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スイートプリキュア最終回感想で引用したチャイコフスキー 交響曲第5番について [音楽]

スイートプリキュア最終回の感想で触れた、チャイコフスキーの交響曲第5番。
この曲は冒頭に現れる暗く重々しい「運命の旋律」が、
終楽章では高らかに華々しく歌われる構成となっています。
同じ旋律ながら短調と長調で異なる印象だった
「不幸のメロディ」と「幸せのメロディ」を語る上で、私はこの曲をずっと連想していました。
まずは短調長調で異なる「運命の旋律」についてをご紹介したいと思います。
そして、数多くの録音があるこの曲の、私が好きな演奏について語ってみます。
  
まずはとにかく、その「運命の旋律」を聴いてみます。

第1楽章冒頭、クラリネットによって重々しく、暗く歌われる旋律は、
哀愁美に満ちた第2楽章、優雅な舞曲の第3楽章においても
警告するように姿を現します。
そして第4楽章へ入ると一転、長調に転じて堂々と奏でられます。

続く激しい曲調、優美な旋律、運命との闘争と葛藤を経て、
第4楽章コーダでは、高らかに勝利を謳い上げるように再び運命の旋律が鳴り響きます。

(運命の旋律は6:38以降)

この曲の魅力はもちろんこれだけでなく、メロメロに溺れてしまいそうな美旋律の数々や、
各種カッコいい展開が全曲に満ち溢れていて、
解りやすい構成と共にクラシック入門にも最適の一曲だと思います。

クラシックに馴染みの無い方からは、同じ曲でもたくさんCDがありすぎて
何を聴けばいいのかわからないと質問される事が良くあります。
そこで、参考になるかは別として私の好きな演奏をいくつか紹介して行きます。

まず、何を選んでも外れが無いのはカラヤンでしょう。
と言ってもカラヤンはこの曲を何度も録音しているので、
どの演奏を選ぶのかが悩ましいところです。
一番有名かつ定番なのは、84年のウィーン・フィルを振った録音です。
この演奏は帝王と呼ばれたカラヤンもベルリン・フィルとの関係悪化、
それに伴った寂しさと晩年の孤独な境地が伺え、ウィーン・フィルの個性と相俟って
独自の美を築きあげています。これはこれで私も好きな演奏なのですが、
個人的にはこれぞ帝王カラヤン、これぞベルリン・フィルと言った感じの
71年録音のベルリン・フィル盤の方が好きです。

次いで日本人好みの演奏といえば、小林研一郎が挙げられます。
この曲は彼の十八番だけあって、完全に自分の物にして歌いこなす演奏は、
まるで演歌!時に息づかいや唸り声までが入ってしまう程の気合の入れようで、
泣きのメロディをとことん泣かせてくる語り口は見事です。
アーネム・フィル盤、チェコ・フィル盤、日本フィル盤などがありますが、
私は日本フィルによる日本のオケとの演奏が、琴線に響いてくる感じで好きです。
もっとも、どれを選んでも外れはありません。

本場ロシアの演奏といえば、古くはムラヴィンスキー。
現在はゲルギエフといったところでしょうか。
ムラヴィンスキー盤はクラシックファンの間では語りつくされた感がありますが、
旧ソ連の鉄壁のアンサンブルを西側に見せつけた圧倒的名盤として有名です。
一分の隙も無く磨き上げられ、引き締められ、猛スピードで疾走する様は
余りに厳しすぎて聴いているこちらも相当の緊張を強いられるので、
初めてこの曲を聴く方にはあまりお勧めできないと思います。
それでもこの曲を知ってから聴くと、その凄まじさが解る事でしょう。
ミスした楽団員はシベリア送りになったという噂が立つのも分かる気がします。
ゲルギエフはウィーン・フィルを振ったライヴがすさまじく、
同じロシアの指揮者でもムラヴィンスキーが冷厳とすればこちらは白熱。
あのプライドの高いウィーン・フィルがここまでの熱演を繰り広げる様は
聴いているだけで手に汗握る程です。

絶対に初心者にはお勧めできないのですが、
ストコフスキー指揮 ニュー・フィルハーモニア管盤が、何故か好きです。
テンポをいじくるわ、カットするわ、一見無茶苦茶な演奏。
ラストの展開にはもう笑うしかありません。
それなのに一流のエンターティナーのステージを観ているかのように、
絢爛豪華な音の鳴りっぷりが癖になります。
ストコフスキーは「オーケストラの少女」という映画の冒頭で
この曲を振る場面があり、その指揮姿のカッコいい事!
彼のような指揮者は、今後現れるのでしょうか・・・

最後に私が最も良く聴く演奏は、オーマンディ指揮フィラデルフィア管の74年録音盤です。
美旋律にあふれたこの曲を、全米一の華麗でゴージャスなオーケストラで聴く。
ややテンポが遅いものの、それが風格を漂わせているようで
耳のごちそう、という意味では最高の演奏だと思います。

引用させて頂いたムーティも、CDは持っていないのですが、
この動画の演奏で好きになりました。さすが彼は聴かせ方が上手いです。

勢いに任せて綴ってしまいましたが、この曲の事が少しでも伝われば幸いです。
この曲を通してスイートプリキュアを観ると、また新たな発見があるかもしれません。
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なぎほの

スティクスさんが、クラシックにも造詣が深いとは存じませんでした。
お酒、料理、相撲、クラシック、プリキュア・・・楽しめるものがたくさんあっていいですね。人生を豊かに送れるので素晴らしいです。

YouTubeを貼っていただいたおかげで、曲も聴くことができましたし、感謝しています。
「チャイコフスキーの交響曲第5番」CD、買ってみようかしら。

これからは、クラシックの記事も書いていただけるといいかもww
おすすめCDやおすすめ演奏の情報もうれしいですね~。

by なぎほの (2012-02-04 10:40) 

スティクス

>なぎほのさん
プリキュア以外の記事へのコメント、いつも嬉しいです。
単に独身男の特権?として趣味を多く持てているだけかもしれませんが、
趣味が多い事で「広く浅く」にならないよう心掛けているつもりです。
願わくば「深く」ありたいですので・・・

チャイコフスキーの5番はお気に召していただけたでしょうか。
「幸せのメロディ」と「不幸のメロディ」を対比していた
スイートプリキュアのストーリーと重ね合わせると、
また趣があると思います。
それでなくても美旋律の際立つ曲なので、
BGMのように聴き流すだけでも惹かれるところが多いかもしれません。
機会があれば、またこの手の記事を作ってみたいです。
堅苦しく思われがちなクラシックの間口が広がると嬉しいです。
by スティクス (2012-02-04 21:44) 

悩める父メフィスト

いろいろな日記で クラシック音楽にお詳しいことを拝読しました、素晴らしいですね。(私はまだまだ浅学なので間違いなどあれば削除願います。)

「ちゃいご」の ホ短調-ホ長調の対、 スイートでのハ短調-ハ長調、同じモティーフがさまざまに変化していく様、とっつきやすく素晴らしい例えだともいます。 また、音源例も興味深かったです。 偶然か 私の最もお気に入りは カラヤン&ベルリン・フィル@1971年でした(十数種類くらい聴き比べました)。 強く重くも輝かしく豪壮で クールビューティというより しゃにむに泥臭い。。力が湧いてきます。

美メロ、私も同感です。恥ずかしいくらいの美しさだと思います。そして金管楽器の力強さ、終楽章は もはや「鼓動のファンファーレ」ですね!

同じモチーフということであれば、対比ではありませんが 映画スイートの「心の歌」使われ方も とてもお気に入りです。 また、スティクス様が他日記で書かれていた ドラゴンクエストのBGMでは、IIIのゾーマ戦BGMに アレフガルドのフィールド音楽の旋律が使われており びっくりさせられます。

これからも音楽を是非楽しんで下さいませ。
by 悩める父メフィスト (2013-06-29 01:37) 

スティクス

>悩める父メフィストさん
執筆の折のBGMに、その日の気分に合わせてよく聴いています。
この季節はドヴォルザークとかを良くかけていたりします。

チャイ5とスイートの関連は結構早い段階から考えていたのですが、
やはり最終回に引用できて良かったと思います。
短調-長調の対比もそうですが、
スイートの作品内や劇伴には、「幸せのメロディ」「不幸のメロディ」
基本的に同じ旋律が至る所に顔を出しますから、
ご指摘の「動機の変化」も共通していますね。

>カラヤン&ベルリン・フィル@1971年
60年代の、破竹の勢いと共に覇気に満ちた頃も良いですし、
晩年の枯淡の境地?も味があって良いですが、
その中間のこの演奏ならではの魅力がいいですね。
そしてカラヤンには珍しく「泥臭い」一面も確かにありますね。
絶頂期の帝王であっても、やはり人間だという感じがします。

>恥ずかしいくらいの美しさ
まあ、それがチャイコフスキーの魅力でもありますから(笑)

>ゾーマ戦
ドラクエでモティーフが効果的な音楽といえば「6」が顕著ですが、
既に「3」の頃からはっきりしていたのが凄いですね。
私も最近になってアレフガルドの旋律が使われていると知って
構成の上手さに驚いたものです。

劇場版レビューがすっかり止まってしまっていますが、
ある作品の感想にはマーラーの2番「復活」を引用しようと構想しています。
いつか日の目を見ればいいのですが・・・
by スティクス (2013-06-29 08:17) 

悩める父メフィスト

お元気でいらっしゃいますか?。ここへの書き込みが不適切であれば削除願います。
ドキドキの映画 見てきました。BGMが新作も多くて素晴らしかったです。特に、ピンチから「復活」する場面は グッときました。

スティクス様が、穏やかに楽しくプリキュアを楽しんでおられることを祈って。

by 悩める父メフィスト (2013-11-01 08:53) 

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