宇宙の彼方より、隕石が地球へと忍び寄りました。
それは次第に人目を惹く程大きくなり、人々は皆、暗くなった空を不安そうに見上げます。
時を同じくして、キャンディにも異変が起こりました。
隕石=ピエーロの卵の到来を警告するように、ロイヤルクロックが光を発するや否や、
その光に包まれたキャンディは、物言わぬ宝石へと姿を変えました。
バッドエンド王国。
最後通告を受けながら失敗した三幹部達が、再度ジョーカーに招聘されています。
キャンディこそがミラクルジュエルだったと聞いた三幹部達は色めき立ち、
最後のチャンスを貰おうと口々に申し出ました。
しかし命を賭けてでも構わないとの申し出をはぐらかすように、
ジョーカーは今頃になって黒っ鼻のリスクを明らかにしました。
あれは使う度に使用者の生命を削っており、
既に三幹部達は次に負けたら命を失うところまで追い詰められていました。
その事実に愕然とする三幹部達。しかし、彼らは死よりも「昔に戻る」事を恐れています。
先陣を切って黒っ鼻に手を伸ばすウルフルンに続き、
アカオーニとマジョリーナも手を伸ばし、黒っ鼻の上で彼らの手が重なりました。
『地獄に落ちるぞ』
『地獄は鬼にぴったりオニ』
『もう後には退けないだわさ』
背水の陣で挑む覚悟を決めた彼らに、ジョーカーは改めて黒っ鼻の異なる使用法を伝えました。
キャンディの変化に戸惑うみゆき達の所に、ポップが飛んで来ます。
ポップはピエーロの卵が襲来した事を告げに来たのですが、
キャンディの変化のは想定外の事態です。
悪い事は重なるもので、そこに三幹部達が来襲しました。
ピエーロ復活のために最後のバッドエナジー抽出作業を始め、
世界中の人々――それは五人の両親や家族達も例外ではありません――から
ピエーロ復活を告げる狼煙のように、バッドエナジーが立ち上りました。
最後の戦いが、始まろうとしています。
変身した五人に対する三幹部もまた、自らに黒っ鼻を使用して、
どこぞの愚連隊のような(笑)姿になりました。
ハッピーはウルフルンに挑まれた最後の戦いを受けて立ち、
サニーとピースは金棒を手に襲い来るアカオーニと対峙します。
そしてマーチとビューティは、無数に分身して襲いかかるマジョリーナの挑戦を受けました。
もう後が無い彼らの気迫は、当然いつも以上です。
ウルフルンとの拳の応酬を繰り広げたハッピーは殴り飛ばされ、
サニーとピースは、渾身の一撃を耐えたアカオーニにはね返され、
マーチとビューティは無数のマジョリーナを前に火の粉を払うような戦いを強いられます。
劣勢に回ったハッピーは、深呼吸した後気合注入し、ハッピーシャワーを放ちますが、
本気のウルフルンには通用せず、逆に押し返されました。
アカオーニもサニーファイヤーとピースサンダーの二段攻撃を耐え抜き、
かき消した後反撃に転じました。
あの時と同じマーチシュート乱れ撃ちと、ビューティブリザードは
マジョリーナの何体かを蹴散らして行きます。
しかし突如キャンディがマジョリーナを庇うように割って入り、とっさにキャンディを庇う二人。
無論これはマジョリーナが見せたまやかしで、騙された二人の隙を突いた一撃が襲います。
立ち上がれない五人の前に立ち、勝ち誇る三幹部達。
プリキュアは絶対に負けない。夢や希望を絶対に捨てない。
そう口にしながら懸命に立ち上がろうとする五人に対し、
ウルフルンはもう無駄だと上空に浮かぶピエーロの卵を指さします。
それは不気味な音を発して、はるかに大きさを増していました。
『それでも、私たちは諦めない』『ウチらの背中には』『世界のみんなの』『未来がかかってる』『だから、絶対に負けるわけには行かないんです』ピエーロは前以上にパワーアップして復活すると言われても、
彼女達は出来る事を全部やるべく、次々に立ち上がりました。
そしてプリンセスフォームへと転じ、ペガサスと共にレインボーバーストを放ちました。
三幹部達もまた、バッドエンドフルパワーを以て受けて立ちます。
立ち上る悪の気が巨大な龍と化し、バッドエンドバーストを放って真っ向勝負。
結果は、背水の陣の三人に軍配が上がりました。
『てめえら如きじゃ今の俺達には絶対敵わねえ』
この執念は一体どこから沸いてくるのか、疑問を抱いたハッピー達に、
彼らは初めて自らの身の上を口にしました。何度となく味わった、悔しさ、寂しさ、痛みを。
『私達は、絵本の中じゃいつも嫌われ者』
マジョリーナは人々から忌み嫌われる魔女として、
『怖がられて、嫌われて』
アカオーニは人々から石で追われる鬼として、
『誰からも相手にされない』
ウルフルンは猟師から猟銃で追い払われる狼として、これまで過ごして来ました。
そんな彼らに対し、このくだらない世界を壊し、世界から未来を奪い、
バッドエンドになれば住みやすい世界になると、甘言を持ちかけたのはジョーカーです。
『憎いんだよ!ヘラヘラと楽しそうにしてる奴も、
未来が明るいとか言ってる能天気なてめえらも全部な!』
『疎まれ、蔑まれ、誰からも相手にされない。
その悔しさや寂しさ、お前達なんかには解らないオニ!』
『だから私たちはピエーロ様と一緒に、この世界全てを壊すのよ。
ムカつくこのくだらない世界を全部ね!』
ハッピー達は、その言葉に悲しそうに顔を曇らせ、握った拳が解けました。
プリキュア達が構えを解いた事を訝るアカオーニ達。
『私も、学校で同じような事があった』『あんたらが絵本の中で感じた事、わからんでもない』同情されたと感じた三幹部は逆上し、再び襲いかかって来ました。
五人とも、その攻撃を防ぐのみで反撃する事は出来ません。
『あなたたちの事を知ってしまったら、私達、どうしたらいいのかわからない』それは決して、ウルフルンが言うような見下した同情などではありません。
『馬鹿になんかしてへん』『あなたたちの感じた痛みが、少しだけ分かったから』『私達は、私達の世界の未来を守りたい。だけどそのためにあなた達と戦うのは違うと思います』『なんでこんな事になっちゃったの』しかし彼女達の憐みは、ウルフルン達を逆上させるだけでした。
唾を撒き散らしながら何が分かるんだと吠えるウルフルンの言うように、
お前達は幸せで、嫌われた事が無いとアカオーニやマジョリーナが言うように、
彼らの苦しみは全て理解する事は出来ないかもしれません。
しかし、彼らの嫌な想いを少しでも和らげたい・・・
五人の目を見たウルフルン達は戸惑いました。
これまで目にしてきた、闘志に満ちた目とは違う、憐みでは無い、悲しい目を。
『本気なのか・・・?』
しかし、彼らはプリキュア達の向ける想いを強引に振り払いました。
『お前達を観てると頭がおかしくなっちまう!』
『俺が俺でなくなるオニ』『そうなる前に、全部ぶっ壊してやる!』
文字通り魔獣と化した三幹部が、雄叫びと共に襲いかかって来ます。
『その怒りを、どうか鎮めて・・・』逃げもせず、抗いもせず、受け止めるように手を広げるハッピー。
そして、ロイヤルクロックが光を発しました。
光の中で気が付いたウルフルン達は、いつもの姿に戻っていました。
そして目の前には慈愛に満ちた目を向ける、大きなハッピーの姿がありました。
『私は、絵本の中のみんなが大好き。
本当は狼さんも鬼さんも魔女さんも、とっても優しいんだよね。
絵本が沢山の夢や希望を与えてくれるのは、みんながいてくれるおかげだもん。
ありがとう・・・』慈しむように包み込むハッピーの掌で、三幹部達は初めて言われたお礼に戸惑いました。
『よかったら、私と友達になって欲しいな
みんなで一緒に遊ぼう。きっと、とっても楽しいから・・・』いや、結構一緒に遊んでたじゃんハッピーの微笑みに心打たれた三幹部の目から、涙が溢れました。
まさしく鬼の目にも涙。彼らから
ザケンナー邪気が立ち上り、そして・・・
ハッピーの前には、三人の妖精がいます。
そこに到着したポップによって、彼らはもともとメルヘンランドの妖精、
ウルルン、オニリン、マジョリンだという事が明らかになりました。
『長くつらい旅でござったな。お帰りでござる』
『・・・ただいま』
迎える者、帰還した者、それぞれ涙を浮かべまる中、遂に黒っ鼻から最後のデコルが現れます。
しかしそれは、直後ジョーカーに奪われました。
彼はプリキュアと三幹部が戦っている間に世界中の人からバッドエナジーを抽出しており、
今まさに時計の針が、ピエーロ復活を告げる「18」を指そうとしています。
そしてピエーロ復活の手土産として打倒プリキュアを宣言したジョーカーは
世界中の誰もが持つ悲しみ、憎しみ、孤独の心、世界の絶望とデコルを混ぜ合わせて・・・
完成した五色のカードから、
ダークプリキュア5絶望のプリキュア、バッドエンドプリキュアが誕生しました。
果たして希望の力で、絶望のプリキュアに勝つことが出来るのでしょうか。
サウラー&ウエスターさんや、
クモジャキー&コブラージャさんのように
最終決戦が年跨ぎとなり、気を揉みながら年末年始を過ごして迎えた今回、
最初の率直な感想は、この2例と比べて少し甘いかな?と思いました。
突然身の上話を語り始める三幹部達もそうですし、
一度生死不明になったり、一度人格としての死を迎えることも無く、
元の妖精の姿に戻った事で、彼らの背負っていた悲愴感が少々伝わり辛かった感がありました。
例えば
イース様は文字通り「死」を迎えて生まれ変わりましたし、
サウラーとウエスターさんは捨てられた事の絶望感と死の恐怖を十分味わっています。
サソリーナ、
クモジャキー、コブラージャさんは彼らの人格としての「死」を迎え、
エレンは涙の謝罪があり、
ファルセットは理不尽に吸収され、
バスドラとバリトンは身を挺してメロディを庇いました。
例えば今回も同様、例えば不意打ちを仕掛けようとするジョーカーから
身を挺してプリキュア達を庇う元三幹部の妖精、という展開も考えられますが、
逆に安易に想像されてしまう展開なので、無くても良かったのかもしれません。
何よりプリキュアは子ども達のものであって欲しいですし、
それは実際に制作に携わる皆様も同じお気持ちでしょう。
過去の例を挙げて比較検討しているのは私達大人の視聴者であり、
比較的最近の事に思えるフレッシュであっても既に3年前、
今スマイルプリキュアを観ている子ども達からすれば、知らないのも当然だと思います。
それであればこの一年間でみゆき達が、三幹部達がどう行動してきたのか、
なぜ心を動かされたのかを描いた方が、本来の流れのように思います。
ただ「命をもらう」というジョーカーの直球すぎる台詞は
少々プリキュアに相応しくないかもしれませんが・・・
プリキュアでは「死ぬ」「殺す」がご法度だと聞いていますが、
それに近い意味合いなので、他の言い回しが無かったものか、この点が気がかりでした。
比較検討論から始めてしまったので、本編に戻ります。
まず「甘い」と書いておきながら、昨年の
響と同じ境地にみゆきも到達した事、
そしてみゆきでなければ辿りつけなかった「愛」に到達した事は評価したいです。
狼、鬼、魔女という嫌われ者、憎まれ役に対しても、
物語そのものに愛を注ぎ、登場人物全てを受け止められたのは
みゆきの絵本好きという設定が十分に生きたと思います。
少し自画自賛になって恐縮ですが、私もプリキュアシリーズを愛し、
これまでのレビューで敵に対しても愛情を持って接して来られたと思うので、
全てを受け入れたみゆきに対して共感が持てました。
それにしても猛り狂った三幹部達に無抵抗で手を広げるハッピーの姿に
ナウシカかよ・・・と感じた方は私にもいそうな気がします(笑)
ところで私はかつて、自分が必要とされていない人間ではないかという
強い思いに圧し潰され、一時社会から落伍した事がります。
この時は本当に消えてしまいたくて、傍から見れば何がそんなに辛いのか、
疑問に思われても仕方がありません。
現に、今の私も何で当時はそんな心境だったのかが理解できないくらいですから・・・
三幹部達が恐れていた「昔に戻る」事は「死」よりも辛い事なのか、
疑問を抱かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、
悩み、痛み、苦しみは当事者でないと理解する事はできません。
それはハッピーであっても同様だと思います。
仮に「あなたの気持ちがわかるよ」では、通じなかったと思います。
だからこそ、理解共感ではなく「包み込んだ」姿と
「ありがとう」「一緒に遊ぼう」にみゆきの慈愛を深く感じました。
みゆきだけでなく、皆の三幹部に対する想いもまた、
大きなハッピーに包まれる前に既に彼らに届いていました。
『お前達を観てると頭がおかしくなっちまう!』
『俺が俺でなくなるオニ』『そうなる前に、全部ぶっ壊してやる!』
この発言は、既に彼らにみんなの気持ちが届いている事の証です。
それを振り払うあたり、もう後戻りは出来ないという彼らの悲壮な決意が伝わって来るようです。
だからこそ、優しい救済を迎えた事はやっぱり正解だったのかもしれません。
それにしてもウルフルンとアカオーニの台詞、
イース様みたいでした(笑)
ポップもまた、元三幹部達を受け入れました。
「お帰り」「ただいま」
この何気ないやり取りに、言葉を尽くして語る以上の感慨が感じられます。
帰る場所がある、受け入れてくれる人がいると言う事は、
ささやかながらこれ以上無い幸せだと思います。
願わくば後日談などで、メルヘンランドの国民達に囲まれる彼らの姿が観たいものです。
こうなると、憎ったらしさ全開のジョーカーや、ピエーロに対してどう扱うのかが気になります。
むしろ彼らには悪役としての役目を全うする方を望みたいのですが、
もし対話・和解があるとすればどうなるのか、現時点で想像がつきません。
気になるのは当然れいかの前世、もといバッドエンドプリキュアも同様です。
人間だれしも持つ心の負の側面を具現化したと語られる以上、
ダークプリキュア5のような存在である事はほぼ間違いないでしょう。
事によると、
己の負い目が具現化された「ミラージュ」のような存在かもしれません。
負の側面を受け入れて彼女達がさらに成長を遂げるのか、
それともまた異なる展開を持ってくるのか、まずは次回が気になります。
それにしても可愛いからいいですけれど、あれ完全にダークドリームですよねぇ(笑)
ビューティが「まるで昔の私を見ているようです」とか言ったりして・・・
さて、すっかり後回しにしてしまいましたがキャンディのミラクルジュエル化は
シフォンのインフィニティ化のようなショッキングさがあります。
ロイヤルクロックが影響しているという点で、
不幸のゲージが影響していたシフォンよりは救いがあるのかもしれませんが、
「物言わぬ無機物」になってしまった事はみゆき達にとっても辛いでしょう。
どんな願いでも叶う、という事ですので、
「キャンディと一緒に居たい」というお願いをしそうな気がしますが・・・(笑)
あまり予想をすると外した時がアレなので、このくらいにします。