銀杏並木が黄金色の葉をざわめかせる音。
それは、画用紙にお絵かきをしていた幼い日の記憶を揺り起こします。
『私の名前は黄瀬やよい。ちょっぴり泣き虫だけど、小さい頃から絵を描く事が大好き!
人に見せるのは、ちょっと恥ずかしいけどね』教室でお絵かきをしているやよいは、みゆき達に見つかって慌てて絵を隠します。
見られるのが苦手なのは今も昔も変わりません。
それでも、やよいが考えた正義のスーパーヒロインを描いた絵はみんなに高く評価され、
漫画家を目指せるかもしれないと言われて、やよいの目は輝きました。
今まで漠然と抱いていた、憧れの職業「漫画家」。
しかし、プロになれるのはほんの一握りだという現実を、やよいは知っています。
ところが意外と身近なところに、その登竜門がありました。
マンガコンクール新人賞の募集記事と、男子達の後押しによって、
やよいはコンクールの応募という、夢への第一歩を踏み出す決意を固めました。
やよいはベレー帽をかぶり、やる気満々で原稿に向かいました。
さて、何を描こうか・・・しばし考えてスケッチブックに目を落とすと、
いつも描いているスーパーヒロインが目に留まりました。
そのスーパーヒロイン、ミラクルピースも絵の中から応援してくれているようで、
彼女を主人公とした物語を描く事に決めるやよい。
銀杏の葉が、月明かりを受けて黄金色に輝いています。
翌日、教室で出来上がった原稿を見て、感嘆の声を上げるみゆき達。
最初は恥ずかしがっていたやよいも、みんなの高評価を聞くうちにまんざらではないようです。
しかし、まだ表紙しか出来ていないという事実、
迫る締切という現実が、徐々に影を落とし始めました。
人気のない夜の街。少女を追い回すカレハーン(違)。
行く手に立ちふさがる壁に追いつめられた少女を、
カレッチ(だから違うって)が放つ光線が襲い、危機一髪!
ところが、その少女はスーパーヒロイン・ミラクルピースだったのです!
『歪んだ悪は逃さない!正義の戦士、ミラクルピース参上!』
ドッギャーーーz__ン!ジャアアアアン!
もちろんこれはやよいが描いている漫画の一幕です。
ここまで描いたところで筆を止め、時計を見るともう12時を回っていました。
なかなか思うように進みません。そして、締め切りも待ってはくれません。
授業中も、やよいは焦りと迷いで頭がいっぱいです。
少し浮かれていたのかもしれないけれども、やり抜かなければ―
そんな事を考えていると、佐々木先生に当てられている事にも気づきません。
我に返り、慌てて教科書を読むやよいの姿を、みゆき達は心配そうに見つめます。
下校するやよいに、みゆき達は手伝いを申し出ました。
事実漫画家にもアシスタントが居ますし、他にも手伝える事がある筈です。
やよいはその申し出に感謝しつつ、自分の力だけでやってみたいと言いました。
ミラクルピースなら、きっとそう言う筈だと。
ミラクルピース。それは小さい頃から泣き虫だったやよいが生み出した
強くてかっこいいスーパーヒロインです。それはもう一人の理想の自分とも言うべき存在。
漫画を描く事の大変さを知り、みんなの気持ちに感謝しながらも、
この漫画は自分にしか描けない作品であり、
自分の力で頑張りたいと言うやよいの意志を汲むれいか達。
『時には見守る事も友情ですね』銀杏が織りなすトンネルからしんしんと降り積もる葉が、皆を黄金色に染め上げます。
一方、こちらは黄金色の対極に位置する深淵の世界。
先日のウルフルン同様、今度はアカオーニがジョーカーの最後通告を受けました。
もう後が無いと知って戦々恐々のアカオーニに、黄色のカードが突き付けられます。
キュアピースくらいなら倒せるだろうと言い放つジョーカーの発言を受けて、
金棒で黄色いカードを押し潰し、出撃して行くアカオーニ。
そちらを振り返りもしないジョーカーの目も口元も、もはや笑ってはおりません。
締め切りまで一週間を切りました。
破棄された原稿で埋まったゴミ箱が、やよいの苦労を物語っています。
ペン入れ字に線を誤る事があっても、気を取り直して再び原稿に向かうやよい。
気がついた時、夜の銀杏並木道を一人で歩いていました。
そこに突然、ミラクルピースが、そしてカレハーン(いい加減に違うって)が現れます。
戸惑うやよい。ミラクルピースは怪人との戦いで手傷を負っています。
カレッチとアカオーニを足して二で割ったような怪人は、標的をやよいに定めました。
『お前、本気で漫画家になれると思っているのか?本当は気づいている筈だ。
お前は泣き虫で、一人じゃ何もできない。どうせ途中で投げ出すに決まっているとな!』
さっさと諦めろと吐き捨てる怪人の光線が、やよいを襲います。
その時、倒れていたミラクルピースが身を挺してやよいを庇いました。
そこの泣き虫に作られた存在などと嘲られても、ミラクルピースは決して諦めません。
怪人に正面から挑みかかり、そして・・・
二人が衝突した際の衝撃波が、やよいを跳ね飛ばしましました。
やよいは目を覚ましました。
先ほどの出来事は、机に突っ伏したまま眠っていた際の夢の光景。
しかし、目の前の現実は残酷です。
目を覚ました拍子に倒してしまったインク瓶が、折角の原稿を黒く塗りつぶして行き・・・
懸命に拭っても、覆水盆に返らず。やよいに夢の中の怪人の言葉が突き刺さります。
『お前、本気で漫画家になれると思っているのか?』
原稿に描かれたミラクルピースを覆う黒い影。
みんなが応援する声の数々を思い起こし、やよいの目から涙が溢れました。
そして原稿の束を手に取り、ベレー帽を脱ぎ捨てて・・・
差し入れを持って来たみゆき達は、団地の前でやよいと鉢合わせました。
『もしかして、漫画完成したの?』事情を知らぬみゆきの言葉が、やよいを追いつめてしまったのでしょうか。
『・・・ごめんなさい。私・・・やっぱり・・・無理だった!』原稿を抱え、泣きながら走って行くやよいが向かう先は、あの銀杏並木です。
傍らのゴミ箱が、目に留まりました。改めて、黒くなってしまった原稿に目を落とすやよい。
そこに、アカオーニが現れました。
先週のウルフルン同様、いつもの口上無く周囲をバッドエンドに染め上げます。
『どうしよう・・・私一人じゃ無理かも』逃げ腰のやよいが抱える原稿が、アカオーニの目を惹きました。
原稿を取り上げ、勝ったら返してやると言い放つアカオーニ。
『怖い・・・でも、こんな時ミラクルピースなら・・・!』持てる限りの勇気を振り絞り、やよいは単身変身します。
やよいの漫画に登場する怪人をハイパーアカンベェと化して融合して襲い来るアカオーニ。
流石に今回は本気です。ピースを殴り飛ばし、容赦なく銀杏の木に叩き付け、
漫画と現実は違うと吐き捨てた後、ミラクルピースに目をつけて下らないと扱き下ろしました。
『下らなくなんかない・・・
ミラクルピースは私の理想のヒロインなんだから!私の憧れなんだから!』ピースは目に涙を溜めて反撃に転ずるものの、
しかし力の差は如何ともしがたく、あえなく返り討ちに遭いました。
アカオーニはさらにミラクルピースを弱虫のお前の中の幻だと扱き下ろします。
倒れたピースに、作中の怪人と同じ光線技が襲いかかりますが・・・
ピースもまた、作中のミラクルピース同様、光線を受け止めました。
『終わりじゃない。ミラクルピースは幻なんかじゃない。
私がちゃんと最後まで描き上げて、ミラクルピースの物語を完成させるんだから』アカオーニは先程やよいが原稿を捨てようとしていた事を指摘し、
一人じゃ何もできない、途中で投げだすに決まっていると言い放ちます。
ピースはそれを否定しません。泣き虫で一人じゃ何もできないと思っていたと認めた上で、
強いヒロインに憧れてミラクルピースを作り出した事、
それは幻ではなく、自分の心の中にちゃんと居ると、はっきりアカオーニを見据えて反論します。
ほんの少しだけある強い心がミラクルピースなのだと・・・
『私、マンガを描くのが好き。その強い気持ちがある限り、私は絶対に諦めない!』眩い稲光が、ピースから立ち上りました。
稲光の中に凛と立つピースを、再びハイパーアカンベェの拳が襲います。
その拳を拳で受け止めて逆に殴り返し、目の覚めるような猛攻撃を繰り出すピース。
一方アカオーニも退くわけには行きません。ジョーカーの最後通告が脳裏に浮かびます。
ピースはそのハイパーアカンベェの反撃を掻い潜って打ち倒し、
これまでに無い稲光を巻き起こしました。プリキュア・ピースサンダー・ハリケーン。
猛烈な電撃が、ハイパーアカンベェを打ち負かしました。
『もういいでしょ?お願い。私の漫画返して』激闘を終え、肩で息をしながら改めて頼むピースに
手負いの怪人と化したハイパーアカンベェの拳が襲いかかります。
身構えるピース。その時、4つの光がハイパーアカンベェを打ち据えました。
振り返ったピースは、ハッピー達が駆けつけた事を知ります。
『お待たせ!ピース!』『アカオーニ。ピースはあんたなんかよりよっぽど強いで!』『それに、誰よりも根性がある!』『ピースならきっと、一人で乗り越えられると信じてました』立ち上がったハイパーアカンベェを前に、ピースは改めて誓います。
『私、これからも挫けそうになるかもしれない。けど、一度決めた事は絶対最後までやり抜く!』ピースが主導するレインボーバーストによって、ハイパーアカンベェは浄化されました。
そして・・・アカオーニもまた、今後の行く末を案じながら引き上げて行きました。
原稿を取り戻し、改めてみんなに最後まで書き上げると約束するやよい。
彼女を信じて見守るみんなに、銀杏の葉が優しく降り注ぎます。
そして、ようやく漫画が完成しました。どうやらクラスの男子にも好評だったようで、
ミラクルピースごっこがちょっとしたブームになりつつあります(笑)
みんなの「見守る友情」を得て、やよいが一人で頑張って実らせた成果の原稿。
その表紙に描かれたミラクルピースも、やよいの努力を称えているようです。
『私の名前は黄瀬やよい。ちょっぴり泣き虫だけど、
一度決めた事は最後までやり抜く、頑張り屋さんなんだから!』今回はやよいが主役ではありますが、その件に関してはまた後ほどという事で・・・
ミラクルピース、すげぇ可愛くないですか!?
作中作に留めておくのが勿体ないくらいで、彼女の活躍をスピンオフで見たいものです。
本文中でしつこく述べてしまったが(苦笑)、カレハーン似の怪人もインパクトがありました。
そのミラクルピース、オールスターズNSに登場する
キュアエコーに似ていると感じたのは私だけではないと思います。
これは意図的に似せたのか、はたまた偶然なのかはわかりませんが、
仮に意図されたものだとすれば、「女の子は誰でもプリキュアになれる」という
NSのキャッチコピーが連想されます。
泣き虫で、自分に自信が持てない内気な少女やよいが夢見たヒロインの容姿が
このキュアエコーに似ていると言う点、
「女の子は誰でもスーパーヒロインになれる」という事を象徴しているように思えます。
ミラクルピースがやよいの内面に生まれた強いヒロインであり、分身のようなものであれば
今回登場する怪人もまた同様に、やよいの心の弱さを表す分身でもありました。
「お前、本当に漫画家になれると思っているのか?」という
夢の中で怪人が問いかける言葉は、本当に自分は漫画家になれるのかと
迷ったやよい自身が自問自答しているようにも感じられます。
自分の心の中すべてが正である事はありえず、このように負の要素が浮かぶのも当然でしょう。
その自問自答の果てにはっきりと答えを出す様には、年甲斐も無く心を揺さぶられました。
やよいは今回の本編で自ら認めているように、改めて言うまでも無く泣き虫です。
今更言うまでもない事実ですが、彼女は「泣き虫」であっても決して「弱虫」ではありません。
これまで何度も逃げようとした事はあっても、完全に投げ出した事は皆無です。
自分の欠点を自認し、その内に秘めた小さな長所を同時に認識できると言うのは
早々できる事ではありません。やよいは自分を良く知っています。
良く知るだけでは無く、泣き虫で内気な自分を認めた上でそれを否定せず、
それも自分の性格だと理解している点が、「ほんの少しの強さ」だと思います。
度々私の自分語りが出てしまって恐縮ですが、
私は以前病んだ時、強烈な自己否定に圧し潰されてしまいました。
自分が許せなくて、情けなくて、本当に苦しかった事を、今でも思い出します。
しかし弱い自分を認め、客観的に見つめる事で、病んだ心は少しずつ緩和されて行きました。
何を持って強いか弱いか、一概には言えません。
今回のやよいは10か月にも及ぶプリキュアとしての日々を経ても、
泣き虫である事は当初と変わりません。
しかし、それを嘲笑ったアカオーニは、彼自身が言う程強くはないと思います。
むしろやよいとピースの方が明らかに強く見えます。
自分を中心として相対的に上(ピエーロやジョーカー)か下(やよい)かでしか
判断できないのは、アカオーニが持つ心の弱さと言えそうです。
それを彼自身が認められない限り、アカオーニにとっての成長も幸福も得られないでしょう。
このあたりに、アカオーニの救済に関連する要素がある気がします。
女優・作家というそれぞれの夢に付きまとう厳しさを認識させられた
うらら、
こまち、
分刻みのスケジュールをこなすミユキさんの多忙さに驚いたラブ達、
獣医の仕事は真似事では務まらないと思い知らされたブッキー等、
夢は憧れだけで追える甘いものでは無いと思い知らせるエピソードが過去にもありました。
しかし反面、いずれも厳しい現実以上にプロとしての楽しさや、やりがいを語らせています。
今回も同様、絵を描くのが好きなだけでは漫画家という仕事は務まらず、
将来プロになったとして、締切に追われる毎日や、ネタをひねり出す辛酸という現実が伺えます。
もちろん今回のコンクールは任意参加ですから、締切を厳密に守る必要はありません。
新人賞というコンクールに、再び挑戦する機会もある事でしょう。
しかしプロは違います。何が何でも締切は守らねばなりません。
アマチュアは楽しく、プロは苦しいのは、どんな仕事であっても同じ事です。
そしてプロになる事よりも、プロであり続ける事はもっと大変です。
しかし、アマチュアでは味わえない喜び・醍醐味が、プロには必ずあります。
最近仕事で問題を多く抱えていた私も、改めてその原点に立ち返って
自分の仕事に対するプライドとこだわりを持ち続けたいものだと思い直しました。
あかねが中心だった前回同様、今回も他の4人の出番は多くありません。
れいかが言うように、積極的に干渉するよりも、
時には見守る事も友情だという立ち位置を保てるのも、この5人の信頼関係が見て取れます。
ところで今回も前回と同じく、ピースの下へ4人が馳せ参じるのはかなり遅いです。
ひょっとして、既に駆けつけていた4人がピースの戦いの行く末を
見守っていたかもしれない、というのは穿った見方でしょうか。
事実ハイパーアカンベェの苦し紛れの反撃が見舞われた際、
受けて立つピースからは、一人でも抗おうという意思が見て取れます。
それを見届けてから救援に現れたようなタイミングに思えました。
やよい=ピースの事を想い、彼女の本質を理解しているからこそ、
見守る友情を貫き通したのではないかと、そんな気がします。
それにしても
第19話の時もそうでしたが、本気を出したピースのカッコ可愛さはたまりません。
太い稲光の中に立つ様は、どこのスーパーサイヤ人だよ(笑)といったカッコ良さがあり、
それに続く正面切ってのぶつかり合い等、目の覚めるような戦いぶりは胸が熱くなりました。
さらに今回は
ブライアン回の「茜色の空」のように
やよいがメインを張るエピソードのラストを飾るにふさわしく、
銀杏が織りなす黄金色の世界の美しさが印象的でした。
次回のなおメイン回では、同じように緑色が効果的に使われるのでしょうか。
すっかり冬じみた今の季節では、やや想像し難い色ではありますが・・・次回に期待です。