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乱歩の魅力について [その他]

私的な事情で恐縮です。
最近、少々プリキュアレビュー執筆にスランプを感じており、
気分転換に別の話題、料理掲載を、とも思いました。
しかしこちらもこれと言った料理を最近作っておらず、思案の末、
私が敬愛する「江戸川乱歩」について少々語ってみたいと思います。
「ジョジョの奇妙な冒険」についても第一部連載時からのファンとして思い入れがあるのですが、
こちらに照準を合わせてしまうと泥沼化してしまいそうだったので・・・
  
私が乱歩を知るきっかけとなったのは、世の乱歩フリークの方々もおそらく同様だと思いますが、
小学校の図書室にあったポプラ社刊の少年探偵団と二十面相、
そして明智小五郎の活躍を描いたシリーズでした。
小学校低~中学年の頃の私にとって、あの独特の文体が持つ妖しい空気と、
「逢魔が時」「寂しい屋敷町」といったものが醸し出す雰囲気は
恐ろしいだけでない、非日常の、異次元の世界の入り口のように感じられたものです。
図書室での読書に夢中になり、気が付いたら薄暗い学校に取り残され
作中の小林少年や子供達が体験するような、
奇妙な世界に足を踏み入れたような感覚は今でも忘れられません。

しかし小学校高学年~中学生になる頃、それらが少々マンネリに思えてきました。
例えば小林少年が怪しい奴を尾行していくと、曲がり角でそいつが必ず姿を消して
足元にあるマンホールに気が付かない小林少年、という展開は何度見たことでしょうか。
明智が二十面相や黒幕を追い詰める際、ピストルの弾を抜いていたり、
火薬に水を浸したりといった根回しのよさも毎度おなじみで、
子供心に少々飽き始めていた頃、ある中編との出会いは非常に鮮烈でした。

「パノラマ島奇談」
乱歩の考える理想郷がこれでもかとつぎ込まれたパノラマ島の描写、
打ち上げ花火の下で繰り広げられる死の舞踏、
そして打ち上げ花火と共に訪れる理想郷の終焉。
中学2年(奇しくもプリキュア主人公たちと同年齢です)の私にとって、
世界が足元から崩れるような衝撃を受けました。
一切の挿絵が無いにもかかわらず、だからこそ読者それぞれが
想像力で描く極彩色のパノラマ島の光景は、
乱歩の文体と相俟って生々しく伝わってきます。
ところでこの作品、最近漫画化されたという話ですが、私はまだ未見です。
というのも、この作品に対する思い入れが大きく、
言い方は悪いのですが、この作品の完璧な映像化はありえないと思ってしまい
いまだに手が出せませずに二の足を踏んでいます。
評判は良いようなので、いずれ読んでみたいと思ってはいますが・・・

それからというもの、中三の受験勉強の合間の息抜きとして、
(それにしては強烈な作品ばかりですが)
そして高校で男子校に入学してしまった私にとって、
乱歩を読み進めることがこの上ない愉しみとなりました。
ネタバレにならないようポイントを挙げるのは難しいのですが、
濃厚なSM描写と、ラストの後味の悪さが衝撃的な「陰獣」、
覗き趣味から発展し、思いがけない展開へと進む「湖畔亭事件」
悪趣味の極みとも言えるゲテモノ小説の決定版「盲獣」
など、少々退屈な高校生活の往復の電車内で読み進め
この世界観を探求する悦びは代えがたいものとなりました。

ここで2つ、乱歩を愛する方々にとっての難題を挙げたいと思います。
1つは、乱歩の作品(短編・長編を問わず)の最高傑作とは何か。
もう1つは、これから乱歩を読もうという人に、何を初めにお勧めするかです。
ファンにとってはそれぞれの作品に思い入れがあるのは、
私も乱歩ファンの端くれとして理解しています。
この難題の私なりの答え、最高傑作はやはり「孤島の鬼」だと思います。
しかしこれを最初にお勧めするのは少々考えてしまいます。
乱歩を読んだ事が無い人にとっても、「明智小五郎」は乱歩の代名詞のように
広く人口に膾炙しているため、初めて読むには明智が出る作品が良いのではないかと思うのと、
「孤島の鬼」をまだ知らずにいるのはある意味幸運だと思うためです。

「孤島の鬼」を最高傑作として挙げる事には、
おそらく大多数のファンの方々も異論は無いでしょう。
私も、この作品を知らずに人生を過ごすのはあまりに損失だと思う反面、
読んだ事の無い方は、この作品をこれから知る事が出来るという幸せがあるのではと思います。
2件の不可解な密室殺人と、その犯人の正体、そしてその裏に見えるドス黒い野望。
主人公の友人・諸戸の献身、そして欲望。
本文中に描かれる、双生児・秀ちゃんの手記の内容の凄まじさは衝撃的で、
まさに時間を忘れて読み進めたものです。
ネタバレしないようにその魅力を語るのが難しいのですが、
これらが絶妙に絡み合い、比類の無い傑作へと昇華している作品です。

そうすると、初めて読む人に勧めたい作品として、
・明智が登場すること
・猟奇的な描写が薄いこと
・続編や、後に続く作品ではないこと
という条件を考え、私は「黒蜥蜴」を推します。
社交界の花形かつ、裏の顔を持つ妖艶な緑川夫人と明智との対決。
ところがいつしか互いの事を意識してしまい・・・
いわゆる「ツンデレ」「ヤンデレ」と言うと語弊があるかもしれませんが
戦前の昭和にこれが出版されていた事は、時代を半世紀以上先取りしています。

明智が出ないものでも構わないという方には「幽霊塔」を推します。
乱歩オリジナルの物語ではありませんが、
時計塔の謎、主人公を巡る謎の美女と幼馴染との三角関係、
不気味な「養虫園」や、人間改造術といった地下の怪しい世界。
冒険小説のような展開が愉しく、先の展開が気になる事請け合いです。

珠玉の短編群も忘れられません。
短編での個人的最高傑作は「赤い部屋」
明智が出る話では「屋根裏の散歩者」だと思っています。
前者は赤い部屋の醸し出す非日常世界で淡々と語られる殺人暦が、
後者は覗き見趣味、胎内願望を伺える中、孤独な男が起こす事件が描かれ
乱歩を読みたくても長い作品は尻込みしてしまう方にとっては、
まず短編集から入るのもお勧めだと思います。

思い入れがあるだけに、いずれ個々の作品について
私の私見を語る機会があれば設けて行ければと思います。
そして、乱歩の魅力を伝える事に少しでも貢献できれば幸いです。
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コメント 4

NO NAME

いつも楽しく読ませていただいています。
プリキュアは娘が観ていたものを何気なく一緒にみているうちに、すっかり私もファンになってしまっていました。(今では娘が観なくても観てます
スプラッシュスターは中でも一番のお気に入りです。これからも頑張ってください。
by NO NAME (2010-06-05 01:43) 

スティクス

コメントありがとうございます。
暖かいご声援、何よりの励みになります。
私も何気なく見ているうちにすっかり引きこまれてしまい、
今に至るようになりました。
少々スランプ気味と漏らしてしまいましたが、
プリキュアシリーズのファンである事には変わりありませんので
これからも続けていく所存です。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。
by スティクス (2010-06-05 15:33) 

サンカルロ

ご無沙汰しています。お元気ですか?
執筆にスランプだなんて、そんな。。。
身辺の忙しさにかまけて、私コメント寄せるのを最近
スッカリさぼっておりますが(笑)決して
このレビューの面白味、損なわれていませんよ!
毎週たのしみにレビュー拝見しています。

S☆S序盤のクライマックス
#22~23話のときにコメントを書き込ませていただく予定です。
楽しみにしています!
by サンカルロ (2010-06-10 20:26) 

スティクス

>サンカルロさん
お久しぶりです!
コメント、そして励ましのお言葉ありがとうございます。
どうも仕事の疲れをぶつけてしまったようで、
スランプなどとネガティブな事を書いてしまい反省しております。

ご指摘どおり、いよいよS☆Sの山場に入ります。
イース様月間と並ぶ、緊迫した展開が続く展開なだけに
私の文章力でどこまで表現できるか不安でもありますが、
私は私の出来る範囲で形にしていきたいと思います。

次の日曜はハートキャッチの放送が無いため、
プチ旅行でもして心機一転し、この山場に向き合おうと思います。
どうぞ宜しくお願い致します。
by スティクス (2010-06-11 07:12) 

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