『私の名前は緑川なお。私には沢山の兄妹がいます。
けいた、はる、ひな、ゆうた、こうた。そしてもうすぐ新しい家族が増えるんです!
私、家族が大好きです。七人兄弟のお姉ちゃん、頑張ります!』小春日和の空の下、なおは洗濯物を干しながら、
兄妹たちに囲まれるとも子母ちゃんを優しく見つめました。
間もなく出産を控え、今日から入院するとも子母ちゃんを、整列して見送る緑川姉弟たち。
なおはとも子母ちゃんに妹弟たちの事を頼まれ、張り切って引き受けました。
緑川家に新たな家族が増えるという事は、
なおからの嬉しい電話を受けたれいかによって、みゆき達にも伝わりました。
そして、何かなおのためにお手伝いをしようと秘密基地を後にします。
その頃、マジョリーナはいつも通り、怪しげな釜を前に毒りんご作りに興じています。
そこにジョーカーが訪れ、マジョリーナにも最後通告を突きつけました。
ウルフルン、
アカオーニの姿が最近見えない事に触れたり、
後ろに回り込んだり、横に割り込む等、
かつてハッピーに対して行った手法を駆使しながら
マジョリーナを追い詰めて行くジョーカー。もし、倒せなければ・・・。
煮えたぎる釜から沸き上がる髑髏が、
もはや失敗は許されぬ状況だという事を、マジョリーナに嫌という程知らしめました。
なおを筆頭に、緑川姉弟勢ぞろいで商店街でのお買い物。
今晩の献立は、お母ちゃん特製カレーです。
八百屋・肉屋ではサービスしてくれたり、買い物客もなおを応援してくれたりと、
大家族緑川姉弟をみんなが暖かく見守ってくれています。
そんな人情味あふれる商店街を行く、買い物帰りの緑川姉弟たちを、
ほうきに跨ったマジョリーナが上空から見下ろしていました。
長兄のけいた、次女のはるは、長女なおと一緒に料理のお手伝い。
三女ひなは、次男ゆうた、まだ赤ちゃんのような三男こうたと一緒に
お絵かきしながらまだ小さな弟たちの面倒を見ていました。
ところが、お母ちゃん特製カレーに必要なリンゴを買い忘れたと、なおが口走るを聞いて、
ひなとゆうた、まだ幼い2人の姉弟はリンゴを手に入れるべく、
お姉ちゃん達に何も言わないまま、こうたを残して家を出てしまいました。
おそらくこの子達なりに、なおのために何かしたいと思った故の行動だったのでしょう。
間もなくお姉ちゃん、お兄ちゃんになるんだという自覚があったのだと思いますが・・・
何が手伝えるのかを考えながら、緑川家に向かうみゆき達。
れいかは初めてなおがお姉さんになった時、即ちけいたが生まれた時の事を思い出します。
『ねえ、れいかちゃん。わたし、おねえちゃんになったんだよ』まだ小さかったなおが見せた、誇らしげな表情。
家族はなおにとって大切な宝物だと言う事を、れいかは良く知っています。
そのなおが、一同が緑川家に差し掛かった時、慌てた様子で飛び出して来ました。
その切迫した様子から、何かが起きたと察するみゆき達。
姉がこんなに心配しているとは知らず、ひなとゆうたは手を繋いで商店街へと歩いて行きます。
怖い魔女が、手ぐすね引いて見下ろしているとも知らずに・・・
ひなとゆうたを探して、街を走り回るなお達緑川姉弟。
みゆき達も捜索に協力し、探し回ったり聞き込みをしますが、未だ2人は見つかりません。
「みんなの事を頼んだからね」
病院へ行く前にとも子母ちゃんがかけた言葉が、なおに突き刺さります。
そこにこうたを伴ってけいた、はるが駆けつけ、
こうたの反応から、2人はリンゴを買いに行ったのではないかと推察しました。
事実、その頃ひなとゆうたの2人は確かに八百屋さんの前に来ています。
しかし八百屋の主人が2人に気を留めたのも束の間、いつの間にか2人はいなくなっていました。
お金が無いとリンゴが買えないと気づき、途方に暮れながら河川敷を行くひなとゆうた。
さながらヘンゼルとグレーテルのように迷える子ども達の背後から、
リンゴを手にしたマジョリーナが声を掛けます。
このリンゴを特別にあげると言われた2人は喜んで手を伸ばしますが・・・
八百屋さんに2人の消息を聞いたなお、けいた、はる、こうたが河川敷に駆けつけた時、
リンゴの檻に囚われたはるとゆうた、そしてマジョリーナを目にしました。
応戦を決意するなおですが、妹弟たちの前では変身を躊躇せざるを得ません。
マジョリーナはなおが変身できない今が好機と見て、ほうきに跨り襲いかかって来ます。
なおは弟妹達を走らせて逃がしますが、その途中はるが転んでしまいました。
突っ込んでくるマジョリーナを前に、もはや猶予はありません。
『私の弟妹には、指一本触れさせない!』覚悟を決めて弟妹達の目の前で変身を遂げました。
皆、姉の変貌に驚いて息を呑みます。
『けいた。はるとこうたを連れて下がってな』戸惑いながらも、長兄けいたは姉の言う通りに2人を連れて逃げます。
しかし直後、マジョリーナが周囲をバッドエンド空間に染め上げた事で気力を失ってしまい、
さらにマジョリーナはひなとゆうたを捕えたリンゴをハイパーアカンベェと化しました。
事実上人質2人を取られた状態で、これでは下手に攻撃出来ません。
さらにマジョリーナ操るハイパーアカンベェはけいた、はる、こうたに襲いかかります。
懸命に庇いに入るマーチは殴り飛ばされ、種の弾を打ち付けられ、反撃も出来ずボロボロです。
それでもマーチは守るべきものを守る意志を捨てません。
『弟達は、私が絶対に守る。指一本触れさせない!』その言葉に、項垂れていたけいたは顔を上げました。目線の先には姉の背中が見えます。
『家族を・・・守るんだ・・・!』痛めつけられ、立ち上がれないマーチを庇うように、
けいたが、はるが、幼いこうたまでもが、バッドエンド空間の影響力を越えて立ち上がりました。
捕らわれのひな、雄太も一緒に、なお姉ちゃんをいじめないでと口々に声を張り上げます。
その声を煩わしく感じたマジョリーナは、相手が子供であっても一切容赦しません。
振り上げられた拳から、無慈悲に光弾が放たれました。
弟妹達に、逃げるよう必死に叫ぶマーチ。しかし、誰も逃げません。
マーチの脳裏に、賑やかな大家族の日常が、
そして新たな生命を宿した母ちゃんの姿が浮かびました。そして・・・
雄叫びと共に、マーチは立ち上がります。そして、突進します。
光弾を必死の形相で受け止め、押し戻されても退くわけには行きません。
『家族は絶対に・・・私が守る!!!!!』強烈な風と共に種を払い飛ばし、攻撃を掻い潜ってハイパーアカンベェに蹴りを叩き込みました。
一方のマジョリーナも、背水の陣で臨んでいる以上、これまでに無い本気で挑んできます。
若返ったマジョリーナ、守るべきものを背負うマーチ。共に雄叫びを上げて臨む、女の戦いです。
更なる本気モードへと転じたマジョリーナ操るハイパーアカンベェに対し、
マーチを取り巻く風から新たな力が生まれました。
プリキュア・マーチシュート・インパクト。
地面が動き出したように湧き出る竜巻のような烈風と共に繰り出す強烈な蹴りが、
マジョリーナもろともハイパーアカンベェを蹴り上げます。が・・・
『ここで負けるわけには・・・いかねェんだ!』
これまで「マジョリーナ様」状態の時に見せていた余裕をかなぐり捨て
言葉づかいまで乱暴になったマジョリーナは、巨大な光を打ち出しました。
その光はマーチを跳ね飛ばした後も勢い衰えず、河川敷の弟妹たち目がけて襲いかかります。
『指をくわえて観てるがいい、お前の弟妹たちが消える姿をな!』
伸ばしても、伸ばしても、その手は届きません。姉の眼前で光弾に包まれる弟妹達。
『嫌ぁぁああああああああああっっ!!!』いともたやすく行われるえげつない行為を目にしたマーチの絶叫が、河川敷にこだましました。
立ち上る土煙を前に、力なく膝をついて、けいたの、はるの、こうたの名を弱々しく呟くマーチ。
プリキュア史上、これ程むごい場面があったでしょうか。
対するマジョリーナは大いに勝ち誇ります。なんという外道!が・・・
土煙の向こうでは、ハッピーとサニーがけいた達を守っていました。
そして捕らわれのひな達は、マジョリーナの油断をついてビューティとピースが救出。
すがりついて涙する弟妹達を、マーチもまた震える手で抱きしめて、心から安堵しました。
『よかった・・・よかった・・・』『さてと!あとはこいつの始末だけだな』
『ゆ・・・ゆるしてくれ!弟妹たちだって助かっただろっ!
これで元に戻ったじゃねーか!ゆるして ねっねっねっ』
『ゆるすかゆるさねえか、「ココロヲヨーム」でも使ってみりゃあいいじゃあねーか』
"NO!NO!NO!NO!NO!"『ひ・・・一思いにマーチシュートインパクトで・・・やってくれ』
"NO!NO!NO!NO!NO!"『マ・・・マーチシュート?』
"NO!NO!NO!NO!NO!"『プリンセスフォームですか~』
"YES!YES!YES!YES!YES!"
『もしかしてロイヤルレインボーバーストですかーッ!?』
"YES!YES!YES!"
そしてブチのめされたマジョリーナもまた、今後を案じながらいずこかへと引き上げて行きました。
眠っている弟妹達を見つめて、なおは改めて振り返り、お礼を言いました。
『みんな・・・ありがとう・・・・・・ほんとうに・・・ありがとう・・・』溢れる涙を抑えきれず、なおはまるで小さな子供のようにか細い声でしゃくりあげます。
『こわかった・・・こわかった・・・こわかったよぉ・・・・』『大丈夫だよ。みんな一緒だから』幼子をあやすように、みゆきはなおを優しく抱きしめました。
丁度そこに源次父ちゃんの車が通りかかり、みんなを呼び止めます。
もうすぐ産まれると知ったみんなも、一緒に病院へ向かいました。
待合室で弟妹たちは、なおが戦ってた夢を見たと口にしました。
みんなが同じ夢を見るなんて不思議だと誤魔化していると、産声が聞こえて来ます。
緑川家に、新たないのちが生まれました。
新しい家族の一員は「ゆい」。
人と人との絆を結び付けてくれる子になって欲しいと願いを込めて命名された妹に、
長女なおはそっと指を伸ばします。その指を握り返す小さな手。
『私の名前は緑川なお。私には沢山の兄妹がいます。
けいた、はる、ひな、ゆうた、こうた、そして・・・ゆい。私、家族が大好きです』なおを主人公とした、今回のようなエピソードをずっと待っていました。
折角の大家族という珍しい設定は、
マーチ初変身となる第4話以来ついぞ見る事が出来ず、
先日の
「コドモニナ~ル」回で少し家族がピックアップされた程度です。
そのため、折角の設定を活かした話が無いのを残念に思っておりましたが、
なおのおそらくラストエピソードでこれ程のものが見られて満足です。
そして同時に、戦慄を禁じ得ない一編でもありました。
本文中も思わず触れてしまったように、幼い弟妹たちを人質に取るばかりか、
プリキュアでもない子ども達に対して躊躇なく攻撃を仕掛ける等、
マジョリーナのあまりの外道さに驚愕した次第です。
これに匹敵するのは
母親消しを成し遂げたサウラーくらいでしょうか・・・
これまでにも
亮太や
みのり、
ゆうとあい、
奏太など、
弟や妹が危機にさらされる話はありましたが、
それら以上に「命の危険性」がストレートに感じられ、正直ここまでやるかと驚きました。
しかし、こうまでしなければ追いつめられたマジョリーナとの
互いに退けないものを背負った者同士の戦いは描けなかった事でしょう。
これまでお茶目なお婆ちゃんだっただけに(まあ、へそ曲がりではありましたが)
その落差が持つインパクトが強烈でした。
ところで、私はこれまで若いマジョリーナに「様」をつけていましたが、
今回はその外道っぷりに少々引いてしまったため、「様」はナシにしています。
一方えげつなさはマジョリーナに対しても容赦がなく、
釜から湧き立つ髑髏という、露骨に「失敗は死」を匂わせる恐ろしさも際立っていました。
そしてマーチが見せるかの
「絶望ピース」を髣髴とさせる表情や、
絶叫、弱々しく漏らす声の恐ろしい事!
テレビの前で観ている私達としては、絶対にハッピー達が助けに来ると解っていますが、
作中のマーチにはそんな楽観など持ち合わせている筈がありません。
本当に大切なものを失ってしまいそう、そして失ってしまったのではないか、
という真に迫った絶望感がひしひしと感じられます。
手を伸ばしても届かない絶望と恐怖はいかほどのものだったでしょうか。
戦いの以前からひなとゆうたを探して奔走していた事もあり、
なおの強い責任感は、綱渡りのような危うさと紙一重のように思えます。
豪胆で活発、強気で豪快といったイメージのある彼女は、
反面
幽霊や
高いところ、虫が怖いという弱点があります。
これら弱点は繊細な感性を併せ持つ故の事でしょう。
実際、
第4話の時点で私はなおが「姉としての責任感」を全うしようと頑張る姿を
立派だと思う反面、頑張りすぎているのではないかと案じていました。
普段から気を張っているものがいざ折れてしまうと、
張りつめた糸が切れてしまうような危うさがあります。
本当はなおも誰かにすがって弱い自分を心からさらけ出して、
心から甘えてみたいのではないかと思います。
実際、両親はなおが望めばそのようにしてくれる事でしょう。
しかしなおは長女としての責任感が強すぎるのか、両親にさえあまり弱みを見せないのでしょう。
「みんなの事をたのんだからね」というとも子母ちゃんの何気ない一言が、
それは一切の悪意がある言葉でないにもかかわらず
なおの心に深く突き刺さっている事からも伺えます。
だからこそ、なおを包み込むようなみゆきの優しさが一層引き立ちました。
真に弱い部分もさらけ出せる友人を持てるとは、素晴らしい事だと思います。
それにしてもこの場面のすすり泣き、その前の「ありがとう・・・」の言い方が絶妙で
改めて井上さんの演技力にも感服した次第です。
今回はなおがもう一つお姉ちゃんになるだけでなく
けいた以下弟妹たちも、また一つお兄ちゃんやお姉ちゃんになる話でもあります。
思えば
第4話の時点では、みんななおに守られるだけの存在でした。
しかし今回は守られるどころか、バッドエンド空間の呪縛を断ち切って
最年少のこうたでさえ、逆になおを守るという姿を見せつけます。
いつまでも守られるだけではなく、それぞれがお兄ちゃん、お姉ちゃんとして
互いを助けて守らなければならないという成長が、この子達にも見て取れました。
病院の待合室で、みんなは姉が変身したキュアマーチの事を「夢だった」と言っています。
そのため、
フレッシュ以来の「正体が知られているプリキュア」にはならず、
全員が夢だと認識していると捉えるのが妥当と思いますが、
弟妹達が申し合わせて、なおのために口をつぐんだと解釈する事も出来る気がします。
そんな配慮が出来る程の年齢ではありませんが、
はっきり明記されていない以上、こういう想像も出来ると思います。
そして「ゆい」。漢字で書くと「結」でしょう。良い名前だと思います。
長女の「直」と末妹の「結」。「直結」になるのはさておき(笑)
真っ直ぐに育つ「なお」がいるならば、絆を結ぶ「ゆい」という繋がりが良いですね。
間の弟妹たちの漢字名は定かではないため、
どことなく語感で名づけられた気がしないでも無いですが、
姉・人を敬う気持ちを込めて長男「敬太」、春のように朗らかな次女「春」、
姉としての責任感も意識して弟たちを照らす三女「陽菜」
優しく育ってほしいと願いを込めた「優太」、幸せを与える人になって欲しいと「幸太」
それぞれ勝手に妄想させて頂きました。
長めのBパートが、不安を煽る踏切の音や、
非道そのもののマジョリーナによって緊張感に満ち溢れていたため、
ちょっとハメを外してダービー弟ネタを絡ませてしまいまして恐縮でした。
そうでもしないと緊迫しすぎておりまして・・・
ただ、次回はあのジョーカーが久々に出向いてくる等、
より一層の緊迫した展開も予想されるだけに、今から覚悟しておこうと思います。
以下余談ですが、リンゴを入れたカレーが食べたくなってしまい・・・
本日はすりおろしリンゴを入れたカレーを煮込みながら執筆しました。
先程ご飯も炊けたので、これから緑川家の母ちゃん特製カレーに思いを馳せ、夕飯にします。
ちなみに全体の分量に対してリンゴが多かったようで、
「隠し」味どころかリンゴ風味が効いたカレーに仕上がっておりましたとさ。