『私の名前は青木れいか。この学校の生徒会長をしています。学ぶことを怠らず、
目標を定めて、一度やると決めた事は最後までやり遂げる。それが、私の道です』生徒会長の職務を的確にこなし、テストは満点。弓道でも的の中心を正確に射抜き、
れいかはどこから見ても、あたし完璧!を地で行っています。
そのれいかが、全国の優秀な生徒で選抜される英国留学メンバーに選ばれたという朗報を、
興奮気味に告げる佐々木先生。しかし、当のれいかは喜びよりも戸惑いの色を浮かべました。
出発は一か月後。期間は一年。
事実、れいかは一年生の時にそれに応募していましたが、
その当時は想いもよらなかったでしょう。
これほど強固な絆で結ばれる友人達が出来、その面々と一年も離れるとなどいう事は・・・
帰り道、報告を聞いたあかねとなおも共に祝福します。
しかしれいかは留学メンバーに選ばれた光栄よりも、
プリキュアが続けられなくなる事が気がかりでした。
みゆきは何とかなると言っていますが、果たしてそんなに楽観できるのでしょうか。
四辻に立つカーブミラーが、れいかの迷いを映し出しているようです。
一緒に帰る道はここまで。4人は十字路を直進し、れいかは一人左折していきました。
さながら4人とは別々の道を歩む事を暗示するかのように。
留学が決まったれいかを、静子お母様と淳之介お兄様も素直に祝福します。
特に淳之介お兄様は、かつて自分が希望しながらも果たせなかったために、
妹の快挙を心から褒めているようです。
次いでれいかは曾太郎お爺様を訪ね、改めて留学を報告しました。
『お母様もお兄様も先生も友達も、みんなとても喜んでくれて、とても光栄です』しかしその言葉とは裏腹に、どこか俯き気味のれいかに
曾太郎お爺様は2つの「道」の書を指し示しました。
はっきりと読める「道」と、崩して書いた「道」。形は違えど、道には相違ありません。
寄り道、脇道、回り道。
れいかの描く道はどんなものなのかと、問いかけるような曾太郎お爺様の言葉は、
れいかの心に波紋をもたらしました。折しも呼応するかのように池に波紋が広がります。
『私はいつも目標を定め、それに向かって歩いて来た。周りの人たちもみんな、
それを応援してくれていたから。でも、私は・・・私の行くべき道は・・・』夜遅くまで文机に向かい、「道」の字を半紙にしたため続けていくれいか。
その周りを無数に書いた「道」の書が取り囲み、さながら迷い道に踏み込んでしまったようです。
三幹部達の失敗を受けて、いよいよジョーカー自ら手を下す時が訪れました。
プリキュアの要、チームの頭脳であるビューティを排除すべく、動き出します。
留学へ応募した動機は、海外で学んで自分の可能性を試したかったためでした。
みゆき以下、みんなれいかの留学を改めて後押しします。
特にれいかと付き合いの長いなおは、いつも誰かのために頑張ってきたことに触れて、
たまには自分を優先して我がままになってもいいと助言し、
あかねも、やよいも、キャンディも皆がれいかの門出を祝しました。
しかし、れいかがお礼を言って立ち去った後、みんなの様子が一変します。
『これで・・・いいんだよね』その声は震えています。やよいは涙を浮かべていました。
笑って見送らないといけないと咎めるあかねも、我がまま言っちゃだめだと諭すなおも、
本当はれいかと離れるのが辛くてたまりませんでした。
しかし、れいかのために涙を呑んで、あのように振舞っていたのでした。
キャンディは留学の意味を知らなかったために追随していましたが、
離れ離れになると知って一転、反対し始めます。
『みんなはそれでいいクル?キャンディは嫌クル』
どちらがれいかのためなのか。答えは出ません。
れいかの矢は二本続けて的の中心を外し、迷いは矢にも表れています。
突如、的の中心にダーツが穿たれると共に、ジョーカーが弓道場に姿を現しました。
周囲をバッドエンドに染め上げ、スマイルパクとを構えるれいかを異空間へと誘い込みます。
持ち主を失った弓だけが、弓道場の床に残されました。
れいかが引き込まれた空間は、空中ブランコが吊り下がるサーカスのような場所。
ここがジョーカーの
スペシャルマッスルトレーニングルーム、略して「私の部屋」でした。
単身変身するれいか。ところが・・・
「祝!!留学!!」
弾けるくす玉と共に、ジョーカーは留学決定祝いの言葉をかけました。
意図を測りかねて、ビューティは戸惑いを隠せません。
手を下すまでもなく、プリキュアが一人減ることがうれしいと、
ジョーカーの言い分は至極単純でした。
それを否定するように挑みかかるビューティを軽くあしらい、
引退試合と称して鏡をハイパーアカンベェ化します。
弓道場に残された弓を見て、みゆき達はれいかの身を案じました。
れいかが異空間に連れ込まれた的が怪しいところまでは、
キャンディが犬デコルで嗅ぎつけた事でわかりましたが、
さりとてどうすればよいのかが分かりません。
とりあえずプリキュアに変身してみますが、チームの頭脳の不在は大きいです。
アカンベェと対するビューティに、ジョーカーの言葉の数々が突き刺さります。
『もうプリキュアを辞めるあなたが、なぜ戦っているのです?』
それを否定しようとすると、すかさず留学と取りやめるのかと切り返し、
文字通りビューティを翻弄します。
留学するならばプリキュアをやめるのか、
留学を辞退するならば、応援してくれたみんなの期待を裏切るのか。
みんなが支援していた様を、わざわざ無数のモニターで見せつけて
相変わらずネチネチとビューティを追い詰めていきます。
『そんな酷い事・・・とても素敵ですねェ』
ハイパーアカンベェの鏡に反射した光がビューティを照らしました。
まばゆい光に目がくらんだビューティが目を開くと、そこはビッグ・ベンの前。
『あなたが歩むべき未来ですよ。あなたはあなた。みなさんはみなさん』
まるでプリキュアを象徴するような、色とりどりの風船に手にしたジョーカーが
ビューティの背後から肩に手をかけて、ぞっとするように甘く囁きかけました。
『なによりそのみなさんが、あなたの未来を喜んでくれているのでしょう?
何を迷う事があるんです。あなたは夢を叶え、皆さんは喜び、ついでに私も嬉しい』
それは誰もが喜ぶ最高の未来なのでしょうか。
万華鏡に映る無数の像と化し、そして目の前の大鏡に映る像となったビューティが
不気味な笑みを浮かべます。
『さあどうぞ素敵な留学を。キュアビューティ、いいえ、ただの青木れいかさん。
今まで本当に、お疲れ様でした』
鏡に映る像ではない本物のビューティがおののきを抱くと同時に、変身が解けました。
任期満了、円満卒業、プリキュアではない、ただの青木れいかの姿。
それが答えだと言われて、れいかはがっくりと膝をつきました。
れいかを追い詰めたジョーカーは、ハッピーの呼ぶ声を聴いて
ここで全員仕留めようと企て、4人を亜空間に引き込みました。
招き入れられた4人が見たものは、中央で膝をつくれいかと、傍らに立つジョーカー。
皆が駆け寄ろうとした矢先、れいかの周りを鉄柵が取り囲みます。
なぜプリキュアに変身していないのか問う4人に対し、
答えられないれいかに代わってジョーカーが言い含めました。
『プリキュアは、あなた方4人だけになったという事です』
そして4人目がけて襲い来るハイパーアカンベェ。
皆が戦っている間に、キャンディが鉄柵にすがりついて、れいかに問いかけました。
『プリキュアじゃなくなったなんて嘘クル?』
『ならばなぜ変身しないんでしょうねぇ。
れいかさんは、自分の夢のために遠い外国へ旅立つ事を決めたのです』
その頃4人はハイパーアカンベェ相手に苦戦を強いられていました。
『お友達なら、笑って送り出してあげましょうよ』
『そんなん、わかってるわ!』『友達を応援するのは、当たり前だよ』『れいかの夢が、叶う所なんだ』『そう、友達だから、私達が笑って送り出して上げなきゃ・・・』それでも、れいかを笑って送り出すべく、精一杯の気力を振り絞って抗い続けます。
立ち上がる4人は、口元には笑みが浮かんでいます。しかし、同時に俯いてもいました。
『笑って・・・笑って・・・ごめん。やっぱ無理・・・』笑顔のままのハッピーの頬を、涙が一筋伝いました。
そして鉄柵を掴み、あふれる涙とともに、思いのたけをありったけ叫びました。
『友達が居なくなるのに、笑えるわけないじゃない!』『私だって、本当は寂しいよ!』『でも、れいかが行きたいんなら』『それを、応援したいから・・・!』皆が鉄柵に縋り付き、まるで幼子のように泣き叫びました。別れたくないと、訴えて。
『私も、行きたくないです・・・!』皆の涙の懇願が、れいかを動かしました。
立ち上がり、静かに鉄柵へ歩み寄り、鉄柵を掴み、赤裸々な心を、涙と共に吐き出しました。
『私も、行きたくない!もっとみんなと一緒に居たい!
みんなと別れて離れ離れなんて、そんなの・・・そんなのやだ!』どのような時も、常に敬語だったれいからしからぬ言葉。
その飾らぬ言葉で心からの真実をぶつけ、柵を潜り抜けたキャンディをしっかりと抱きしめました。
そのまま柵越しに、5人と1匹はまるで子供のように恥も外聞もなく泣きじゃくります。
ジョーカーにとってはお笑い草の茶番劇と映ったのでしょう。
一部始終を笑い飛ばし、ここで仲良くおしまいにさせてあげるとアカンベェをけしかけました。
『お待ちなさい』静かに言い放たれたその一言は、アカンベェの足を止めるだけの迫力がありました。
そして、プリキュアを辞めるなどとは一言も言っていないと、再び立ち上がります。
周囲一面を包み込む冷気。
その冷気と共に、氷の衣を纏ったプリキュアが、再び戦いの場に立ちました。
『私の名前は青木れいか。またの名を・・・キュアビューティ!』青いスポットライトの数々、弾けるクラッカーが、その復活を祝すようです。
ハイパーアカンベェを「飲み込んで」一体化し、剣と鏡の楯を構えるジョーカー。
対するビューティも、氷の剣を手にして対峙します。
そして繰り広げられる剣劇。それは激しくも、美しく、華麗な氷剣の舞のようです。
『何故戦うのです。周りの期待に応えておとなしく留学すべきでしょう』
『それはあなたの考え。私の答えじゃない!』夢を捨てて期待を裏切るのではない。道を見失ったのではない。
逆に、彼女は道を見出しましたのでした。
『寄り道、脇道、回り道。しかしそれらもすべて道!』氷の剣を両手に携えたビューティ、剣と楯で受けて立つジョーカー、
激しい剣の乱舞の果てに、ビューティはジョーカーの剣を弾き飛ばしました。
『私が歩く私の道は、私が決める私だけの道』楯の鏡を手に無数に分身したジョーカーを前に、ビューティの両手の剣は弓を形作りました。
『これが、嘘偽りない私の想い。私の我がまま、私の、道です!』同時に照り付けるスポットライトは、登りゆく朝日よりも明るい輝きで「道」を照らしているようです。
そして彼女達ががこれから「向かうべき 正しい道」をもッ!
その光に照らされたジョーカーを射抜く新たな技。
プリキュア・ビューティブリザード・アローの矢が、楯を貫き、砕きました。
と同時に広がる、抜けるような青空。ハッピー達は自分たちを取り巻く、
ウユニ塩湖のように青く美しく澄み切った世界を目の当たりにしました。
まるで道を見出したれいかの心そのもののような世界で、
ビューティと共に、5人で繰り出すロイヤルレインボーバースト。
ジョーカーはハイパーアカンベェを捨石にして、かろうじて引き上げていきました。
れいかは今回の留学を断る決心を固めました。
今、一番大切にしたいものは、みんなと一緒にいられるこの時間。
そう告げるれいかに、皆感極まって飛びつきました。
『私の名前は、青木れいか。目指す未来へ向かって、大切な友達と歩み続ける。
それが私の、道です』今回、初見で見たときにはやや疑問を抱いたところがありましたが、
2度3度と見返すにつれて、そのような否定的見解は薄れていきました。
というよりも、これは相当に素晴らしい傑作ではないかと認識を改めさせられ
見れば見るほどに色々と深く感じさせられました。
最初に見た折には、留学を希望している(と思われた)れいかの夢を
みんなは笑って送り出せずに、泣いて懇願する事でつぶしてしまったのではないか。
れいかもみんなと別れるという一時の痛みを超えた先にある、
留学という道の世界を、知る前から挑戦を辞めてしまうのはいかがなものかと
少々疑問を持ってしまったのですが、
再び見返した折、れいかが敬語を捨ててぶちまけた言葉を聞いて、その疑問は霧消しました。
飾らぬ言葉で、腹を割って出した言葉こそが真実であり、
今のれいかは真に留学を望んでいないとわかり、
そして4人が引き留めたから留学を諦めたのではないとわかった以上、
これがれいかと、みゆき達が出した本当の答えなのだと「納得」させられました。
過去、プリキュアの途中で抜ける可能性があった
ほのか、
咲、
美希などの例は
いずれも中断しています。
それは「プリキュアである」という縛りによるものも当然ありますが、
何より彼女達自身がプリキュアを辞める事を希望せず、
それぞれの答えを見出していた事が大きいと思います。
今回、れいかは「寄り道、脇道、回り道」を答えとして出しています。
確かに今5人で過ごす時間は、悪く言えば一時の「停滞」。
一緒に過ごしたいという感傷によって「歩みを止めた」と切り捨てることもできます。
しかし、寄り道も、脇道も、回り道も人生に於いてはまた一つの道であり、
急がば回れという言葉もあります。
れいかだけでなく彼女たちはまだ若く、
これから先留学ができる機会はまだいくらでもあることでしょう。
もっともその逆、今留学しなければ得られなかったものもあった筈ですが、
それは人生における「if」であり、その道を選ばねば知る由もありません。
現に下校時の四辻に立つ枯れた木は、幾重にも枝分かれする「道」を象徴しているようでした。
人生における選択肢は、この木のように、それこそ無数にあります。
留学の道を選んだとしたら、れいかの人生もみんなの人生もまた変わった事でしょう。
しかし、それを考えるよりも「今しかできない、今しか過ごせない5人の時間」
こそを大切にしたいという強い思いが存分に伝わってきました。
もっとも、1か月後の出発、さらに留学期間が1年というのがやや極端でしたので
たとえば「2年生が終わり、3年生になったら」等でしたら
プリキュアとしての戦いを終えた後日談として、れいかの留学もあり得たかもしれません。
仮に留学したとしても、本棚があるじゃん!というのはまあ、置いておいて(笑)
ジョーカーのいやらしさは相変わらずで、
さらに「留学を辞める」→「みんなの期待を裏切る」という理論武装には
反論の余地が無さそうな隙のなさも感じられて、やはり三幹部とは格の違いが感じられます。
言葉だけでなく、それこそ弄ぶようにモニター、鏡、風船を駆使しての精神攻撃の数々も恐ろしく
最終決戦では果たしてこの難敵にどう対処するのか、
気がかりなだけでなく、彼女達がいかに成長して打ち破るのかを期待したいです。
それにしても万華鏡や、赤い背景をバックにシルエット状態で膝をつくれいかなど、
追い詰められたれいかの心情を抉るような演出の数々も効果的でした。
ここ数回の、各個人個人に重きを置いたストーリー群の中にあっても、
みゆき=ハッピーの存在感が頭一つ抜きんでていました。
今回もそれは同様で、
『笑って・・・笑って・・・ごめん。やっぱ無理・・・』この場面の描写と演技には感銘を受けました。
時には涙を呑み、心を鬼にして送り出すことも必要でしょうが、彼女たちはまだ中学二年生。
そこまでこなせる余裕を持ち合わせていないのも当然です。
何より無理して作り笑顔で送り出すよりも、仮に留学を止められなかったとして
心の底からの本音をぶつけた方が、お互いのためになると思います。
あの涙はれいかと離れたくないという甘えから出たものでは決して無く、
れいかが望むならば本当に別れてしまうのもやむなし、
それでもどうにもならない想いが込み上げてあふれ出たものでしょう。
またジョーカーの発言のうち「任期満了」「円満卒業」という言葉にはドキっとさせられました。
すでにシリーズも終盤。
実際にれいか達が「任期満了」「円満卒業」する日もそう遠くありません。
これは毎年避けられない事であり、都度寂しさを抱いて来ました。
しかし同時に、彼女たちが真に幸福な結末を迎えて「円満卒業」する姿にも
感慨深いものを抱いて来ました。
彼女達の活躍する1年間は、長いようですが、終わってみれば実に短く感じられる時間です。
だからこそ、彼女たちと共有する時間を大切にしたい・・・
過去の作品群は、いずれも「過去」には追いやられていません。
むしろ、先人が切り開いた「道」の先に、今に続くプリキュアの道が刻まれています。
そのためにも、れいかと4人が今を大切にしたいという答えを出したのは必然のようです。
それにしても「弓」。かっこいいですねぇ。
初めて剣で戦ったとき、あれ?れいかさん弓道部なんだから弓は?と思ったものですが、
ここまで温存していた事で逆にカタルシスが感じられました。
剣劇も途中から二刀流になってさらに見応え十分!
空中ブランコを効果的に利用しての華麗な立ち回りも美しく、
ビューティはサニーとは別ベクトルでの充実したアクションに恵まれていると実感します。
そしてジョーカーが今回効果的に使った「鏡」。
いわゆる「中の人繋がり」でキャラクターを語る事は、
ビューティにとってもダークドリームにとっても望ましくないかもしれませんが、
初変身の時と同様、どうしても意識してしまいました。
また、静子お母様の湯飲みに「母」と書かれているなど、
そのまんまじゃねぇか!と突っ込みたくなります。
極妻のような印象とは裏腹に、ああ見えてお茶目なお母様なのかもしれません(笑)
今回はとにかくまとめるのが非常に難儀し、
文章がどうも支離滅裂のような気がします。
まだ書きたい事、気になることも色々とあるので、
いずれ手直しするかもしれません。それほど、書きたい事に満ちた一篇でした。