもさらりと触れています。
三幹部達が観ていたテレビ番組もギャグではありますが、
事実、あのようにふんぞり返って我が物顔の先生方も存在しますし、
「永田町」という単語を混ぜてくるあたり、現実の政治との接点が伺えます。
極めて真面目と言っておきながら、ニンゲンニナールには楽しませてもらいました。
あの昭和チックなスタイルはやはり私達世代向け(というより親御さん)向けでしょうか。
彼らの妄想でも、特にアカオーニの考える「生徒に金棒を素振りさせる」が強烈で、
女子を某ラムちゃんのような制服にすれば私も支持したのですが・・・(笑)
マジョリーナもてっきりマジョリーナタイムで来るかと思いきや、
あれより一応さらに若返っているつもりなのでしょう。
もっとも、無理すんなと言いたくなる若作りではありますが・・・
そしてルンタロー君。番ケンジ君のような風貌がなかなか魅力的でしたし、
密かにハートキャッチされてしまった女子生徒がいても不思議ではありません。
彼らが消えるように帰った折に、誰も気にしていなかったのは、
満と薫のように不思議な力で潜り込んだので、最初からいなかった事にされたのでしょうか。
珍しく熱くなってしまったれいかを留める役を務めるなお等、
細かい関係にもスポットが当てられていました。
そしてもう一つ目を惹いたのが、一般女子生徒の可愛さだったりします。
講堂での演説時、ものすごく派手な髪型の女子がいましたが、彼女はいったい・・・(笑)